俺は人間じゃない、俺は人間でできている。
矛盾しても成立しているなんて、つくづくこの世は不思議と理不尽に満ちている。繊細な俺には、辛い話だ。
パリ、知る人ぞ知る老舗のカフェの個室にて騒々しい声が響いた。国家の化身が三人そろうとなかなかかしましい。
「はぁ、イギリスがいなくなったら悲しい?別に死にそうにないで、ムカつくくらい元気やん」
「だから、そんな当たり前のことが解消しなくなるほどどつぼにはまってるだけなんだよ!
というか何でお前いるんだよスペイン!?呼んでねーよ!」
イギリスと別れた後ダメージにふらつきながらたどり着いた場所で、俺はいきなりのほほんとしたスペインにいきなり苦悩を一蹴された。
「せやかて、プーちゃんへの手紙に自分書いてるやん」
「ぷーろーいーせーん・・・・・・なんで裏切ったんだよ~?俺に何の恨みがあるんだよ」
最低限ジャケットくらいは着ていないと入れないカフェなので、糊のきいたスーツが無駄に似合う(姿勢がいいんだろう、多分)プロイセンは神妙に口を開いた。
「実は話せば長くなるんだが・・・・・・菓子食ってるときに、こいつのオーダーがこなくて暇そうだからその辺の雑誌とか適当に読んでろよって言ったんだ。・・・・・・だ、だいじょぶか?」
「・・・・・・頭痛が痛い」
「え、えーと、そしたらそこにお前の手紙を封を開けたまま置いて他の忘れてて読まれちまった。そんな壮大な歴史秘話があってな・・・・・・いや、悪かったって!泣くな!」
「お前がドジっこなだけじゃん!長くもないし秘話でも何でもない!」
「いや~普通になんやこれと思ったら、フランスの字で「恥を忍んで話を聞いてくれ。この三ヶ月イギリスが消えると思うせいで吐血した、お願い助けて」って書いてあったから・・・・・・一目で読めちゃったんやわ」
「わーん!一生の恥だー!」
俺の怒りのメーターは振り切れる前に悲惨な頭痛に変わった。さっきの買い物騒ぎでも結構気力を持っていかれたのにーーそうも無邪気にざっくざく斬られると腹が立つを超えて無力感を感じる。
何もかもを放棄したい心境に突入する。逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ。カフェオレおいしい、上のラテアートも俺の家にふさわしく美しい。世界は楽しい楽しい・・・・・・黒と白がぐるぐるして楽しい・・・・・・気が遠くなってきた。
今日に限ってやたら派手で洗練されたスーツ姿のスペインはパルフェをつつき、一瞬で気にした様子が消滅しマイペースに話を痛いところをつついてきた。
「そんなことよりやっぱフランスはイギリスに惚れてしもうたん?そんでストレスで吐血したん、大丈夫?」
「・・・・・・ほっとけ」
実はここに入る前にちょっと吐血したなんて言えない。胸ポケットのハンカチは真っ赤で色としては隠れるが、匂いは隠しきれているだろうか?マイペースに食べ続けるプロイセンの横でスペインは俺の声に目を細め、トーンを落とした。
「ほんまにまいってるんやなあ・・・・・・そしてさっき捨てられたん?早っ!」
「・・・・・・今日は帰ってくれ、お前は呼んでない。プロイセン、お前がこいつ呼んだのかよ?」
「俺様のせいじゃねえぜー。普通に待ち合わせてマカロン食ってカフェオレ飲んで、腹減ったんで今度はクーヘン食ってたら普通にスペインが窓の外通りかかっただけだ」
「ネジレてる!ここの通り絶対空間とかネジレてる!」
失礼なことを言っているスペインにナプキンを投げつけてありえない偶然に頭を抱えた。相当煮詰まった問題を話したいからプロイセンを呼んだのにあっさり部外者がいる。運命の女神は苦悩を望んでいるのか?
誰にも鉢合わせしない為にドレスコードのある高級カフェを予約したのに、結局乱入者が出るなんて無情にもほどがある。
アラベスクのカーテンの向こうに新たな乱入者がいないかと心配になり、乱暴に閉める。いくらパリが世界一美しい町だからって国家の化身がすれ違いまくるなんて呪われているとしか思えない。
「クーヘンうめえ、こっちは二個頼む」
「チュロスないん?」
「ねーよ!プロイセンは俺が呼んだからおごるけど、お前の分は自分で払えよ!
