カムクライズルのカケラ遊び ２
『 日向創の未来への道程でのささやかな痛み 』
それは些細な言葉だった。
誰が誰に言ったことなのか、誰がそれに答えたのかそれすら覚えていない。
「あ……そういえば、始業式の時のこと謝りたくて……後で話せない？」
「そんなこともあったか？あれはお互い様だろ、別に話くらいいいけどよ……」
ただ、その言葉を細分もらさずにオレの耳は海馬に刻んだ。
そしてその意味が心に突き刺さった。
「最初のＨＲの時にオレ変だったよなあ、変に緊張して」
「まじか、堂々としてたから緊張なんかしてないんだと思ってたぞ。てかあれで緊張してたのか？」
オレは刻みつけた、その交わされる言葉たちを、一つ一つ、細分もらさず、態度に面にも出さず海馬に、記憶に刻みつける。
それは第三者が聞けば誰かもわからない、でもどこにでもある会話だったろう。
「あの時は課題を手伝ってくれて、本当にありがとうっす！」
「そんなことあったっけ？……あ、思い出した」
でも、それは特定の記憶、いや思い出を持つ人々にはその情景がありありと浮かぶはずの話題で、そして、そして。
（本科生じゃない、予備学科のオレはそこには、いなかった）
「ふふふ、とても…とても懐かしいですね…」
未来に才能の境界線はなくても、過去には確かに才能で隔てられていたのだ。
とろりとしたはちみつのように口にした瞬間に甘さが解けるような、そんな闇が夢に侵入した。
オレは違和感と親近感で目を覚ます……ここはどこだ？
不思議な感覚だった。心安らかにぐっすりと眠りながら、野原を駆け回る爽快感を感じているような……矛盾しているのにとにかく心がどこまでも背伸びをできるような安心感と万能感。
この闇はなんだろう？濃厚な闇は甘く、1人の時間は眩しく時に痛い。
それは昼間の日光を忘れさせてくれる……これは視線？
「誰かいるのか！？」
安心から警戒へとスムーズに感情をスライドさせ、襲撃かと身構える。
絶望の残党には裏切り者、苗木たち以外の未来機関には危険分子とみなされている。
他にも敵は沢山いた、いや違う。苗木たちのような一部の者たちを除くとオレ達とは世界にとって敵だった。
だから、オレ達は最低限身を守れるように……武器をいつも……あれ？
「ハジメマシテ……ではありません、お久しぶりです。
まあ前の記憶は忘れさせてたのでそう感じるでしょうが……そこには警棒もスタンガンもありませんよ、あとそこ自体枕元でもありません」
だってこれはあなたと僕の夢の中ですから。
その言葉を証明するように枕の下に突っ込んだハズの腕が黒いモヤの中に浮いている。いや違う、オレ自体が闇の中に浮いている。
そしてその中に浮かぶ影に気がついて、その名を叫んだ。
「……カムクラ！？」
「あなたが前のことを覚えていないのは僕自身でしたこととはいえ、少々滑稽ですね。しかも面倒です……今記憶を戻します」
「記憶って？なんのこと……っ！？？」
黒いもやが一気に濃くなる。遂には肺を侵食し、全身に周り……そして全ては何事もなくなった。
暗さは遠ざかり足元には星空、それを踏みつけるように立っている……思い出した。オレはここでカムクライズルと夢の中で話をした、かなり一方的にだったが。
「一方的に、とは失礼ですね。僕なりに親切で言ったことを曲解しないでください」
「……心が読めるのか？」
「読めますよ、というかあなたも僕の考えが読める筈です。今は一時的に二つの人格が一つの脳の夢を共有していますから……単純にあなたは僕の考えを読みたくないんでしょう」
「……脳に関することは慎重にならざるを得なくてな」
苦笑いすると凡人にはその程度の警戒心があった方がいいですよと褒められ、そしてそんなこと意味がないですがと突き落とされる。
「カムクライズル……何の用だ、前の夢の記憶は思い出した。オレ達に協力してくれるつもりなのか？」
前の夢の記憶。
そこでオレはカムクライズルの江ノ島のウイルスを希望更生プログラムに仕掛けた理由を知り、そしてオレはそれがなければここにいなかった可能性が高かった事をカムクライズルに告げられた。
そして、カムクライズルはこう言った……「先のわからないことはオモシロイ、だから無謀な事をするあなたを観測出来てツマラナクナイ」と。
更に「僕はあなたが目覚めさせようとしている超高校級の才能の持ち主達の才能を全て知っているから、たまに相談に乗ってあげましょう」と告げた。
なら、この夢にカムクライズルが現れた意味は一つのはずだ。
