アヴィスの意思、

ウサギさんと課外授業へ行く





「深淵の主と来訪者」



 アヴィスの意志は目を覚ました。

 起きれば本当に金属に似たチェインがきりきりと歯車を回して寄り添ってくれている。見覚えがある。もしかして会いに来てくれたのだろうか? と見上げる。

 もともとぼろぼろだったチェインは触れると黄金の粉を散らして消えた・・・・・・最後に何か伝えたかったのだろうか。

(消えちゃった、寂しい。挨拶くらいすればよかった)

 翠色の瞳が映すアヴィスの景色は美しい黄金がおとぎ話のように飛び交っている。その光景に「世界を美しく保てている」と安堵する。

 よくできたねと褒めて欲しくて、周囲を探すが求めた人物の姿はない。

「あれ・・・・・・どこ?」

 金髪に翠色の瞳の少年、それがアヴィスの意志に与えられた「肉体」だった。たまに垣間見る「上」の世界では「ニンゲン」と呼ばれる種族らしいが、これはその中でも曰く付きのものらしい。複雑な表情でそれを教えくれた人が見あたらない。
 名前は一ヶ月前決まったばかり、アンノウンーー未知という。

「どこなの? 僕を置いていっちゃったの?」

 とぼとぼと歩く足下には何冊もの本が散らばっていた。色鮮やかな絵本、わくわくする挿し絵付きの冒険小説、そしてそれらを読み解くための文字の練習帳ーーそれは彼が一人の時は与えてくれたもの。

 もしかして、彼は自分を一人おいていったのだろうか? ーーそんなのイヤだ! 一人はイヤだ! 寂しいのはイヤだ!
「どこいっちゃったの、ヴィンセント・・・・・・!?」

 悲痛に呼べどもたった一人の話し相手は答えない。この世の美しさ全てをぶちまけたような金色の海がただ一人の世界を包むだけ。アンノウンは無力にしくしくとうずくまって泣いた。

(知ってる。アヴィスは人がいられる場所じゃない・・・・・・ヴィンセントだけが特別なんだ。たまに会いに来てくれるグレンも例外・・・・・・)

 だから一人の時間の方が長いのに時々忘れてしまう。
 ヴィンセントが大好きだった。本やぬいぐるみをくれて、何より話をしてくれる。彼はこの空間で迷ったり死んだりしない特別な資質をもつらしく、自我に目覚めた自分を孤独から救ってくれた。

 しかし、それでもいつでもいてくれるわけでない。本来は一人なのだ。生まれてから死ぬまで、ずっとずっと・・・・・・寂しいとも言う相手もいない。

 当たり前の真実が胸に突き刺さり、黄金の海にいくらかの闇が混ざる。

 ・・・・・・と、誰もいないはずの空間から声がした。

「ねえ・・・・・・大丈夫?」
「え・・・・・・?」

 アンノウンが見上げると黄金の海に黒い影が浮いていた。両手にちょこんと乗りそうなその大きさにきょとんとした。

「ごめんごめん、驚かせちゃったね。今一人かな?」

(あの形は買ってもらったぬいぐるみ? 絵本で見たウサギの形に似てる)

 まさか寂しいショックで、また無意識にチェインを作ってしまったのだろうか? チェインを作るのは半ば無意識なのでありうる。でもチェインを作りすぎるとヴィンセントが困るから、作らないようにしていたのに。

 影はしばし揺らめくと、ぽんと手をたたいた。いや実体がないから、音がするわけはないのだがそんな仕草をした。

「・・・・・・君はすごいね」
「え?」
「まだ生まれたばかりなのに、誰かのために力を制御しようとしている」
「・・・・・・そうしないと危ないから」
「ほら、自分の力が大きなものだって理解している」

 偉いねとそのちんまりした影はアンノウンの頭の辺りをうろうろした。撫でていてくれるのかもしれない。優しい、何をしても許してくれる、壊しても殺しても決して怒ったりしない。それがアンノウンにとってのチェインというものだ。

