同じものを見ていても解釈は受け取るそれぞれによってことなってしまうこと。


それを主観の相違という。






・・・・・・これは時に恐ろしく歪んでしまうことがある。













『地味で控えめ』














ユーリ陛下の朝の日課は前魔王の次男ウェラー卿コンラートに眠りから起こされることだった。

ユーリ自身は「もう子供じゃないって」と目覚ましにしてしまっている名付け親のモーニングコールを断るが人の良さそうな笑みを浮かべた前魔王陛下の次男は「俺に出来ることはそれくらいですから」とやんわりと継続の意思を伝えた。その言葉にいつもユーリは「なにいってんだよ〜」と笑っていて、コンラートもユーリの笑顔に笑う。
そんな2人に魔王の婚約者がいつもの悋気を見せて、「この浮気者!」「お前もいつもそうだ!わざとやっているのだろう、この確信犯!」と婚約者と兄とは認めていない(らしい)次兄に喚いて、その後は3人でじゃれあう。いつものことだ。

今日も今日とて仲良くベッドの上で婚約者とからまっている眠っているユーリに(なぜかパンチを食らう形で慣れた様子で熟睡している。昨日はキックだった)コンラッドは近づくとその耳元に囁く。


「・・・おはようございます、陛下」

「・・・コンラッド?」

「もう朝ですよ」

「・・・・・・うおあっ!?何でそんなに顔近づけてんの?」

「朝から陛下に大声を出すのはよくないと思って、聞こえるようにと」

「陛下って呼ぶな。だからって毎朝毎朝にさあ・・・」


何気なく問題発言を口にするとユーリは寝惚け眼で起き上がった。コンラッドはユーリの顔から自分の顔を離さずにそらさずに笑って「さあ、トレーニングを始めましょう。これに着替えて」と緑色のジャージ(メイドイン眞魔国)を渡した。受け取るユーリに笑みを深くするとコンラッドはユーリのパジャマの襟元に手を伸ばす。


「さあじっとしてください、今着せますから」

「は!?いやいやいや!いいから、着替えさせなくても自分で着れますから!!」

「でも、起きたばかりで頭がぼうっとするでしょう?今日は特にへい・・・ユーリは眠そうだから。
ゆっくり目を覚ましてください、その間に俺が着せますから」

「いや、いいって・・・って脱がせようするなって!」


「何をしているーーー!!?」


今日もハニーブロンドの寝癖の激しいヴォルフラムが起き上がった。起きてみれば目と目を間近で見つめ合って婚約者の服を脱がせようとしている次兄と脱がされかけている婚約者を目にしたせいでいつもの寝起きの悪さも吹っ飛んでいる。のんきなコンラッドは「お早う、今日は早いなヴォルフ」と弟の早起きを褒めた。


「おおおおおおお前たち、あ、朝から、朝から何をしているんだーー!!」

「いや、だからコンラッドがおれを脱がせようと・・・」

「なんだってぇぇぇぇっ!!」

「いやいや、ちがうって、これは着替えさせようとして・・・コンラッドも説明しろよ!!」

「あ、はい、ユーリ」

「説明などしなくていい!ぼくはこの目で見た、ぼくという婚約者がありながらお前ときたら・・・!」

「こら、ヴォルフ」


驚愕と怒りとよく分からない焦燥で大声を上げる弟を落ち着かせようとコンラッドは腕を掴むと身体を引き寄せる。怒りと照れが限界になった弟が首まで真っ赤にすることに頓着せずコンラッドは弟の桃色の唇に人差し指を当ててその言葉を封じた。



「陛下を困らせるんじゃない。俺は陛下がまだ眠いだろうと思って着替えを手伝おうとしていただけだ」

「んむむ・・・なにが、つまらない言い訳を!」

「本当だ、それにほら着替え役は俺に適役だろう?」

「はあ?・・・とにかく、子供じゃあるまいしそんなことするわけがないだろう!」

「ほら、昔お前にもしてやっただろう」

「なっ・・・何をするーーー!」



ネグリジェをめくろうとするコンラッドを本気ではたく。それを見てユーリは昔自分の兄がコンラッドと同じことをしようとしてその次の瞬間ユーリ自身がヴォルフラムを全く同じことをしたことを思い出した。どこの世でも兄とはそういうものなのだろうかとユーリは少し考え込んでしまった。

「怒るようなことじゃないだろ」とわざとなのかそうではないのか不思議そうに着替えを続行しようとするコンラッドに「触るな!お前なんかだいっきらいだーーー!」と本気で逃げるヴォルフラムに「どこもブラコンは一緒か・・・」とユーリは苦笑した。どっちがブラザーコンプレックスはあえて追求しない(多分両方だし)。




