お題45 調教


















どうして どうして

いままでは 兄弟では だめだったのか?

なにが いけなかった?



「ヴォルフラム・・・・・・」



昔は一秒でも長く触れていたいと願っていた固くて少し冷たい指先が背中をやさしく撫でる。

ぼくがそれから逃げようとしても全身を縛られてコンラートにリボンの一端をつかまれてベッドに横たえられる身体は束縛されたまま動かない。それだけの理由で、動けないのではなかったけど。

ひんやりとした手が肌に直に触れてくる。コンラートの手はいつも少し冷たくて、ぼくはその手が大好きだった。



「やめ、やっ・・・!コンラート!」

「好きだよ、愛してるから・・・・・・少しの間でいいから」

「馬鹿、馬鹿な・・・そんな、ぼくたちはきょうだ・・・・・・」



その先の言葉はもう一度の口付けで塞がれる。首を振って逃れようとしてもどこまでもコンラートの唇が離れない。背中に伸びた腕に強く抱きしめられた。

逃れようとして、口を開くとコンラートの舌が進入してきた。その事実に眩暈がした。息ができないせいだけはない。しかし、驚愕で動くことすら忘れると、そのまま口内を撫でられた。口を閉じようとしても、さっきコンラートに噛みついたときに口の中に広がった血の味を思い出すとそれも出来ない。

コンラートはやっと唇を放すと、今度はそれを目隠し越しにぼくの瞼に触れさせた。ぼくは再び首をそらせるとそれを避けようとすると、今度は追ってこなかった。

首筋に吐息がかすめる。コンラートの顔が、とても近い。



「・・・・・・ヴォルフは俺のものにはなりたくないんだね」

「当たり前だっ・・・・・・ぼくはお前の弟、だ。それにぼくの婚約者は、ユーリだ・・・・・・あ!」

「・・・・・・俺以外の名前を呼ばないで」



首筋に舌の感触 そのまま上に上ってきたそれは耳に触れ甘く噛まれる。

いやだいやだと首を振ると「麗しのヴォルフラム」が鼻先に触れて凛とした香りが意識を掠める。



「離せ・・・!」



たすけて だれか  コンラート どうして 

コンラート たすけて たすけて お前から 助けて

これは 本当に お前なのか?



「・・・・・・こんな時なら言ってくれるんだな」

「なん、の話・・・だ」

「いつもは兄だなんて言わないのに、こんな時なら言ってくれるんだなと思って」

「・・・・・・そ、れは」

「本当は、そうとすら呼びたくないんだろうな」

「コン、ラート・・・」



そうだった

兄弟という関係、それを壊したのはぼく



「俺のことが嫌いなんだろう?俺は半分人間だから?」

「違う!そうじゃない、そうじゃないんだ・・・・・・」

「そうだな、お前が俺を嫌ったのは俺がお前に何も教えなかったから。ヴォルフは何でも俺に話してくれた、でも俺はお前に教えなかった。教えるつもりはなかった。
教えるつもりは最初からなかったよ、そのことで嫌われることはわかっていたから・・・・・・いや、違うな。お前に何が何でも隠していたこと、そのことを知られたくなかったのかもな・・・・・・間違いなく、血筋のことでもなんでもなく、俺自身がやったことだから嫌われることが余計に怖かった」

「違う、コンラート、違う・・・・・・!」



傷ついた、驚いた、裏切られたと思った。一番側にいたのにと泣いた。母も長兄もそれとなく口止めされていたと知ったときから、信じられていなかったと知って余計に傷ついた。ぼくがその頃ずっと示していたコンラートへの想いが全くコンラートにとって信じるべきものではないと分かって、ずっと側にいた彼が急に遠くなった気がした。

でも、それは・・・・・・



「そうだね、お前は本当に俺を嫌ったことはなかった。知ってたよ、でも俺が好きでもなくなっただろう、俺の本性を知ったから」

「・・・・・・それ、は」



傷ついた心を埋めるようにそれからはコンラートを見れば、憎々しく罵った。最初はそうしなければコンラートにすがりそうだった。そうすればよかったのかもしれない、でもぼくのなかには見えない溝がコンラートとの間に生まれてそうはさせなかった。

できなかった。コンラートが本当は、ぼくに信頼を望んでいないと思って、もうない信頼があるようには振る舞うことは出来なかった。
好きだったからこそ傷ついた。好きだったからこそ、憎もうと思った。好きであることをやめようとしてきた。



「嫌ってはない・・・嫌っては」

「知ってるよ、ヴォルフはユーリがきてから変わった。俺を嫌おうとしなくなった。俺を嫌う必要、俺を強く意識する必要がなくなったから」

「そんな・・・・・・やめろ!」



反論する間もなく、背中にあったコンラートの手が夜着の中に進入して肌に触れた。ぼくは逃れようと暴れたが、コンラートは決してぼくを傷つけようとしない。やさしく、確実に、じわじわとぼくの動きを封じていく。

首筋を強く吸われると体がびくりと強張った。堪えきれずに叫んだ。



「離せ、やめろ、やめるんだ、コンラート!何故だ、なんで・・・!」

「お前を愛してるからだよ、ヴォルフラム。お前にとって俺が兄でも、何者でもなくなっても。
でも、また何かになりたいから・・・・・・もう一度憎まれたいと思うから」



だから・・・・?



