あみぐるみ (後編)
























アニシナがグウェンダルをもにたあからクビにして既に半年ほどが過ぎようとしていた。

むろんその間もアニシナが研究を止めるようなことはない。が、グウェンダルの他にいいもにたあもおらず自己実験は嫌いなアニシナなので魔動装置の実験は半ば休止していた。

もっとも研究を止めて大人しくしているのではなく、もにたあがいればすぐにでも実験を始められるように整備した新たに開発した魔動装置は今やと研究室でもにたあを待っているし、魔力をほとんど使わず庶民の女性にも役立てられそうな簡単な発明品は結構な人気だ。

それに加えて毒の発行管理だけではなく、古の文献を読みあさって失われた毒を復活させたり、新たな毒を合成したりと毒に関する新たな分野を切り開くことに思わずいつも以上の熱が入ってしまった。グウェンダルが帰ってきたら早速連日連夜と実験につきあわせねばならない。

それなりに忙しかったのだが、幼馴染みと同じく「24時間365日働けます」なアニシナはそれと並行して毒に関するあらゆる事件を網羅する「毒殺便覧」の持ち運びに便利な小型版を編集し、更に近年起きた毒に関するあらゆる事件に関する見解を書き下ろしていた。



「ふむふむ・・・・・・なるほど「舌腫れの毒」が紅茶に入っていた件はおしゃべりな夫に対して妻が行った正当な行為である」



カーベルニコフ城の廊下を闊歩するときもメモ帳に書き込み余念がない。静かな廊下にカツカツという規則正しい靴の音とアニシナのやや物騒なつぶやきだけが響いていた。

いつもならカーベルニコフ城にはグウェンダル殿下の断末魔のような声が毎日のように響いていたのだが、ここ半年はそれもなく異常に静かだった。
ヴォルテール城でも同じくらいの頻度で騒がしかったのだが、ここ半年ほどグウェンダルは血盟城で魔王である母とずっと一緒だったので実験室の騒ぎどころか眉間にしわを刻むとき特有の「うーんうーん」といううめきすら聞けなくなっていた。



「なになに・・・・・・なるほど「髪痛みの毒」が櫛から発見された件は妻の日頃の正当な苦情を聞き入れることすら出来ずに勝手に疲れ果てた夫の愚かな行いである・・・・・・」



やや差別的な発言をしながらも筆は一寸の迷いもない。さらに何件かの執筆を進めて・・・・・・



「ふむ・・・こんな所でしょうか」



しばらく、メモ帳のアニシナ以外にはおそらく解読不能な悪筆な文を推敲するとアニシナはメモ帳を閉じた。加筆修正も終盤に入り、しばらく遠ざかっていた魔力が少なくとも使えるような発明品もかなり開発したし、古来の毒もや新しい毒も入手した。これからはまた・・・・



「そろそろグウェンダルをもにたあに復帰させ時ですね、ここ半年でかなり弟と親交を深めていたらしいですし」



グウェンダルはここ半年ほど血盟城で母と一緒にコンラートと過ごしているらしい。
半年前以来アニシナはグウェンダルにあってはいないが一度だけあったツェリからの話によると「相変わらず無愛想だけど、何かあると心配で私より早くコンラートのところへ飛んでいくのよ〜」ということだった。


そんなことだろうと思った。全く男はこれだから愚かだというのだ。


そもそも、グウェンダルがコンラートに会うのを避けていたのはコンラートためなのだ。グウェンダル本人は気づいていなかったようだが。

「人間だ」だの「魔族じゃない」などぐちゃぐちゃ言い訳をこねてはいたが、そんな理由は彼の可愛いものに眼がない性質のグウェンダルに可愛らしいものの代表格である実際に接する赤ん坊を拒絶できるわけがない。だから、弟に会いたくなかったはずがないがそれでも拒絶していた理由がアニシナには手に取るように分かった。

新しく自分の母親と別の父親との間に生まれた弟が人間の血を引くことはグウェンダルをとまどうこともあるし、「人間」の血を引くものとしての拒絶もあったのだろうが、結局はその戸惑いを生まれたばかりのコンラートにぶつけてしまうのではないかという恐怖がグウェンダルをコンラートから離していたのだ。



「そこまで、気にするなら、実際に接して大切にすることなどいくらでもできるでしょうに。
そんなことにも気が付かないとは全くこれだから男というものは愚かなのですから」



