ひどいことをしている、その自覚はあった。


でもそれ以上に俺だけしか感じる事のできないリーオにはひどく安心した。


一生このままでいてほしいほど。

 

 

 


「 その瞳に映る世界 A 」

 

 

 

 
撫でた頬は風邪のせいだろう、やはり熱い。

強張っているのは拘束されたままの両腕のせいか・・・さっき少しでも楽なように身じろぎできる程度に余裕を持たせて縛りなおしたが拒絶感はなくならないだろう。

俺が差し出す我ながら歪な形にしか切れなかったりんごには目もくれずリーオは俺の方を見て睨みつけてくる、その表情が愛おしくて頬を撫でる手に少し力がこもる。


「いやなのは分かるが、食べてくれ。病気なんだから」

「・・・病人には、こんなことしてないでさっさと離せばいいだろ」


漆黒の瞳が本気で拒絶を伝えてくる。

初めて会った頃以来向けらたことない表情を向けられている事にに動揺しないわけではなかったが、同時にひどく安心した。

今のリーオはどこにも行かない、リーオが願ってもどこにもいかない。
俺が縛り付けている限りどこにも行かず側にいてくれる。


「悪いな、やっぱり苦しいか?
風邪ひいてるのに余計辛いだろ、もう少し楽なようにまた後で・・・」

「そんな問題じゃない!きついとかそういうのじゃなくてこんなのおかしい!
何がしたいんだよ!?こんなのエリオットらしくない!」


らしくない、今の俺はリーオにとっては俺ではないらしい。

でも俺にとっては紛れも無く俺だった。


「別におかしくなってはいない、まあお前から見ればおかしくなったように見えるだろうがな」

「おかしいよ!エリオット、僕が何かしたの?
理由を教えてくれないとわけがわからないし、謝れない・・・!」

「謝るようなことでもしたのか?」

「・・・心当たりはないよ、でも知らないところで何か怒っているならこんなやり方やめて。
 怒っているとしてもエリオットらしくない」

「別に怒ってはいない、強いて怒っているとしたら薬を飲んだ後何も食べていないことだ。
だからこれを食べてくれ」


リーオはあくまで拒絶した。

差し出す手には目もくれず俺だけを映す瞳は魅力的だったが病気の体に空腹は良くない。食欲はないだろうが、病気は早く良くなって欲しい。しかし、食べる意思は全くないらしい。

なら仕方ないと俺はりんごを差し出す手を引っ込めるとリーオは少しほっとした顔をした。

しかし、俺がりんごの切れ端を口に含んで軽く咀嚼すると察しの良さが仇になったのかさっきのことを思い出したのか、慌てて起き上がろうとして身じろぎした。

身動ぎするたびに拘束されている手首はどうしても傷つく可能性がある、だから俺は傷つかないようにその腕をベッドに押さえ込むと口移しのために唇を近づけるとリーオが声を上げた。


「やめてよ、いやだよ!エリオットどうしたんだよ、こんなの君らしくない・・・やだ、やめて!」


ベッドに倒れると腕の動きが鈍った。だから俺はさっき薬の要領で首の後ろに手をやると頭を軽く中に浮かせてもう片手で顎を軽く開かせると口付けた。リーオが声を上げていたので口移しは薬の時よりうまくいった。


「んん・・・やっ、やめ・・・て・・・・・・やだ、よ・・・・・・エリ・・・オット・・・・・」


口の中に広がった甘酸っぱい果汁は舌を絡めると、さっきよりリーオの抵抗がなくなって飲み込む気配が伝わってきた。さっき俺の口の中を噛んだことを気にしているのだろうか?

噛み付いても当然の状況だったし今でも舌を噛まれて文句が言えるとは思えないが、それでもリーオは動くのをやめてかすかに声を口移しの切れ間にだけ上げるようになった。


「・・・・・・ふぁ・・・・・・ん・・・・・・エリオットなんで・・・・・・くるし・・・いよ・・・・・・もう、おねが・・・・・・やめて」


リーオの口の中に甘い香りが感じられなくなったことを舌の先でもう一度舐めて確認すると、唇を傷つけないようにそっと離した。見下ろせばリーオは泣いていた。

大きな声で泣き叫ぶのでもなく、すすり泣くでもなく、ただ泣いていた。「どうして・・・」と小さな声が聞こえた気がした。

長い前髪の間から涙がこぼれていて、それに胸が痛んでそっと指でぬぐった。頬に涙の跡が残らないように何度もぬぐった。

なんの慰めにならないと分かってはいたが、それでも拭わずにはいられなかった。絶対泣いて欲しくなんてなかったのし、誰にも泣かせたくなかったのに・・・泣かせているのは俺だった。


「・・・・・・エリオット?・・・・・・」


でもそれと同じくらい束縛されたリーオが恋しいと思って口元を舐めるとまだかすかに甘い香りがした。名前を呼ばれる時が恋しく思うのは、独占欲だろうか、それとも恋の病だろうか?

