お題16 好き
ぎゅ。
「コンラート、離せ・・・・・・」
「ん、もう少し」
そっぽを向く。そうしないと顔が赤いのがばれるから。
抱き締められてたまらなく嬉しい事を知られるのはまだまだ恥ずかしい。
「ヴォルフラム、こっち向いて?」
「イ、イヤだ」
「どうして」
「う・・・それは」
嬉しくて恥ずかしくてたまらないからなんて言えるか。第一耳元で囁くな。
ますます顔が赤くなる。うなじに息がかかるほど近くにコンラートの顔がある。そのせいで余計に振り返れない。
コンラートが残念そうに息を吐いた。ちょっと罪悪感。
ぼくのせいじゃない。コンラートがいけないんだ。
やめろというのに待った試しもなくいつもいきなりこんな風に・・・・・・。
だまされないぞ。ちょっとしおらしい様子を見せてもどうせすぐに元に戻って調子に乗るに決まっている。
しかし、コンラートは意外にもあっさりとぼくを離した。
「ヴォルフラム・・・・・・もしかして本当は俺がイヤなのか?」
「は?」
しかも、いきなりわけのわからない事を言いだした。
「何を言ってるんだ、お前は」
「だっていつも俺が触ると嫌がって嬉しそうにしたことなんてないじゃないか」
「お前がいつもいきなりするからだろうが」
「ヴォルフラムから俺に触れようとしてくれた事もないし」
「そ、それは」
「お前は優しいから、俺に同情して仕方なく気持ちを受け入れてくれたんじゃないのか?
・・・・・・もしそうなら、無理に俺に付き合うことはないんだ」
ぼくは目を見開いた。コンラートがそんな風に思っていたなんて。そんなことに気付かなかった。
ぼくはいつでも肝心なところで間違う。
人間の血を引くこと。ジュリアのこと。シマロンのこと。
コンラートが辛い時にぼくはいつでも彼を守るどころか傷つけるばかりだ。
何で気がつかなかった。コンラートは何でもない様子で心にため込むことをよく知っていたのに。
「俺のことを気にすることはないんだ。無理をして俺に付き合うことはない。
・・・・・・・・・・・・・・短い間だったけど恋人になれて幸せだったよ」
「コンラート、待ってくれ、ぼくは・・・・・・!」
本当に、ずっと好きだった。
兄弟だからと泣いた。必死にコンラートを兄とは認めなかった。コンラートとユーリと仲良くする姿を見るたびにもうだめだと胸が苦しかった。
だから告白されたときは信じられないほど嬉しかった。言いたいことは沢山あるのに必死にうなずく事しかできないぼくをコンラートは抱き締めた。
抱きついて「ぼくも好きだ」と言いたかった。けれどコンラートの袖を掴む事しかできなかった。
泣きたいほど嬉しかった。もう一生離れるものかと思った。
それなのに、こんな風に・・・・・・・・・!
「違うんだ、コンラート!待て、待ってくれ」
いつもコンラートから愛情を示してくれるから自分から示すことを忘れていた。
もうするまいと思っていたのに無意識に甘えていた。
「違うんだ、本当に・・・・・・」
「ヴォルフラム・・・・・・?」
「好きなんだ、わかってくれ・・・・・・!」
ぼくはコンラートの首に飛び付いた。絶対に放すまいとしっかり掴まる。
「コンラート、好きだ・・・・・・!」
「・・・・・・本当に?」
「嘘なんかつくか!ぼくはお前が・・・・・・!」
「ヴォルフ・・・・・・」
コンラートはやさしくぼくを抱き寄せた。そして耳元で囁く。
「そうか。そんなに俺が好きか」
「・・・・・・へ?」
さっきとあまりに違うコンラートの調子に思わず間抜けな息が漏れた。
「嬉しいな。そうかヴォルフは俺がそんなに好きだったのか。よかったー、正直もし万が一「うん」って言われたらどうしようかと思っていたけれど、取り越し苦労だったみたいだな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「こんなに強く抱きついてくれてほんとうれし・・・・・・・痛っ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・コンラート!だましたな!!」
「だましたわけじゃ・・・・・・・・・・・・痛い痛い痛い!!」
「 だ ・ ま ・ れ ! ! ! だ ま し た だ ろ う が ! ! 」
「本気で殴るなよ・・・・・・・・・・悪かった調子に乗りすぎた。反省してる。こんなにうまくいく・・・・・・もとい信じてくれるとは思わなかったんだ。嘘じゃない」
「嘘付け!」
「別に全部だましたわけじゃないぞ、ヴォルフから俺に触ってくれたことがないのは事実だし」
「何が事実だ、だましたわけじゃないだーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
しばらく、後の話。
ぼくの隣を歩いていたコンラートが言った。
「でも、嬉しかったな」
「何がだ」
さっきの怒りが収まらずぎろりと怒りをこめて見上げる。コンラートは何処吹く風といった風情で続けた。
「ヴォルフが俺を必死で引き留めてくれただろう。嬉しかったなって」
「何が」
「だから、引き留めておきたいほど愛されているんだな、と」
思わず毒気を抜かれる。頭に浮かんだことをそのまま言ってやる。
「お前はバカだ」
「何だよ」
それ以上言ってやる気はなかった。どうせこいつは口先だけの言葉を信じない。
ぼくはコンラートの首に半ばぶら下がるような形で抱きついた。
不意打ちになったのかコンラートの頬がかすかに赤いことに満足するとぼくはもう一度言ってやった。
「・・・・・・お前は本当に、バカだ」
だから、好きなのだけど。
次男が三男にメロメロな話が多かったのでたまには三男を次男にメロメロにしてみたくなりました。
コンプは割と切ないイメージがあったのですがナナカマドが書いてみると気を抜くとライク・ア・ローリングストーンな感じでラブラブになっていきます。
このままではいつか、縁側で茶をすすりながら「じいさんや」「なんだねじいさんや」て言ったり白髪の数えっこをしちゃうよ、こいつら!!(先に行きすぎです)
2007年3月