アニシナは口調は辛辣だが、口元には穏やかな笑みを浮かべていた。

あの図体で愛らしい動物に目がなく、子猫やら子犬やらの小動物のぬいぐるみをひっそり(実際はバレバレだったが)自室に集めているグウェンダルが幼い赤ん坊を傷つけないようにビクビクしながらも宝もののように大切にしている図、まあ母親や使用人があやしているそばでじっと愛想のかけらもなく、しかし細心の注意を払って見守っているような光景がすぐに目に浮かぶ。

全くあの男ときたら、いつまでたっても進歩しないのだから。子猫を拾ってきてこわごわと手のひらにのせて「どれくらいの強さで抱けば痛くないのか」と半泣きになっていた頃と変わっていない。
本当はずぶ濡れで寒さに震えていた子猫を一刻も早く暖めたかったくせに、グウェンダルは「もしかして傷つけてしまうのではないか」というおそれで何もできずに立ちつくしていた。子猫に風邪を引かせそうだったくせに、全く学習していない・・・・・・



「・・・・・・・・・・・・・?」



そこまで考えてアニシナは研究室の前でぴたりと足を止めた。ドアが開いている。
おかしい。使用人には入らないように厳命しているし、かといって挽肉機の一件以来兄のデンシャムが自分から入るということもないかったのだが。



「誰ですか、ここは私の研究室ですよ。勝手に入ることは・・・・・・」



研究室に入ったアニシナは絶句した。

アニシナがそこで目にしたものは・・・・・・・・何か茶色い毛糸の固まりを持ってうずくまって半泣きになっている、結局初めて拾った猫を強く抱きすぎて引っかかれた時と全く変わらないグウェンダルの姿だった。






















つまりはこういうことらしかった。

アニシナの予想はほぼ完全に当たっていた。グウェンダルは実際に目の当たりにした愛らしい赤子を嫌えるはずもなく、しかし近づきすぎることもなく遠くから見守っていたらしい。誰かがコンラートの側についていないか気を配ったり、それとなくコンラートを抱いた母親や使用人が通る道に転ぶような小石でも落ちていないか先回りして探してみていたり、と。

しかし、アニシナの予想に反してグウェンダルは珍しく根性を見せていた。一週間前ほどから「これではいけない」と思い少しずつコンラートに近づこうと決意し、あることを実行していたらしい。
まあ、ようするにはじめの日は窓際から見守る、次の日はもう一歩近づく、三日目、四日目と続け、五日目にはにはベットの傍らに、六日目にはゆりかごの目の前に・・・・・・・・といった風に気の長い計画を実施したのだ。

そして、ついに六日目。
コンラートを目の前にしたグウェンダルは、これもアニシナの予想通り無垢な赤子の可愛らしさに目を見張った。
そして、同時にあることに気がついた。

まだ赤子のコンラートはあまり泣かない、ぐずらない子供だった。大人しいわけではないがあまり手のかからないタイプの赤子で空腹になればなくしおしめが濡れれば泣くが、さしてうるさい声でもなく世話をしてもらえばすぐにぐっすり眠って滅多に起き出して泣くようなことはなかった。
そのことはこの半年というものの勉強や練兵の合間に欠かさずにコンラートを見守っていたグウェンダルも知っていた。そして、こっそり「あんなに小さいのにコンラートはもうあんなに賢いんだな・・・・・・」と早くも兄馬鹿気分に浸っていたらしい。

しかし、初めてとても間近で見た弟はあるものをぎゅうと抱きしめてはなさない。
それはとても大切なものらしく、コンラートが所々口で吸ったり握ったりしたせいであちこちほつれていたが茶色い髪と目を持つ旅の剣士を模ったあみぐるみだった。ちゃんと木で作った剣を手に握っている。

グウェンダルは最初それが何かわからなかった。が、何となくだがそのあみぐるみがコンラートに似ている気がして気づいた・・・・・・これはもしかしてダンヒーリー・ウェラーを模ったものなのかと。

ダンヒーリー・ウェラーは旅の剣士で、眞魔国では忌み嫌われている「人間」だった。魔王であるツェツィーリエと婚姻を結び、その間に息子が生まれた今でもそのことは、特に純血魔族からは厭われていることだった。
だから、ダンヒーリーは今はコンラートの側にはいない。ツエリから譲渡されたルッテンベルクで領主ではあるが、それは僻地のことで首都である血盟城には「人間」が赴くことは不可能に近いことだ。