たっかいからなここ!むしろ値段に恐れをなせ、居座る前に帰ってくださいお願いします!」
無茶な友人たちに訓練されたボーイとウェイトレスは少しも乱れず注文をうけて、追加注文用タブレットを渡し退室する。人払いもオーダーの内だ。ご丁寧にカーテンの乱れまで直してまでくれた。こいつらも追い出してほしい、いやプロイセンは困るけど。
「なんやねん、けちやなー。お金ないん?」
「さっきイギリスに8000ユーロも投げつけたんだよ!そうなのお金ないの、可哀想だろ帰れ!」
「そんなに貢いでさらに捨てられたん?イギリスこわいわー、あいつの方がやり手なんやな」
「ここザッハトルテねーの?」
言って後悔が胃に突き刺さる。スペインの誤解はどんどん深くなっていく。そして頼りにしていた友人は値段を気にせず追加注文を続けている。こいつらちっとも心優しい味方じゃない、知ってたけど。
「違うっつーに!俺はイギリスに惚れてません貢いでません!今日はダサいカッコしてるから哀れんだだけ!」
「なんかいかにも貢いでる奴が言いそうな台詞だな」
「でもフランスとイギリスは最近の俺らの話題の中心やで、なにしろ最近の世界会議のフランスときたらイギリスと目を合わせることもしない。でも影からは初恋の少女ごとくじーっとみてるやん。
ハンガリーと日本は喜ぶし、アメリカとカナダは兄弟会議してしてるし、ドイツは面倒ごとになるって胃痛になってるし、イタちゃんはパスタの話しててかわいいし」
「なんだと?フランス、弟の胃をどうするつもりだ!?」
「いいんやで・・・悪趣味やとは思うけどフランスは気に入ったなら老若男女、海の底空の果て、手足が何本でも、眉毛が太くてもセクハラすんのは俺が一番知ってるわ。フランスがイギリス好いても今更驚かんわ、ピレネーの平均標高くらいにしか」
「んな事起きたら俺はモンブラン標高くらい驚くっつーの!それに手足は各二本ずつくらいまでだから!・・・・・・じゃない、お兄さんなんだと思われてんの聞き捨てならない!」
そんな悩みなら吐血までする必要はない。しかし友人たちは真面目な顔をして遠い目をし始めた。
「俺様、尻を触られた記憶が」
「親分もクリスマスとエイプリルフールの記憶が」
「すいませんでした!本題進めさせてマジで!」
三ヶ月の苦悩を解消したくて考えた策が馬鹿話でおじゃんになってはたまらない。かなり微妙な話題なのでプロイセンにだけそっと聞くのが彼への礼儀だと思っていたのだが、この有様なら仕方ない。うう、また血が・・・・・・。
「あのな一応言っておくけど、楽しい話じゃない。まして恋愛相談じゃない。
そして俺はプロイセンに話があるの、スペインは子分のところに帰れ。つーかどうして今日に限ってドレスコード突破できるカッコしてんだよ・・・・・・帰らないなら、ちょっと耳ふさいどけ」
「大変やロマーノ、今親分フランスの浮気現場にいるわ!しかも相手はプーちゃんや!」
「メール打つな、さてはその服子分に借りたな!」
「その話はスペインがいたらできねーのか?俺もう一緒でもいい気がしてきたんだが」
「・・・・・・いやプーちゃんに悪いし、質問自体わりとお前に失礼だし」
カッカしたと思えば落ち込んできた、我ながら情緒不安定だ。いい加減悪い気がしたのかプロイセンはスペインのアイフォンを取り上げて電源を切った。横で上がる悲鳴を無視して続ける。
「気重な雰囲気消したかっただけやって、返してーな!」
「ほいほい、ちょっと待ってろ。とりあえず、フランスが俺に恋愛相談すると俺は思わないぜ。
んで、そんな変な質問する予定なのか?お前がイギリスにどうこう思ってるのは何となく分かったけど、何で俺なんだ?
