気だるきノンフィクションの彼らのその後~覚醒~




クリアネタバレ前提です。
クリア後の世界設定が非確定なものなので捏造設定を使用した物語です。











 闇の中に光が指す目覚めの時間だ。けれど眠りの中にいた「僕」はそれを拒絶して柔らかい闇の中にいた。

(起きたくない、だって僕は……)

「ずっとこの世界にいたい……ずっとみんなと」
「起きなさーい! 「最原くん」!!」

  問答無用で暖かな場所から蹴り出され、「僕」はがんと床に頭をぶつけた。見上げると女の人が仁王立ちしていた。

「あれ、あなたは・・・・・・僕は……「最原終一」?」
「やっぱり記憶が混乱しているのね、本来は視聴者目線の記憶しか残らないはずなのに・・・・・・ああもう、キーボくんったら!」

 急に頭を抱える。と、彼女に見覚えがあることに気がつく。

「あなたは・・・・・・白銀さん?」
「君が一番目を覚まさないから肝が冷えたわ。人が死ぬなんてフィクションの世界で充分なんだから・・・・・・ま、フィクションさんたち本人からも否定されちゃったけど」

 声の主を見上げると、そこには「白銀さん」がいた。超高校級のコスプレイヤーであり、コロシアイの黒幕だった彼女……しかし、彼女の姿は僕の知っている彼女とは少し違っていた。

「困ったわね、本社は今回のことで手が回らないし、まさか全員にフィクション人格の記憶が残ってるなんて」

 いらいらと爪を噛む「白銀さん」は姿はさして変わらないが高校生ではなく、大人だった。メガネや雰囲気は変わっていないが、オシャレなスーツを着て大人っぽいメイクをしている。

「おはよう、最原くん……て呼ぶね。私は君の本名を知らないからさ」
「ここは……どこ? コロシアイや……フィクションの話は?」
「ここはリアルフィクションプログラムのダイブルームだよ。世界的ゲーム会社チームダンガンロンパのね」
「・・・・・・ごめんなさい、意味が分からない。僕はさっきコロシアイを終わらせるために死ぬつもりで、でもキーボくんが助けてくれて」
「それも含めて視聴者の意志だったのかしらね? ・・・・・・まあ、今は確かめようもないけど」
「・・・・・・あなたはいったい?」
「あ、私はスタッフよ。チームダンガンロンパの黒幕役の期待の新人! ・・・・・・だったんだけどね、今は炎上で左遷寸前」
「・・・・・・」
「君にも強くフィクションの記憶が残っているみたいね、まあ全員だけど・・・・・・まあ今は混乱しているみたいだし、白銀さんって呼べばいいわ。黒幕だから複雑だろうけど」

 ダイブルームってなんだ? と見回すと「みんな」の姿があった。誰も欠けていな。みんなが生きている……それだけで涙が出そうだ。

(僕はもう「最原」じゃないはずなのに、胸が痛い)

 だって、僕は彼を一番近くで感じていたんだ。

 だからそこにいる彼と彼女の姿に僕は駆け出した。

「赤松さん! 百田くん! よく生きて」
「……私は赤松楓じゃないわ、それはフィクションの設定よ」
「……」

 見たこともない冷たい視線が僕に二つ向けられる。冷静沈着な「最原」ではない「僕」はそれに怯えて一歩引いてしまった。

「……えっ?」
「最原くんは一番フィクションの人格が残ってるみたいね、しかも記憶の混乱が見られる。これは早く医療スタッフに相談しないと」

 後ろで白銀さんはブツブツ言いながらタブレットをいじり始めた。

「赤松さん」

 僕はもう一度赤松さんに近付き、じっと彼女を見た。吐息、鼓動、そういう生命力が感じられてほっとした。あの残酷な処刑で失われた彼女の姿を見るだけで涙が出そうだ。
 けれど赤松さんはいつもの明るい雰囲気ではなく、決まり悪そうに目をそらす。

「百田くん」

 助けを求めるように僕は百田くんを見ると彼は真っ直ぐに視線を合わせた。けれどそれ視線は暗いものだった。

「俺は百田じゃない……そしてお前も最原じゃない。あれは全てフィクションの話だ」
「……そんな、君は全てを忘れてしまったの?」
「思い出せよ、本当の自分を……いや本当は気づいてるんじゃねーか?」
「……僕は」
「俺は百田じゃない……最後の学級裁判で知ったはずだろう? コロシアイでたくさん殺してやろうなんて言う奴、あの百田じゃないだろ?」
「記憶は残ってないの?」
「この記憶だってフィクションだ、白銀が言うにはすぐに忘れるってよ……お前だって本当は超高校級の探偵じゃないだろ?」」

 はっきり思い出した。
 僕は超高校級の探偵なんかじゃない。
 僕は最原終一なんかじゃない。

 ただ、ダンガンロンパというゲームのファンでしかない……自信のない普通の高校生だ。

 他のみんなと同じように。・・・・・・「赤松さん」や「百田くん」も。

(でも、やっぱり・・・・・・さっきまで最原だった「僕」がまだ心に残っている気がする)

 それすら嘘なのか? 「王馬くん」がいってたみたいに。
 それすらフィクションなのか?
 みんなの心にももうあの感情は残っていないんだろうか?