(・・・・・・ぼくがコンラートを追い詰めた?)



コンラートを傷つけたかもしれない、それにぼくは怯えた。元々、束縛された体が動けなくなった。

考えている間にもコンラートの手がぼくを優しく撫でた。肌から直接伝わってくる体温はほのかに冷たい。昔と変わらない、いや昔より大きい。ぼくも昔よりは背が伸びたから、すぐには気付かなかったけど。

背中に触れるそれに、反応する間もなくコンラートの唇の感触が首から、胸元に、腹に、下へ下へと降りてくる。



「・・・・・・っ、やめろ!・・・・・ん、は、・・・・・・あ」



体中触れられていることが分かる。とうに脱がされていた夜着からみついた足が熱くてたまらない。ぼくが耐えきれずにベッドに足を押しつければ、今度は足をやんわりと撫でられた。



「やめ、ろ・・・やめ!は、あ・・・っん」



そんなつもりはない、ないと思っているのにあえぎに似た声が漏れてしまう。下腹を漂っていた舌が足の内側に這って痙攣のように体が跳ねた。声が漏れないように、耐えるので精一杯だった。

それなのに、コンラートは呼ぶことを止めようとしない。



「ヴォルフラム・・・ヴォルフ」

「あ、っ・・・うあ!は・・・・・・コン、ラー・・・・・・ト、だめだ、だめだ、やめろ、やめるんだ・・・・・・!」



コンラートとの間にあった溝は、ユーリが来て以来ぼくともコンラートともつかずどちらともなく縮まったように、消えたように感じていた。前のように、なにも疑わずにコンラートを信じる弟ではいられなくなったけど別の形でまた側にいられるのではないかと、その感情を否定はしていたが本当は期待していた。


でも違った、コンラートは余計に遠くにいってしまっただけだった。


消えたと思った溝は、見えないほどに深くなっていただけだった。それを彼はもっと深くしようとしている。



「これじゃ駄目だ、コンラー・・・・・・ひあっ!」



触れられて体の熱が一点に集中する。コンラートの吐息が足の付け根のあたりにかかるのを感じると叫ばずにはいられなかった。そのままその場所にコンラートの唇が触れると、もう声にならなかった。  



「コンラ、やめ・・・・・・あ、やめ、あ、ああっ・・・・・・!」



あとは、熱くて熱くて、無我夢中だった。体が跳ねて、熱を放ったときにはもう半ば意識もなかった。


そんな時でも憶えていたのは、コンラートは憎まれようというその口とは裏腹にやさしかったことだけ。





































甘くも凛とした香りが優しくを鼻をくすぐると、目隠しの奥の瞼に最後の記憶より暖かな明るさが指した。ああ、もう朝かと気付く。



(ここに来て、何日が過ぎたんだ・・・・・・?)



ベッドの中で見えもしない天井を見上げながら、ぼくはぼんやりとそんなことを考えていた。

手足の拘束も、目隠しは解かれることはなかった。そして、何故かは分からないがベッド中に散らされた『麗しのヴォルフラム』も決して絶やされることはなかった。何も変わらないこの部屋でその香りも変わらずに側についていて、わずかに心を和ませた。

目は見えなくても、それでもかすかに布の間から漏れる明かりに何度か陽が昇って夜が来ることが繰り返されることだけはおぼろげに分かった。何日かは分からないが、数日この部屋にいることだけは伝わってきた。この部屋で、もう何日過ごしているのか・・・・・・。


コンラートはこの部屋で、何度もぼくに触れ、そして深くは触れなかった。


コンラートはぼくを抱かなかった。見なくてもぼくの体には少しずつ赤い徴が増えて言ったのは知っているし、浅ましくもぼくが彼の手で達したことも記憶にはっきりと刻まれていた。そして、それと同じくらいコンラートがそれ以上ぼくを求めなかったことも、憶えていた。


どうしてかは、知らない。兄弟故の躊躇か、別の感情なのか。
どうしてかは、知りたくない。知る必要はないと思っていた。知りたいことはそれじゃない。


とても静かだ。静かな部屋は何者かの息づかいをも感じさせなかった。こんなに静かだと朝日が差すとでも聞こえそうだと手を伸ばすと空っぽの寝台でシーツだけがやわらかくその存在を返した。だれも、いない。



(コンラートは・・・・・?いないのか・・・・?)



急に何かが足りないような気分が胸を占めると、紛らわせるように『麗しのヴォルフラム』に両手を伸ばす。

と、ほのかに冷たい、でも確かに暖かな手がその手を掴んだ。



「ヴォルフ・・・?起きたのか?」



コンラートの声。その声に胸が騒ぐのを押しとどめて、見えない目で強く見返す。このまま彼が堕ちないように。堕ちて欲しくない、でも堕ちるなら、ぼくごと堕ちろと伝える方法が分からないから、閉ざされた目で睨み返す。



「・・・・・・コンラート、ここから出せ」



コンラートは少し躊躇った気配を見せるとぼくの手に花を握らせるとそのまま抱きしめた。



























続く



 













また、お題に沿ってませんでした・・・・・・。

思いかけず、初微エロ入りました・・:クリスマスにUPするのがこれというのはある意味私らしいと思います・・・・・・すいません。

ヴォルフは強い子だと思います。






2007/12/25