「The Doncing」  コンプ編












「何でぼくがお前と踊らないといけないんだ!」

「ヴォルフが踊りの練習をした言っていたから・・・・・かな?」

「ぼくはユーリの舞踏の練習をしてやろうと思っていたんだ!何でお前なんかと!」

「それは陛下が執務中だから・・・・・かな?」

「だいたいユーリは婚約者であるぼくがコンラートと踊っているのになぜ止めないんだ!!?」

「うーん・・・・・何でかな?」

「かなかなかなってコンラート!お前まじめにぼくの話を聞いているのか!?」

「うん、まじめに聞いてないなぁ」

「何だとっ・・・・・ってコンラートお前何をしてるんだ!?」

「何ってヴォルフを抱きしめてるんだけど・・・・・・うーん、おかしいな」

「当然のことのように言うな!・・・・ってなにを触ってるんだーーーーーーーーー!!」

「何って心臓を触ってるんだけど・・・・・・・おかしいな、あんまりドキドキしていない。顔は真っ赤になってるのに(ぎゅ)」

「こ、こら!力を強めるな・・・・・ああ、もう!ユーリは婚約者の危機に何をしているんだ!!?何でさっさと助けに来ない!?」

「ああ、それは俺のせいかな」

「何だと!?お前ユーリに何を言ったんだ!」

「何って『ヴォルフ最近かまってくれないので二人きりでダンスをしたいです』って」

「なにーーーーーーーーーーーーーーー!!」

「そしたら陛下が『どーせおれが何言ってもそうするんだろ』と快く引き受けてくれて」

「全然快くないっ・・・・・って離せ!ぼくをどうするつもりだ!!?」

「いや、もっと二人きりになりたいなーと思って」

「はーなーせっ!うわっ!い、いきなり抱きかかえるな!」

「ゆっくりならいいんだ?」

「違うっ!・・・・・・こら、どこへ連れて行く気だ!」

「んーもっと二人きりになれるように俺の部屋に」

「やーめーろー・・・!それにまた何を触って・・・・・!」

「あ、さっきよりドキドキしてる」

「ひとの話を聞けーーーーーーーーーーー!」








かなかなかなって、蝉みたい・・・・・・。










「The Doncing」 幼少プコン編









眞王陛下、俺の世界で一番可愛い弟は最近ダンスを覚えました。




「ちっちゃいあにうえー、きいてきいて!ぼくね、ダンスをおぼえたんだよ!」

「え、そうなの・・・・・・・・・・・誰に?」

「うん、ははうえにおそわったの!
『はやくおとなになりたいなー』っていったらははうえが『大人はみんなダンスをするのよ』っておしえてくれたの!」

「・・・・・・・・・そうなんだ」



なんかショックだった。

ヴォルフラムにダンスを教えるのはきっと俺だと思っていたのに。いや、本当はヴォルフラムにダンスはまだ早いと思っていた。

いや、さらに正確には違う。ヴォルフにはダンスはまだ早いままでいて欲しかった。
だって彼は大人になったら、いやもしかしたらそれよりも早く、俺から離れていってしまうのに。

だから、今までヴォルフにダンスを教えなかったのかもしれない。まだ、大人になって俺から離れていって欲しくなかったから。

・・・・・・・どうせ、いつか離れていってしまうのに。



「ちっちゃあにうえ、きいてるー?」



「・・・・・・・・・・・・・・ああ、聞いてるよ。ごめんね」

『大人への一歩』を報告したのに上の空の顔をしている大好きな次兄にヴォルフラムはむくれるより先にしゅんとしおれた花のように落ち込んでしまった。いつも元気な顔が下を向いて手のひらを握りしめている。

はっと気づいてせっかく教えてくれたのに悪いことをしたと思った。あわてて笑顔を作るとヴォルフラムを喜ばせるような科白を考える。




「そうだな、ヴォルフがダンスを覚えたんなら早く踊りの相手を見つけないとな」

「踊りの相手?」

「そうだよ、ヴォルフがダンスをする初めての相手」




きょとん押した様子に、もしかしたらもう潮時なのかもしれないと感じた。

いつかはヴォルフラムが自分の出自を知る日も来るだろう。そのときに訪れるであろう別離は出来るだけ痛みのない方がいい。

そう。仲のいい兄弟が魔族と相容れない『人間』であるよりほんの小さい頃の記憶にしかない兄が『人間』である方が別離の痛みは少ない。


早く大人になって俺以外の者達にも目を向けて俺のことなど忘れてしまった方がいいに決まってる。


ダンスのことはいいきっかけかもしれない。これを機会にもっと他の者に目を向けて、そして・・・・・・


しかし、当のヴォルフはきょとんとしていた。



「ちっちゃいあにうえ、なにいってるの?」

「え、いやだからヴォルフの踊りの相手を探さないとって」

「・・・・・・・・・・・・・・何で?」

「だから・・・・・・」

「ぼくはちっちゃいあにうえとおどるんでしょ?」

「え」

「・・・ほかにだれがいるの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

やっぱり、まだまだ手放せないかもしれない。










 

コンプじゃないんです、プコンです。














「The Doncing」 アニグウェ編








ガッ!!ドズゥゥッ!!



