・・・・・・すいません俺が悪かったです・・・・・・












お題22  困るよ















じー。



「・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


じー・・・・・・。


「・・・・・・」

「・・・・・・俺に何かついているか、ヴォルフラム?」



かわいい弟からごく最近かわいい恋人になってくれたヴォルフラムと二人きりお茶会をしていたコンラートは、耐えかねてそう尋ねずにはいられなかった。

なにしろさっきから宝石のような湖底の瞳でじぃっと紅茶を飲んだり茶菓子を口に運ぶ動作を見つめられているのだ。しかも無言で穏やかな愛情に満ちた表情で。



「・・・いや?
何もついていないが?」



ヴォルフラムは不思議そうに目を瞬かせたが、エメラルドグリーンの瞳のきらきらした光は変わらない。



「どうしてそんな風に思うんだ?コンラートは不思議なことをいうな」

「いや、なんでそんなに見てるんだろうな、と」

「そんなことは決まっているだろう・・・わからないか?」



そう言ってヴォルフラムはいとおしげに目を細め、やさしくコンラートに笑いかけた。どこか含みのある熱が瞳に宿っていた。



「見とれていたんだ」






ああ、眞王陛下、お許しください。

アニシナの言葉を真に受けた俺が悪かったんです。


だからどうか、俺の大好きなこっそり隙を見てべたべたすると手とか剣とか炎とかが出てくるヴォルフラムを返してください。



















数日前、俺はヴォルフラムとケンカをした。


・・・・・・といってもそれはヴォルフラムからの見方で俺はケンカをしたつもりはない。


照れ屋な恋人をついからかって、怒らせることは彼が弟だった時から(今でも兄弟にも違いないが)日常茶飯事の、いつもの俺達なりのコミュニケーションだ。

意地っ張りだけど分かりやすいヴォルフラムの意地を「かわいいかわいい」と愛でつつちょっぴりからかう・・・そしてヴォルフラムが怒ったり照れたりする。ある意味、遠回しだが、82年間で築いてきた、これが俺たちなりに一番いい方法だ。


それに、ちょっぴりたりとはいえ不満・・・というか無い物ねだりをしたのがいけなかった。過去の自分を闇討ちして葬りたい気分だ。


怒っているのか照れているのかよくわからない、かっかした弟の背中をみてかわいいと思いつつも「俺と同じくらい愛情表現してくれたらなあ」と思ってしまった。


俺は結構ヴォルフラムの一挙一動を見つめていたし、隙あらば「好きだよ」「愛してるよ」と耳元で囁いてきたし、手を繋いだり後ろから抱きついたりしてもいた。


ヴォルフラムからはそういうことはなかったし、俺が触れると真っ赤になって飛んで離れた。


ヴォルフラムなりに俺に好意を向けてくれているのは分かっていたしそれがたどたどしかったり遠回しだったり急にストレートになったりと、無論それは可愛かったし嬉しかったのだが・・・・・・


たまにはベタベタされたい。

そんな考えが俺の頭に浮かんでいた。


そんなことをぼんやり考えていた俺の前にアニシナが現れて、新作の魔導装置を見せた。

自分の姿を客観的に見せるために自分の行動パターンをコピーして一時的に他人が自分と同じ行動をするというもの。しかも、コピーする相手がどんなときに誰に相手にするような態度でという、彼女らしからぬ(といったら殺されそうだが)細やかな設定付きのものだった。

小動物を愛するグウェンダルに取り付けようとしている姿を見て客観的に彼の小動物愛好ぶりを見せるつもりだったらしく、アニシナはいつもよりやや嬉しそうに「これでグウェンダルも喜ぶでしょう、おはははははは!」と笑っていた。しかし、珍しくグウェンダルは隠れることに成功し、アニシナは彼を捜す合間に見つけた俺にその行方を聞きつつ、装置の説明をしてくれた。


そして、俺は・・・愚かにも・・・その話を聞いて、「貸してくれないか?」と赤い悪魔と契約してしまった。















見とれていた。そんなセリフはまずいつもの意地っ張りで、強気で、わがままプーなヴォルフラムから、特に俺に対しては口が裂けても何が避けても、逆さに降っても出てきそうに無いセリフだ。あ、でもヴォルフラム、ユーリになら昔言ってたような・・・・・・ユーリの美貌は双黒と相まって浮世離れした美しさだから自然なことなのだが、なんとなくグサリとくる。



「・・・いやか、見られることが?」

「・・・そ、そういうわけじゃないんだが」



違う違うんだ。そんな、すまなさそうな、どこか何か期待しているような眼で、眼で・・・見られることがこんなにぐったり来ると思わなかった。俺のヴォルフラムへの恋人として行動パターンをヴォルフラムにコピーすることでこんな風に俺がぐったりするなんて、想定外だ。