香りがしなくなるまで舐めると、もう一度「どうして」という声が聞こえて、せめても答えに背中に手を回して抱き寄せてると耳元で「好きだ」と囁いた。

昨日と同じ言葉だったけれど、リーオの返事は昨日と違ってもう一度「どうして」と返ってきた。

少しだけ寂しく思うと、もう一度絶対にどこにもいかないと安心するまで一回り小さなその体を抱きしめると頬に触れるだけの口付けをした。

 

 

 

 

 


少しだけリーオの側を離れた。

本音を言えば一瞬でも離れたくはなかったのだが、誰もいないこの館でリーオの額を冷ますための水を用意したり、汗をかいた体を拭いてやるには水場に移動せざるを得なかった。

病人の看病にはできれば冬場には湯があったほうがいいから湯を沸かしていれば尚更時間が掛かった。せめて最初にポットに火をかけて他の準備をして時間を短縮するしか、離れているいらだちを紛らわす方法がない。

他にも食べるものや簡単な着替えを用意しながら、もうできるだけあの部屋から離れないでいいように可能な限りの準備をした。

できるだけ時間をかけなかったつもりだったが、さっき腕の中で泣きつかれて眠ったと思ったリーオは戻ったときには目を覚ましていた。余裕を持たせて縛ったからか、体をこちらに向けてじっと俺を見ていた。

本音を言えばできるだけ体に負担は掛けたくなかったので、もっと楽な拘束方法があればそうしたかったが思いつかなかった。せめて金属と鍵で拘束できればもっと両腕を伸ばせるのか、とふいに思いつきもしたがそんなものに心当たりはない。


「リーオ、起きてるのか?」

「・・・・・・エリオットは何してた?」

「看病の用意だ、ここは寮と違って水場もないし湯も沸かせないからな。まあ、これくらい用意すれば今日の夜までここを離れる必要はないだろうけどな。できればもう明日まで離れたくはないが湯ばっかりはどうしても・・・」

「エリオット、火を使ったの?・・・家事なんてほとんどしたことないくせに」

「ああ、でも火の始末はちゃんとした。消えるまで確認したから心配しなくていい、まあ慣れないから少し手間取ったがなんとかなった」

「・・・・・・怪我した?」


リーオが視線を手元に送ってくるので手元を見る、とさっき気をつけたおかげか火傷はしていない。
が、さっき包丁を使った時に誤ってつけた傷を救急箱を見つけたときに簡単に包帯を巻いたから、傷の割には大きな怪我に見えるかもしれない。看病しているのに邪魔だから、簡単に巻いただけなのだが。


「いや、ちょっとリンゴを剥くときに滑っただけだ。看病してるのに血が出てたら不衛生だろ」

「いいよ、看病なんて・・・離してくれれば自分でやるよ」


俺が離さないとわかっているのか憮然とした口調だった。目を合わせないと思うと、まだ俺の手元に目がいってる。


「慣れないことなんかするから怪我するんだよ」

「そうだな、同じ刃物と思って剣と同じに考えたのはまずかった」

「・・・・・・包帯、ヘタな巻き方だ。ちゃんと消毒くらいはしたんだろうね?」

「看病するんだから、自分の傷の消毒くらいは・・・」

「っ!ちゃんと怪我の治療くらい!・・・これ解かなくていいから、手の怪我見せて」

「風邪が治ったらな」

「エリオット!」


リーオが呼ぶ声に答えたかったが離してやることはできない。今の俺にとっては離すことは恐怖に近かった、離したら二度とリーオは帰ってこないような、そんなあり得る自分で招くかもしれない未来。