グウェンダルは胸が痛んだらしい。こんなに幼いのに父親から離されて寂しいのだ。いくらぐずらないコンラートでも、この父親のあみぐるみがないと寂しいのだ・・・・・・。


そう思っているグウェンダルの目の前でコンラートは目を覚ました。泣かせてしまう!と慌てて後ずさろうとする。
が、コンラートは・・・・・・グウェンダルを見て満面の笑顔を浮かべた。


それを見たグウェンダルは思った・・・・・・「人間」の血を引いているだの言って私はこの子を遠ざけていたのだ。こんなに小さいのに、父親を恋しがっているのに、それでも笑ってくれるのかと。


今まで、遠ざけていてすまなかった。心からそう思った。

こんな兄でも、兄と思ってくれるだろうか。

そう思い、グウェンダルはコンラートに笑い返した・・・・・・











「・・・・・・で、それがどうやって血盟城からカーベルニコフ城まで一目散に馬を走らせて私の実験室でめそめそ泣いていることになるんです?」

「な、泣いてなど、いなかった・・・・・・」

「うずくまって世をはかなんだように黙っていたのでは同じようなものです。
それで、それからどうしたのですか?さっさと言いなさい」

「・・・・・・それは」



グウェンダルは元々暗くなっていた顔をますます曇らせて、悪夢を思い出すかのように唇を動かした。自ら実験室の隅を陣取ってしゃがんでいるのでますます暗い。



「・・・・・・・・・・・・・・・コンラートが、私を見て笑って」

「それはもう聞きました」

「・・・・・・そ、それで私の方にそのあみぐるみを持ち上げた。たぶん遊んでほしいと言いたかったのだろう」

「なるほど。で?」

「そしたら・・・・・・あみぐるみの剣を持っている方の腕がとれてしまった。もともとそんなに丈夫なものではないから長く使っている間にもろくなっていたのだろう」

「ふむ、少々軟弱な編みですね・・・・・・きっとどこかの軟弱な男が作りでもしたのでしょう。女性の手で作られたものはそう簡単に壊れません。全くこれだから男は!」

「だ、誰が作ったかは知らんが・・・・・・それで慌ててほつれた部分に手を伸ばしたら・・・・・・う」

「・・・・・・編み物をしたこともないあなたが触りでもしたらあっという間にあみぐるみ自体がほどけたでしょうね。
完膚無きまでに」

「・・・・・・うっ・・・・・・」



どうやら、思い出したくない過去を思い出してしまったらしい。グウェンダルは再び目に涙をにじませた。



「慌てて直そうとすればするほど、どんどんほどけていって・・・・・・気がついたら茶色い毛糸のかたまりしか残らなかった。それがこれだ・・・・・・」



グウェンダルは両手に持っていた汚い毛糸の束を大事そうにアニシナに見せた。これが例の「ダンヒーリーのあみぐるみ」のなれの果てなのだろう。



「あの滅多に泣かないコンラートが・・・・・壊れたと知るや火がついたように泣き出して・・・・・・。
それでとっさにこの毛糸玉もって逃げてしまったんだ・・・・・・」



苦しくグウェンダルは呻いた。


やはり、今更自分に兄の資格などないのではないのだろう。
血筋で勝手に遠ざけて、母上に追いかけられてアニシナに怒鳴られて、それでも半年間ろくに近づかなかった自分にそれでも笑いかけてくれた弟が一番大切にしていたものを壊してしまった。


あみぐるみが壊れたときのコンラートの笑顔がみるみる泣き顔に変わり大声で泣く声が耳の奥で蘇り、グウェンダルは胸の奥が重くなっていくのを感じた。

だから、だからせめて・・・・・・



「なるほど、その毛糸のかたまりを持って血盟城から逃げ出したと・・・・・・」



アニシナはしばし黙り込むとしばらく怒鳴るでもなくグウェンダルを一瞥した。
そして、ふうと軽いため息をつき、言う。



「それで」



アニシナは座っていた椅子から立ち上がり、かつかつとグウェンダルに近づくと静かに見下ろした。



「どうしたいのですか?」



グウェンダルは驚いた。きっと「だからあなたはダメなのです!!」「これだから男というものは!!」と死ぬほど怒鳴られたり圧倒的な迫力で圧倒されると思っていたのだ。その覚悟もしていた、その上であることを頼もうと。

しかし、アニシナは責めるでも起こるでもなく呆れたようにグウェンダルの前に立っていた。まるで、いつもの彼女らしくなく静謐な印象すらあった。
グウェンダルは一瞬彼女に見とれるとはっと正気になり、さっきと別意味で慌てると自分の目的を告げた。



