カルガモ日記 (1〜4まで)
※日記の方で連載していたものです。オールキャラ、やや次男愛されSSです。
「 カルガモ日記 1 」
ある晴れた日の血盟城に特徴的な笑い声が響き渡っていた。
「おははっはははははははぁぁぁぁ・・・!観念なさいグウェンダル!
私の魔動装置「真実はいつも一つだったりして」君の実験に協力なさい!!」
「なんだそれは!う、うわー!やめろ!この鉄の輪は何なんだ!
うっ・・・ま、魔力が、吸い取られて・・・・・・」
「もにたあセット完了・・・ポチッとな」
ウィンウィンウィン・・・・・・
「何なの、この物音?・・・うわグウェンがまた実験されてる!?」
「あ、兄上!?大丈夫ですか・・・うわ!ま、魔動装置が不気味な光を・・・!」
「あれは・・・危ない!ユーリ、ヴォルフラム!!」
「あ、コンラッド!?」
「コンラート!?」
とっさに二人をかばったコンラートは魔動装置の放つ不気味な光が直撃してしまった。
その瞬間辺りはもくもくとした煙で、ユーリとヴォルフラムは何も見えなくなってしまった。コンラートの身に何が!?と青くなった二人は慌ててその姿を捜す。
「コンラッドー!どこだよ、返事しろよー!」
「コンラート、ぼくとユーリが捜しているんだ!おとなしく出てこ・・・・・・うわああ!アニシナァァァ!?」
「何ですか、人の顔を見て悲鳴など上げて」
「(当然の反応だと思うが・・・)どうした二人とも大声を出して」
「あ!グウェン、コンラッドがさっきの魔動装置に・・・!」
「な、何だと!」
「おや、コンラートがあの魔動装置の効果を得たのですか、これは興味深いですね」
「アニシナ、教えろ!さっきの魔動装置はいったい何の効果が?」
「この「真実はいつも一つだったりして」くんはその人の本性をあらわにするというものです、コンラートにその光線が当たったとしたら・・・おそらく」
「ユ、ユーリ!?」
「ヴォルフ!?どうしたんだ、コンラッド見つかったのか!」
「そ、それが・・・・・・」
もくもくとした煙が晴れて、視界が良好になった床の上をヴォルフラムが指さしている場所には・・・・・・
グエー
・・・・・・一羽のカルガモがいた。
「 カルガモ日記 2 」
グエグエグエグエ・・・・・・・・・
静まりかえった執務室にカルガモのグエグエという声はやたらとよく響いた。
執務室にいる人々は凍り付いたようにその動きを止めていた。ユーリは立ったまま硬直し、ヴォルフラムは床に四つんばいになってカルガモを指さしたまま硬直し、グウェンダルは魔力を奪われた疲労とショックで立ったまま気を失い、アニシナはなんだか満足そうだった。
「コ、コンラッド・・・・・・?」
ユーリは震える声で何とかそれだけを言った。そんな、コンラッドがカルガモ言われているの知ってたけど、こんなことになるなんて。ああ、もしかしておれのせいなのか・・・?