俺はあいつのこと知らない訳じゃないが、アメリカとかカナダの方が適任じゃないのか?」
「無理やで、あの二人は最近兄弟会議ばっかしとるわ」
「いや、イギリス本人に詳しいことは問題じゃないんだ。つーか俺の悩み自体イギリス特有の問題ってわけじゃないし・・・・・・ああもうなんで、それなのにあいつなんだよ」
思わず恋愛じみた発言をしてしまい目の前の二人の誤解が深くなった、撤回するのはもう諦めよう。本題に入ってしまえば、もっとつまらないとすぐ分かる。
「なあプロイセン、今からお前の弟にぶん殴られそうなこと聞くぞ」
「ああ?いーぜ」
「お前ってさーー一回滅んだよな?」
「・・・・・・ああ、お前等に解体させてやったぜ」
カフェオレを啜る様子はかつての彼そのままで、俺は自分の期待とその期待が裏切られる不安に揺れた。
「一度は死んだのか?」
「いや・・・・・・正直記憶が曖昧だな。気がついたら解体後にヴェストの家の横でぼーっとしてたんだ。今ここにいる理由はしらねえ。ま、ヴェストのためにかはわからねーが神様も粋なはからいしてくれたもんだ」
「俺らってさ、人間とは違うけどーー死ぬってどんな感じか聞いてもいいか」
スペインが息をのむ音が聞こえた。プロイセンは目を細め、視線を天井にやった。雑音が去り、三人だけの広い個室が急にがらんと寂しい場所に思える。
「死ぬか・・・・・・俺は死んだってはっきり記憶してるわけじゃない。だから疑問には答えられない。それに死んだっていうには俺様の現状は死んだ奴らに申し訳ない状態だと思うぜ」
「死んだら、全部消えるのか。歴史や記憶も、なにもかも」
「俺のほとんどはヴェストが持ってる、なにも消えてないさ。歴史なんて尚更だ、消したくても無理だ」
「でもきっといつか消えて、いつかは絶対死ぬんだろう?」
亡国の友人は平時の騒がしさを消し、目を細めた。
「それがお前の悩みなのか、いつか死ぬことや・・・・・・いや誰かに死なれることが恐ろしいのか」
誰とは分かっているのに告げないのは慈悲なのか、それとも確認なのか。俺は返答がすぐできないどころか、舌が回らない。やっとでてきた言葉は幼稚な子供の言葉だけだった。
「イギリスだっていつかは死ぬと思ったら、顔が見れなくなったし、血まで吐いた。それが三ヶ月続いて戻る気配もな・・・・・・俺の悩みなんてそんなもんさ」
「え・・・・・・え?そんなん」
「どうしようもないってんだろ!?そんなこと分かってんだよ!」
「それで俺なのか?悪いが死んだ後にどうなるか俺もあまり分からない。死ぬっていうより消える奴、くっついて吸収されちまう奴、人間と違って生死の境界も曖昧だしな。
それに死んだ後のことが分かっても、お前がすっきりするようには見えねえぜ?」
知ったところで運命は変わらないと暗に告げられ、全てが振り出しに戻る。苦痛よりも苦い寂しさが、再び身を苛み始める。ああ、いたい。
額を押さえて懺悔するように顔を覆う。全てをぶちまけた。きっかけは些細なことだ、その上単なる日常の延長だった。
ある時彼が弱く見えて戸惑った。酔っぱらって眠っているところを見たときだったろうか?
起きろと揺すると掴んだ肩から昔よりイギリスが弱くなっていると感じた、何がかは分からない。経済も国民も昔より大きく強い。それでももう生死をかけて海峡越しに争った時代は昔の話になり、互いに長い時間を生き延びたのだと実感した。
そして「ああイギリスもいつか自分を置いていくんだ」と恐怖が全身を刺した。それから家に帰ると口元に違和感を感じ、拭うと血で袖が汚れていた。イギリスがアメリカの独立記念日に寝込むのと同じように。
最初は訳が分からなかったから、ただ距離を取った。きっと気が滅入っている、時間が解決すると。けれど待てど暮らせど解決しない。
思い切って本人に会えば消える感情かと期待したが、さっき無惨にその期待は消えた。
(あの童顔坊ちゃん見てるといつかくる時が恐ろしくなる)
顔一つ見れないまま、自棄のように贈り物だけして自国に帰してしまった。さぞ戸惑ったろう。
昔、懐かしい悲劇の女性の生き写しに出会った。出会えた奇跡に久々に神に感謝し、彼女の幸福を祈った。
別の昔、若い兵隊に「あなたは何者だ」と尋ねられた。お前たちと共に歩むものだと答えた。