「アニシナ、頼む、いくらでももにたあにつきあうしもしお前が望むなら新しい毒の実験体にもなろう。
だから・・・・・・何とかこのあみぐるみをを元に戻してくれ」



心からの頼みだった。「一生の願い」という言葉はグウェンダルは嫌いだったが今はそれを使いたい気持ちだった。


が、



「無理ですね」

「な・・・・・・!!??」

「聞こえなかったのですか?無理です、元には戻りません」

「そ、そんな・・・・・・」



どんな人身御供も覚悟していたグウェンダルはあっさりと却下され目の前が暗くなるのを感じた。



「そんな!確かお前は自分の辞書の不可能という項目を塗りつぶしていて・・・・・・た、確かに難しいかもしれんが、そんなあっさりと・・・・・・そうだ!編み物をする魔動装置があったではないか!あれを使って・・・・・・」

「無理なものでは無理です。確かにアニシナの辞書には不可能という言葉はありませんし、私の魔動装置「あみあみくん一号・改良型」を使えば似たようなものはできるでしょうが、それはしません。必要ないのですから」

「・・・・・・・・・ア、アニシナ!?」

「全くあなたという男はどこまで愚かなんですか、そもそも時間は戻りませんし起きてしまったことは変えられません。あなたが同じものをコンラートに渡したとしても、コンラートの目の前であなたがそのあみぐるみを壊してしまったことには変わりありません」

「し、しかし・・・・・・」



ここでついにアニシナが怒鳴った。



「だから!コンラートが大事にしているものを壊してしまったのならさっさ謝りでも何でもすればいいでしょうがが!目の前で壊しておいて似たようなもので間に合わせようとするその魂胆が間違っているのです!」

「な、何を・・・・・・私は今更・・・・・・」

「言い訳しない!!」

「ううっ・・・・・・は、はい・・・・・・」

「素直でよろしい。それではこれを受け取りなさい」

「え・・・うわ!?」



いきなり高速で投げつけられたそれをグウェンダルは顔面をかばうようにキャッチした。手のひらの中にぽふとした感触。



「これは・・・・・・?」

「見てわからないのですか?これは毛糸です」

「それはわかるが・・・これで何を?」

「わからないのですか!これだからあなたは愚か者だというのです!
いいですか、目には目を歯には歯を、そしてあみぐるみにはあみぐるみです」

「そ、それはどういう?」

「いいからさっさとそこに座って、始めなさい」

「だ、だから・・・・・・うわあっ!?」




再び高速で投げつけられたものをグウェンダルは必死でよけた。今度は硬いものだったらしく、壁に突き刺さっている。間に合ってよかった・・・・と心から眞王に感謝の祈りを捧げる。

よく見ると、それは木でできた二本の編み棒だった。



「何をぐずぐずしているのですか!!さっさとしなさい!!」

「だ、だから何を」

「あみぐるみにはあみぐるみといったでしょうが、謝罪の証としてコンラートにあみぐるみを編むのでしょう?
特別に私が基礎を教えてやりましょう」



すでに決定事項の口調だった。・・・・・・・・・グウェンダルは状況について行けずに混乱した。(アニシナの前だといつもそうだが)



「待て、どうしてそうなる!?お前はさっき似たものをあてがうのではダメだと言っただろう?」

「そうですよ、そして人の大切なものを壊してしまったら謝って許してもらえと言いました。だから、私に頼らずに自分の力で口先ではなく謝罪すればいいでしょう」

「・・・・・・・・・・・・い、いやでも、コンラートはまだ言葉も通じない赤ん坊で」

「あなたのその頭には何が詰まっているのですか?まさか赤子には言葉が通じないから謝罪する必要はないとでも言うつもりですか?」

「そんなことはない!!・・・・・・い、いやでもどうやって謝れば」

「あなたが誠意を見せればいいだけの話です。どうせあなたのことだから私にあみぐるみを元通りにしてもらってコンラートに渡してそれでさよならとでも考えていたのでしょう?」

「それは・・・・・・今更謝ったとしても、私はコンラートを泣かせてしまった!だから、せめて・・・・・・」

「その行動はあなたができるだけ後ろめたくないだけであって、別にコンラートのためではありません。元に戻してやったからと言って壊してしまったことには変わりまりません。
それより、自分であみぐるみの一つでも編んでコンラートに渡して謝りでもしたらどうですか。どうせ壊れたあみぐるみは戻りません。だったら新しい大切なものを作ってやればいいでしょう」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「赤ん坊には言葉は通じませんが、その分感情は伝わります。
あなたが心から悪かったと思ってあみぐるみを編んでその気持ちを伝えて渡せば、それはコンラートの新しい大切なものになります。それがあなたがあみぐるみを壊してしまったことのへの謝罪です」

