可愛いとはいえ、天然過ぎるのも考えものです。
かわいいあのこは天然ちゃん
太陽のように派手な男はいつも傍らに立つ、全身漆黒のこれはまた別の意味で派手な男に無愛想に声をかけた。
「おい」
「はい、何でしょうか、陛下?」
「・・・・・・・」
「・・・陛下?」
その陛下とか言ういい方は面白くない。もっとも、それも今日までだ。
創主を封じ、その力を近隣諸国に知らしめた眞王と呼ばれる男は自信満々にそう思った。
今日こその朴念仁を手に入れるのだ。
弟だかなんだか知らないが、自分が欲しいのだ。手に入れることに何の支障があるはずもない。
だいたい男同士なんだから、血縁かどうかはどうでも良いことだ。男同士でラッキーだった。
後に選ぶ27番目の王が聞いたら裸足で逃げ出しそうなことを顔色ひとつ代えずに思いつくと、眞王は大賢者を見つめた。
「・・・・・・?」
その目と髪に闇の色を映し持つ大賢者と呼ばれ、一部の国民に眞王以上の信を得る男は闇を持つものとは思えない邪気のない表情で黙りこくって自分の顔を見つめる眞王を不思議に思い小首をかしげた。
・・・・・・かわいい。
無垢な視線に対して、いつも可愛げのかけらもない眞王の似合わない「頬をちょっと染めて目線を外す」という行為にも大賢者は意に介さず「?」の表情を浮かべた。
「どうかしましたか?」
「・・・・・・ああ、いやどうかしたわけでは」
「そうですか、では私は別件が・・・」
「まてまてまて!会話の流れを読め!」
空気の読めない大賢者はいきなりマジギレした主君についてけずに、強く握られた手首の軽い痛みに顔をしかめた。ぜえぜえとさして運動をしたわけでもない眞王は息切れして、さっきまで一応かっこつけていた態度もあっさりだめになっていた。
「用事を済ませたいんですけど」と言いたげな大賢者にやけくそのように眞王は言った。
「好きだ!」
限りなく似合わない真摯な告白でも、眞王は真剣だった。南海の色の瞳を漆黒の瞳から一度も外さない。
「・・・・・・・え」
「何だ、その反応は・・・」
「・・・本気ですか?」
「嘘なんぞつくか」
「・・・・・・そうですか、それでは少しお待ちください」
「・・・は?」
せっかく告白してやったというのに、やたらと平坦な反応に眞王は大賢者が退くのを止める間を失ってしまった。なんだあの態度は、そこは泣いて喜ぶ場面じゃないのか!と、どこまでも自信過剰な眞王が大賢者の態度に対するへそ曲がりな不安がり方をしているとあっさりと大賢者が帰ってきた。
大賢者は眞王の手にやたらと大きな木の棒にいろいろくっつけたような道具をぽんと乗せた。
「陛下お待たせしました、どうぞ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだこれは」
「何って鋤(すき)ですが?」
「・・・・・・・・・・・・・・・は?」
「荒廃した国土をこれから農業で立ち直らせようと国民に伝えるために、国王自ら行ってくださいと言っていたでしょう・・・陛下がまさかやってくれるとは思いませんでしたが、ちゃんと農具の名前を覚えていてくれたんですね」
・・・・・・この日から眞魔国では、荒廃した国土を復活させる運動が盛んになった。
国王自らが農具である鋤を持ち、城内で農業に励む姿は戦乱の時代が終わった象徴として国民の心に強く影響した。このことから兵士は農民に戻り、国土の回復は格段に早くなった。眞王は国土を復活させた王として国民からますます敬愛された。
一説には、常に眞王の側に侍る双黒の大賢者が眞王に助言していたという説があるが、その事実は歴史書には記されていない。
おわり
「眞マ国より愛をこめて」を呼んで考えたしんけんばなし。
ラストがあれですが、眞王もやけくそだったと言うことで見逃してください。
でも、この二人の関係ってそんな感じだと思ってます。お互い好きなんだけど、その方向性が180度違うんで、話が全く進まないという・・・。
2008/07/29
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