楽園ゲームと希望を抱いた脳死…ボクが選ばないとならない。 楽園ゲームを選べば、ボクは束の間目を覚ました皆と南国生活を送る夢を見てそれに満足した七海さんとウサミは消滅する。ボクは絶望時代の記憶もコロシアイ修学旅行の記憶を失い生き延びて二人は死ぬ。 脳死を選べば、ボクは絶対的な希望のための礎になれたと信じたまま死ねる。そして二人は生き延びられる。 世界がぐにゃりと歪み、激しいノイズで視界が上下に震えた。その余波で視界の端にガラスのように亀裂が入った。 ボクの世界は前には進めない。後ろに戻れない。なら立ち止まったままこんな風に壊れていくのか…? いやいっそ、いっそボクが壊れればいい…正気じゃなくなればいい…どうしてそんな二択を選ばなければいけないんだ。こんなのどっちも絶対的な希望でも滅ぼすべき絶望でもない。ボクはどちらも望んでいないっ! そこで思考がとまったーー希望も絶望もない、知る人も全て死に絶えた世界で生きるなんてなんの意味もない。まるで地獄だ、まるで…昔と同じだ。 絶対的な希望が終わった世界で一人で生きて行くのか?絶対的な希望を見ることはもうないのに昔のようにずっと一人で生きるのか? 「七海さん…でも」 「それに狛枝クンが脳死を選んでも私とウサミちゃんは生き残らない!そっちを選んだら私たちは電脳ごと自爆する、だから私たちの方選んで。私の楽園ゲームを選択してっ!」 そしてボクが脳死を選択すれば、彼女は自爆ーーつまり死ぬと言っている。 ボクは自殺志願者じゃない。でも…でも。 「余計なことを言わないで……権限は上でも私は未来機関や絶望の残党たちのハッキングを百年退け続けてきた。私たちの特定の記憶を消すなんて繊細な作業は管理者権限を奪ったくらいではできない……それよりも狛枝クン、世界は広いんだよ。 「生きる意味も希望もない未来を選べって?……七海さんとウサミが記憶を消されるのを抵抗するなら、互角ってとこかな?じゃあじゃんけんと一緒かな、ボクが有利だね」 絶望は嘲笑いを続ける。それを跳ね返すように鋭い声が上がったーー七海さんは確かにホログラムなのにその瞳はひどく人間らしい光が宿っていた。雁字搦めになった希望と絶望が彼女の目の中で暗く熱い火を宿している。そしてボクは府に落ちた。 (ああーー彼女は確かに人間なんだ) 「矛盾なんてーー!」 「じゃあどうして君はこのジャバウォック島を出て、他の場所で他の絶望の残党たちを更生させる道を選ばなかったの?狛枝凪斗という何十年も目を覚まさない被験者なんて貴重なサンプルとして未来機関に預けてしまえばいい、なにしろ平和になった世界だから丁重に管理して目覚めても大切にしてもらえたと思うよ。その方が確実で安全だ。 「違うよ!……未来機関は何度もみんなを殺そうとしたから…私が守らないと……っ!」 「いやあ人間の脳ってまだまだ未知の領域だよね!こっちのボクの記憶を消してしまおうとしたことで逆に覚醒しちゃうんだからさ、あははははっ! 「そんな、ことは…!」 「ねえ、七海さんの楽園ゲームっていうのはさ、君の夢や願望に過ぎないんじゃないの? 「違う!違う違う違う違う違うっ!ちがう、よ…未来機関は狛枝クンに対応しきれないで、万一狛枝クンを殺すかもしれないからだよ! 「その時点で矛盾してるって…記憶を消してボクを未来機関に預けるんじゃなかったの?せっかく生かしたのに殺すかもしれない組織に? 「違う!…本当だよ、狛枝クン?あいつの言うことなんて信じてないよね、絶望のいう事なんて希望を愛する君は耳を貸さないよね……?」 「七海さん…」 ボクの指は動かない。 「……うるさい」 「ちがう…チガウ…チガウヨ。 「君はあの十五人のいる世界に居続けたい、そしてそのまま消えたい。他の場所で生きることは選択しないでみんなと心中したい。 「うるさいって言ってるだろ!黙れよっ…!」 「ーーじゃあコロシアイのボク、君はどうして楽園ゲームのスイッチを押さないの?」 「……え……?」 「君だっていやなんじゃないの、だから七海さんに泣いてすがられてもスイッチ押さないんでしょう? 指先が《楽園ゲーム》から《脳死》のスイッチの上へと揺れる。七海さんが遮るが、ボクの指先は《楽園ゲーム》の方へと戻らない。 