どうしてグレン様は生き急ぐのですか?
誰に尋ねられた質問だっただろう。ヴィンセントではない。バスカヴィルの誰かだったと思う。そんな事を言われて不思議だった。生き急いでいるつもりはない、ただ毎日毎日あの日の償いを、この世界を滑稽と言わせないために、死ぬまでの時間を急いで使い切ろうとして。
しかし、リーオは気が付いた。確かに生き急いでいた、そのフリをしていた。周囲の人々にではない、自分に目的のためにだけ生きているのだと言い聞かせるために。
だってそれが贖罪だろう!と胸中で絶叫して、それが嘘である事を誤魔化した。
頬をなでる夜風は冷ややかで、春の暖かさは抜け落ちていた。周囲の木々の新芽は揉めている乱入者達には目もくれず空へ伸びていた。空は青から橙色に変化し、今は藍色に染まり始めて、夕焼けから夜へ向かっている。
(夜までに終わらせたいな、馬車に乗りたいし)
リーオが胸中で場に不似合いなのんびりしたつぶやきを落とす。さびれた街道には三人の人影が二対一で睨み合っている。最初に動いた影はアヴィスの核、アンノウンだった。彼はまず実体化を安定させ、膝を折ったヴィンセントの側にかがんだ。
お気に入りらしい四つ葉のクローバーのハンカチで頬の泥を拭われるとヴィンセントは我に返った。
「アンノウン、どうしてここに?」
「ヴィンセントが困ってたじゃない、僕はヴィンセントが困ってる時はいつでも助けにくるよ。たとえ相手がグレンでも・・・・・・っ!」
アンノウンがリーオに振り返った瞬間、巨大な龍の影に、幼い影が飲み込まれる。黒き龍がその間近に牙を剥いて飛びかかっていた。
リーオが放ったジャバウォックは全てを焦がす白い炎を吐き出し、岩を砕く前爪でアンノウン襲いかかる。絶対破壊者の一撃はこの世界でもっとも強大で小さな影など一たまりもなく・・・・・・。
「ジャバウォック、やめて」
その一言で灼熱の炎は消え、一暼でジャバウォックは虚空に砕け散った。静かに怒りに光るエメラルド瞳に驚いた、今の炎と近距離攻撃の連続技はリーオの持ち得る最強の切り札の一つだった。これで退散するとまでいかなくても、まさか前髪一つ揺らすこともできないだなんて。
「すごいね、君には誰もかなわない」
「そんな風に僕が仲間はずれみたいに言うなんて酷いよ、僕はグレンに何かした?」
「いいや、君はいつも通り力に酔わないいい子だよ、アンノウン・・・・・・口がすぎた、ごめんね」
へらりとした笑顔と責める緑の瞳。今までたまに遊んでいた相手から最大規模の攻撃を受けたのだ、さすがに怒っている。こっそり力を送るがジャバウォックは反応しない、これは一週間は再び現界させることは叶うまい。無駄なことをやめて、リーオはドードー鳥と梟を引っ込めた。
リーオはシロを籠に入れ、アンノウンから一歩だけ距離をとった。ぽいと投げた籠からにゃーと抗議の鳴き声がしたが巻き込めない。何しろ相手は最強の存在、いや世界の裏側そのものだ。勇者の物語で勇者は魔王には勝てるが、大地や空そのものには勝った話は聞かない。
「グレンでもヴィンセントを傷つけたらダメだよ、そして何もしていない僕を叩くなんてグレンはいけない人だ」
「はは、あれを叩く、ね・・・・・・全く僕ときたらろくな大人じゃないよね。力でも理屈でも君は敵わないな」
この地上で最も強いはずの彼は白いアリスを連想させた。彼女も万能だったけれど、とても謙虚で力任せに相手を蹂躙することとは無縁な優しい人格の持ち主だ。だから、その言葉を降参と受け取りアンノウンはぱっと顔を輝かせた。
「悪いって分かってるんだね、だったらやめて」
「僕を止めるなら、両腕両足をへし折って、地下牢に幽閉くらいはしないと」
「馬鹿な事言わないでください、マスター!」
「もう! またそうやってヴィンセントを悲しませる。良くないよ、グレンは偉い人なんだからちゃんとしないと」
ハニーブロンドの下で膨らんだ頬にリーオは肩をすくめて曖昧に笑う。アンノウンは戦えば敵う相手ではない。が・・・・・・。
「アンノウン! マスターを止めて! あとでどんな埋め合わせでもするから!」