一方でどこかそれはないと思っている自分もいる。さっきからずっと俺の手に巻かれた包帯を見ているリーオは本当に俺の小さな怪我を心配している。

罪悪感がないわけではない。しかし、今の俺には自分の手で拘束したリーオに感じる安心感のほうが強かった。


「リーオ、聞きたいことがある。着替えながらできいいから答えてくれ」


昨夜から着替えていない、汗もかいているし着替えた方がいいだろう。ベッドのサイドテーブルに湯を張った洗面器を置くと清潔なタオルを沈めてきつく絞った。
リーオの襟元に手をやるとビクリと身を引かれた・・・・・・ふと何をリーオが怯えたか気がつき、訂正する。


「リーオ、俺は今は絶対にお前に何もしない、そういうことは・・・信じられないだろうが本当だ、怯えなくていい」

「・・・嘘だ、さっきキスしたし抱きついたじゃないか」

「・・・悪かった、もうしない。だから」

「だから!そんな問題じゃない・・・!」


上から一つずつ寝巻きのボタンをはずす、露わになる肌に人肌より温かいタオルを当てる。リーオは体をこわばらせていたが温度に安心したのか、弛緩していった。

襟元を拭こうとすると、首筋に鬱血の痕を見つけて自分が昨日つけたものだと言うことに驚いた。同じ寝台で同じ相手と一緒にいるのに昨日の今頃はそんな風に触れ合っていたことをとても遠くに感じる。


「聞いていいか、リーオ?」

「・・・さっきからなんだよ」

「昨日馬車で俺に「手紙が来なかった」って聞いただろ、どうしてだ」

「それは・・・来たって聞いたから」

「それは、お前の見合いの話がか」


顔にタオルをやると見開かれた瞳と眼が合う。不意をつかれた表情がかわいい、今は俺から逃げられないと知っているから。


「・・・・・・そうだよ、君が成人した次の月に一つだけ、貴族じゃないけど資産家の家から僕に縁談が来たって聞いた。でもエリオットが受け取ったって聞いた」

「それは知ってる、俺が主人として受け取った。そしてすぐ代理で断りの返事を書いた」


ただナイトレイ家の従者に1人同じ平民がいると聞いただけの政略の縁談だった。リーオは相手の娘の名前すら知らない、ただリーオを利用しようと考えているのが明け透けな縁談だった。そのまま握りつぶしてしまいたかったが、かえって面倒なことになるので用が済むまでは火の中に放り込むのはやめておいた

馬鹿馬鹿しい話だが孤児のリーオが同じ平民でも資産家の娘との縁談を断ると揉める可能性は高い、だからこういう場合は貴族の俺が主人として断る方が早い。学生だから従者として多忙だからと、理由付けをしてだから俺はリーオとは縁談をさせないと返事を書いた。


「でもまた手紙が来て、お前は返事を書いたのか?」

「手紙は来たよ・・・多分前は父親が書いたんだろうけど、今度は娘さんの名前で」


だからかと胸に黒い感情が溜まる。あの時に主の俺から断りを入れたから今度は娘に個人的な手紙としてリーオに接触したのか。


「急に断られたからせめて理由を知りたいって・・・僕もナイトレイ家の従者に平民がいるからそんな話がきたのは分かったし、その人も書きたくて書いたわけじゃないのはすぐ分かった。だからすぐ断るって返事を出した」

「なんで俺に一言も話さなかったんだ」

「別に理由なんて・・・ない、面倒だっただけだよ。エリオットだってだから言わなかったんじゃないの・・・?」

「・・・・・・ああ、そうだな。面倒だから言わなかっただけだ」

「でも、教えてくれても良かったじゃないか。おかげでこっちはいきなりこの前はお断りされてとか書かれた手紙をもらって驚いたんだよ」

「・・・・・・別に忘れてただけだ、驚いたなら悪かったな」

 

嘘だ、覚えていた。

それを見透かすように黒い虹彩の光が俺を違う色で捉えた。

 

「それでこれは・・・・・・まさか嫉妬だなんてないよね?」

「・・・・・・違う」


挑発的な、いやに感情を抑えた声だった。薄い胸に置いた手がかすかに強ばる。

気がつかれないように俺は少しリーオから離れた、かすかに指先から感じていた心音が遠ざかるとリーオは逆に間合いを詰めようとした。腕は囚われて動けないが少しでも俺の方へと近づく、暴くために。