「お前も協力してくれるなら、複雑だが心強い……あれからもなかなか上手くいかなくて」
現状、オレ達は二人の脳死状態を目覚めさせることに成功している。そこからは二人の長い治療とカウンセリングの始まりだった。まだ目を覚まさない八人の覚醒させる方法も同時に行っている。
それ自体もやはり辛かったが、それを実験報告のように未来機関に報告する事も更に辛かった。
未来機関は処刑されて罪の償いをする「超高校級の絶望」ではなくそれと代わりの役割をオレ達に与えた。
人が犯した罪としてはオレ達の罪は死を持っても償えないほど大きい。しかし今の世に絶望の病はあまりに蔓延している。
本当に君たちが絶望から立ち直ったなら、それを証明しろ……絶望の残党の多さとその感染力に対しての対抗策を見つけるために脳死したメンバーを目覚めさせる援助の引換にその過程の全ての報告をオレ達は義務付けられていた。全ては希望あふれる未来のために。
それが時にあまりに非人道的でも、報告を怠れば制裁対象になり兼ねない……未来機関にはオレ達という「超高校級の絶望」に身内や友人や仲間を殺されている人が半数以上を占めている。そう考えると、かなりの温情措置だった。
最初にそれを苗木は悲しいと胸中を告白した、君たちとボク達の違いは学年が違ったこととボクたちが江ノ島のクラスメイトであることだけだったのにと謝罪しようとしたのをなんとか止めた。
苗木が謝ることなんて、何一つない。
「あれから一年近く立つのに他の奴等は起こしてやれない……おまけにこんな風に仲間をモルモット扱いされるのは正直参ってる。だからお前が呼んでくれたならちょうど良かった」
「何を言ってるんですか、あなたは？
今回は呼ばれたのは僕です、あなたが無意識に僕を呼んだんですよ、心当たりあるでしょう？」
鋭くなる視線に身体が逃げようとした、しかし皆の面影がオレを押しとどめてくれた。警戒しすぎ、硬くなりすぎだと自分に言い聞かせて軽く笑ってみせる。
「それもそうだな……協力して欲しい、カムクライズル。皆を目覚めさせる為にお前の意見を聞きたい」
「あと、実験体をモルモットというと飼育委員が気分を害すると思いますよ。まあ今は自我とか意識がない肉体ですが」
「……お前が田中を気づかうとは思わなかったよ」
「気遣いではありません、僕の才能が自然と教えてくれるんです……まあ実験体扱い、人権侵害は仕方ないんじゃないですか？そうしないと即排除されてしまうでしょうから……つまり利用価値があるうちは処刑はないんですから。
今は生きてる分儲けたと思っていなさい、そのお陰で得たものもあるでしょう」
肩の辺りのでそろって踊る色素の薄い髪、ぎこちないけれど誰よりも誠実な笑顔がディスプレイの向こうで映る……その記憶がカムクラの記憶で蘇ると今度は自然な笑みがこぼれた。
「わかっているさ、そのお陰で今は最新の医療機器と……ウサミと七海のためのスーパーコンピューターが提供されているんだからな。それでやっとウサミだけじゃなくて、七海にも会えた……。
最初は左右田が苦労しても、オレ達は医学とプログラミングの基本書を読む位しかできなかったことが解決した……本当に得たものもあるな、しかも得がたいものが」
「レンタルですけどね、踏み倒す気がないなら壊さないことです」
オレ達にはもう戸籍や記録がない、すべて抹消されている。それがオレ達を保護したいと言った苗木の意志に霧切と十神が出した解決策だった。
存在しないなら、未来機関からの糾弾や処刑は逃れられ、絶望の残党からは処刑されたと判断されてマークから大きく外れる……皮肉なことに存在の抹消がオレ達にギリギリの人権を保障していた。
「分かってる、未来を目指せても過去は消えない……それに苗木と霧切がいつか世界から絶望の危機が去ったら存在の抹消は無しになるかもしれないと」
「くどい」
急に不機嫌な声がして、オレはたたらを踏んだ……忘れてはならない。
カムクライズルは味方とは限らない、でも敵にするには恐ろしいし味方にしたらこんな心強い存在はいない……まるでコロシアイでの狛枝だな、と胸中で思うと「しまった」と気がつく。あわてて取り繕うがカムクライズルは明らかに不機嫌になっていた。
「ああいう人間と一緒にしないで欲しいものですね」
「悪かったよ、お前はあいつ嫌いだもんな。確か終わった人間とか思ってたし。
オレが覚えているお前の記憶ってあれだけでさ、新世界プログラムで砂浜でもアイツがオレを起こしてくれたし変な縁だな」
