※マニメ設定でお送りしております サラ育成日記 春麗らかな小シマロン城。その一角を二人の人影が歩いていた。対照的な外見の二人で、一人はわざわざ不吉な色といわれる黒で全身を固めている剣士もう一人は全身真っ白な見目麗しい美少年だった。それにしても二人とも似合っているからいいものの色のバランスが極端だ。もしかしたら何かを隠すためとか、内面を考慮してその反対の色を選んでいるのかもしれない。 小シマロン王たるその少年、サラレギーは回廊の途中で立ち止まると傍らに常に控える側近ベリエスも止まった。いつものように影のごとく付き添う彼は主の視線の先を追った。庭園には花々が色鮮やかに咲き誇っていて、花の周囲を蝶が舞っている。 いつもは陰謀と謀略にしか興味のない主にも季節を楽しむ心があることにベリエスは素直に喜んだ。そんなベリエスの心中など気にしていないサラレギーはぽつりとこぼした。 「・・・ベリエス、お前と初めてあったのはここだったね」 「はい」 「あのときのことは覚えているか?」 「・・・・・・はい、それはよく」 ふうんとあっさり興味をなくしすたこらさっさと進む主にベリエスは思い出していた。 忘れたくとも忘れられない思い出だ。 十数年前、ベリエスは姉であるアラゾンと袂を分かって小シマロンへと向かった。そこに数年前に別れたきりの甥、サラレギーを気にしてのことだった。 幸いにして、小シマロン王ギルバルトは自分のことを覚えていたらしくすぐに謁見がかなった。そこで思い切って「甥のサラレギーのことを王の立場である姉に変わって守りたい」と言ってみた。 いきなりの訪問にさして仲が良かったわけでもないのに「あなたの息子をまかせてください」という、要望にギルバルトは渋い顔をして「・・・・・・かまわない、もしかしたらお前なら耐えられ・・・・・・いや、サラレギーを頼む」と妙に疲れた口調で快諾した。 その代わりに聖砂国での身分はかえって邪魔になるから隠し一番身近な側近として接するように言われ、法術で髪を真っ黒に近くなるまで染め上げた。「いや、この国では黒は不吉なのだが・・・」というギルバルトのつっこみにベリエスは「しかし、これなら神族とわかりませんから!」無意味に自信満々だった。ベリエスの勢いにギルバルトは「やりすぎ」という言葉を飲み込んだ。 「あれが・・・・・・」 春麗らかな城の庭園には花が咲き誇り、花びらと蝶が優雅に舞っている。その花壇の前に白に近い長い金髪の子供がしゃがんでいる・・・・・・姉の小さな頃にそっくりだ。間違いない、なぜか色つき眼鏡をかけているが数年前に別れた甥に間違いない。あんなに小さかったのに大きくなって・・・ちょっと感動。それにかわいい・・・。 いやいやと内心で首を振ると、できるだけ肉親としての情を表さないようにベリエスは振り返ったサラレギーの傍らに跪いた。これからあなたにだけ仕えます、忠誠を誓い、守り続けると言うために。 「サラレギー殿下」 「・・・・・・・・・」 「私はこれからあなたを守ります、生涯をかけて忠誠を誓います」 「・・・・・・・・・」 全く返事をしてくれない。ベリエスは顔を上げると甥の顔を間近で見た。戸惑った表情だったがサラレギーは姉に生き写しだった、そうこの色つき眼鏡がなければまさにそのものだ。 その眼鏡に小さな花びらがついていた。そのことに気がついたベリエスはサラレギーのかけている眼鏡に半ば無意識に手を伸ばした。小さな白い花びらが眼鏡の縁に・・・。 とたん、ベリエスはばしん!と手をはたき落とされた。さらに一歩引かれるとサラレギーが眼鏡を取った。あっけにとらわれている間にものすごい冷たい目で見つめらた。そして、その瞳の色があっという間に青い色に変化して・・・・・・ 「うごくな」 再びものすごい冷たい声でそう言われた。 どうしてですかと訪ねようとすると動けない。なぜ?まさかサラレギーが? サラレギーはベリエスと一瞥するとその様子にニヤリと全然子供らしくない笑顔をして、ベリエスの腰の剣を両方とも引き抜いた。その剣を引きずってだっと廊下の方へと走った。そして、大声で叫んだ。 「だれかー!あんさつしゃだ、ふおんぶんしだ!へんしつしゃがわたしをねらっている!」 「ち、ちが・・・!」 弁明するにも動けないベリエスは王子の叫び声に「殿下!?」「何事ですか!」とわらわらと集まってくる兵士たちにサラレギーはさらに言い立てた。 「あいつだ!あいつがわたしのいのちをねらってきたんだ、このけんで!」 愛用の剣を奪われたあげく、サラレギーに現行犯の証拠として指さされた。 「しかもあいつはころすまえにわたしにふらちなことをしようとしたぞ!ピーとかピーとかピーとか!あんさつしゃのうえにようねんしゅみのへんしつしゃだ!」 おおよそ子供が使わないような、というかそもそも知らないような放送禁止用語言いまくるサラレギーに「なんてことを」「人間の所行じゃない」「警備の目をかいくぐってまでそんなことを・・・」とか言う言葉が囁かれた。