なにをされたって、君しかいないのに

 




「 恋しくて、愛しくて 」




 

 

エリオットがおかしい。

それは気持ちが通じてからの変化だった。だからなにを彼が感じているのか察しはすぐついた。

エリオット、君は僕を誤解しているらしい。

君が僕を見つめる時、ふいに手が伸びているのはその先を求めているからなのは知っている。そしてそれを恐れていることも、僕になにか変化を与えてしまうことにためらってしまうことも。

だから、そんな風にソファーで寝るふりをして、僕を見ないように必死で僕を避ける。

でも、エリオット。
僕がそんな君をどう思っているか、わかるかな?


「エリオット」


顔にかぶせていた本を取り上げて、エリオットの顔に僕の影が落ちる。その事に心音が早くなる。

君は僕を見る気持ちに色のあるものが混じっていることに戸惑っているようだけど、僕も君の声やふと触れた指先に「もっとたくさん」と劣情をたくさん覚えた。

最初は君を汚しているようで怖かったけど、君が同じ感情を僕に持っていることに気がついた時に僕が感じたのは劣情に似合わないあたたかい恋しさだった。

以前当たり前に触れていた布越しの体温さえ、今はない。お互いにそれ以上の温もりを求めているから、簡単には触れられない。

僕の影の下のエリオットの青い瞳が逸らされた。でも、僕は君の頬に手を回して強引に引き戻した。頬に触れている手が感じるエリオットの体温が僕の心臓を止めてしまうのではないかと錯覚するほど鷲掴みにしているなんて、君は気がついていない。


「・・・・・・なんだ、リーオ。本をかえ」

「エリオット、僕を避けてる?」


見開かれた青い瞳。キレイで僕以外は今みたいな君の瞳の色を知らないで欲しいと願う。


「・・・・・・避けてねえ、俺がお前を避けるワケがない」

「・・・・・・じゃあ、こんなことをしてもいい?」


眼鏡を外して、傍らのテーブルに置く。そして腹に置かれていた一回り大きな手を両手で持ち上げる。エリオットは呆けたように僕だけといつもより深い青で映していた・・・・・・ああ、そんな君に、劣情や独占欲を僕が感じないなんて逆に不思議なくらいだ。君が僕にそんな感情を抱いていると思うと確かに不思議だけど。

だからエリオット、僕は君に確かめたいことがあるんだ。

少し決意を固めて僕は上着のボタンを片手で外した。エリオットが何かを言い掛けたが、そのまま中のシャツのボタンを半分くらい外した。

露わになったのはみっともないくらい弾んでいる僕の心臓。掴んでいたエリオットの手をその部分に押し当てる。手のひら越しにこの音が少しでも伝わればいい。

エリオット、僕は知りたい。君が僕と同じ感情を持っていることに気がついた時のおだやかなあたたかさを君も僕に少しでも抱いてくれるのか。


「聞こえてる?エリオット、僕は君が好きなんだ」

「・・・・・・リー、オ」

「エリオットが欲しいって、思っているんだ。僕はおかしいのかな?」


エリオットの手が皮膚越しに僕の心臓に触れてる。それがなんだか嬉しくて、少し笑う・・・と思ったら視界が急に逆転した。
さっきまで僕が影を落としていたエリオットは天井から覆い被さるように僕をエリオットの影で包み込んでいた。

ようやく押し倒されたのだと気がついたときには、エリオットが首筋にキスを落としていた。八重歯がかすめた感触に身をひねるとさっき心臓に触れさせたエリオットの手がシャツの残ったボタンを外して下腹を撫でる感触に、自分の声とは思えない声がこぼれ落ちる。


「・・・っあ、ふ・・・エリオット?」

「・・・もう止めないからな」


目尻にキスを落とされたと思えば、そのまま目元をなぞるように舐められた。それは僕が自分で求めていたことだけどあまり急で静まるはずの心音がもっと早くなる。


「止め、なくて、いいよ。でもここソファーだし、ベッドにいった方が」

「無理だ、待てない」


もう一度首筋に顔を埋められると強く吸われる感覚にくらくらした。開いたシャツの下に手が差し入れられて緩慢に撫でられた。くすぐったいだけではない感覚にちゃんとエリオットを見失わないか不安になり、手をエリオットの背中にしがみつかせた。