「じゃあ答えて、僕をこうしたのはどうして?まさか風邪をひいたからなんて言わないよね」

「・・・・・・そうだ」

「嘘だ、君は聞きたいことがあるって言った。僕に手紙のことを聞きたいって、そのためにこんな・・・馬鹿なことをして」

「馬鹿なことか、確かにこんな風にお前を捕まえておくなんてことがずっとできるわけはないな」

「こんな必要ない、別に僕は・・・君から離れようとしたわけじゃない。手紙の話はすぐ断ったし、君がこんなことする必要なんてどこにもないのに」

 

(――それは、嘘だ――)

 

黒髪がふわりと舞ってリーオを隠した。首を振って、今度は俺から離れようとする。世界を拒絶するために前髪は今は俺も拒絶していた。

それに逆らって髪を分けて額に触れると熱い。リーオは触れた手にこちらを睨んだが、かすかに笑って返すとすぐ外らされた。

気がつくと首に当てたタオルは冷えている、リーオの頬も熱が出てきたのかさっきよりも赤い。話しすぎたのだろう・・・もう寝かせた方がいい。もう今は聞きたいことは十分だ。


「もう寝たほうがいいな、着替えは出来なかったが少し我慢してくれ」

「だからっ・・・・・・そんなことどうでもいい!君がこんなことをする意味なんてない!僕をもう離して、誤解させたなら謝る!君らしくない、君のためにならない!エリオット!」

「頼む、寝てくれ。俺は早く治って欲しいんだ」

「治ったら、離してくれるっていうの!?」


今度こそ答えに詰まった。そして不意に視界がひどく鮮明になった・・・離したらお前はどこに行くんだ?

触れないように俺は自分の影だけをリーオの上に重ねた。漆黒の瞳の上に俺の姿を貼り付けるように顔を近づけ、囁くように訊いた。感情をいっそ爆発させればよかったのかもしれない、しかしどうやって吐き出せばいいかも分からず何種類も混ざり合った感情が肺の奥からうまく出てきてくれなかった。多分感情の多くは、焦りと・・・怯えだった。


「じゃあ、聞いたら質問に答えてくれるのか、聞いてもいいのか?」

「・・・・・・なにを、僕はもう答えたよ」

「それは嘘だ、お前は見合いの相手に返事を書こうとしてただろう」

「・・・なんで、そんなこと・・・!?なに、ちょ、や、やめ・・・!」


見開かれた目に俺は自分の言葉が本当だったことを確信した。

さっきの清める動きと違って睦言の時のように撫でるように触れた胸が早い、今までの記憶を何度か頼りに撫でると拒絶の声に甘さが混じった。リーオがその声をいつも封じる時のように口を手で塞ぐことも、今は出来ない。

俺はお前が嘘をついたり、隠し事をするための要素を少しずつ剥ぎ取っていく。あらわになっていく姿はみだらだった。


「エリオット!?・・・さっきは、絶対何もしないって・・・うそつき・・・っん・・・と、止めて!」

「ああ、俺は何もしない。でもこの方が、嘘は付けないし隠し事もしづらいだろう?
 それにこうすれば・・・最後はぐっすり眠れるからな」


下腹部を撫でるとびくりと恐怖でない反応が返ってくる、必死で声をこらえる顔の恋人は知らない顔だった。いや、見たこともはあるのかもしれない。

ただ今までは自分の衝動に翻弄されてちゃんと見ていなかったのかもしれない。恋愛感情は厄介だ、自分の感情にばかり翻弄されてちゃんと相手が見えなくなることが多い。こんなことも・・・あの手紙のことも。

初めてまっすぐに見るリーオはひどく危うげで弱々しかった。じっとのぞき込むと顔をそらせないように顎に手を当てると正面を向いたままに固定する。声がこらえようとすうる口をそっと指先でこじ開けると噛まれなかった。

それどころか指先を噛まないように口を開いた・・・まるで俺自身を人質にしているような妙な感覚と大切に思われているのだという罪悪感。とうとうあからさまになった嬌声に彼が欲しいと唇を触れさせたい衝動を抑える。絶対に自分の快楽を追ってはいけないというのはただの自己満足だったが、自分なりの最低限の抑制策だった。

早く・・・早く終わるようにもう一度腹の中央に指をなぞらせると今度は間際で一際大きな嬌声が上がった。その声に強く惹きつけられる感情を胸中に抑えて手早く片手で下肢の寝間着を脱がせていく。下着に手をかけると息を呑む気配がして、早く終わらせてやりたいと手を急いだ。