いつも、通りの3人一緒の平和な光景。

しかし、この微笑ましい光景を全く別に 解釈している者がいることにそのうちの2人は気付いていなかった。







この朝を出来事をある視点から再現すると、こうなっている。

朝、大事なユーリ陛下を起こすことを楽しみに魔王の部屋に足を踏み入れるとベッドの上で仲良くからまっている2人に微笑む。しかし、弟は相変わらず母と同じく華やかだ。見た目はもちろんそれ以上に中身も地味で控えめな自分とはあまり似ていない。

いくら寝ているとはいえこんなに目立つ弟が側にいると俺が起こしても気が付かないかもしれない、と聞こえるようにとユーリの耳元に触れるか触れないかというギリギリの距離まで近づくと息を吹きかけるようにそっと囁いた。

ユーリは起きたけれど自分の起こし方が気に入らなかったらしい。大きな声を出さないように、しかし地味で存在感が希薄な自分がユーリを起こせるように何とか知恵を絞ったつもりだったのだが、失敗だったようだ。

挽回しようと着替えを買って出る。控えめで存在感が薄い自分には気にされることなく着替えをさせることが出来ると、我ながら良いアイデアだと思ったので、遠慮するユーリにやや強引に着替えをさせようとすると、今度は弟が起きてまた浮気だ尻軽だと喚き散らした。やれやれ、困ったものだ。こんなに地味で兄弟と並ぶと隠れてしまうような存在感の次兄にまで嫉妬するとは弟の嫉妬心も大変だ。

朝から興奮気味な弟をなだめようとヴォルフラムも着替えさせようとする。されれば、いくら直情的な弟でも次兄の地味で希薄な存在感を思い出して自分が着替え役に適していることを思い出してくれるだろう。しかい、またこんな風にヴォルフラムを着替えさせるとなんだかちょっと懐かしいな。子供の頃みたいだ。


弟の早起き以外はいつもと同じ、地味で控えめな自分らしい目立たない朝だった。










歪んだコンラッドの主観に気が付くものは少ない。









「・・・・・・(じぃ)」

「何だコンラート?私の顔に何か付いているのか?」

「いや、そうじゃないけど・・・俺たちは似ていないなと思って」

「・・・・・・何故そんなことを」

「いや、グウェンダルはどこから見ても純血魔族だな、と。やっぱり(地味な)俺とは違うな」

「・・・・・・コンラート」

「性格も似ていないな、グウェンは何というか迫力があって目立つよな。やっぱり混血の(控えめで目立たない)俺とは性格からして違うのかな?」

「・・・そんなことはない」

「え、何か言った?」

「・・・コンラート、私は昔からうまくは言えなかったが、私にとってお前は私の大切なおとう」

「あ、陛下が呼んでる。ちょっと行ってくるよ」

「ちょ、ちょっとま・・・・・・!」









地味で控えめな自分には呼ばれたらすぐに参上するくらいの行動力がないと忘れられてしまうだろう。陛下は優しい方だがそれにしても周りのものがギュンターやヴォルフラムに始まる派手で大胆なメンバーなので、目立たない自分のことがかすんでしまっても不思議はない。
それにしても今日はグウェンに分かり切ったことを聞いてしまった。俺がグウェンに比べたら存在感が皆無なことくらい周知の事実だというのに・・・もしかして気にしていると思われたのだろうか?彼らに比べたら、もともとどちらかというと地味で控えめなことは生まれつきなので気にしていないのだが。