その出来事は感傷を引き出すには充分だった。しかし、それと同じように彼らは感傷に浸る間に死んでいくこともよく知っていた。時間の流れが根本的に違うのだ。
「つまらねーことしか言えねえが誰だって死ぬもんだ。人も俺たちも、当然だろ?」
俺たちと人間は運命共同体なのだ、生まれていつか滅びる運命も同じ。
「分かってるよ、俺だって当たり前のことでこんなに苦しむとは思わなかったんだよ・・・!」
「ある日別人になっちまう奴もいるだろ、イギリスの奴はその気配もないぜ?」
「あいつが突然人格消し飛んじまう日が来るかもしれないのが怖い、記憶だって変わる時もあるだろう」
「・・・・・・なるほど、重傷だな」
時間の流れの中で置き去りにする彼らとイギリスの何が違う?なにも変わらない。目の前のプロセインとスペインなら尚更変わらない。
しかし三ヶ月間、そう自分に言い聞かせて無駄を思い知った。理屈を言い聞かせても自分の心は隣国のいつかの別れに怯えることばかりで、それををどうしても止められない。イギリスの毎年七月の様を笑えない。
(殴り合いばっかりで、忘れちまってたのかな)
生意気で強かな彼は人とは違う自分を置いていかない存在だと錯覚していた。しかしそれはただの思いこみだ。あっけなく死んでいった人や国と同じ、彼だって置いていくときは置いていく。
ばんとテーブルを叩く、こぼれたミルクとコーヒーが白黒混ざり合いがクロスの白を浸食していく。
「なんであいつなんだよ。
隣国だから?お前たちだってそうだ、人と時間が違うから?お前たちだってそうだ。
今までだってあいつが死にそうな時も殺しそうな時もいくらでもあったのに何で今俺が・・・・・・痛いんだよ」
胸が抉られるように、悲しい。そんなに彼は俺にとって特別だったろうか?
目の前のプロイセンだって長いつきあいだの末滅んだ。消える心配をするべきなら彼が先であるべきだろう。国だって幾人も見送ってきた。滅ぼしもした、今の時代になってなぜ・・・・・・。
(この千年、あいつにいっそ滅びろなんて何度でも言ったのに)
たくさんの出来事が今よりもずっとずっとあったのだ。それなのに平和な時代になって今更こんな袋小路に囚われるなんて、いっそ残酷だ。
手で視界を隠したまま、二人を覗き見る。プロイセンはどうしたものかと腕を組んで、スペインは考えていた。最後に困ったようにスペインが口を開く。
「イギリスに忘れられたり死なれたら悲しい?・・・それは当然の話とちゃう?」
「そうだよねー!あいつなんかいっつもむかつくばっかのに何で・・・・・・え?」
「イギリスがいつか死ぬかもと本気で思ったら、そりゃフランスは悲しいやろ。そんなん当たり前や、なんでそれを否定しようとするん?」
褐色の瞳があまりに普通に、無垢な疑問を投げかけた。
そんなことは強い日差しの下に濃い影できることと同じことだ、と。
「そりゃお前とあいつの仲ならそう思いたくない気持ちもあるやろな、俺だってイギリスに恨みが幾千万で顔見たらムカついたりする。
でもなそんなんとは関係ない。あいつが死んだり、もしくは忘れられる時がきたら俺は泣くで。好きとか嫌いやない。同じ境遇の存在を失うからや。喧嘩したり、しぶしぶ仲直りしたりした思い出がある。欧州みたいな近しい集団なら尚更、さらにこれだけ昔からの縁ならな」
人ではないけれど、自分たちは人でできている。その生において限りある縁を惜しむことは当然だ、とお気楽に言う。
「ははははははっ、スペインお前結構冴えてるな!」
呆然としていると急にプロイセンが笑い始めた。あまりに堂々と爆笑しているので怒ることもできない。
「俺たちが生みの存在である人間に置いていかれる事は当たり前だ。同じ国家の化身を失うというのは意味が違う、生き延びていくプロセスが異なるから諦められる」
「ああ・・・・・・そうだな」
「国も滅ぶときは滅ぶ、しかし人のように当然とは思えない。なぜなら当然ではないからだ、こっちが先に死ぬことだって充分あり得るからな」
もちろん自分こそが誰よりも永らえたいと人間と同じように願ってしまうものだが、と付け加える。
「もし感傷に浸るほどの同じ思い出をもつ存在に置いていかれたら、その時にだけ俺たちは人間と同じように泣くんだぜ。あいつもういないんだって馬鹿みたいに悲しい。忘れられても同様だ、同じものを分かち会える相手を永遠になくすわけだ」