「えっ・・・・・・それは」
ヴィンセントの叫びにアンノウンは視線を地に落とした。そして本当に申し訳なさそうに一番大事な友人を見上げた。
「・・・・・・ヴィンセント、それは無理だよ」
「なんで!?」
「僕はグレンより強い、だからこの世界では影でしかなくてもグレンに勝つことはできると思う。
でも僕が力を使えば、グレンも死んでしまう。多分ここから半径一キロはアヴィスに堕ちて消滅する――すぐ側にいるヴィンセントだけは助けられるけど、グレンもこの近くの人たちもまとめて死んじゃうと思う」
あっけにとられ、次の瞬間に納得した――アヴィスの核の力は万能に近いが神の領域の力で人間の力ではない。強大すぎて人間の望みに見合う結果を生み出せない。そんなことはアンノウンやアリスを通じて知っているつもりだった。
そう、大きすぎる力は小さな目的を果たすことに向いていない。リーオはアンノウンがこちらに滞在できるタイムリミットまで逃げてしまえばいい。・・・・・・そんなことは重々承知なのだろう、くやしそうな幼子は説得を続けた。
「ねえ、グレン。その影はなんなの? グレンの周りにアヴィスの闇に似た暗闇が渦巻いてる。それは良くないものだよ」
「……暗闇?」
気が付かれたかとリーオは「それ」を後ろに庇う。するとそれはじわじわと首を絞めてきて、息が詰まる。・・・・・・全く「風邪」で倒れたときには悪夢を見せる程度だったというのに。
ついていけないヴィンセントは奥歯を噛み、地を蹴り、そして感情を抑えた。
「どういうこと、そんなものがマスターにとり憑いてるってこと?」
「禍罪の子でもさすがに見えないかも、本来は本人にしか見えないんだ。・・・・・・でも大きなものだ、かなり大きい暗闇がグレンにしがみついてる。まるで呪いみたいに」
大したものだとリーオは振り返る。そこには確かに暗闇がいて、この世を呪いながら死に誘っていた。
「それは良くないものだ。辛い事がたくさん連なって生まれた、アヴィスの闇に似たもの。グレンはその暗闇の苗床になって、その「暗闇」に操られてるんだよ」
だから死のうとしているんでしょう? と幼い子供は励ますように笑顔を作った。リーオの本意ではないのだ、と。アンノウンにとってはヴィンセント以外でもっとも親しい友人のリーオ、彼に厳しい表情を向け続けるのは難しいのだろう。
しかしリーオはその優しさより、自分を責める声に耳を傾けていた。
・・・・・・死ネ死ネ、死ンデシマエ・・・・・・
・・・・・・罪人メ、オ前ノセイダ!・・・・・・
・・・・・・死ネ死ネ死ネ、死ンデツグナエ・・・・・・
罵倒を続ける闇をリーオは拒まない。暗闇・・・・・・あの病の日以来ずっと声が聞こえる。死ね死ね、お前なんて死んでしまえとずっと囁いている。
「グレン、聞いて。死んでしまいたい気持ちはその暗闇が作っているんだ、グレンの気持ちじゃない。その声をこれ以上聞いたらだめだ」
幼き賢者の声を無視して、呪いを撒き散らすそれを撫でる。お前の望みはちゃんと叶えると穏やかに微笑む。暗闇は見えずとも死に親しむような主の姿にヴィンセントは反発した。
「マスター!それが貴方を殺そうとしているんです」
「無理だよ、僕はこの暗闇が捨てられない。捨てるなんて選択肢はない」
「どうしてですか」
「・・・・・・ぴんとこないだろうけど、僕にとってこの暗闇は大事な存在なのさ」
「ならあなたはどうするんですか」
「・・・・・・こいつの願いを叶えてやりたい」
ぽんぽんとまとわりつく闇を撫でる手は丁寧で慈しみを感じさせた。主従は同じことを考える。諦めるな、打開策を考えろ――思考を止めなければ勝機はある。
「アンノウン・・・・・・マスターのあの影を消すことは?」
「あの影は・・・・・・グレンに深く根ざしている。僕なら消滅させることはできるけど、その時はグレンをまとめて消しちゃうことになる」
「・・・・・・」
「ご、ごめんね!役に立たなくて! だからグレンに協力してもらわないと」
「・・・・・・相談は終わった?」