えらく痛そうな音を立ててグウェンダルは実験室の床に叩き付けられた。




「グウェンダル!!何ですか、ちゃんと受け身をとりなさい!!」

「・・・・・・・・・・と、とれるか!!」



アニシナに投げ飛ばされた衝撃で息が詰まりながらもグウェンダルは何とか反論した。



「何という情けない!!大の大人ともあろう者がたいした努力もせずに諦めるとは!!
全くこれだから男という者は駄目なのです!!」

「ウィンコット仕込みの投げ技に受け身とれる者などそうはいるか!だいたい、これは踊りの練習ではなかったのか!!?何故踊りの最中に投げ技をかけられねばならんのだ!!?」



絶叫しながらグウェンダルは胸中でちょっぴり母を恨んだ。

『ロメロとアルジェント』事件以来グウェンダルの母であり現魔王のツェリは自分の息子と長年の大切な友人の縁談を取り結ぶことに積極的になった。

何とか恋仲であるという誤解は解けたが諦めきれないツェリは


「それでも二人はお似合いよ、せめて二人の関係をみんなにお知らせするつもりで開催する予定だった舞踏会には出て頂戴ね。お願いよ。・・・・・・・・・意外とこういうことがきっかけになるものだしね(ぼそ)」


ということで、グウェンダルとアニシナに二人で踊ることを『お願い』したのだった。


しかし、普段から全くと言っていいほど踊る機会などない二人である。

二人の大きすぎる身長差も悪影響を与え、結局舞踏会直前まで練習することなった。


その練習時間時間もあとわずかしかない。
二人とも焦っているのだがアニシナの焦り方はやはり常人とは異なる方向へ向かっていた。



「これだから男は保守的で困ります!!踊りというものをただの『二人でくっつきあってぐるぐる回るだけ』などという固定観念に捕らわれてその様々な可能性に目を向けないとは!!」

「か、可能性?」

「そうです!!
踊りは踊る二人の戦闘能力を衝突させ互いの力を高めることも出来るのです!!技の応酬、見開きの必殺技、わき上がる観客、そして最後には生まれる友情!!」

「ゆ、友情?」

「それに加えて、今なら『必殺!!毒女体操!〜ネズミ退治から熊殺しまで〜』の最初の被験者として子供にも大人気間違いなしだというのに!!」

「子供にこんなことをやらせる気か!!?というかそれは踊りではなくて格闘訓練ではないか!母上は踊れと言ったのだぞ!?それでは”あの”母上は納得しないのではないか!?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そ、そんなことはありません!!」

さすがにツェリには弱いのか赤い悪魔は一瞬怯んだ。しかし一瞬で気を取り直し高らかに言った。

「そんなときのために『毒女体操〜ドキドキ!初めて舞踏会〜男女編〜』があります!初めて踊る少年少女の身体の技能を鍛え発揮することも考慮していますが、そこから更に恋愛発生粒子”ふえるもん”を増加する技術が導入されています」

「そ、そんなことができるのか・・・」

「毒女アニシナに不可能の2文字はありません!!・・・さあ、グウェンダル何時までも床に転がっていないでさっさと立ち上がりなさい、もう練習する時間がありませんよ」

「う、分かった・・・・がっ!!?」




グウェンダルは、引きつった声を上げて床に再び倒れた。床の上でくの字型になっている幼馴染みをアニシナはせかした。




「どうしました、エビのようにのぞけっていないでさっさとしなさい」

「さっきお前に投げられたときに腰が・・・う、動けん!!」

「何ですって!!あの程度の打撃で動けなくなるとは、これだから男は・・・・・・くっ、もう時間がありません。仕方有りませんこの際私が『毒女体操〜ドキドキ!初めての舞踏会〜男女編〜』の男性パートをやりましょう」

「なに!お前がか!?
お前が男の役を・・・・・・いや待て、それはどんな踊りなのだ。危険は?危険はないのか?」

「危険など有るはずもないでしょう。だた男性役が女性役を両手を持ち上げぐるぐる回るだけです。途中、投げ技、空中回転捻りも入ります。女性役は立ち上がる必要はなく、この状況に最適です」

「・・・・・・・ちょっとまて!私にそれをやれと!!?空中回転を!!?・・・いや、そもそもお前に持ち上げられて投げ飛ばされるのならばさっきと同じでは・・・・・・」

「男性役は全身が鍛え上げられ、女性役はバランス感覚が鍛えられる無駄のない構成です!!全く問題有りません・・・・・・おや、もう時間が来てしまったようですね。仕方がありませんぶっつけ本番でいきましょう」

「何!ちょっと待て、私はやるとは一言も・・・・・・うをわっ!」




いうやいなやアニシナは言ったとおりグウェンダルを両腕で頭上に持ち上げた。空中に持ち上げられた不安定感はグウェンダルを余計にパニックに陥らせた。泣き出す寸前の声で叫ぶ。



「やめろ、やめてくれアニシナ!普通に、普通に踊ればいいから!いやいっそさっきの方がマシ・・・・・・」

「何を言っているのですか。あなたが動けないからこうしているのです!!さっさと行きますよ!」

「やめ・・・・・・・・・・お、降ろしてくれーーーーーーー!」









その夜の舞踏会には客のざわめきや音楽より大きく、グウェンダルの悲鳴が響いたという・・・・・・。












 



長男はどうしてもこうなってしまう・・・。