誰も動けなかった・・・・・・動いたら認めねばならないことを認めなければならないと感じて。
しかし、ここに何者をもおそれないものが一人。
「ふむ、コンラートがカルガモになるとは・・どうやら魔道装置の開発には成功したようですね!!!すばらしい!コンラートなら獅子になるかとも思いましたが、より現状を正確に表したもの姿を変えるようですね!!」
「ア、アニシナ!?待て、これは本当にコンラートなのか!?」
気絶はしていられないとばかりに復活したグウェンダルがアニシナとコンラート(らしきカルガモ)を交互に見比べながらおろおろと言った。
「コンラート以外の何者でもありません!陛下の後を「すとぉかぁ」よろしく追いかけるその姿から付いた呼び名・・・まさにコンラートにこれ以上なくふさわしいものですから」
アニシナは言うと床のカルガモ(のようなコンラート)をむんずと片手でつかむと宙に踊らせた。
「や、やめろ!そんな持ち方があるか、ほら貸せ!!・・・・・・ほらほら、いい子でちゅねー」
「グ、グウェンそれコンラッド・・・」
「あ、兄上・・・」
「ああ!いや、これは・・・つい」
「何をしているのですが、グウェンダル。こっちによこしなさい」
どす黒い瓶を片手に持ったアニシナにグウェンダルは「弟には手を出すな!」という信念?の元きっとにらみ返すと拒否を返した。
「やめろ、アニシナ、毒薬の実験体なら私がなる・・・だからコンラートには手を出すな!」
「何を言っているのですか?せっかくコンラートを元の姿に戻そうとしているというのに」
「もにたあでもなんでもやるから!・・・って、何だと!?戻せるのか!?」
アニシナは当たり前のように言ったがグウェンダルは心から驚愕していた。まさか、アニシナが実験後の後先のフォローを考えて実験をしていたとは・・・!
「 カルガモ日記3 」
「アニシナさん、本当!?コンラッド元に戻るのか!?」
「ほ、本当かアニシナ!?コンラートは元に戻るのか!?」
「当然です、アニシナの辞書に不可能はないのですから」
えっへんと胸を張るアニシナにグウェンダルは一抹の不安を覚えていた。アニシナの持っているどす黒い薬品の瓶・・・コンラートを元に戻すものだと言うが・・・・・・グウェンダルはアニシナの「ロメロとアルジェントの毒」のせいでもつ未だに治療薬の完成しない左腕のことを考えるといささか迷った。
「グウェンダル、何をしているのですか?
ぼーっとしていないでコンラートをさっさとよこしなさい」
「う・・・・・・」
グウェンダルは迷った。コンラートは戻してやりたい、たとえ確かにこの姿はとてもカワイ・・・・・・いや!このままでは魔王の護衛ができないだろうし・・・・・・・・・第一会話もできやしない。一刻も早く戻ってほしい。
しかし、しかし・・・・・・・・・アニシナの持つ瓶の中のどす黒い液体がボコンと気泡をたてるのを見ると「いくら何でもそれは・・・!」と解決よりも危機の方が気にかかる。
どうしよう、コンラートにこれをかけてもよいのだろうか・・・・・・・・・。
迷えるグウェンダルに必死な表情のユーリとヴォルフラムが詰め寄った。二人の目は少しだけ潤んでいた。
「グウェン、何してんだよ。早くコンラッドを戻してやんないと!」
「兄上、早く治療薬を!」
「・・・・・・う」
アニシナの恐怖に打ち勝つことができなくもないグウェンダルも小さくて可愛いものたちの真摯な願いには思わず手がゆるんだ。
それが致命的な隙だった。グウェンダルの腕の中に大切にだっこされていたコンラートは白くて細い割にやたらと力強くむんずと掴まれてアニシナの手で空中にグエグエと鳴く羽目になった。
「ああああ、アニシナ!やめろ、コンラートが苦しがっている!!」
「さっさと治しますよ、ではこの治療薬をコンラートにかけます」
「待て、アニシナ、その治療薬に危険はないの・・・・・・ああああああーーー!」
叫ぶグウェンダルの目の前でカルガモコンラートの頭にどす黒い液体がかかり、コンラートは驚いてグエー!と鳴いた。
そして次の瞬間その液体は爆発し、辺りは真っ白な煙いっぱいになった。
「う、うわー!」
「コンラートー!?」
「アニシナ、どういうことだ!」