自分の名誉がいきなり最低まで落ちる瞬間をベリエスは初めて目の当たりにした。 「こんなふらちなやつがしのびこんでくるなんて・・・けいびはなにをやっていたんだ?」 「はっ・・・その、警備は十分に行っているつもりだったのですが」 「・・・それでこのへんしつしゃにしんにゅうされたのか?のうのうと?」 「ひぃっ・・・・・・も、申し訳ありません!!」 なんだかサラレギーの周囲の人々が気の毒になってきた。「はっ!」とまた子供らしさのかけらもない嘲笑をつくとサラレギーは「まあいい、それよりまずは・・・」と動けないベリエスを指さした。 「まずは・・・このへんしつしゃのあんさつしゃをひっとらえろ!」 ちがうー!!・・・・・・しかし、叫ぶにも動けないベリエスはそのまま怯えた兵たちに地下牢へと連行された。 ・・・・・・・・・数時間後、ギルバルトの取りなしによって誤解が解けた。城の一番奥深くの牢獄で鎖でぐるぐる巻きになっていたベリエスは解放してくれたギルバルトに心から感謝した。 「陛下・・・すみませんでした」 「い、いや・・・・・・そのサラレギーが苦労をかけたな」 「いえ、私も軽率でした。まずは陛下の紹介を持ってサラレギー殿下に向かうべきでした」 「いやその・・・サラレギーには私も困っていてな。側付きのものをつまらないといってやめさせるわ、飽きたといってはやめさせるわ、暗殺者が来るといって城じゅうにとらばさみを仕掛けるわ」 「そうなんですか・・・しかし、あの力は?」 「わからない、法力ではないようだが・・・・・・」 頭痛がするのかギルバルトは額に手を当ててうつむいていた・・・・・・しかし、ベリエスが考えているのはサラレギーのことだった。そんな、あの小さな子供はそんなにも周りの人間を疑ってかかっているのか、これもあのときに自分が姉を止められなかったせいなのだろうか・・・。 「いや、わかっている。母のないあの子なりに寂しいのだろう、国も未だ不安定というのもある、私がしっかりしていなければ・・・・・・いや、たまにあれはもともとの性格のような気も・・・・・・いやいやそんな!あの子のことは私がちゃんと・・・・・・。 ま、まあ、すこし疲れただろう。サラレギーの側近となる件はもう少し先送りして・・・・・・」 「分かりました」 ぶつぶついうギルバルトに急にベリエスはすっくと立ち上がって高らかに言った。足下に肩に掛かっていた囚人拘束用の鎖が落ちてじゃらんと鳴った。 「は?」という声にベリエスはまるでいたずらっ子を見守る慈悲深い母のような慈愛に満ちた表情で宙を見ていた。まるでそこにさっき自分を投獄した甥を思い浮かべているかのように。 「大丈夫です陛下、私はこの後すぐにサラレギー殿下の側近となります」 「い、いや、しかしこんな目に遭わされた直後に・・・・・・」 「大丈夫です、姉でなれていますから」 え。遠い目をするかつての妻の弟にギルバルトは振り返った。彼は懐かしそうに姉・アラゾンを語った。 「これくらいのことたいしたことではありません。昔から姉には「私が死んだらお前が聖砂国の王なのだぞ!」とよく夜通しで訓練させれたり、食事をするたびに「隙を見せるな!」とナイフを投げられたりしていました。千尋の谷に落とされたことも一度や二度ではありません」 ごく当たり前のようにすさまじい思い出を語る元義理の弟の言葉にギルバルトの心に確かに芯は強かったが心優しかった元妻の思い出に疑念がよぎった。しかし千尋の谷? 「姉自身、努力を惜しまない人でした・・・熊を片手で投げ飛ばした時は少し目を疑いましたがね」 熊、片手・・・砂浜に打ち上げられた自分を彼女が片手で担いで運んだというのは冗談ではなかったのか・・・。 「とにかく、私は決めました。サラレギーは私の大切な甥です。これからは姉に変わって私臣下としてサラレギー殿下の手となり足となり、何をしても守り続けます」 固い誓いに燃えている元義理の弟に小シマロン王は元愛妻の思い出がちょっと崩れていくのを何とかとどめ、「う、うむ」と頷いた。 花びらと蝶はは舞う、あの日から変わらず美しい。 「それにしてもなつかしいな・・・」 「・・・は」 「ベリエス、お前初めてお前がわたしになんと言ったか・・・覚えているか?」 「はい、もちろん」 もちろんその後にこの外見は姉にそっくり愛らしく、そして内面は姉を歪めまくったような意志の強さをもつ甥であり主である彼に何を言われたのかされたのかもばっちり覚えているが、すっかりそれを忘れているサラレギーにはベリエスはもちろん言わなかった。 終わり 後書き 動画に全然ベリエスがでてなかったせいか急に思いついた話。なんかベリエスがシスコンでロリコンで甥っ子ストーキングしてるみたいになっちゃった・・・まあいいか。次男に同類認定されてるみたいだし(えええ)。 マニメ見てるとサラ一家は何となく楽しそうな気もして、ギルパパがえらくかわいくなっちゃいました。まあいいか。 サラ大好きです。マニメも原作も。 2009/2/9 |