お題 46  機嫌直して




















「おはよ〜!朝飯朝飯〜・・・・・・って・・・・・・」



いつものように扉を開けて朝食を食べにきたおれは絶句した。

いつものようにコンラッドに起こされて、ランニングをして、着替えて、さあ朝食だとをやってきた部屋は異様な空気に包まれいる。

なんというか、緊迫しているとでもいうのか、開けちゃいけない扉を開いたというか。

その異様な空気は主に二人の人物から発せられていた。



「・・・・・・な、何があったわけ?コンラッド、ヴォルフ・・・・・・?」

「別に。何でもない」

「別に何も起きていませんよ」



返事のそっけなさにおれはますます絶句した。ヴォルフラムはともかくあのコンラッドがこの態度。

助けを求めるように一人黙々と目玉焼きの黄味をつぶしているグウェンダルに目をやるもののさっと逸らされた。どうやら彼も原因がわからずに途方に暮れているらしい。

どうしていいかわからずにとりあえずいつものおれの席に座る・・・が、そこはコンラッドとヴォルフラムの間に挟まれた場所でこの部屋でもっとも空気の張り詰めているであろう場所だった。

気まずい・・・・・・。

というか、二人とも目が据わってて、怖い、怖すぎる。



「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



完全に無言で食事をする二人に余計におれは混乱した。

それでも、食べるテンポが全く同じなのは何とやらだけど。

最近兄弟にもかかわらず恋人同士になって色々大変だったコンラッドとヴォルフラム、そして最初はその事実に泡吹いて卒倒していたグウェンダルと大体いつも朝食をおれはとっている。

最近まで婚約者だったヴォルフラムはおれと朝食どころか寝台まで一緒だったわけだし、コンラッドはおれの護衛だからといつも一緒だったし、グウェンダルは二日に一回はもにたあか徹夜でいないけど新米魔王に一言二言苦言をするためにこれまた一緒だ。
ギュンターと一緒だったこともあったけど一度汁を出しすぎて朝食どころじゃなくなって以来いない。

最初は二人がそんな関係になるなんてどうなるか、どう接すればいいのか悩んだものだが意外と二人とも変わらなかった。ヴォルフラムは相変わらずキャンキャンコンラッドに噛み付いてるし、コンラッドも相変わらずヴォルフラムをからかったりしている。

表面的には以前と変わらない二人におれは結構ホッとしていた。

朝食にしても毒味役のコンラッドは変わらずおれの隣でヴォルフラムも変わらずおれの隣にいて「なんだその食べ方は、品のない」とキツイ注意をくれたりしてた。

だから安心してたんだけど・・・・・・。


ガタン!!


ビクゥッ!と隣を振り向くと食事を早々と終わらせたヴォルフラムが乱暴に席を立った音だった。

おれが何かを言う間もなく明らかに怒っている足取りでそのまま扉へ向かうと部屋から出て行ってしまう。慌てて弟思いのグウェンダルがそれを追う。

硬直したままのおれに気づいたらしくコンラッドはいつものさわやかな笑みを少し戻した。



「・・・・・・陛下、大丈夫ですか?」

「え・・・いや、なんというか、どうしたの?」

「・・・・・・すみません、気を遣わせてしまったようですね」

「・・・・・・ま、まあ」



気を遣ったというよりは神経すり減らしたっていうか。

おれの内心のツッコミに気付くことはないコンラッドは少し寂しげだった。おれは慌てて尋ねる。



「い、いやさ、コンラッド、ランニングの時はいつもと同じだったじゃん。あの後ヴォルフを起こしに行って何かあった?」

「・・・・・・・・・その、たいしたことは」

「いや、たいしたことっぽかったって・・・・・・そんなに気を遣わないで言えよ」

「本当に、たいしたことでは・・・・・・」



コンラッドの「たいしたことではない」の一点張りにおれは少しためらった。

コンラッドがヴォルフと、兄弟以上の関係になったときはどうすればいいかわからなかった。だから、そういう面を全く見せない二人に安心したけど、もしかして二人ともとまどう周囲に意識的に見せまいとしていたのかもしれない。

だとしたら、それはあまり嬉しくない。心配するときに心配できないのはいやだ。

だから、おれはコンラッドを真っ直ぐ見た。



「コンラッド、そんなに気にするなよ。おれも最初はコンラッドがヴォルフと「つきあうー」って言ったときはものすごく驚いたけど・・・・・・あんたたちがさ、幸せならそれでいいんだ。
だから、気にせず何でも言ってくれればいいよ」