亡国は、自分が正式には消滅したことなどどこ吹く風。それがそれをと思わない方が異常だという。
「・・・・・・プロイセン」
「お、俺の話じゃねーぞ!そんな涙するなんて、俺様の罪なカリスマが光りすぎたか?」
「ついにそんな真面目な話ができるように」
「うまくまとめられてるとぷーちゃんまるでお利口みたいやで!」
「お前らなー!俺じゃなくてイギリスの話だろ!・・・・・・俺たちと同じ存在は世界に三百近くいる。そいつらだってある日いなくなったら悲しい、そんなこと当たり前だ。
イギリスはフランスにとって昔からいて当たり前の存在だ。そんな奴がいつかいなくなるかもしれないって改めて思ったらーー俺らにも感傷に振り回されるときもあるだけだ」
まああいつまだまだ生きそうけどな、とタブレットでお代わりをしているプロイセンの言葉に俺はやはりほっとした。彼がイギリスがこの先もフランスの隣国として存在するに未来を核心していることを安堵した。
(感傷は自然で仕方がないこと、か・・・・・・)
あの金色毛虫の海賊紳士がありったけの思い出を抱えてある日消えてしまうことを、俺は人間と同じように恐れている。なんで人は死んじゃうのと泣きわめく子供のように。
それを受け入れることができなかったのだろうか、自覚さえなく。
「・・・・・・なんか俺、すげえ間抜けってことなのかな」
「俺だって改めにそんな感情がつぼに入ったら落ち込むぜ。あったことを忘れているだけかもしれないしな。当然の事だって悲しいときもある」
「・・・・・・でも、あいつイギリスだし」
「だから関係ないって言ったろーが」
「口悪いし、雨ばっかだし、俺とばっちりばっかりだし」
「あー、ムカつくせいで特別なんかもな。だんだんそんな風に見えてきたわ。まあまあ、先にフランスが死ぬかもしれんし」
「縁起でもないこと言うなよ、絶対俺のが長生きだからな!・・・・・・俺が死ぬ心配してるって知ったらあいつ絶対キレる」
「ああ、それは絶対キレるな。お前が先に死ぬに決まってるだろって喚くのが目に浮かぶ」
「せやねー、プーちゃんいい加減アイフォン返してーな」
「この、薄情者ども・・・・・・」
いつも生意気で独自路線で滅ぶことなんて考えたことがない・・・・・・そんな彼がいつかはいなくなるかもない妄想に涙するのは当たり前なのか。
「でも、だったら俺ってどうすればいいんだ?」
「悲しみがどツボにはまったんだろ?気がすむまで嘆くしかないんじゃねえか?」
「マジかよ・・・・・・相談した意味ないじゃん。おごるんじゃなかった」
自分でも見え透いた照れ隠しだったが、プロイセンは財布を持って真っ青になった。変なところでおこさまな奴だ。
「わんわん悲しめないのが長引いてる原因の気がするけど・・・・・・まあイギリスとフランスやからなあ」
「もう三ヶ月も苦しんでるって・・・・・・」
時間にしか解決できない、ありきたりな答え。何も解決していないけれどーーほんの少し痛みが薄れた。
ぼんやりと空になったカップを見下ろす、そういえばひっくり返してしまったのだった。久々に頭が空で、凪いでいた。頭痛を忘れていた、すぐに再開したが一時的にでも忘れられていたらしい。三ヶ月間で初めて、驚愕だ。
「スペイン、邪険にして悪かった」
「あ、そうや、俺今からイタちゃんち行くからフランスも来ればええやん?」
「は?」
いや、俺の謝罪を聞けよ。
「なんだと!イタリアちゃんの家に行くだと!?俺呼ばれてないぞ?」
「イタちゃんがフランス心配しとったわ、ロマーノん家に行く途中で置いてったるからーーここはイギリスに近いからまた落ち込みそうやし」
どうする?という視線にとっさに頷いてしまった。さて、俺はこれからどうなるんだろう?
人の運命は儚い、俺たちと同様に。
その営みをこれからもうまく愛していけるか、そう問われている気がした。
つづく
「とにかく、イギリスが死んだら悲しいなって思ってショックを受けるお兄さんを書こう」がテーマでした、長い長い。
お笑いもシリアスも多い、お兄さんはそんなことにふと悲しんでしまう気がしたのです。
親分ずげずげ言わせすぎた気もします、おかげでプーちゃんが大人ポジに。二人とも好きだよ!
あと彼らのお財布に幾らくらいがダメージかユーロの桁を何度が増やしたり減らしたりしましたが、最終的にお金持ちサラリーマンくらいになりました。
2015/02/16