 本当にもう「最原終一」は消えてしまったんだろうか……いやそもそもなぜ僕は生きているんだ? 人格は上書きされるんじゃなかったのか。

「はいはい、注目! プレイヤーのみんなにチームダンガンロンパからお知らせです」

 白銀さんが声を上げると全員の視線が集まった。彼女は頭痛をこらえるような表情で語り始めた。

「……社会からの要請によりダンガンロンパは一時凍結。このままだと君たちが最後のダンガンロンパプレーヤーになりそうよ」
「白銀さん……これはどう言うことなんですか? 記憶は上書きされて、この「僕」は消えたんじゃ?」
「そんなこと言う君達だから、オーディションに選ばれちゃったのよね」
「どういう意味だった」

 はあ、とため息が漏れる。

「あのね、君たちの上書きされるってのは嘘だよ。そんなこと許されるわけないでしょ。これはちゃんと倫理規程を通して作ってるゲームだからね」
「でもあの学級裁判では・・・・・・」
「あれは設定。プログラムの世界では明かせなかっただけ。
 まず説明するけどあの才囚学園はプログラム世界だったの。だからこそ一般の視聴者でも閲覧できるようになっていたのよ。本当のコロシアイなんて大人が子供に見せるわけないでしょ」
「・・・・・・あれは、本当にフィクション」
「だいたいあんなオーバーテクノロジー現実でできるわけないでしょ。しかもアングラ系のゲームの為に。プログラムの方が楽で安全なの」

 白銀さんは腰に手を当てて、動揺するみんなに説明を始めた。

「簡単に説明して行くわね。
 ダンガンロンパのコロシアイ参加者はオーディションだけで選ばれてない。君たちみたいに精神が不安定な子供達が選ばれたの。希死念慮が強かったり、攻撃性が高かったり……つまり、そういう子供をコロシアイでショック療法的に更生させるという裏の目的があったんだ。大きな規模のゲームだし、国にも色々言われてるからね」
「更生って……あんなものの何が!?」
「もちろんそれは登場人物に共感して命の大切さを痛感してもらう為よ。君たちだって殺し殺されするバーチャルリアリティだって知っててやってきたんでしょ?
 でもコロシアイなんて人間に対して行う事は倫理的には許されない。肉体的にも精神的にもね。だから本人にはさせられない、だからこそのフィクションキャラクターよ」
「フィクション……キャラクター?」
「フィクションキャラクターにかなり強く感情移入させることによって、自分や他人の大切さを実感させる……というのが政府への建前でね。
 思春期の子供を巻き込んでゲームを行う以上、大人は子供はちゃんと守らないと。
 まあ私は面白くて盛り上がるゲームが作りたかっただけなんだけど、こんな大炎上なんて……はあ、クビかしら」
「……」

 あまりの現実にへたり込む。でも「僕」の記憶が教えてくれた・・・・・・僕はコロシアイのバーチャルリアリティに参加するためにオーディションを受けたのだ。本当に死ぬ気も殺す気もなかった。フィクションを楽しんで、閲覧者達のヒーローになるつもりだった。

(そこに作られた存在たちがどんなに苦しむか知っていたのに、それを楽しもうとしていた)

 罪悪感で膝を折る。すると彼女が距離を縮めてくれた。

「ちょっと、大丈夫?」
「赤松さん……いや君は違うんだっけ」
「……赤松でいいわよ、お互いに名前も知らないんだし、面倒でしょ。どうせここから出たら赤の他人になるんだし」

彼女の暗い表情を見て確かに前向きな「赤松楓」ではないと確信する。

「ピアノ……本当は興味ないの?」
「……昔はね、好きだった。結構頑張ったんだよ、でもコンクールで落ちてからどうしても弾けなくなってね。今はただの……コロシアイを見るだけが趣味の後ろ向きな高校生よ」
「・・・・・・今はとても、信じられない」
「探偵なら真実は受け入れなさいよ……まあ、私も赤松楓でいるのが楽しくなかったとは言えない。あんな風になりたかったな……才能なんてなくてもいいからバカみたいに人信じてて前向きでさ」
「・・・・・・本当に君は赤松さんじゃないんだね」