「・・・・・・しかし」

「おれが聞きたいんだってば・・・・・・今までこんなケンカなんてしたことなかったじゃん」

「ケンカ・・・・・・そうなるんでしょうか?」

「どう見ても、そうだと思うよ」




あんなにピリピリした空気になっておいてケンカだと今思い至ったらしいコンラッドに呆れる。

気づいて少しショックだったのか少しづつケンカの原因となったことを話し始めた。



「・・・・・・陛下とランニングを終わらせた後、いつものようにヴォルフラムを起こしに部屋に行ったんです」

「ふんふん」



寝起きの悪いヴォルフラムがコンラッドに起こされるのはいつものことだ。以前と違って、おれの部屋じゃなくてヴォルフの部屋でって言うのが違うけど。

コンラッドは、少し照れたように続けた。



「それで、いつもみたいに頬にキスして「今日もかわいいよ」っていって起こしたんです」

「・・・・・・へ、へえ」



・・・・・・いつもやってるのか、それ。



「そして、ヴォルフもいつもと同じように「・・・かわいいと言われても嬉しくない」ってちょっとすねたかわいい顔して起きるのを手伝ってネグリジェを着替えさせたんですが」

「・・・・・・ふ、ふーん、着替えさせたんだ・・・・・・」



しかも、その口振りだと、それもいつもみたいな気が・・・・・・。

コンラッドは少し遠い場所を見ながら、顔を曇らせた。



「・・・・・・着替えさせて軍服を着せたら、今日は特にヴォルフがかわいいと思ったので膝の上にのせて抱きしめて「俺はヴォルフが大好きだよ」って耳元で囁いたんです」

「み、耳元で・・・・・・」

「そしたら真っ赤になって「うるさい・・・知ってる///」って」

「それは、なんていうか・・・・・・」




どう答えればいいかいいかわからないおれを気にせず、コンラッドはさらに顔を曇らせて話を続けた。そろそろ核心部分らしい。




「そしたら、ヴォルフが・・・・・・」

「ヴォルフが?」

「ヴォルフが俺の方を真っ直ぐ見返して・・・・・・」

「見返して・・・?」



おれは少し、緊張した。いったい何が、起きたんだ・・・・・・?



「・・・・・・そうしたら、信じられないことに・・・・・・「しかし、ぼくの方がお前より、ずっと・・・・・好きだからな!!」って言ったんですよ!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」



ナニソレ。シンジラレナイコトッテ?


言われたことが理解できないおれにコンラッドは早口で納得できないらしい事実を並べ始めた。




「俺が「そんなわけ絶対にないだろう」っていうと、ヴォルフが今度は怒って真っ赤になって「なんだそれは!どういう意味だ!!」と」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「ヴォルフが怒っているみたいだったから「一万歩譲って俺と同じくらい好きかもしれないけど」っていうと、「何で一万歩も譲られなくてはならないんだ!!」とさらに怒ってしまって」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



心底不可解そうに言うコンラッドをおれこそ不可解な気持ちで見る。




「それから、ヴォルフが「ふざけるな!ぼくの方がずっと・・・」っていって・・・・・・」

「・・・・・・いや、いやいやいや!ちょっと待ってよコンラッド!何、何でそんな話になるわけ?」

「だから、俺がヴォルフを好きだって・・・」

「いや、そこじゃなくて!コンラッドがヴォルフよりずーっと好きで、それは絶対そうだってコンラッドは思ってるわけ!?」

「だって、どう見てもそうじゃないですか。
明らかに俺の気持ちの方があいつよりずっと大きいんですよ、ずっとずっと俺の方が好きでしょうがなかったんですから。それは、気持ちを受け入れてはもらいましたけど・・・・・・」



珍しくちょっとむくれながらの「当たり前じゃないですか」と言うのと同じ口調だった。一片の疑いもない声だった。

おれは何かが崩れるような音を聞いたような気がした。同じ穴の狢と言うことわざが脳内をよぎっていくのを感じる。意味は・・・・・・どっちもどっち。

限りなく脱力を感じて、何とか小さく返答だけはしておく。



「・・・・・・・・・・・・・・・・ああ、そう・・・・・・」



・・・・・・二度とこいつらの心配はしない。



なおも不可解そうなコンラッドの横で、かわいい弟がむくれている前で困り果てているグウェンに早くこのことを伝えようと朝食に手を伸ばすと、おれは硬く心にそう誓った。












 












 


いちゃいいちゃ強化期間作品その2。前とだいぶ間が開いたけど。

こんなバカップルは心配するだけ無駄というお話。









2007/09/08