半べそをかいているアンノウンにリーオは何の感情もなく、ヴィンセントはますます主を睨みつけた。
「安心してヴィンセント! 解決は簡単なんだ、寄生主がそれを暗闇だと自覚して壊せばちゃんと消える」
「・・・・・・つまり?」
「グレンに根ざしているってことはグレン自身がそれを引き抜けばいいんだよ。自分の意思でそいつなんかいなくなってしまえと思って力を送れば、分離できる。
後は僕が闇だけアヴィスにつれていって消滅させられる。グレンが自発的に協力してくれれば・・・・・・ねえグレン!」
「それはきけない相談だ。それくらいならこいつと心中するさ」
交渉は決裂してさえいない。最初から余地などないのだ。この世界の人々との関わりより暗闇を選んだのだ、誰に理解されずともいい。
リーオは腰の剣を引き抜き、宙へ投げた。
「ヴィンセント、受け取れ」
投げられたのは黒い剣、ナイトレイの鍵でありエリオットの形見に当たるもの、それがヴィンセントの目の前で大地に突き刺さって夕の光を照り返す。
(リーオが、エリオットの剣を手放すなんて)
リーオが宙に手を伸ばすとドードー鳥らしきくちばしが長剣と短剣の中間程度の長さの剣を差し出した。リーオがこの黒い剣を使いにくいと自分に合ったサイズを探して見つけたものだ。
「お互いに譲れない、なら決闘だ。僕が勝てばお前はここでお別れ、お前が勝てば僕はこの暗闇を拒絶して消滅させる」
向けられた白刃の煌めきにヴィンセントは驚いた。リーオの剣の腕前は、グレンになって以来成長し一般人よりは強い。一方ヴィンセントはリーオより戦闘の才能には恵まれていたが、その才能の伸ばすほどの訓練していない。
戦えば五分五分だろう、さっきの絶対有利な状況からなぜ不確定要素のある手段を選ぶ?
絶対に勝てる勝負ではないのに、リスクに挑むなんて・・・・・・アンノウンを警戒しているのか? 主の意図がつかめない。ヴィンセントは警戒を続けたまま五歩リーオに近づき、エリオットの剣を構える。
「・・・・・・後悔しますよ」
ヴィンセントは黒い弟のものだった剣を手に取り、主の白刃に映るよう油断なく構えた。
「どうしよう……喧嘩させないために、僕が来たのに」
「君のせいじゃないし、喧嘩じゃないって……決闘さ、時代錯誤だけどね」
ヴィンセントはアンノウンを気遣う余裕もない。
「負けませんよ、ぼくは!」
「怖い怖い。ヴィンセント、そうしてるとお前お兄さんにそっくりだね」
覚えのあるいらだつ言葉を流し、冷静に分析を試みる。体格はさほど変わらない。リーオも二十歳の青年程度の体格はしており、ヴィンセントより小柄だがそれ以外は変わらない。二人が戦えばさして実力は変わらないただの斬り合い。ならば相手を打ち負かす気迫が鍵を握る。
「昔言いましたよね、許しなく勝手に死ぬなって、なら貴方も勝手に死ぬな!」
ニレの木の下で金属の打撃音が交錯する。三歩の距離をを一秒以下で縮めるヴィンセントの横薙ぎをリーオも鞘を抜かないで受け流す。オッドアイの真剣な視線が感情の読めない漆黒の瞳に衝突しあう。
「馬鹿だね、いい加減な主人の言葉を真面目に受け取ったのが運の尽きだ!」
「このうそつき、分からず屋!」
「そっちこそ!」
体重差で腕がしびれるが横に軽く飛んでいなす。リーオはそのまま懐に飛び込んで蹴り上げるがヴィンセントはバックステップで避ける。
「勝手にグレンがいなくなったらバスカヴィルはどうします!? 兄さんやロッティがどんなに困ると思ってるんですか?」
「そりゃ、みんな困ると思うよ。けど本当に致命的なレベルじゃない、最低限の対策は前の仕事でしたつもりだ。手紙も出してたでしょ?」
「オズワルドと同じに魂をまた百年行方不明になります!」
「グレンの魂は黒翼に預けて、シャルロットに届けさせる。これで僕がやるべきことは本当におしまいだ」
彼の責任感を、やろうとしてきたことを、従者は一撃の度に知る限りの主の心の弱点を突いた。しかし主は用意周到で、隙を見せず守りを崩さない。
なら致命的な部分に斬り込んででも――!