「さあ、希望を信じたボクへ還ろう」 ーーボクの生死だから、ボクが決めるのか。 なら、ボクの希望はーー? 「………そう」 「狛枝クン……?」 「選びたくない、なんでこんな事なっているんだよ…ボクが昔に戻って一人で生きるか、あのまま毒と槍で何も知らないまま死んで七海さんたちを道連れにする?……わけがわかないよ、どうしてこんな事に?」 「こま、えだクン……」 「……残念だよ、やはりボクはボクか。希望を持ったボクがバカだったよ。 「……消す?」 「君がボクらしく無様に選択できないままなら、君なんてボクが百年眠っていた間の見た束の間の夢として忘れてあげる……君のコロシアイの記憶とこの十日間の記憶は足してもせいぜい一ヶ月程度、君よりも三年以上の記憶を持ちそれから百年眠っていたボクからすれば夢と同じだよ」 「ボクは、選択しなければ消える…?」 「そう、覚えていなけれなば夢と同じさ」 選ばないとならない。選べないは許されない。 どうしてこんな事になったんだ?誰のせいでこうなった? ーーボクのせいなのか?ボクが目を覚まさなかったから、ボクの才能のせいで……? そう思った時にいつかのウサミの言葉が蘇った。ボクが初めて裁判を受けた翌朝の時のーー。 ボクの希望とは何か?ーー絶対的な善いモノ。ボクのゴミみたいな才能に左右されないモノ。 ボクの希望を見つけられた先?ーー考えたこともない。ただそれ一目見るためならボクはなんでもできた。なんでもやってきた。 でもその先の未来なんてーー分からない。ウサミはどうしてあんな質問をしたんだ……楽園を選択させようと泣いてボクを揺さぶろうとして果たせない七海さんの腕の中にはウサミの脱け殻がいた。 白いウサギのぬいぐるみに目を落としてーー安らかな絶望の囁きと真っ白で孤独な未来が約束された楽園。その狭間でボクは思い出していた。 ウサギのぬいぐるみにボクは子供の頃のように語りかけていた。 光が空間を切り裂いた。激しいノイズが稲妻のように轟音を放つと七海さんの腕からウサミが消えた。 そんなもの、そんなもの。 小学生になる前。目の前に迫ってくるトラック。 横たわって血を流しているボクの初めて飼った犬。 触れると冷たくなっていた体温。あの時はまだよく泣いた。 「そんなことーー」 小学校の時。飛行機の中で上がった悲鳴。殺されていく人々。 母さんが泣く声。父さんの真っ青な顔。少しずつ近づいてくる足音の恐怖。 抱きしめられた腕の中でボクは震えていた。 いやだ、死にたくない。父さん、母さん。神様、お願いだから。 もしボクにまだ希望があるなら……どうかーー。 「ーーた、す……けて……ーー」 そう口に出していた。 そして、飛行機の惨劇も裁判場もボクも。 聞こえたのは波の音だった。 小さな泡を残して寄せては帰る揺りかごの様な波の音。遠い昔に聞いた子守唄を思い出す。 ほんの最近聞いた音のようなーー。 頬に水に濡れた砂の感触。ここは海辺なのかな……七海さんとウサミに再会したあの砂浜みたいな。 「…………」 それが気になったかは自分でも分からない。けれどボクはなんとか目を開いた。 すると世界は真っ白の白紙から色彩を帯びていく……南国の砂浜だ。 「ーーよかった、やっと目覚めてくれたんだな。 つづく 珍しくほぼ原稿用紙で書きました。写すのが大変ですが、あれはあれで書きやすいですね。 オマケ設定→
超高校級の幸× 16
α+β 3
《 最終裁判 2 》
「それを、ボクに選べって……?」
息をうまく吐くこと、吸うことが出来ない。
頭で選択肢がせめぎあって、肺まで圧迫している。息が苦しい。
(なんで、なんでボクなんだよ!?迷わず自分が生きたい人なら七海さんの願いを叶えられる。迷わず死にたい人なら…あいつの願いを)
ーーそれがボクの願いじゃないのか?
(希望ヶ峰学園とそこに集まる希望たちのことを遠い世界だとしか思っていなかったスタート地点に戻るなんて…いやでも超高校級の絶望に従うなんて)
それでもボクは昔に戻りたいか?
ゴミみたいな才能を自分ではどうすることも出来ずに、他人を見てはボクの目の前で傷つけるんじゃないか死んでしまわないかばかりを恐れて、自分と周囲に怯えていた頃に戻れると言えるのか?