「ふむ、どうやら失敗したようですね」
「失敗ですむか!・・・ああ、しまった!コンラートがいない・・・!」
煙がはれると何もない床だけが現れた。どうやら爆発と言うより煙が出ただけで、怪我をするようなことはなかったらしい。
「くそ、どこだ・・・おい、コンラート!返事をしろ!」
「コンラッドー!」
「ユ、ユーリ、大変だ・・・!」
青くなったヴォルフラムが震える指先で指さしている。
今度はどんな恐ろしい事態が・・・とユーリとグウェンダルが振り返ると、執務室のドアが開いていた。
「 カルガモ日記 4 」
「グウェン、そっちコンラッドいた!?」
「いや、おらん。ヴォルフラムは!?」
「こっちにもいません・・・・・・やはりコンラートは外に・・・・・・」
ヴォルフラムの顔色が「外へ・・・」の下りのところでさあっと青ざめた。ユーリとグウェンダルの顔色も同様になる。
すぐにドアは閉めたが執務室のどこにもコンラートがいないと言うことはやはりコンラートは外へ行った・・・・・・三人の脳裏に様々な不吉な予感がよぎった。
何処かへ飛んでいったらどうしよう、他のカルガモに紛れてしまったらどうしよう、誰かに踏みつけられてはいないか・・・・・・
「コンラッド、カルガモのままで大丈夫かな!?」
「知るか!?ああ、もうコンラートのやつどこに行ったんだ!?」
「くそっ・・・!こんなところでぐずぐずしているべきではなかった!外に探しに行かんと」
「よっしゃ、グウェンはここにいて!もしかしたらコンラドが戻ってくるかもしんないし!行くぞ、ヴォルフ!!」
「待て、ユーリ!」
ばたばたばた・・・・・・とドアの周りに砂埃を立てて走り去っていく二人を見てグウェンダルはそれについて行きたい気持ちを抑えて、自分にやるべきことをした。兵を呼び止めると「場内でカルガモを見つけたら、すべて無傷で捕まえて報告するように城中に勧告しろ。くれぐれも丁重に扱うように」というちょっと謎の命令を告げる。
兵は「なんじゃそりゃ」という顔をしたが素直に従う。困惑した表情で出て行く兵の後ろ姿を見送るとグウェンダルはふうとため息をついた。
「全くなんでこんなことに・・・コンラートは無事なのか」
「そうですね、今はコンラートは単なる一匹のカルガモですから何かないとは限りません」
「アニシナ!そもそもはお前が・・・!
・・・・・・・・・・・・もしコンラートに何かあったら、いくらお前でも」
「あなたが弟思いなのは承知しています。心配しなくともコンラートのことは何とかします。
過ぎたことは仕方がないとはいえ、失敗を改めるのはよいことです。よろしいですかグウェンダル、私はこれからコンラートを元に戻す治療薬を作りますのでさっさとコンラートを探して私の元につれていらっしゃい」
「ぐ・・・反省するわけがないか・・・分かった、探す」
他に手のないのが事実だ。アニシナにしかあんなことはできないように治すことも同様だろう。背に腹は代えられない。
仕方なくグウェンダルは首を縦に振る。とアニシナの笑みが深くなるのを見た。
・・・・・・不吉だ、まさか
「それでは、その治療薬のためにあなたにはもにたあになっていただきます」
「なに!・・・・・いや、待て!やめろ・・・・・・・うわあああああああああああああ・・・!!」
グウェンダルの断末魔が執務室に響き渡っている頃、ユーリとヴォルフラムは血盟城を走り回っていた。
「コンラッドー!返事しろー!」
「馬鹿、ユーリ。今のあいつに返事ができると思うか、とにかく誰かにカルガモを見なかったか、それを聞いて・・・・・・」
「そっか!それだ・・・・・・誰か・・・・・・あ、村田!」
「やあやあ、渋谷何を慌てているの見たところフォンビーレフェルト卿に追われているように見えるけど?」
「どういう意味だ!?・・・じゃない、大賢者!お前カルガモを見なかったか!?」
「カルガモー?なんでまた」
「村田、いいから、見たのか?見なかったのか?」
「見てはないけど・・・・・・」
村田は少し迷うと「アレのことかな」と前置きしていった。
「今日は晩ご飯は鴨のローストがメインらしいよ。今厨房にはたくさんのカルガモがいるはずだけど・・・・・・」
村田の目の前で二人の顔色は真っ青になった。