「・・・・・・本当に、そう思うか?」

「私が嘘をつく必要でも?」

「・・・・・・いや・・・・・・・・・そうだな」



グウェンダルは顔を上げた。藍色の瞳にはさっきまでなくしていた穏やかな光が宿っていた。

立ち上がり編み棒を壁から引き抜くと、アニシナの座っているソファーの隣に座る。



「・・・・・・本当に、コンラートに伝わると思うか?」

「くどいですね。私はさっき言いました、二度は言いません」

「いや・・・・・・もういい」

「それではさっさと・・・・・・何をしているのですか?私はあなたにさっき毛糸を渡しましたよ?」

「お前の言うことにも一理あるが、いくら壊れたと言ってもコンラートはとても大切にしていたものだった。
そう簡単に諦める気にはなれんから・・・・・・この毛糸で私が新しく編み直す、ダンヒーリーのあみぐるみを」

「ふむ・・・・・・まあ、いいでしょう」

「ああ・・・・・・その、アニシナ」

「何ですか、私はあなたに教えるのと同時並行で新しい毒の発行実験を行うのですからさっさと言いなさい」

「またそんな恐ろしいものを・・・・・・!いや、でも、そのお前にはいつも恐ろしい目に合わせられているが、その、今日は、世話になっ・・・・・・」

「ああ、ありました!!「干からびの毒」と「毒々しい色に染め上げる毒」!この二つの能力を兼ね備えた毒を合成しつつ、ついでにあなたに編み物の基礎を伝授してあげましょう・・・・・・?何か言いましたか?」

「い、いや、何でもない・・・・・・・・・」



真っ赤な色の液体とどす黒い紫の瓶を持っているアニシナに再び何かを言う気にはなれずにグウェンダルは目の前の編み棒を、使い方もよくわからずにとりあえず両手で二本そろえて握る。



「と、ところでこれはどうやって使・・・・・・いた!?何をする!?」

「何ですかその持ち方は!?そんなむちゃくちゃな持ち方がありますか!?これはこうでこうでこうです!!」

「こ、こうか?」

「そう!それから、毛糸をこうしてこうしてこうする!!」

「こうしてこうして・・・・・・ん!?腕が絡まってきたぞ!!う、動けん!?」

「何をしているのですか!?信じがたい不器用と才能のなさですね!!」

「そんなことを言ったって・・・・・・うわ!余計に絡まっていく・・・!」

「なんという・・・・・・!これだから男は・・・・・・!」



こうして・・・・・・グウェンダルの信じがたい不器用さにアニシナの編み物講座は結局その日の夜が明けても終わらずにアニシナの怒りは頂点に達しそのまま連日の実験が始まった。翌日にはカーベルニコフ城に半年ぶりのグウェンダルの絶叫が響き渡った・・・・・・。























・・・・・・・・そして百数年後。



「・・・・・・コンラート」

「ああ、グウェンダル。珍しい、なあなたが執務室で仕事をしていないで窓の外を眺めているなんて」

「い、いや、たまにはな・・・・・・陛下の護衛はいいのか?」

「ああ、いまはギュンターが「たまには私が〜!」って張り付いてるよ。ちょっと心配だけど、大丈夫だろう」

「そうか・・・・・・コンラート」

「ん、なんだい?」

「・・・・・・これを、受け取ってくれ」

「これは・・・・・・茶色いあみぐるみ?」

「これは・・・・・お前のためにずっと編んでいたものだ」

「・・・・・・わざわざ、グウェンが?俺のために?」

「そうだ、お前は覚えていないだろうが・・・これは昔、お前が大切にしていたのに私が壊してしまって・・・・・・」

「・・・・・そうだったのか、ありがとう。大切にするよ・・・・・・でも」

「でも?」



「これって、何の動物?」



ガーーーーン!!













「・・・・・・・・・・・・だから、不器用にもほどがあるといったのです」



執務室の机に突っ伏して倒れている100年たっても人型に編んだつもりでも何かの動物にしか見えないものしか編めない編み物弟子にコンラートが「グウェンー!?」と駆け寄るのが見えてアニシナはため息をついた。





















終わり






アトガキ



アニグウェと言うより三兄弟っぽくなっちゃいました。次男愛されているー!

どうも私が書くと長男が毒女に怒られてしまうようです。






2007/08/31