「エリオットの為なんでしょう!? あなたが今更死のうとする理由なんてそれしかない!」
「当てっこには興味ないよ!」
流石に体力は山仕事に慣れたヴィンセントが上だ。リーオが勝つなら短期戦がベスト。リーオは目潰しに地面の土を蹴り上げるが逆に足払いをくらう。
「エリオットを、貴方の主人で親友を、僕の義弟を死なせたと思うから死ぬ気なんでしょう!? なら僕を恨めばいい、僕が首狩りだったんですから!」
「エリオットの死には関わっていない・・・・・・お前の行動は自己防衛だった、責める気はない。殺すか殺されるかだっんだろう?」
「ならナイトレイの親族の連中を皆殺しにしてやればいい! 僅かでも関わりがあった連中はまだのうのうと生きてる!」
「殺人鬼の使った刃物を売った店まで実刑にするような暴論だね!」
崩れた体勢をマントを投げつけて視界を遮り、右へ距離をとる。三度目の薙払いを受けるがニレの幹にヴィンセントの一撃が阻まれる。受けた方が一撃を返し防ぐ。その繰り返し。お互いの心情そのまま防戦中心だ。
「ならフィアナの家やユラの関連人物を! なんにせよ貴方のせいじゃない、エリオットが死んだのが貴方のせいだなんてそっちが暴論だ!」
ヴィンセントの刃が跳ねる。リーオから三十センチは離れており今までと同じように避けられる為の牽制の一撃。
「そうだね、かつての僕は傲慢だった。エリオットが死んだ悲しみのあまり、僕が何かすれば助かると思ってた」
けど本当は大したことなど出来なかったのだと今は痛感している。せめてユラの情報程度は掴んでいなければとても助けられなかった。ただの風変わりな使用人気分でなく、もっとパンドラに関わっていれば良かった。そうすればもしかしたら・・・・・・。
けれど、全てはもう終わってしまったこと。
「確かに僕のせいじゃない。ただね、やはり僕が出会わなけばエリオットはサブリエで死ぬことはなかったと思うよ」
この分からず屋とその言葉に今までと同じように防げる程度の速度より少しだけ早く剣を振り下ろし・・・・・・ヴィンセントは硬直した。ヴィンセントとリーオは今まで適度な距離で防戦していた、だからこの一撃とて今までのように避けると思っていた。
しかしリーオは自分の首を差し出すように、ナイトレイの黒い刃の前に身を投げ出していた。――このままならヴィンセントはリーオの首を半ばまで切り落としてしまう。
「っ・・・・・・リーオっ!」
「チェックメイト」
リーオの首は落ちなかった。ヴィンセントは全身の力で右手の動きを止めていた。あまりに致命的な隙。それを逃さずリーオは距離を詰め、剣の柄で剣を叩き落とした。
「馬鹿だね、首なんてへし折れても半分斬れても、バスカヴィルならすぐ治るのに」
「僕に、できるわけないでしょう・・・・・・」
知ってるよと体当たりを食らわせ、ヴィンセントの襟首をつかんで地面に転がす。否定に手を当てられた従者の涙は久々に見た、痛む心を暗闇が責めた。今更貴様には何もいう資格はないと。
「リーオ、どうしてなんですか?」
「ごめんね、こんなことしか言えなくて」
今度こそドードー鳥と梟の力でヴィンセントは一月は目覚めぬ眠りにつく。
「死なないでください・・・・・・あなたはまだ」
幸せにならなければならない人だ・・・・・・そういってヴィンセントは深い眠りにつく。そうして決闘は終わった。・・・・・・今まで不出来な主につきあってくれた従者へのせめてもの詫びが終わった。
主従の決着は付くと、アヴィスの主は悔しそうに奥歯を噛んだ。皮肉にもさっきのヴィンセントにそっくりの表情だった。
