「 超高校級の幸運 ×2 」 後編
長い空白、何年かの月日、激変したボクたちの世界。
閉じこめられた学園生活、コロシアイ、学級裁判・・・・・・江ノ島、さんーーの死とボクらが向かった絶望と混乱の中で希望を探す選択。
「あはっ、あははははははっっっははっははは・・・・・・おめでとう、苗木クン!」
「・・・・・・狛枝、クン」
あっけないくらい、変わっていない人だった。未来機関に戻してもらった記憶の中とちっとも変わらない。
別れから流れた時間は大した長さではなかった。
でも彼に起きたこと、彼が起こしたことは、とてつもなく大きいものだったから別人のようになっていても、彼が彼と分からなくてもおかしくないと思っていたのに。
びっくりするほど変わらない。でもこんな感情を高ぶらせて、感情を露わにする狛枝クンには初めて会った。
「でもねえ、苗木クン!本当に本当におこがましいんだけどさ!」
今、きっと狛枝クンは泣きたいんだと思う。
「ボクは満足したんだ!希望が絶望なんかに負けないってことが君によって証明されて、それを見届けることができた!
それでいいんだ、ボクは幸せだ!・・・それなのに、それなのになぜボクは満足できないんだろう!?」
でも先輩は泣いていなかった、きっと泣き方をずっとずっと忘れているんだろう。そして「彼女」の最高の絶望の最後はーー彼から何かを余計に損なってしまった。
だから、代わりのように先輩は笑っていた。見ている方が針を心臓に刺されるように、痛い声だった。
「図々しいのに!ゴミクズ風情なのに!もうあいつは死んで終わったのに!
・・・・・・彼女を殺すのは、ボクのはずだったのに、あそこにいたのがボクだったらよかったのにって妄想がボクの中で消えないんだよ・・・あはは、希望の体言者に対して本当に図々しい醜態だ・・・」
ボクがもっと学園時代何かしていたら彼は変わっただろうか?
ボクが彼女の処刑を止められていたら彼は何か変わったのだろうか?
・・・目の前の彼が何度も叫んでいるように、それこそボクが彼になにをできたかなんて図々しい発想だろうか。
「ああ、でも意外だったなあ・・・・・・超高校級の才能があれだけいて、君が希望になるなんて。でもきっと学園が気が付いていなかっただけなんだね、君とボクの才能が同じなんておこがましい。君とボクはちがーー」
「狛枝クン!」
ボクは床に縛り付けられた狛枝クンの口の両手で塞いでいた。
「・・・君とボクはなにも変わらない!そんなのボクと話した君がよく知っているでしょ!?」
なに言ってるの?そう彼の目は言っていた。
「ボクは江ノ島・・・が計画した人類史上最悪の絶望的事件の仕上げのコロシアイ学園生活に必要だったから、あそこにいて、生かされていただけだ!君たち絶望じゃない学校のみんなは全員死んで、殺されて、死なされて」
なぜそんなことを言うの?という視線。不思議とそれと同じ目を生還した仲間以外から向けられることを思い出す。
ーー君たちは希望で、彼らは絶望だろう?全然違う存在じゃないかーー
「そんなことない!ボクと君はちがう存在なんかじゃない!
ボクらが希望で、君たちが絶望?そうしたから?・・・ならボクらだって江ノ島さんの思った通りコロシアイをした!彼女の思った通りに君たちは絶望した!なにが違う!?」
なぜボクはこんなに叫んでいるんだろう?
狛枝クンにこんな話をするつもりじゃなかったのに。
どうして涙が止まらないんだろう?
「ボクらはみんな最初はコロシアイなんてする気はなかった。
でも、
舞園さんは必死に掴んだ夢のために桑田クンを殺そうとして桑田クンは舞園さんを殺してしまった、
不二咲クンが勇気を持ったことで大和田クンは彼を殺してしまった、
大和田クンの処刑で石丸クンは壊れてしまった、それを利用してセレスさんは山田クンと石丸クンを殺した、
やっと、大神さんは、それが間違ってるってボクたちを止めようとして・・・・・・死を」
涙がこぼれて、狛枝クンに落ちる。目元にこぼれると彼が泣いているみたいで、ああボクはこれが見たかったのかなと場違いに思う。
そして手が緩んだんだろう、狛枝クンの声がこぼれた。
「君がなにを言ってるのか、理解できない。それは操られた希望になりきれなかった人たちのことでしょう?生き延びた君たちは違う」
「そんなことない、ボクらと彼等が違うことなんかなにもない」
ボクは彼を拳で殴った、狛枝クンはされるがまま殴られた。そしてボクを見上げた。
いつかみたいな子供のような、ひどく素直な目で不思議そうにーーボクに一線を引く。
絶望と希望の境界線を引いて、そこからの侵入を許さない。
「君は希望、ボクは希望になりたかっただけの絶望ーー同じじゃない」
「ボクは霧切さんが殺されるように仕組まれた裁判で一瞬彼女をことを見捨てようかと思ったことがある!
霧切さんは黒幕を追いつめるためにボクが犯人じゃないと知っていて処刑を見送った!十神クンはいつか殺して自分だけ出るつもりとはっきり言った!朝比奈さんは大神さんのためにボクらごと自滅しようとした!」
ああ、でも腐川さんと葉隠クンは、そんなことしていなかったっけ。二人ともずっと怖がっていたからーーそんなことをただ恐ろしいと思っていたから、彼らなら何かボクと違うのだろうか?
