お題11 ちょっとだけだよ?
「・・・・・・・・ん・・・・・・・・・・・」
朝の陽光がまぶたをくすぐって、ぼくは目が覚めた。
少し身じろぎをする。真新しいシーツのにおいがして、少し鼻先がくすぐったい。
それからは、いつものように「あと少し」と言い訳をして二度寝を決め込む。
寝返りを打ってシーツを光が届かないようにすっぽりとかぶる。もう少し眠っていたい・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・?」
なんだろう、いつもとは違う感じがする
そうだ、今日はあいつの「ヴォルフラム、ほらもう朝だ」という声が聞こえない。
どうしたんだろう、今日に限ってあいつの方が寝坊でもしたのか?まさか。
それと、この香りは何だろう?
とてもいい香りだった。甘いけど、凛としたその香りは、どこか懐かしい気がする。
ああ、そうだこの香りは、小さい頃はよく摘んで母上に怒られた、麗しの・・・・・・・・・
「何で、ここに・・・・・・・・・・・・!?」
起き上がって、ぼくの名をつけられたその花を見つけようとして目を開いた。
確かに、そこにはたくさんの「麗しのヴォルフラム」がシーツの上に溢れるくらい散らされていた。むせかえるように匂いにも納得する。これだけあれば、とぼくは花に手を伸ばす。
しかし、腕は思うようには動かなかった。
「な、なんだ、これ・・・・・・?」
驚愕だった。
ぼくは、手足を縛られていた。
両手にはかなり幅の広い真っ赤な絹のリボンが何重にも巻き付けられていて体の前で手錠のようにぼくを拘束している。そのリボンの端は見覚えない天蓋付きベッドの柱の一つに堅く、まるでぼくを逃がさないように結びつけられていた。
両足はそれぞれの足に同じように赤いリボンが結ばれていた。足を軽く動かしてみたが、とても解けそうな縛り方ではない。このリボンの先もベッドの柱にそれぞれくくりつけられていた。
周りを見回すと、清潔だが人の気配のない部屋だった。朝の光だけが一つきりの窓から差し込んでいる。
もちろん、見覚えもない部屋だった。
「な、何が・・・・・・ぼくは昨日、、ユーリと一緒にいたはずなのに・・・・・・?」
昨晩まではいつも通りだった。ユーリがいて、兄上がいて、ギュンターがいて、コンラートもいた。
こんな場所に来た覚えはない。
でも、ここにいる。と、いうことは、
(じゃあ、眠っている間に誰かに連れてこられた・・・・・・?)
「・・・・・・っ!!」
ぞっとした。
寒気を感じて、必死に手を動かそうとするがビクともしない。
華奢なリボンのように見えてその強靱さはもがけばもがくほど、肌に食い込んでいく。
「そんな・・・!」
ますます、ぞっとした。誰ともしれない相手に連れ去られて身動きがとれないなんて・・・・・・!
今度は慌てて立ち上がろうとしたそんなにベッドの柱との間のリボンの長さに余裕はなく、そのまま転倒する。
シーツの上の「麗しのヴォルフラム」の海につっこむといくつか花びらがちぎれて宙を舞った。
「・・・・・・・・そんな、どうすれば・・・・・・!?」
転倒したことよりも動けないことに、肌が粟立った。
どうしよう、どうしよう、こわい、誰か、誰か助けて・・・・・・。
「ヴォルフラム?」
「・・・・・・・・・!!コンラート!!」
聞き慣れたコンラートがぼくを呼ぶ声がして、ぼくはどれだけ安心しただろう。
コンラートにぼくを見つけてもらおうと、必死にコンラートを呼ぶ。
「ぼくだ!ぼくはここにいる!いつの間にか連れてこられて・・・・・・!」
「大丈夫か?・・・・・・ほら、そんなに興奮しないで」
何でもないようにコンラートにぼくは何も考えられなくなった。体中の力が抜ける。
コンラートが来てくれた。これで、もう大丈夫だ。
コンラートは開いた扉の陰からゆっくりとぼくの方へ歩いてきた。
ぼくは、その緩慢さにいつものように少しいらだっていつものように口をとがらせた。
「早く・・・・・・さ、さっさとしろ!ぼくは、気がついていたら縛られてて、誰かに連れてこられて」
「大丈夫・・・・・・心配しないで」
「起きたら知らない場所で、う、動きもとれないで・・・・・・早く、早くほどいて・・・・・・!!」
「それは大変だったね・・・・・・」
「コンラート・・・?」
ベッドの端に座ったコンラートにはぼくが拘束されていることへの驚きはみじんもなかった。
穏やかな、満ち足りた表情。
その態度に気圧されて、ぼくは思わず後ずさる。
それにコンラートは少しも表情を変えることなく逃れる間もなくぼくに手を伸ばした。
「コ、コンラート?」
「ヴォルフラム・・・・・・」
コンラートはぼくを抱きしめていた。
「何だ・・・?コンラート、どうし」
「ヴォルフ・・・・・・怖かった?」
「べ、別に、怖がってなど・・・・・・ただ、ぼくは気がついたら知らない場所にいて縛られていたから」
「そう・・・・・・でも安心して」
「すぐに、助けてあげるから」という言葉を聞くため、ぼくはコンラートの顔を見上げた。
でも、その言葉は発せられることはなく、別の言葉が滑り出した。
「あと、これで完成だから」
そういったコンラートの手には、ぼくの手足を縛っているものと同じ、真っ赤なリボンが握られていた。
「それは?・・・・・・何をする!やめろ!」
「じっとして、これで終わりだから・・・・・・・」
信じられないことを聞いた気がした。コンラートは、何を言っている?
何をしようとして・・・・・・思考が状況について行かず、コンラートがぼくの目元にリボンを押し当てることを許してしまう。
「・・・・・・!!?やめろっっ!!」
やめてくれなかった。
「やめ・・・・・・いやだ!!」
聞いてはくれなかった。
コンラートはそのままぼくを押さえつけると、ぼくの目を隠した。
頭の後ろでリボンが固く結ばれたのを感じた。
「コンラート、何、何をして?」
「ちょっとだけだよ?」
声しか聞こえないのに、コンラートが微笑みを深くしたのがわかった。
「ちょっとだけでいいから・・・・・・俺のものになって?」
目隠し越しに、周囲の白い花たちが青ざめたような気がした。
それが、始まりだった。
......... to be continued
はい、懲りずに連載です。
日記の方でも言っていました、監禁モノです。
一応警告だそうかと思いましたが、そんなにたいしたことがあるわけでもないのでなしです。
お題で連載ってありかなと思っていましたが、もう気にしない方針で消化していこうと思います。
勝手につけたバックの絵のタイトル「青ざめた花」でどうでしょう?
2007/08/31