 ーーでもこの影は、自分に都合がいいだけの存在とは違うと直感で判断する。

「君は、だれ?」
「俺? ・・・・・・俺は幽霊、かな?」
「ゆうれい?」
「厳密には違う、一度この世界から退場しているからね。今はただ君がさっき話し相手がほしいと思ったから、それに近いものとして呼ばれただけ」
「よく分からない・・・・・・またチェインを作っちゃったのかな・・・・・・」

 ヴィンセントのオッドアイ(と色違いの瞳のことをいうらしい、最近習った)ががっかりするところを想像してとびきり憂鬱になる。

「いいや、俺は君が作ったチェインじゃないよ。他人ってわけでもないし・・・・・・いややっぱり他人なのかな?」
「・・・・・・難しくて、分かんない」
「うーん、その体は俺も使ってたし、俺の魂はかつて君だったものから派生したものだし・・・・・・他人とは言えないかな」

 兄弟みたいなものだよとその影、黒いウサギは抱きしめてくれた。

「おいで」
「・・・・・・どういう意味?」
「一人でつまらないんだろう?」

 一人で勉強ばっかりしてる辛さはよく分かると影は告げた。理解されて、涙ぐむ。学ぶことは楽しいけれど、それを生かす機会は永遠にないと思うと胸がつぶれた。

「だから内緒で、地上へ遊びに行こう」
「そんなの無理だよ、僕が行けば世界が揺らいじゃう」
「・・・・・・大丈夫、俺が影響がないようにするから」

 とびっきり甘い声で、とびっきり危険な提案をしてくる。きっといけないことなのに・・・・・・アヴィスの意志は揺らめく影に手を伸ばした。

「じゃあ行こう、もう一つの世界へ」

 それを了承として影は真っ黒なウサギのぬいぐるみの形をはっきりと取った。







「ギルバートとヴィンセント」



 アンノウンは目を開くとそこは本に囲まれた空間だった。自分の指を見ると透けている、影だけもう一つの世界へきたらしい。世界を滅ぼさずにすんでほっとすると、二つの人影があることに気がついた。

「ヴィンセント!」
「しーっ、見つかるよ」

 懐かしい影に駆け寄ると人影に止められた。あれ、さっきのウサギは? と見上げるとうっすらとした人影。透けているが自分と同じくらいの背丈の金髪の少年のような気がする。

「・・・・・・君は、ウサギさん?」
「うん、ちょっと動きやすくなろうと思って。ここにいるのは影だから、話は出来ないよ。見てるだけ」
「・・・・・・分かった、ヴィンセントは何をしているの?」
「仕事だよ、いや兄弟喧嘩かな」

 今までできなかったもんなとウサギだった少年は懐かしそうに言った。




 ここ数日、ギルバートは弟に出会う度に同じ台詞しか言っていない。

「これに判子をくれ」
「見せて」

 そしてヴィンセントは粛々と判子を押す。さらさらとサインも書くーーグレン=バスカヴィル代理。その文字を見てギルバートはひやりとした。

「今日もお前がリーオの代理なのか? そんな簡単にグレンの代理をしてもいいものなのか」
「いいも何もマスターが決めたことだよ。
 グレンの命令が絶対のバスカヴィルでリーオ様が儀式をごてごてしてるだけで無意味でしょ? って無くそうが、判子なんて字が読めるなら誰でも一緒でしょって任せようが絶対服従さ」

 弟はとことんドライだった。
 世界崩壊から一年、リーオはバスカヴィルのシステムを良くも悪くも簡素にした。その分余った力をいろいろな改革に費やしているのだから、ギルバートも文句はない。孤児たちの教育まで丁寧にシステムを組んでくれたのだから、元孤児としては嬉しい。

「でもお前が「グレン」ってサインをするのは・・・・・・流石に慣れないな」
「僕がリーオの字を一番上手く真似できるんだよ」

 にこぉと満面の笑み。マスター、リーオ様、リーオ、弟は主の呼び方をそのときの気分で変える・・・・・・きっと嫌々だったんだろうなとリーオの顔が目に浮かぶ。
 書類はギルバートの分で終わりだったらしい。夕焼けが差し込む部屋でヴィンセントが変える準備を始めるとギルバートは思いきった。