「話をそらさないでください、そんなことはどうでもいい。広い意味では世間で「超高校級の絶望」と呼ばれているので同類といえばそうでもあります……それより呼び出しておいていつまで話を始めないつもりですか、日向創？」
不機嫌な声と共に闇がざわめいて、オレは思わず目を覆った……目を開けられる頃には目の前の足元の星空の上に蔦の文様細工の施された木の椅子と大きな丸テーブルが現れていた。
椅子は二つあり、カムクライズルは片方に座ってもう一つを指さした。
……座れということらしい、頷いて座る。
空を真下にして立っているというのも不思議な光景だったが、座るというのもまたファンタジーだった。恐る恐る椅子を引いて座るとピタリと背筋が伸びる。こんなにぴったりな椅子は初めてだった。
「自分用の椅子ですから、そういうものです。それ以前に夢ですから……さて日向創、まだ本題に入らないつもりですか？」
「？……さっき入っただろう？皆を目覚めさせる為にお前の手助けが欲しい」
カムクラは頭に手を当てて「……絶望的ですね」と俺を睨んだ。その言葉……いや読まれている。
狛枝には似てない、狛枝には似てない、狛枝には……。
「うるさい、あの人間でもなくても絶望したくなります」
「あはは、悪い……全然似てないぞ？あいつは絶望大嫌いだしな」
「自分も絶望になったくせにね。……今あなたが絶望しているのも一つはコマエダナギトのせいですね、成るほどそれ故にあなたが僕を呼んだのならば彼もなかなか「超高校級の絶望」らしいです」
「・・・・・・は？オレが絶望って何の話だ？」
「現在あなたが「現実の」過去の記憶には誰の中にも存在しないで「コロシアイの」過去の記憶のみに存在していることに絶望しているからです」
「・・・・・・なんで」
「同一人物だからですよ・・・・・・ウサミと七海千秋を再構築して、モノクマがいなかった世界の新世界プログラム、通称「アイランドモード」はいかがでしたか？」
「・・・・・・っ！」
思い出す、思い出した。
誰にも言えない、誰にも理解してもらえないと心の中に封じて、でも言いたくてたまらなかった記憶。
それを告白する誰かをオレは渇望していた、だからカムクライズルは現れた。
オレに呼び出されて早く用件を言えとイライラと待ちながらもオレの告白を待ってくれていた……。
「もう一度聞きます、アイランドモードとはいかがでしたか？僕個人の意見としては劣化したログデータだけでよく再構築できたものだと思います」
オレたちが強制シャットダウンを選択した瞬間に江ノ島を破壊したウサミ、彼女は何者なのかその時は全く分からなかった。
しかし、七海と違いウサミにはオレたちはジャバウォック島の新世界プログラムのコンピューターからの呼びかけで比較的すぐに再会できた。三ヵ月後程度だったろうか……？
ウサミは新世界プログラムの基本データとコロシアイ修学旅行のオレたちの記憶、絆、カケラとよばれるそれ……カムクラの言うところのログデータを持っていた。かなりボロボロだったが圧縮された１５人分のカケラを大事そうに持っていた。
そしてこう言った、七海を再構築することには新世界プログラム内でアルターエゴが既に成功している。しかし強制シャットダウンの際にオレたち五人の記憶にかなり寄り添っていたのでその余波で消去されかけ、プログラムのどこかに自分を圧縮して眠っている……そしてログデータの鍵を七海が持っているから探してほしいと。
そうすれば希望更正プログラムを再び使うことができるかもしれないと、いつもの頼りない口調のまま画面の向こうのウサミはそう言った。
鍵なんて持っていなくとも七海を探し出すことをオレたち五人は即座に賛成し行動に移した。しかし破壊された巨大コンピューターの膨大なデータの中から探すことはオレたち五人の人生を全て費やしても不可能に近かった。
それでウサミの持っていた新世界プログラムの基本データの応用で「コロシアイにおける死の記憶」を消失させることとなったのだが、それが成功したことにより未来機関に認められ大幅な援助資金が与えられた。
そうして高度な設備投資が出来たオレたちはやっと七海に再会できた・・・・・・出来た時は七人になったメンバーは泣いていた。そして想い想いに彼女に謝罪と感謝の言葉を述べた。
そして彼女の持つ鍵によって起動した「アイランドモード」、常夏の島で絆のカケラを紡ぐ五十日間……。
「アイランドは……素晴らしかったよ。新世界プログラムはすごいセラピープログラムだった」
「それはよかったですね、わざわざ再構築した甲斐もあったというものです。これを脳死状態のメンバーに使用して覚醒に至るといいのですが、一回目は失敗したようですね？」