「うう〜、野球少年にデスクワークは向かないよぅ・・・」

「いちいち、変な声を上げるな。いやならさっさと終わらせろ、あと一部屋分ほど書類が残ってはいるがな」

「まじ!?・・・やべ、余計気が遠くなってきた」

「ああ!陛下!この世の至宝と比較しても遜色ないお顔にグウェンダルのような眉間の皺が!!」

「ギュンター、どういう意味だ・・・」

「だいたい、お前が国を離れているからこんなに執務がたまるんだ。これだからお前はへなちょこだというんだ」

「おれは好きで離れてるんじゃないのに〜」

「ほらほら、ヴォルフ。心配しているのは分かるが陛下にそんな風に言うんじゃない。
陛下、ちょっと耳をかしてください・・・そう、もっと俺の方に」

「陛下って呼ぶなって・・・え?え?なに?」

「こら!お前たち、そんなにくっつくなー!」

「ちょっとお待ちなさい、コンラート!私の陛下に不必要に密着するんじゃありません!!」

「・・・・・・・・・俺が・・・今夜」

「・・・・・・え?」

「「今夜ぁっ!!?」」

「それに・・・・・・・・だから・・・・・・・・ですよ」

「・・・・・・え?でも、いいの?コンラッド・・・?」

「いいんですよ、あなたのためなら。楽しみに待っていてください」

「・・・・・・うん!それじゃ頑張るぞ〜!今夜が楽しみだ!」

「俺も今から楽しみですよ、今夜のユーリの笑顔が目に浮かぶようです」

「!?なんてことをお前たちは話しているんだー!!」

「べつにたいしたことじゃないよ」

「ココココココ、コンラート!私の陛下に何をするつもりなのですか!!?」

「だから、たいしたことじゃないよ」

「「なにが大したことじゃないだーーー!!」」

「お前たち!いい加減静かにしろ!!」







今日の夕食がエーフェに特別に頼んだユーリの好物だと伝えただけなのに、あんなに追求しなくてもいいと思ったのだが。コンラッドは「やはり、ユーリの嫌いなものを抜いてもらったのがまずかったのか?偏食はやはりマズイだろうか・・・?」と悩んだ。
地味で控えめな自分にはこっそりユーリの楽しみを増やすことが適任だと思っていたのだが・・・。







「ここに来るのも久しぶりだな」

「そうでしょ〜、隊長ったら坊ちゃんにストーカー・・・(殺気を感じた)じゃなくてつっききりだからあ、行きつけの酒場にも寄りつかないんだからぁ」

「はは、そうだな・・・(剣を柄に戻す)。それにしてもさっきは大変だったな」

「あらあ、また坊ちゃんがらみですか?」

「まあ、な。夕方頃にやっとユーリの書類仕事が終わって「さあ、お疲れでしょう。早く俺としましょう。俺もずっとあなたとしたかったんです」と言ったらヴォルフラムが」

「・・・するってなにをです」

「?キャッチボールに決まっているだろう・・・とにかくヴォルフがすっ飛んできて」

「ああ、隊長のセクハラくさい動作に怒りを・・・もとい、つい婚約者を独り占めしようとしてしまったと」

「そうなんだ、また何故かヴォルフが俺に「し、しし、しましょうってなんだ!?どういう意味だ!!」って顔を真っ赤にしていうんだ、悲しかったよ。こんな地味な控えめ俺にまで嫉妬するなんてヴォルフは心が安まる暇がないんじゃないだろうか?」

「・・・・・・さあ、どうでしょうねえ(目を逸らす)」

「ヴォルフが本当に動揺しているみたいだったから「なんなら、お前も一緒にするか?3人で」っていったら「なななななな、なにを言ってるんだ・・・そ、そんなことできるわけがないだろう!!」って今度は逃げようとしたんで捕まえて「一度はやってみろよ、本当に楽しいから」って言ったらもっと暴れて半泣きになられた」

「・・・・・・それは本当にお気の毒で(ヴォルフラム閣下が)」

「3人って言っても、俺なんて基本的に存在感が薄くていてもいなくても同じくらいなんだからユーリと2人でキャッチボールをしている気分になれるかと思ったのに」

「・・・・・・・」

「俺に適任の名案だと思ったんだけどな・・・まさか泣かれるほど嫌がられるなんて(しゅん)」

「隊長ひとつ良いですか?何というか、その、前々からちょっと思ってもいたんですが、何か卑屈すぎません?」

「ん?そうか・・・まあ、混血の皆と暮らしている頃は「なんかみんなに話しかけられないな、ちょっと俺って地味かな?」くらいで、そこまで思うこともなかったけど」

「・・・それはみんな隊長に恐れを成してたんだと思います」

「そうなのか」

「ええ、昔は」

「?・・・とにかく今はグウェンやギュンターやヴォルフラムと一緒に暮らしているからな。あの3人に比べると俺は見た目どころか、性格の個性の強さも遠く及ばないからな。汁も拭かないし、眉間の皺もないし、わがままプーじゃないし。俺の性格って基本平凡だよな」

「マジで言ってるよ・・・」

「?何か言ったか?・・・とにかくどうしてもこれといった個性のない俺が気になるなんて、ヴォルフも困ったものだな」



個性の権化のような男はのうのうとそう言った。





















ウェラー卿の勘違い生活はほとんど気付かれることなく続いている。

きっとそれでも、幸せな毎日なのだ・・・ろう。多分。























fin








 




今日からマ王!?クマハチスペシャル版の人物紹介より、次男の歪んだ自己認識。

次男に地味で地味で控えめで控えめでと言わせたら、セクハラ王になってしまいました。三男が対象なのが多いのは本能だと思います。

次男が地味なのはカラーリングぐらいだと思います。後はマの中でも相当濃いキャラだと思います。









2008/07/12