「ヴィンス! ・・・・・・その、今日は夕飯でもどうだ?」
「・・・・・・ギルの今の家ってここから馬車で一週間かかるけど」

 声は冷たく、乾いていた。警戒されている。

「心配ない、ここの近くに美味い定食屋が」
「・・・・・・行ってもいいよ、兄さんのお願いだから」
「ほ、本当か!?なら料金は気にするな、俺が奢って」
「ただしこの報告書の分析が終わってからね、五年分ほど」

 と、ヴィンセントは二メートル積まれた本の山、というか種類の山の城壁をぽんと撫でた。ギルバートの目尻は潤む。

「ヴィンス! 今帰ろうとしていたじゃないか~」
「今思い出したんだ、ほら帰った帰った! ・・・・・・兄さん、最近いちいち子供扱いしてきて恥ずかしいんだよ・・・・・・全く」

 ギルバートを追い出したヴィンセントは扉を押さえながら呻く。・・・・・・兄のことだけではなく、最近は気持ちがふわふわして落ち着かない。昔冷静にできたこともできない、どうしたのだろう。





「・・・・・・ヴィンセント、子供みたい」
「あれ、幻滅しちゃった?」
「ううん、僕みたいなところもあるんだなあって・・・・・・いつもは道徳について授業してくれるから意外」
「どうとく・・・・・・ヴィンセントが」
「ねえ、ヴィンセントはお兄さんが嫌いなの?」
「ん? 大好きだよ。ただ、ヴィンセントは長い間一人きりでなんでもしてきたから、ギル、お兄さんに接するやり方を上手く思い出せないんだ。
 それだけじゃなくて、同じ目的や協力できる仲間に心を許せる状況に慣れてないんだ・・・・・・本人は気がついてないけど、一人じゃないことに戸惑ってる。でも、いいことなんだと思うよ」

 あんまり心を読むのはよくないけどね、と少年は笑った。



「リーオとロッティ」


 シャルロット=バスカヴィル、愛称ロッティは世界が一度滅んで即座に再生したようなぐらつく感覚を味わった。今日は枝毛もなく美しくセットされたロングヘアも、微かな色違いの口紅も今はどうでもいい。

「グレン様・・・・・・いえ、リーオ様、それを本気で仰っているんですか?」
「本気で、というか本当のことだよ。
 ジーリィはそのための使者。バスカヴィルはこの世界をどこからか観測している連中に気まぐれに力と使命を与えられた集団なんだ。
 それ以上でもそれ以下でもない」

 淡々と世界の秘密を告げるリーオはいつもより静かだった。ロッティの様子をコーヒーのマグの間から伺う。人は正面から見つめると緊張で本音が聞けないと本で読んだ。
 だからリーオは彼女から三十度ほど目線をずらして、話よりも飲み物の方が気になるというポーズを取っていた。

「信じられません! 私たちが、バスカヴィルがそんな風に得体の知れない連中に作られた存在だなんて! ・・・・・・しかもいろんな物語を作って観測するためになんて」
「本当に反吐がでる話だよね」

 でも現実だ、と冷静に繰り返す。ここはフラスコの実験中なんだ。
 ロッティは対照的に足下の何もかもを踏みつぶして怒り狂いたい心境だった。

「ふざけています! そんな、そんなことのために! ・・・・・・オズワルドさまはあんなに苦しんで」

 書類も新しい拠点にと敷かれた紅に唐草文様の描かれた絨毯も、その下の張り直したばかりの床板も全て踏みつぶして粉々にして、この怒りも悲しみもあの人の運命を弄んだものも何もかもなかったことにしてしまいたい。

「シャルロット、やめろ」
「・・・・・・は、はい・・・・・・取り乱してすみませんでした」

 グレン=バスカヴィルの命令は絶対だ、民はその言葉に逆らうことはできない・・・・・・そういう仕組みだ。それを疑問に思ったことなどないのに、それすら皮膚に蛇がまとわりつくような悪寒がした。

(この力は、そんな連中の実験の一つにすぎない)