(しかもそうしたら七海さんとウサミは死ぬんだぞ……そうだ、二人という希望のためにボクが踏み台に)
「狛枝クン!絶望に飲み込まれるなんて君らしくないよ!私たちの道を選べば、未来には君という希望が残る!」
七海さんの手がボクの方に伸びる。しかしその手はそのままボクの身体をすり抜けてしまう。
彼女は機械なんだ。その姿はホログラムに過ぎない、悲壮な声は合成音に過ぎない。だから彼女はみんなに取り残された。
「なら結局どっちを選んでも、七海さんとウサミは死ぬってこと……?」
「私たちに構わないで自分のことだけ考えて!百年生きてきた、最後にやっと狛枝クンが目覚める所を見届けてそれで充分!私の生きた目的も費やした時間も人の満足な一生と同じものだよーーでも狛枝クンは違うんだよ!?」
七海さん達はボクが生きようと死のうと死んでしまう。
なら、結局はボクが生きるか死ぬかの問題に過ぎないのか?
「彼女の言うことを聞いて束の間だけ幸せになって、昔と同じ世界で生き延びたいかい?
ーーコロシアイのボクはそんな世界で生きたい?
まあでもサービスだ、ゴミクズのボクのせいで死ぬなんてイヤだよね?…もし脳死を選んだらボクは七海さんとウサミの楽園ゲームを作った記憶を消して、二人が自爆しないように管理者権限を行使するよ」
狛枝クンにはその広い世界を見て、これから沢山の人たちに出会う時間も可能性もある。未来を創れる。
ーー私が歪めてしまったけれど、狛枝クンは楽園ゲームが終わったら絶望時代のことは忘れてやっと平和になった未来をーー」
くすくすと忍び笑いが響く。裁判場に反響して、壁にぶつかり帰ってくる嘲笑はボクと七海さんに畳みかけて降り注いだ。
「ねえ七海さんーー君はコロシアイボクにいっていることと自分がやっていることの矛盾に気がついていないの?」
プロジェクト責任者の日向創が二十年前に死んだ時、もっと最後がいいなら最後のプロジェクト運営者の辺古山さんが死んでからこの島が無人島になった時点でそうすればよかったじゃないか。
それなのに君はそうせずプロジェクトの意向に真っ向から反する絶望的楽園ゲームなんて作ってしまった。
ーーま、そうやってシステムを歪めた余波で《絶望時代の記憶を持つボクが覚醒してしまったこと》までは完全に計算外だっただろうけど……」
人間の脳ってさ、普段は思い出せないようなことでも全て覚えているっていうよね。《ボク》が目覚めた理由は忘れさせようとしたことに対する防衛反応ってとこかな?まあただの推測だけど、君が楽園ゲームを作ったことが原因というのは当たっていると思うよ……まるでボクの脳が楽園ゲームを拒否している気がするよ、案外危険に対する防衛本能だったりして。
君はそれを使えば願いが遂げられると思っているみたいだけど実験したわけでもなんでもないよね?本当はどっちを選んでも脳死になるだけだったりしてね」
君はボクたち超高校級の絶望を更生させるために作られたプログラムだから、百年かけて十人全員目覚めさせて更生させようってことに囚われているだけじゃないの?…可哀想に」
狛枝クンには希望が、人との絆が必要なんだよ!今まで目を覚ましてきたみんなと同じように!
ーーでも狛枝クンは一人だから、一人になってしまったから、独りになるまで私もウサミちゃんも、日向クンも、日向クンが死んだ後頑張ろうって言ってくれた辺古山さんと田中クンも、狛枝クンを目覚めさせる事が出来なかったからーーだから狛枝クンは絆を、希望のカケラを集められなくなっちゃって……だから私は楽園を!」
一人になったから絆は得られない?そこのボクに未来を生きてそれを掴めと言ったのに?
ーーボクはさ、大いなる希望が既に失われた現在に失望している。それと同じようにさ、七海さん本音はもう楽園ゲーム以外はどうでもいいってことじゃないかな?もうどうしようもない、狛枝凪斗は諦めよう、だから消去してなかったことにしようと」
信じてないよ、君を信じるよーーそう言いたい、思いたい。
でも彼女の絶望に染まった青ざめた顔が物語っていたーー『七海さんは自分の本当の希望を諦めて、絶望したことで偽りの希望を作った』のだと。
(目覚めないボクとみんなが死んでいった百年の日々が七海さんから希望を奪い絶望させてしまった……ボクは彼女の楽園ゲームを選択するべきじゃないのか?