 少しづつ記憶が戻り始める。最後の学級裁判、フィクションと希望と絶望……「最原」がダンガンロンパを終わらせたこと。

「そうだ、キーボくんは?」
「ロボくん? 彼はさっきまでチェックされてたみたいだけど、問題はないみたいよ。視聴者のアンケートが多過ぎてオーバーヒートしたんだって」

 ホッとする……と、どかッという音ともに「百田くん」が吹き飛んだ。「王馬くん」が彼の前に立っていた。

「なんで「王馬」を殺したんだよ! あいつがいればコロシアイを出し抜けたかもしれないのに!」
「なんだよ! お前は自分で頼んだんだろ!?」
「そりゃ「王馬」はそうしたかもしれないけど……なんであいつが死ななきゃならなかったんだよ。あんなに「俺」と違って強くて面白い奴だったのに……フィクションだからってあんな死に方あんまりだ・・・・・・」

 「彼」は嘘そのものだった「王馬小吉」と違って本心の見える表情で泣いた。

「凄く痛くて苦しかった・・・・・・俺にはヒーローみたいにみえたのに」
「王馬くん! まさかあなた死んだ時のこと覚えてるの!?」
「……は? 俺が直接じゃないけど……感じてたよ、王馬が死ぬ時どんなに痛かったか!」
「そんなバカな……絶対に精神に悪影響があるからキャラクターの死の直前の記憶は最優先で残らないようにしてるのに……まさかあの爆弾のせい!?」

 「王馬くん」は白銀さんに腕を捕まれた。

「すぐ脳のスキャンをして、ダメージが残ってる!」
「離せよ! 俺は王馬に感動したんだ、あんなに苦しいのに頑張ったんだよ! 忘れたくない!」
「彼もフィクションのキャラクターよ! 現実のあなたの方が大切なの! 記憶は消去しないと」
「いやだ!」
「やめろ!」

 「百田くん」が「王馬くん」を白銀さんから引きはがした。 

「俺たちにも気持ちを整理する時間をくれ・・・・・・それが終われば好きにしやがれ」
「俺は「王馬」を忘れたくない!」
「・・・・・・スタッフを呼んでくるわ」

 そう言って白銀さんはダイヴルームを後にした。

「・・・・・・あんた、王馬に協力してくれた百田じゃないんだね。なのになんで助けたの? プレス機で殺した罪悪感?」
「……あれはゲームのキャラクターだろ、俺たちとはなんの関係も」
「……「百田ちゃん」は本当にそれでいいの? 「百田解斗」でいた時間は忘れちゃった?」
「……そりゃ、全て忘れたわけじゃないけどよ。俺はあんなに素晴らしい人間じゃない……本当の俺は世の中を憎んでばかりで夢なんかない」
「今もそう思ってる? フィクションだからって、ゲームのキャラクターだからって、あんなに近くで見ていた人間から影響されないと断言できるの?」
「俺は……俺だって本当は!」
「……なんてね、嘘だよ」

そう言って「王馬くん」は立ち上がった。

「口癖だけ真似……でも俺は「王馬」みたいになりたかったからこれは八つ当たり……ごめんね「百田ちゃん」」

 そう言って王馬くんは離れていった。

「最原」
「最原・・・・・・でよいのか?」
「春川さん、夢野さん」

 最後まで一緒だった彼女たちが穏やかな微笑みを浮かべていた。

「最原、ウチらは「彼ら」を否定したりしないから、落ち着いて聞いてくれい」
「・・・・・・私たちは最後まで生き残ったから一番強く「彼ら」の記憶が残ってるんだって・・・・・・時間とともに薄れてしまうらしいけど」
「本来は視聴者目線の記憶程度らしいのじゃが・・・・・・キーボのお陰かまるで自分の記憶のように思い出せる」

 途中で死んだメンバーはその後の記憶を視聴者目線の記憶として持っているらしい、と彼女たちは告げた。あのコロシアイを最後まで見続けたと。

「・・・・・・馬鹿馬鹿しいのう、あんなにコロシアイに憧れたのに当事者になればそれがどんなに残酷か痛感するとは」
「しかも私たちも見せ物としてずっと楽しんでいた・・・・・・変な話だけどね、私ちょっとほっとしてるんだ。本当の私も孤児だけど暗殺者としての過去はないんだって」

 春川さんは泣き笑いのような表情で僕の頬をなでた。

「ねえ、私たち・・・・・・「彼ら」はあれでよかったのかな」
「・・・・・・本当にウチに魔法が使えたらのう」
「「彼ら」は消えてしまったの?」
「分からない・・・・・・白銀はアクセス不能とか言っていたけど」