小さい頃のように俺を見る度に満面の笑顔で抱きついてきたような反応を期待していた俺がバカだったのか・・・そうだろうな。どう考えてもちっちゃいヴォルフラムと俺を同じに考えた俺は明らかに大馬鹿野郎だ。



「いや、そうじゃなくて・・・えーと」



あああ、なんていえばいいんだろう。いやじゃない、そういう問題じゃない。確かにお前が大好きだし、大好きなヴォルフラムから湖底の瞳でじぃっと愛情深く見られるのがいやなはずない。


いやではない、が・・・どうすればいいか分からない。


なんてことだろう、どうやら俺はヴォルフラムの意地っ張りな愛情表現相手でないと彼にどう接したらいいか分からないらしい。自分本人の仕草と接することがこんなに対応に困るものとは思っていなかった。


その結果俺はただひたすら出された紅茶を飲んで、茶菓子を食べながら左側からの視線に熱さを感じつつもうつむいてそれをやり過ごしている。何だろうこの気持ち?・・・・・・嬉しい、といえばそうなような、いやでもどっちかっていうと・・・・・・そんな風に見つめられると、素直になれない、っていやこれじゃ嬉し恥ずかし、ていうかこれではまるで俺が・・・・・・





(ヴォルフラム?)





「ええっ!?」

「どうしたんだ!?」




到達した結論に椅子からひっくり返る俺。その俺にヴォルフラムは驚いて席を立つ。
がしかし、必要以上に取り乱さず側に駆け寄って背中をさすってくれる。ありがとうといいたかったが視線で礼を示すと、心配そうな表情で「大丈夫か?」と満面の笑みで微笑んで袖でひっくり返ってかかった紅茶のをぬぐってくれる。されるがままになっていると、今度は「おまえは昔っからそそかっしいな」と急に頬に顔をよせ、唇を触れさせる。「好きだぞ」と囁くように加えて。

硬直している俺にヴォルフラムは優しいような、どこか確信犯的な笑みを浮かべてぎゅうと抱きついてくる。



「お前は昔からそそっかしいんだな、そんなんじゃ心配でずーっと見ているしかないぞ、コンラート」

「・・・・・・・・・」



どう反応しろと言うのか。つまりずっと見つめ続けていることを了承して欲しい、するよな、もちろんするけど、とどこかからセリフの聞こえないはずの後半が聞こえてくる。いやいや、幻聴だろう、これは単なる嬉し恥ずかしな初々しい恋人同士の会話・・・・・・うれしはずかし、自分で考えると結構恥ずかしい言葉だ。

いや、嬉し恥ずかし、してもおかしくないはず。そう、恋人から見つめられた付き合いもまだ浅いその恋人・つまり俺がそうなってもかしくないわけで・・・・・・おかしくない、俺にも純情ってものが・・・・・・いや、純情ってなんだっけ?・・・・・・そもそも俺は純情なのか?

・・・・・・いやいや、まあそれはおいといて、これがいつもの俺なのか!?ちょっと演出過剰じゃないか!?こんな確信犯的なセリフと態度で相手を翻弄するような、そんなやつなのか、俺は!?こんな態度取られたら、そりゃあ、ヴォルフラムみたいに赤くなって目を逸らしたり、むくれて無口なっても仕方ないような・・・・・・ええと、あれ、つまり俺の全て自業自得?・・・・・・俺って、俺って一体。




「一体、何なんだろう・・・・?」

「・・・・・・?」

「俺って、俺って・・・・・・(ぶつぶつ)」

「・・・・・・コンラート、よそ見か?」




ぶつぶつつぶやく俺にヴォルフラムは少し首をかしげた。が、その顔が少し不敵に笑ってうつむいた顔に近づき、唇を奪われ、俺がいつものヴォルフラムと同じように真っ赤になって硬直するのはそれから数秒後のこと。
























眞王陛下、いやヴォルフラム、お許しください。俺が間違っていました。

だから早く返してください。わがままプーで意地っ張りで、俺には誰より素直になれない可愛くてたまらないヴォルフラムを。














終わり








 






久々のお題更新でしたー!


ふつうにいちゃいちゃ書いたの本当に久しぶりだな・・・お題は色々更新止まってますね。監禁ネタとか・・・ちゃんと書かないと・・・無自覚バカップルものも。え、それよりカミングアウト?ああああああ、ごめんなさいいいいいい、唯一ちゃんと2人がくっつく過程を書いて長編なのにいいいい・・・!


まあ、次男と三男のコミュニケーション方法はツンデレと次男のやや腹黒気味なべたべたがベストというお話。ベストなので片方が変わると、自然と片方が変わるという関係。ラヴですね、分かります。


次男が三男風ツンデレになるのも書いてみたい・・・。




2009/08/04