「ああ、記憶の定着や書換えは出来なかった。一度脳死レベルまでいった「死んだ」という記憶は鮮烈過ぎて届かないみたいだ・・・・・・今はまだ、な」
「しかし今覚醒しているメンバーにはセラピー効果があったようですね、あなたには逆効果だったようですが」
「そんなこと・・・・・・」
反論しようとして、言葉を飲み込んだ。オレだって嬉しかった、でも……。
コロシアイのない世界でのジャバウォック島での五十日間を記憶を持ったままシュミレートすることは眠ったままの八人を目覚めさせることはできなかった。
でも覚醒しているメンバーにとっては思った以上に現実に戻った後も、あくまで「もしも」の世界であるとしても希望を持たせてくれた。
誰も捨てないで、誰も欠けないで、進むはずだった未来の可能性は確かにあったのだと信じられた。いつかここにたどり着いてみせると決心もした。
でも、オレは希望を持つと同時に絶望を思い出していた。
「・・・・・・アイランドモードに潜る度思うんだ。オレとカムクラはこれを壊したんだって、皆が希望を持つはずだった平和な南国の五十日間を」
「そうですね……案外、僕が手を下さなくともあなたは復活できたのかもしれませんね。だとしたらただ江ノ島盾子に暇つぶし程度の絶望を与えただけで、我ながらツマラナイことをしたものです」
「アイランドの狛枝がある意味一番ショックだった。コロシアイとアイランドモードのあいつは明らかに違いすぎて、あんな平和な顔してるアイランドの狛枝は……オレが江ノ島のアルターエゴを持ち込んだ事を責められているみたいで」
「たった五十日の共同作業で何ができるのか僕としてもあれはいまいち理解に苦しむのですが、あなたを通して観測した結果才能を持つもの特有の孤独感を緩和する力は認められました」
「・・・・・・才能を持つもの特有の孤独感、か」
「しかし、それがあなたにとっては孤独感を感じる原因となったようですね」
「・・・・・・・・・・」
そうだった・・・・・・そうなのかもしれないと思っていたが、やはりそうなのか・・・・・・。
アイランド、コロシアイ。
その世界には「日向創」は確かにいた。
けれどそれを見て凄絶な過去を持つメンバーは平和な頃の記憶、希望ヶ峰学園での学園生活を思い出すようになっていた。入学式、授業、何気ないやり取り……本科にいなかった予備学科にいたオレには知るはずのない記憶を。
現実の入学後の彼らには「日向創」は存在しなかったのだ。
「皆、絶望時代のことを思い出して絶望してた……でも、今回のことでだんだん学園生活の事も思い出してきて、そこにはオレと七海だけがいないんだ。
入学式にもクラス会にも、授業にも教室の掃除にも、期末試験にも登下校や寮生活も！何も知らない！そこにオレはいない！」
「当然です。あなたは予備学科で、七海千秋はその頃生まれてもいないプログラムですからね」
「そうだ、オレは確かに才能なんて持っていなくて、予備学科で……本科の思い出なんてあるはずない」
そして、それだけのことが誰にもどうしても言えなかった……同じ現実の記憶に存在しなかった七海にさえも。
「なんでだ！どうしていえない！一緒にやっていこうと決めた仲間なのに！・・・・・・なんで」
「そこまで思わなかったら、才能を得るために自分なんてささげていないでしょう？」
「・・・・・・っ！」
「そしてそうだったら、僕は今あなたの目の前にいない・・・・・・だから僕に話したかったのでしょう？」
図星だった。
七海には言おうとした、でも無理だった。彼女はある意味一番絶望から遠い存在だから、才能がない自分への絶望とそれのせいなわけがないのにそれのせいであると思えてならない皆からの疎外感をいえなかった。
（皆が「今」のオレを心配していることなんて知っているのに・・・・・・！）
どうしてオレはこんなに才能という妄執に囚われているだろう？
きっとこの孤独感がなければ、才能に囚われていた過去のことなんて忘れていた。
きっとこの孤独感の原因が才能のない自分の過去が原因でなければ、カムクラ以外に打ち明けられた。
「・・・・・・オレは、馬鹿だ」
「知っていますよ」
「才能があるから胸が自分に胸が張れるんじゃないって、七海が教えてくれたのに」
「だから彼女には言いたくなかったのでしょう、才能がある他のメンバーにも言えなかったのでしょう」
カムクライズルは全てがツマラナイ・・・・・・全てが予測でき、全てをいやでも分かってしまい、全ての人に勝手に賛美されるから。