 リーオはため息をついた。

「シャルロットがその反応なら、他のバスカヴィルの民に公開するのはもう数年かかりそうだね」
「ええ・・・・・・リリィにこれを伝える気にはなれません」
「同意するよ。ジーリィたちは途方もない力を持っているんだろう、バスカヴィルの力を面白さの為に与えられるくらいにね・・・・・・ねえシャルロット、これっていい気分?」
「・・・・・・最悪です」
「うん、僕もだ」

 リーオはマグをおいてロッティに近づいた。身長が足りないから威厳は足りないかもしれないけれど。

「だからさ、いつかはみんなに公開して記録や本を作ろうと思う。厳選した人が読むんでもいいからさ。僕だけが知っていたらあっと言う間に闇に葬られそうだし。
 幸いあっちは即座にこっちを滅ぼしてやり直そうってわけでない。なら当座は放置だ。
 ・・・・・・でも、向こうの気が変わって、やっぱりこの世界を滅ぼしておこうなんて思ったらまずい。いざというときはこっちから世界を切り離せるやり方がないか模索はしておきたい」

 ロッティは何度もこくこくと頷いた。世界を影から守る、それはもとを辿ればジーリィに植え付けられたものだけど、その使命をいまこそ自分の意志で引き受けられる気がした。

「私は、可能なら世界を切り離したいです」
「僕もそう思う、君が協力してくれるなら助かる。
 こっちにはヴィンセントがいる、ジーリィたちに干渉されないでアヴィスの意志と交渉する方法があるんだ。望みはある。今後他にも禍罪の子がいればもっとアヴィスを探れるかもしれない」

 力を貸してほしいとバスカヴィルの長は民に告げた。

「僕一人じゃ出来そうにないから、助けてほしい。
 レヴィ、先々代のグレンはバスカヴィルのやり方を破って罰を当てられて死んだみたいだ。
 だから僕もやりすぎれば、ジーリィたちにじわじわ殺されたるかもしれない。だからギルバートお義兄さんには僕が死んだ際にバックアップになってもらうつもり」

 リーオはとても高いところを見ていた。世界の真実の公開、アヴィスの核との新しい関係の確立、それを担うバスカヴィルたちの育成・・・・・・やることは山積みだ。リーオ一人ではどうにもならない。

 ロッティは深々と頭を下げた。そうするとリーオより目線が低くなる・・・・・・この主のためにはヒールの靴は履く回数を減らした方がいいだろうか。

「あなたの方針には心から賛同できます、ただ一つ問題があります」
「うん、何?」

 そしてロッティは前のグレンには出来なかったことを当代グレンにぶちかました。

「先走り過ぎよ、坊やが一人で背負える話だと思ってるの・・・・・・私たちを頼ってください、死んでしまうなんて言わないで。いつかすべて私たちに任せて一人で隠居するくらいのつもりでいてください」

 リーオは思いっきり平手打ちされて目を丸くした。そして、頭を下げるロッティにオズワルドはなんで彼女の好意に気がつかなかったんだろうなと場違いな考察をした。

「シャルロットには感謝してるよ」
「な、何ですか、急に」

 怒られると覚悟していたのに、リーオは満足そうだった。

「信頼できる有能な幹部っていうのは有り難いものだよ」
「お褒めいただき光栄です」




 アンノウンと少年の影はじっとその姿を見ていた。

「グレン、なんだか大変そうだな」
「そうだね・・・・・・リーオ、元気そうでよかった」
「え?」
「いや、なんでもないよ・・・・・・きっとこれから世界はいい方に変わっていくんだろうなって」





「再び、深淵へ」

 アヴィスへ帰還するとアンノウンはぺたんと座り込んだ。力をかなりセーブしていたので疲れたらしい。
 少年はウサギのぬいぐるみの姿に戻っていた。困ったように笑っている。

「ヴィンセントもグレンも・・・・・・大変そうだったね」
「そうだね、でも大丈夫。ヴィンセントが帰ってくるまで俺が話し相手をするよ」
「顔を見れて嬉しかったけど・・・・・・忙しそうだから、まだ来られないんだろうなあ」

 寂しそうな声。分別のある子供だからこそ、我慢するしかないと悟ってしまったのだろう。

「・・・・・・それまで俺が一緒に遊んであげるよ」
「本当?」
「うん、ヴィンセントには負けるかもしれないけど、アヴィスは君にとって楽しい場所だ。それを思い出させてあげる。何する? 本を読む?」
「・・・・・・ヴィンセントが帰ってきたら、ウサギさんは消えちゃうの?」
「・・・・・・」