「さて君はどうする、アンノウン?」
「・・・・・・悔しい、僕は何もできない」
アンノウンは半透明になっていた。元々アヴィスの主はこちらに滞在できる時間が極端に短い、さっきジャバウォックを追い払われた事もありもう退場らしい。あの黒き龍にも悪いことをした。
「君のせいじゃないさ。君は優しくて賢くて強い、そして一番は大切なものが何かよく分かってることさ。そんな君が上手くいかないのは、君の目の前にいる大人がズルくて弱いろくでないしだからさ」
眠るヴィンセントの頬にアンノウンの手が伸びる。大事そうに彼の無事を確かめる姿に安堵した・・・・・・リーオがいなくなってもヴィンセントはきっと生きていける。
(無責任な願望だけどね)
思うだけは許してほしい。
「・・・・・・悔しい、僕も早く大人になりたい。ちゃんとグレンを説得して、ヴィンセントを泣かせないようになりたい」
「急いでなっても良い大人にはなれないさ・・・・・・言えた義理じゃないけどヴィンセントをよろしくね」
アンノウンは返事をしなかった。そのエメラルドグリーンの瞳が金色に輝くとリーオの背後で爆発した。暗闇が金色に照らされ、その姿が露わになる・・・・・・!
暗闇は消えはしなかった、しかし照らされた姿は長すぎる前髪のぼんやりとした学生姿の少年だった。アンノウンの指摘は正しい、これはリーオに根ざしたもの。それをリーオだけ生かして取り去るのは無理だ、本人が拒絶しない限り確実にリーオを殺す。
「やっぱりそれは・・・・・・君なんだね、グレン」
悔しさに涙滲ませてアンノウンはヴィンセントを連れてアヴィスへ帰還した。
そして街道にリーオ一人が残された・・・・・・正直ほっとした。
「・・・・・・最終の馬車には間に合いそうだな」
いつの間にか夕焼けになっていた。リーオはうーんと背伸びをする。身が軽くなった。身に纏う重責を捨てたせいか、身長が伸びた気さえした。
「よーし、死ぬか」
お気楽に高らかに宣言した。耳元には死んでしまえと繰り返すそれがもう元の暗闇に戻っていた。心配するな、誰が否定してもリーオがお前を否定するものか・・・・・・お前の望むままに。
さて道草を食ったが、宿屋で最後の仕事も幹部たちへの引継の手紙も書いた。あとは目的地へ。向かうはレベイユ、ナイトレイの・・・・・・だ。
本音を言えてすっきりしたリーオは妙に元気だった。空元気ではない、本当に解放されていたのだ。
「目的地を目指して残りの旅もがんばるぞー」
えいえいおーと明るく穏やかな声。気楽にそう言うと猫が見つめていた。赤く熟れ始めた太陽光にプラチナブロンドが揺らめいていた。――もろい猫の籠は壊れてしまったらしい。
「……みー」
水色の瞳は真っ黒なリーオの瞳の睨んでいるようだった。怒っているのだろう。ふっと微笑むとシロを優しく抱
き上げた。
「みゃあ」
「心配するな、最後までお前はずっと一緒だよ」
まあもうすぐ終わりだが。ふわふわした子猫の毛皮は心地よい。少し高い体温も可愛らしくてしかたない。引っかかれるかと思ったがシロは腕の中で大人しくしていた。
「もう二日もあればつくよ、旅に付き合ってよ」
ね、エリオット? ともう一度夕闇に染まった毛皮を撫でた。
つづく
どうやって決別するべきか、悩んだのですが「男は拳でしか分かりあえない」と謎の結論に到達してこうなりました。戦闘描写って難しいね!
ヴィンセントにはえらく長く付き合わせちゃいました。ここでリタイアさせられて、リーオと同じくほっとしていたり。
あと二話予定。
2016/01/24