偽りでも彼女の作った希望を叶え、れば……こんなボクの記憶なんて……ゴミクズのボクの未来がどんなものであろうと、たった一人だろうと……そんなのどうでもいいーー)
それなのに。
すり抜けてもなお触れようとする七海さんの向こうに見えるパネルの《楽園ゲーム》のスイッチの上で静止して、その先の選択をできないでいた。
「笑えるね、自分は機械として個体としての記憶をデリートして希望更生プログラムとして他の場所で生きる気はさらさらないくせに、そこのボクにはそうしろって言うんだ。そこまいくと絶望だよ、希望更生プログラムを名乗ることもおこがましいーーふふ、コロシアイのボクは七海さんに見捨てられちゃったみたいだね」
……ワタシハコマエダクンヲ、ゼッタイ二アキラメナイ、ミステナイ…ソンナコト…そんなこと、私は絶対にしない!」
ーーその口でさ《ボク》にはその世界から離れて、記憶すら消して、全てをデリートどことかリセットして、新しい未来なんてものを作れって言うんだね……ふふ、物好きだね。
そんなにボクたち超高校級の絶望が好きならば、七海さんも超高校級の絶望だよ!認めるさ、絶望的におめでとう!」
誰も知る人はいない、誰も君を知らない世界で真っ白から再スタートなんて真っ平だろう?ボクたちの生きる上での目的であった絶対的な希望ももう過去の歴史となった世界で今更ぜーんぶやり直しなんてーー絶望的だね?」
希望ヶ峰学園に入る前みたいにさ。
そいつが口にしなくてもーーボクたちは同じ感情を共鳴して、同じ結論へと帰結した。
そんな未来なんて、欲しくない。未来を選ぶなんていやだ、とーー。
「さっきも言ったけどボクはね、君を尊敬に値すると思っている。自分のもしもに過ぎないとしてもね。
君はボクと違って希望を信じてその為に死ねたんだ。ボクはそれが出来ず、無残に生き延びた……超高校級の絶望と呼ばれたボクからコロシアイのボクへ最後の希望をーー希望を信じた死を選んで」
「……イヤだよ、やめて……楽園を選んで」
ーーどっちが正解なんだ?
ーー誰ならどっちが正しいと決められるんだ?
「……選べない」
選べない、選べないーーボクの答えは最初から決まっているっ!こんなの選択できない!
「希望のない未来なんて、どっちも選べないっ!」
……ならボクは君がこのまま決断しないなら、今から君の記憶を管理者として消す事に挑戦してみるよ。コロシアイと楽園約一ヶ月間を夢だと思って、この生温い未来に最後の超高校級の絶望として力の限り破壊を行うね。絶望なんて滅ぼすべきだという教訓を未来に残すためにねーーあと一時間で七海さんの楽園ゲームとシステムの決着がつきそうだ、この挑戦がうまくいけばその時あたりに君を消す」
ボクは、ボクは、ボクは。
目の前が真っ暗になるーーどうすればいい?
超高校級の絶望のボクか?楽園ゲームを作ってしまった七海さんか?それを止めずに最後は手を貸したウサミか?二人を置いて行ってしまった日向クンやみんなか?
でもボクのせいなら、尚更どうすれいいかわからないーー。
(……ボクはどうしたいんだ?)
七海さんと絶望のボク。二人はどちらも《ボクにとってより良い未来》を選択するように提案しているーーそしてどっちがいいと判断して選択するのはーーボクだ。
(ならボクの希望はどっちだ?)
希望ってなんなんだ、絶望ってなんなんだ。
ーー「お願いを叶えてもらえるなら、狛枝クンが希望をどう思っているか先生に教えてくだちゃい。そうでちね、狛枝クンは希望を見つけたり、手に入れたらどうするんでちか……?」ーー
「分からないよ、ウサミ……」
希望はいつでも届かない場所にあると思ってた。だからボクはいつもそれを求め続けた。
(今まで二度目のこの島で目を覚ましてからのこの日々ははっきりないで生温かったけど……楽しかった、もう化けの皮が剥がれて全て終わってしまったけどさ)
ほんの十日間だけど、何の意味もなかったかもしれないけれどーーその間は希望も絶望も忘れてただ今という瞬間のことだけを楽しんだ瞬間が確かに存在した。だからなのかなーー。
「分からなくなったよ、ウサミーー希望がなんなのか、それを手に入れた時にボクが、ボク自身がどうしたいのか、教えてよーー」
ウサギのぬいぐるみは空の瞳でボクを見上げたーーその瞬間。
「ウサミちゃん……?」
七海さんとボクが空になった空間を呆然と見下ろすーーそして天井の方向から聞き覚えのある能天気な懐かしい声がふわりと舞い降りた。
……「ーー……ヲ……シマス。……ボイスメッセージを再生します。
あー!……スト……マイクテストっ!……聞こえてまちか、狛枝クン?ウサミ先生でちよー?