 「彼ら」は消えてしまったのだろうか?
 ダンガンロンパが終わってしまえば、コロシアイが終わってしまえば・・・・・・そのために作られたフィクションの存在は消えるのか。

(でも、やっぱり僕の胸は痛い)

 それはきっと。

 白銀さんが白い服を着たスタッフを連れて帰ってきた。

「はい、君たちのことは医療スタッフがちゃんとするから、あんなフィクションのことは忘れて」
「フィクションなんかじゃない!」

 僕は叫んでいた。

「・・・・・・最原くん、じゃなくて君。いい加減にしなさい。あれは君が体験したフィクションなのよ」
「違う! 例えフィクションだとしても、僕は最原終一を忘れない! なら彼は確かに存在したってことだ!」
「落ちつきなさい、彼らはダンガンロンパってゲームのキャラクターなのよ。必要以上の感情移入ね、キーボくんがあんなことするから……早くカウンセリングを」
「フィクションだからなんだっていうだよ!」

 叫びが止まらなかった。

「「僕」は悲しかった! みんなが、フィクションのキャラクターたちが死んでいって悲しかった! 悲しんでいる最原終一をみて悲しかった! こんなこと終わりにしないとって思った!
「僕」は嬉しかった! 赤松さんに信じてもたって! 百田くんや春川さんといろんな話をしている最原を見て!
 それをフィクションだからってなかったことみたいに言わないでくれよ! ……彼らはゲームのキャラクターかもしれないけど、今も僕の心にいる!」

 最後には涙がこぼれた。

「投票を放棄した最原はカッコよかったよ、あんな風になりたいって思う……それが現実に届かないフィクションじゃなくてなんなんだよ?」
「……それでも私たち大人にはあなたたち子供を守る義務がある」

 白銀さんはそっと頭をなでた。

「あなたたちに必要なのはキャラクターへの少し感情移入とそれを糧に前向きになること、それ以上の記憶はあなたたちの将来に害になるかもしれない・・・・・・分かって、あなた達を守りたいの」
「・・・・・・」

 漏れた泣き声は「王馬くん」のものだった。みんな静かに泣いていた。

(フィクションの彼らからのメッセージ、確かに僕らにも届いたよ)

 少なくとも僕はもうコロシアイを望まない・・・・・・フィクションの存在を苦しめないために。

 結局子供は大人にかなわない。僕たちは白銀さん達にそれぞれの医療室に連れていかれた。大人達は優しく僕たちを心配していた。

 みんなの姿が遠ざかっていく・・・・・・もう会えないのかな? ・・・・・・そんなのイヤだな。たとえ彼らではなくても、彼らを共有できるのはきっと。

「そうそう」

 傍らにいた白銀さんが僕の顔をいたずらっぽくのぞき込んだ。

「あのね、あのあと沢山のユーザーから要望があったんだ・・・・・・フィクションの最原くん達のことで」
「えっ・・・・・・? さ、最原達がどうしたの?」
「彼らに感動した、共感した、想いを感じた
・・・・・・だから彼らをAIとして生き延びさせられないかって、クラウドファウンディングまで始まっちゃって・・・・・・ねえ、最原くんだった君」

 どう? 君は世の中捨ててたかもしれないけど、捨てたものじゃないでしょ? と彼女は笑った。




つづく?



設定

・プログラム世界でした。
・オーディションの台詞はあくまでバーチャルリアリティの中で活躍するとしての台詞と受け取ります。
・まことくんの様子を見るとマジのコロシアイをマジで楽しむ世界とは思えないので「オーディションで選ばれた高校生達が架空のコロシアイをするリアルフィクション感を楽しんでいる」くらいかと(それでも相当アングラですが・・・・・・)。
・思い出しライトの上書き設定はプレーヤーの精神を守るためのものとして採用しています。メンタルだけとはいえ直接コロシアイさせるのは許されまい。そのためのフィクションキャラクター。
・しかしまさかのフィクションキャラクターの反乱によりダンガンロンパは凍結になるのであった。
・集団カウンセリングでたぶんまた会えます。

以上


 フィクションから現実に想いを届けるってどんなものかしら、と思って、もっとも影響を受けるのは彼らだろうなーって。

 気が向いたら、ノンフィクションの彼らの一ヶ月後、一年後とか書きます。


 ニューダンの結末にどう答えればいいか分からず書き始めました。しかし書くと以外と腑に落ちるメッセージをほわりと感じたり。しかしフィクションのキャラとこんなに対話したんだなと思うと凄いゲームだな・・・・・・。




トップへ