シャツ越しのエリオットの心臓は早かった。そのことにひどく安心すると、また自分の声には聞こえない嬌声がもれた。シャツの下を撫でる手は下腹の先に触れていた。


「あ、エリオット、ちょっと待って・・・っ!」

「できない、後声は押さえなくていい。聞きたい・・・リーオ」


下腹の先が露わになっていく感覚に思わず身を堅くすると、心臓の辺りに唇を落とされた。そのまままた舐められるのかと思うと頬がすり寄せられる。

心臓がエリオットに近い。音を聞かれているかと思うと歯がゆい気持ちになる。僕だって聞きたい、知りたいんだ、君の気持ちを。

心臓の辺りのエリオットの頭を撫でた。エリオットが顔を上げる気配がすると、頭に軽いキスをした。エリオットが真っ赤になるのに少しあきれる、さっきから僕にもっとすごいことを沢山したじゃないか。しかも、これからも沢山するつもりなくせに。

そっとエリオットの髪を撫でると、訊いた。


「エリオット、僕のことどう思った?」

「どうって・・・好き、に決まってるだろ」

「うん、ありがとう・・・で、僕いったじゃない、エリオットが欲しいって。どう思った?」


少しは涙が滲むようなあたたかさを、エリオットも感じてくれたろうか?


「ね、エリオット、教えて・・・はあっ、んんっ・・・!?」

「そうだな・・・安心した、かな。俺も同じ、リーオが欲しかったから」


エリオットの声、言葉。それがとても嬉しかったけど、外気に触れていた自身をしっかりと握られてうまく返事はできなかった。なんとか頭をふって、エリオットに伝えようとすれば言葉は先端にかすめるようなキスをされて声も上げられない。

そんな僕を見てエリオットは余裕なんてないくせにひどく柔らかな声でいう。


「あと、泣きそうになった」


泣きたくなる言葉を伝えられては僕もだ、と言いたかったけれどエリオットは結局最後まで言わせてくれなかった。

 

 


・・・・・・結論から言うと、エリオットは僕を誤解していたが、僕もエリオットを誤解していた。

具体的に言うとソファーで一回、ベッドで一回だった、僕の髪を梳き続けている手の行く先によっては二回かもしれない(もちろんいやではないが)。さらにベッドではちゃんとその手の行為の準備に必要な道具をちゃんと用意していた(僕もしていたが)。

求めているからなのは知っているつもりだったけれど・・・結論、僕が思っていた以上にエリオットは・・・僕を欲しがっていた。正直驚いた部分も大きい。そんなに求めていたことが自分のどこにあるのかわからない。

でも、今はただ繋がった安堵感に身をゆだねたい。


「・・・なんで、あんなこと聞いたんだ?」

「え?」

「俺がどう思ったかって聞いただろ」

「ああ、それ。気になる?」


軽くいつもの憎まれ口を叩いたら、逆に抱きしめられた。耳元で「気になる」と告げられる・・・またくらくらするから普通に聞いてほしい。


「・・・エリオットがさ、僕のこと見てたじゃない。やらしー目で」

「!!・・・や、ややや、やらしーって、お前!!」

「僕もエリオットをやらしー目で見てたから気がついたんだけどさ」

「!!?」

「なんかそれまでは・・・エリオットに悪いことをしてるみたいで後ろめたくてさ。でも君が同じ気持ちかもしれないと思ったら・・・嬉しかった」

「・・・・・・」

「なんだか本当に嬉しかったんだ、泣きそうなくらいにさ。だからエリオットが同じ気持ちを少しでも持ってたらいいなあと思ったんだよ」

「・・・・・・リーオ」

「なに、エリオッ・・・ん」

「・・・今日はもう我慢しないからな」


嘘吐き、今までも我慢なんてしなかったくせに。

でもいいよ、僕だって我慢なんて絶対しないから。

泣きたくなる恋しさとやすらかな愛しさの中に僕はもう一度身をゆだねた。

 

 

 


終わり





 




リーオは自分があんまりすきじゃないから、両想いになっても愛されてる度合いを浅く誤解してそう。