ーーさて、
どんな形でこのメッセージが再生されているのか、今のあちしにはわかりまちぇん。でもなんかいやーんな予感が……はわわっ!?」……
「ボイスメッセージ?」
これは今ウサミが話しているんじゃなくて、過去に録音されたものが再生されているだけなのか?七海さんに目配せするが、戸惑ったように首を横に振った。
「ーーハッキングじゃない?ーーこれは、ただの伝言?」
戸惑っているのは絶望も同じようだった。しかしそんな中でメッセージはマイペースに再生され続けた。
……「あんまり長くならないように説明しまちゅね、このメッセージは狛枝クンが心からあちしを頼ってくれた時に再生されるようになってまちゅ……正直狛枝クンがあちしを心から頼るとか、そんな時永遠にこないような気もしまちが、まあ念のためのお蔵入りでもいいでち。念には念を!
さて狛枝クン、あなたは最初に出会った時から心から希望を求めていまちたね。その想いが強過ぎるあまり、あなたの考えが理解できないとみんなあなたを恐れまちた。理解できないってーー。
でもあちしはこう思いまち、狛枝クンにとっても《希望》って何なのか本当はよく分かっていないじゃないかと。
だから狛枝クンーー先生はあなたにこう尋ねまち」……
姿は見えないのに、綿のつまったぬいぐるみの手が頬に触れた気がした。先生面なんて似合わない、そう声に出そうとして嗚咽をこらえた。
……「狛枝クン、あなたが人生で一番最初に希望を求めた時に何を願いまちたか?」……
「……ボクが、初めて……希望を求めた時?」
「そんなことっ……!」
怖い、怖い。このままじゃ殺されるーー。
それだけだった。
全てを光が白く塗りつぶし、遠いところへと消えたーー。
……………………………
……………………………
……………………………
「ーーおい……」
目が見えない、全てが真っ白だ。何も見えない。
「おい……大丈夫か?」
ここは天国の入り口だろうか、とてもきれいな波の音がする。
それにーー懐しい、そのくせどこか苛立つ声が聞こえるような……?
「おいってばっ!……やはりまだ眠っているのか?」
急に声のトーンが落ち込んだ。なにをそんなに落ち込んでいるんだろう?
(ーージャバウォック?汚染されているはずじゃ?)
綺麗な青空だった。そしてかたわらには人影がいた。ボクは何も考えられず、ただその人物を見上げた。
「……キミ、は……?」
ようこそ幻のジャバウォック島へ……オレは日向創ーー改良劣化型アルターエゴ日向創だ。
……また会えて嬉しいよ、狛枝凪斗」
三度目の南国の浜辺の目覚めの先には、穏やかに微笑む彼ーー日向クンがボクの隣にいた。
あとがき
未来創造プロジェクト…
日向創が考案して、苗木誠が認めて、未来機関から承認された《超高校級の絶望たちを覚醒させ、その後の更生への道を模索する計画全般》。覚醒後の超高校級の絶望たちの構成過程のデータは世界を蝕む絶望の病を消す事にかなり活用されたため認められた。
目覚めた超高校級の絶望の残党たちはほとんど未来創造プロジェクトの研究員となった。最初の三十年はこのプロジェクトチームに入る事は戸籍や存在の記録を抹消することや島から出る事に激しい制限がかかることが条件となった。
三十年後にこの激しい制裁条件はかなり解除され、最終進路決定裁判を終えた被験者は未来機関の保護下のカウンセリングと再生した未来の世界を見る権利が与えられた。また五十年後、存在の抹消は取り消された。
最終進路決定裁判…
改良型新世界プログラムの集大成の一つ。被験者が脳死から開放され、世界の真実を知る準備ができた時に真実を知らされる裁判。この裁判で被験者の選択する未来は何よりも尊重され、何者にも左右できない。
四番目に目覚めた西園寺日寄子からこの裁判システムのひな形が適用、裁判官は基本的に管理者の日向創が担当した。
覚醒後の準備も何もなく初期に目覚めたメンバーよりも手厚くされているのだが覚醒後のメンバーはだいたいは世界に激しく失望し、自暴自棄になってしまうケースが多い。