いや二人も大神さんをガラスの瓶で殴ったんだっけ?いやでも腐川さんは腐川さんじゃなくてジェノサイダーでーーもう頭がぐちゃぐちゃだ。
でもボクらが何一つ傷つけず生きてきたなんて、そんなことはない。
「状況が違えば、人を殺したり、絶望しない人間なんていないよ。
ボクも君も、絶望したり希望を持ったり、間違ったり正しいことができたりする。
ーー結果で結果で全て決まってしまうなら、それこそただの運じゃないか」
狛枝クンは運なんてつまらない才能だって言ってたでしょ?ねえ、今こそそうだっていってよ。
「君がなにを言っているのか理解できない、希望は絶望なんかに負けなかった。それは運なんかじゃない、絶対の才能と意志によるものだ。
・・・もしそれに運が作用しているとしても・・・それなら君の才能は本物、ボクはまがい物、それだけさ」
鉄の扉が開いて閉じる。ボクの目の前から狛枝クンが遠ざかる。
結局、分かりあえることはなかったーー十神クンが警告した通りだな、あはは・・・・・・。
これで、ボクを知っている狛枝クンとはお別れ。
これからボクらは十五人の人間の記憶を書き換えるーーあれほど憎んだ彼女のやったことと同じことをしようとしている。・・・でも彼らが死んでしまうより、ましだ。
「・・・・・・さようなら」
でもきっと彼を、彼らを、新世界プログラムは生かしてくれるはずだ。
そしてどちらにせよーーこれで狛枝クンの学園時代の記憶は消える。
ボクらの奇妙な交流も、会話も、彼の記憶から消滅する。覚えているのはボクだけになる。
「でも、生きている限り希望を探せるから」
だから、バイバイ、先輩ーー次会うときは全く新しいあなたとボクはまた出会います。
「もしよければ、またーー」
その先になんと言えばよかったのか、探せぬままボクは出港の準備に取り掛かった。
おわり
あとがき
狛枝は才能のない人に対してどんな風に振る舞うかというのがいまいちわからなかったのですが、たぶんあの島で明らかに才能がないのはモノミなので、モノミに対する態度が近いんだと思います。
ので、狛枝からすると苗木には才能がないので、モノミに対するノリで会話させてみました。いかがでしょうか。
苗木と狛枝にしゃべらせるのは結構楽しいです。
多分、九頭龍妹の事件が起きる前で狛枝クラスはまだ平和なはずの時間設定。
なんとなく、苗木の江ノ島(クラスメイトとしての記憶を黒幕としての記憶の後に思い出す)と不二咲(少なくとも最初は性別知らないよね?)の呼び方悩みました。
14/07/16
おまけ
「なれそめ2」
※やっとケータイ返せたよ!
「先輩!会えてよかった、実は昨日ケータイ取り違えたみたいで!…気がつかなかったんですか!?」
「わざわざ、探して回ってくれたみたいで今日は希望の象徴たるみんなに「後輩が探してる探してる」って手間をかけさせちゃったよ……あー、律儀にありがとう。君のも返すから、ほらこれでしょ?」
「……あ、そうだった…ボクのも無かったんだった」
「気がついてなかったの?君も中々間が抜けてるのか、肝が据わってるのか……?なに、ボクの顔に何かついてる?ボクは君のケータイを見てないから安心していいよ」
「あの、先輩」
「先輩後輩なんて、なんの才能もないボクらには無意味な序列だと思わない?」
「へ?……あ、いや、その……謝りたい事と聞きたい事が」
「ケータイの事ならもういいって、ボクらの地味で役立たずな才能が変に作用しただけでしょ…聞きたいこと?」
「その……実は連絡先とかないか、先輩のケータイ見て…そしたら」
「?……あ、み、見たの?あの時使ってたボクのブラウザを!?」
「や、やっぱり先輩なんですか!?希望ヶ峰アンチスレを徹底的につぶして回っている「超高校級マニア(※狛枝は固定ハンドルネーム派)」さんは!?」
「な、なぜその名前を?君は一体……?」
「……ボクはこういうものです(受け取ったケータイの画面をかざす)」
「これは……いつも希望ヶ峰アンチスレが盛り上がるとどこからともなくやってきて、それは違うよ!とかアンチスレ以外に批判は書き込まないでくださいと性懲りもなく生温い事ばっかりやって懲りないでいる「超高校級の名無し(※苗木は固定ハンドルネーム派)」さんのいつもの書き込み…!?…じゃ、じゃあ君が?」
「先輩…ボクたち、すでに知り合いだったみたいですね……ちょっとお話いいですか?」
「あ、あははっははは!これは幸運なのかな、不運なのかな!?……ボクも少し君と話がしたくなったよ」
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2ちゃんが繋ぐ、幸運のなれそめ。
「超高校級マニア」の逆鱗に触れたねらーは2ちゃんにしばらく現れなくなる怪談があったらしい(適当)。
当初はこんだけ会話させるだけだったのに、どうしてこうなったのか。
おまけ2
【2ED後の会話のような】
「……というのが、ボクと狛枝クンの学園生活での交流だったんだ」
「なんか狛枝がすみません」
「ええ!?いや日向クンが謝る事じゃないよ!?急に敬語にならないで!
……うん、でも彼はまだ生きているんだし、また会えるって希望は捨てないよ」
「そうだな…目覚めた後が怖い気もするけど」
「ボク……狛枝クンが目を覚ましたら一緒に2ちゃんを再建するんだ」
「……ノーコメントで」
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3に幸運が出たら、やっぱりねらーなんでしょうかね……。