 ウサギは何もいわないで、アヴィスの意志の膝にぽんと乗った。肯定と見なしていいだろう。

「ねえ、ウサギさん。君はもしかしてあの世界に住んでいたの? 死んじゃったの?」
「・・・・・・もしそうならどうする?」

 アンノウンは天使のほほえみを浮かべた。

「生き返らせてあげるよ、話をしてくれたお礼。
 大丈夫、時間はかかるかもしれないけど僕なら「なんでも」できる」

 澄んだ善意の眼差しでアヴィスの意志は言った。悔いのある人生だったんでしょ? アヴィスにはそういう人がやってくるんだ。

「僕の力でやり直してあげる。アヴィスを掌握する僕なら、なんだってできるーー悲しいことはなくしちゃおう!」

 アヴィスの支配者は、なんでもできる。きっとこれはいいことだ。

「どうしよっか? 君が死んだ時間を消しちゃおうか? それとも死んだ原因を消滅させる? 記憶を保ったまま転成するほうがいいかな? ・・・・・・ねえ、きみはどれが」
「駄目だ!」
「えっ・・・・・・?」

 ぬいぐるみは千載一遇の機会を拒否した。アンノウンはぱちくりとゆらめくウサギの影を翠色の瞳に写した。

「俺はそんなことのために、君の前に現れたんじゃないんだ」
「どうして? ・・・・・・ヴィンセントのお兄さんやグレンを見てるときのウサギさん、とっても懐かしそうだったよ。帰るときとっても寂しそうだった。
 悪い人を生き返らせるのはダメだけど、いい人ならいいでしょ? いいことは進んでしなきゃ」
「そんなことしちゃいけない」
「なんで!?」
「・・・・・・命が生きているってことと同じくらい死んだってことも大切なことなんだ。一度きりだから価値があるんだよ」

 死を歪めることは、結局生きることも歪めてしまうのだ。道徳の授業にも出てこないような難しい話だった。

 アンノウンはちっとも納得しなかった。けれどウサギが心から拒否していることも伝わってきた。

 人がいやがることはしてはいけない。ヴィンセントから習ったことだ。

「君がいやなら、しないよ・・・・・・喜ぶかと思って」
「ありがとう・・・・・・気持ちは嬉しいよ。でも俺はあくまで君が寂しいときに夢の中で話す相手ってことにしておいて・・・・・・できればヴィンセントとリーオにも言わないで欲しい」

 とても必死な様子だったので、アンノウンは頷いた・・・・・・生き返る方がいいと思ったのに変なの。

「ごめん・・・・・・俺が悪い、未練を見せて、君に危険なことをさせるところだった」
「人を生き返らせるってそんなにいけないこと?」
「うん・・・・・・泣いても、喚いても、他人に八つ当たりしてもいいよ。でも生き返らせるのは絶対ダメだ、君ならいつか理解できるよ」

 道徳って、大人って、命って難しい。
 思わぬ課外授業に疲れてしまったアンノウンがうとうとし始めるとウサギは撫でてくれた。

「・・・・・・うん、じゃあ生き返らせるのはやめておく」
「ありがとう・・・・・・ごめんね、俺が一目でもって未練があったから」
「よくわかんない・・・・・・いつか、わかるかな」

 もちろん、と黄金の粒の中で小さな声が聞こえて、アンノウンは眠りにつく。目が覚めても、ウサギがいてくれるように夢の中で祈った。





おわり



 パンドラ最終巻発売一周年おめでとうございます。

 作中でも一年後くらいのイメージで書いております。

 アンノウンは白アリスのピュアさと大きすぎる力のイメージで。
 ヴィンセントは白アリスにとってのジャックみたいな立ち位置です。

 
 アンノウンは「この前はグチっちゃってごめんね~、これ奮発したお礼のマカロン!」くらいのノリで時間軸の修正や因果率の歪みを提案しています。万能者はしちゃいけないことばかりで大変ですな。


2016/06/27