片手で見ないとなると少し難しかったが、着替えさせるつもりだったのだからちょうど良かったのかもしれない。このまま順調にいけば眠ってもらうことは難しくないかもしれない。眠ってもらえれば、少しの間この苦しみからリーオは開放される。逃げない姿には俺も安堵して、理性を失うことはないだろう。

早く済ませてしまいたい、だからリーオの隠していることを早く暴いてしまわないといけない。


「えり、おっと・・・!やだよ、こういうの・・・ふぁ、っく・・・こんな風に・・・昨日までと同じがいいっ、昨日に戻ってよ!」

「そうだな、お前が離れてるといつも一緒なのが当たり前になりすぎてるのに気がつかなくて、俺も寂しかった。だから昨日は喜んだよ、久しぶりに二人でただの・・・恋人に戻れて」


その時リーオが見上げた瞳は不意をつかれた時のものだった。その無防備さに一瞬見とれた、でも・・・ここでやめるわけにはいかない。手の動きを早めると無防備さの替わりにまた乱れた声を抑えようと腕をよじったが囚われたままの手は、可愛らしい嬌声を抑えることはできなかった・・・いっそこのままずっと二人でこのままいられればいいのに。


「ああ、んっ・・・も、ダメ!・・・えりおっと・・・やめて、お願い、これならいっそこのまま・・・!?・・・っああ、あああ・・・!」


片手を直接リーオの自身に触れさせて、頬に触れさせた方の手の力を一層込めた。息を飲んで追い詰められたように見開く瞳を大事にしたいのにどうしてもその端には涙が滲んでいた。それでも止めることはできない、止めたら次に何をするかもう自信がなくなりつつあった。

こじ開けたられた口は変わらず俺の指先を傷つけまいと開かれたままだったが、数秒も耐えられず部屋にリーオの声が響いた。声は初めて聞く綺麗な音だった・・・・・・誰にも、一欠片でもこの恋人を渡したくない。


「リーオ、昨日書庫で手紙の書くときの本を探していただろう。それはあの娘に返事を書くためだったんじゃないのか?」

「離してっ・・・もう、エリオット・・・気が変になる、手を離して」

「昨日俺が一緒に地下室の書庫に行くのを避けたのはなぜだ」

「それは・・・んんっ・・・なんでもな・・・っ!」


昨日本好きのリーオが見せたらしくない態度、胸ポケットから出てきた手紙には断りでも返事が嬉しいという内容の手紙だった。

そこには思慮深そうな綺麗な字で自分もまだ子供で先のことはよくわからないが、このままでは父に叱られてしまうからまた手紙が欲しいという内容が書かれていた。


「昨日お前が書庫から借りてきた本はお前らしくジャンルもバラバラだったが、それでも手紙の書き方の文例集が結構あったな。あれは返事を書くためじゃないのか」

「それは・・・・・・エリオット、も、やめて、これならさっきの約束なんていいからちゃんとこのまま・・・・・・ちゃんと答えるから・・・ひっ・・・このままじゃ、気が、狂う・・・」

「俺はお前に上着を届けようとして・・・ポケットからお前が貰った、2通目の手紙があったんだよ。だから、俺はお前の荷物を勝手に開けて、らしくないデザインの便箋が何枚もあるのに気がついたんだ」


リーオは目を見開いて、喘ぐように、酸素を求めるように唇を震わせた。

数枚の便箋には長すぎず、短すぎず感謝と自分の簡単な自己紹介、好きな本や音楽、そして友人でいいから手紙を続けてほしいいということだけが書いてあった。
縁談を繋げて欲しいという意図をそこからリーオが読み取れなかったとは思えない。それに返事を出そうということはリーオにも何かの意図があってそれを受動的に受けようとした・・・少女が好みそうな可愛らしい装丁の便箋を俺は捨てることもできずに元の場所に戻した。

俺は確かに嫉妬しただろう、その娘は俺よりもリーオのことを知るはずもないのに隠れることなく手を伸ばすことができるのだと。

できるだけ快楽だけを与えられるように、何度もそっと撫でた。その度にリーオから、キレやすくて凶暴なくせに、本心をなかなか見せない理性をできるだけ剥いでいく。剥き出しなったリーオは・・・ただ綺麗だった。震えていた唇がためらいがちに開かれて、言葉を紡いだ。