オレは記憶の一部を持っていてその「超高校級の希望」の才能による絶望を知っていてもなお・・・・・・今のオレには才能がない自分と才能がないと隔てられた過去の境界線が辛かった。
だから、思う。才能が思い出せないというのは、才能があると思い込んでいたのは・・・・・・。
「・・・・・・思うんだ、どちらの世界でもオレに記憶がない理由を。コロシアイ修学旅行でも・・・・・・それは・・・・・・」
その瞬間、オレは夢の世界からも闇へと消えた。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「僕」は言いたいことを言ってさっさと消え去った日向創を見送ると椅子に座ったまま、眼下の星たちを見下ろした。
才能が輝きながらぶつかり合い、やがて消えていきます。いつものことです。
「日向創はまたここにくるでしょうね」
それは才能がなくても分かりやすい予測だった。
最後に意味ありげな言葉を残していったから、まだまだ言い足りないことがあるのだろう。
「言わなくても分かりますけどね、才能に愛されているので……江ノ島もボクでもなくあなたがプログラム内ですべて記憶を失っている理由なんて、自明明らかあからさまでしょう。
あなたが記憶を持ったまま超高校級の才能の持ち主たちにあったらどうします？・・・・・・そんななこと嫉妬するに決まっているでしょう。卑屈になるに決まっているでしょう。辛いに決まっているでしょう・・・・・・少なくとも最初のうちはあなたは絶望したはずだ」
無意味なこととは知っていたが、せっかくイメージしたのだから机の上に白いコーヒーカップを作り出してみる。丁度よい温度のそれは適度に苦い、気まぐれに飲む途中で紅茶に変えてみる。今度は香りがよかった・・・・・・夢の中は何でも出来る。
何でも出来る、それは何にも満足できないこと・・・・・・それはツマラナイ。
だから次も僕は日向創の呼び出しに応じるでしょう、タイクツダカラ・・・・・・。
「あなたに才能がないことは交流の末に他人であるコマエダナギトから暴露されるからまだ耐えられたんですよ。その証拠にアイランドモードにはあなたが記憶を取り戻すという選択肢がなかったでしょう、あなたを希望から遠ざけるから・・・・・・あなたに才能がないという過去は」
過去の記憶を探れば自分に才能らしい才能などないことなどいくらでも思い出せたはず、しかし日向創はそれを思い出せなかった。
きっとそれは、自分はつまらない何の才能もない人間だということが彼の絶望だったから。
「さてまた呼ばれるはずだという僕の予測を裏切ってくれますかね、日向創？」
僕としてはその方が予測がつかなくてオモシロイのですがね、と僕は机に肘をついて夢が消える夜明けまでその予測が裏切られる事態をいくつか推測して……驚いたことに笑っていました。
まるで「人間」みたいでオモシロイと、もう一度笑った頃夢が覚めて僕は海馬の奥底、記憶の狭間に戻った・・・・・・いつかの再会を楽しみにして。
つづく？
あとがき
日向君ハピバー！（一日遅れた、あと祝ってない）
最後に江ノ島をお仕置きしたウサミの解釈って、結構色々別の妄想があったりなかったりで楽しいと思うんだ。
ざーっと考えると強制シャットダウンに対して私はあの二人に関して、
七海は「永遠の楽園ゲームを選択させない」ために五人にきっかけを与える役、
ウサミは強制シャットダウン時にカケラを回収して江ノ島ウイルスを破壊する役、
なのかなあと思ってかなり妄想乙な内容になっております。
アイランドモードの解釈は我ながらかなり異色な解釈だと思います。
ただ、アイランドのメンバーでは狛枝が一番印象に落差のある人物であるとは思います。ので、記憶のある状態で日向が狛枝にあったら罪悪感が沸くんじゃなかろうかと思った妄想の発展先がこちらの日向君となります。
個人的に日向君はつくづく書いててダークサイドに目のつく人間だなあと思ってます（お前のせいだ）。
学校の思い出ってあのメンバーではどうしても共通の思い出になるけど、記憶を取り戻しても日向と七海はそこにはいないよね、と思ったらこんな話になった。あのメンバーが仲良かったのかは不明ですが、入学式くらいは普通に受けているでしょうし、コロシアイのときの様子から結構仲良かったんじゃないかとも思います。
「そもそも日向には何で記憶がないのか」というのが目に付いたのでその辺掘り下げられたら次も書きたいような（ｒｙ。
2012/01/02