「書こうと思ったよ・・・うあ、ん・・・嘘ついた・・・はぁ、んっ・・・・・・返事書こうと思ったよ、友人なら手紙だけならいいって・・・・・・エリオット、おこ、った・・・?」


俺は自分の表情は見えない、自分が今どんな顔をしているのか、どんな感情が今胸を支配しているのかわからなかった。だから、俺は手の動きを一瞬止めた。
・・・・・・怒ってはいない、多分ただの・・・恐怖だ、喪失への怯えだった。近くで見つめているはずのリーオがどんな顔をしているのか分からずに近すぎるのかもしれないと少しだけ離れる。近すぎるとかえってどこに相手がいるかわからない事もあるのかと、頭のどこかでそんなことも囁かれた。

今度ははっきりと見えた、リーオは泣いているのか笑っているのかわからない顔で見上げていた。そして、嬌声の中に場違いな子供あやすような声を混ぜて俺の問いに答えていた。


「だって、しょうがないじゃないか・・・ぼくは、エリオットがすきだから・・・あっ・・・も、もう、はなして・・・おわるから・・・おねがい、はなして・・・てが、よごれちゃうから」


視界の中でリーオはまた曖昧になっていく、どうしてかわからずにリーオと名前を呼びたかった。でもリーオといつものように呼ぶことさえどうすればいいのか、喉の奥で呼吸がうまくできずに思い出せなかった。

だから替わりに果てていくリーオに最後まで触れていた。吐息が一瞬止まるとびくりと痙攣するように跳ねる体を確認するとそっと、そっと離したくない手を無理やり離す・・・・・・はなしたくなんかない、のに。

酷いことをしているのに、リーオの声も言葉も優しかった。視界の中でどんどん曖昧になるリーオに一層呼吸が苦しくなって、やはり名前呼ぶことができない、こんなに呼びたいと思ったことはなかったのに、どうして。


「エリオット、なかないで・・・ぼくはずっと、ずっときみのそばに、いた、い・・・だけ・・・だから」


言われるその瞬間まで泣いていることには気がついていなかった。俺が拘束した手が俺に触れようと跳ねた髪の先に少しだけ触れている。なんでリーオが俺をいたわろうとするのかわからない、酷いことをしたのは俺の方だというのに。

それでも疲労と絶頂から少しずつ意識が遠のいていく黒い瞳がいたわるように俺を見つめていた。その頬に何かが零れることに気がついて、ようやく自分が泣いていることをはっきりと自覚した。濡れている頬を慌てて拭おうと手を伸ばすと、意識を失う寸前のもう一度だけリーオの口が開いた。

 

「うそついて、ごめん・・・・・・すき、だよ・・・・・・エリオット」

 

どうしてリーオが謝るのか分からずに俺は何かを口に出そうとしたが、その頃ようやく自分が嗚咽を上げていることに気がついて口元に手をやるとその時にはリーオはすでに眠りに落ちていた。
しゃくりあげる声を横にただ、静かに眠っていた。静かに上下する胸に感じた安堵は・・・拘束している腕から感じたものよりもずっと安らかで、喉と胸を圧迫していた感情を融かしていった。

 

「・・・・・・リーオ・・・・・・」

 


溢れた感情を吐き出すと、ようやく名前を呼べた。

 



 

 

続く







 





台無しにあとがき


ひらがなにするとえろくなるって、ななかはしらなかったよ?え、べつにちがうって?うあああああああ、もっと!もっとひわいにすれば(恥を知れ)


〜無駄に裏設定〜

・エリーはずっと賢者モードのターン(うわあ)。前回いちゃこらさせた最大の要因だったりする・・・。
・絶対エリーにはやらせない。始めから決めていた、無駄設定。その分リーオがはずかしいのも無駄設定。
・背景では慣れない掃除をしたり、シーツがどこにあるのか分からずにドタバタするドジっ子メイドなエリーがいるが別にリーオは微笑ましく思っていない(状況的に)。
・季節は冬なのに脱がせちゃダメだろということと風邪ひいてるのでこの部屋はちゃんと暖炉やらその他暖房を完備しています(エリオットがドジっ子メイry)。
・手紙の少女は別に何にも悪くない。リーオは面倒臭がりなのでレターセットはエリオットが母親や姉宛にもっているちょっと端っこが花柄のかわいいのを何枚か拝借(ひどい)。


次で終わりです。


【追記】ちょっとどころじゃないかもしれない修正ならぬ、加筆をしました・・・。