ガラガラという音ともにボクの砂浜はあっとい
う間に遠ざかっていった。ヤシの木は遠ざかり、舗装された道からは右手に南国の海が見えた。
「…………」
七海さんは「あの後の真相」を知りたいと願う ボクに「では学級裁判でね」なんてモノクマの 消えたと言っていた世界で言う。さっぱりわか らない。 さらに詰め寄りたかったのが、あの波打ち際に いると頭が異常にぼんやりして終いには目眩が したせいか、七海さんが「じゃあまたね」と去 るのがあまりにあっさりしていたせいか。 それともモノミが今までにない馬鹿力でボクを 「一名様!いらっしゃいませ!」と書かれたプ ラカード付きの赤や白の花で飾られた引いて運
ぶタイプの手押し車に乗せて砂浜から運び出し たせいか……とにかくボクは日向くんたちが生き ているのか死んでいるのか知ることすらできな
かった。
ボクはいつものような笑いを浮かべることも出 来ずに唇を噛み締めていた。 ……何もかもを知ることで希望と信じていた皆が 超高校級の絶望と知った。それで一瞬は絶望に 負けそうになった。
ボクはファイナルデッドルームで皆が超高校級 の才能を持ちながら、超高校級の絶望となった ことをモノクマのファイルから知った。 モノクマの罠も疑ったが、この妙な修学旅行や 三回目の学級裁判での罪木さんの絶望病で「全 てを思い出した」という症状から、真実が書か れていることに結論づけた。 七海さん、未来機関の裏切り者、おそらく希望 側の存在を除く超高校級の絶望……日向くんたち を皆殺しにするべきだということ。当然ボクを
含めて。
でも裏切り者は名乗りでなくて、未来機関側と 推理したモノミの家にある盗み出した宝箱に あったノートにも裏切り者を特定する情報は書
かれていなかった。 「そんな来た道ばかり見てないで、今はあちしの話を聞いてくだちゃい!これなにかわかりま ちゅかー?」 だからボクは絶望抹殺計画をそのまま実行し て、裏切り者の正体はボクの超高校級の幸運に 託して計画を、実行するために……… モノクマ、の、工場のグッズ倉庫へ、ネズミー 城の槍を持って行って…パネルをライターを… ロープで手足を…一つは焼ききって…縛って…ガム
テープ…アーミーナイフ…………?
そうだ、忘れている筈がない。その後ボクは槍 のムチを左手で握ったままでボクを切り刻ん で、ナイフを、あれナイフを……?
「これが狛枝くんのおうちの鍵でちゅよー?大 事なものなんでちゅよ!」
知 っ て い る の に 思 い 出 せ な い。
「狛枝くん!」
うるさい、このうさぎのぬいぐるみはいつも何 もできないでモノクマに遊ばれているだけの癖
にいつも仲良くしろだのこれで大丈夫だの、無責任で無根拠な事ばかり言っている。 「……うるさいな、モノミは少し黙れないの?」 「がーん!?……ってショック受けてる場合じゃ ないでちゅ!狛枝くんのおうちのことは狛枝く んのこれからの生活で一番大切なことなんです よー!黙ってなんていられません!ちゃんと先 生のいうこと聞くのです!」 「考え事をしてたんたよ……そもそもボクはそん な得体のしれないとこ住みたくない、それにボ クがせっかくの家が居ると隕石で壊れるかもし
れないよ?」 うざったさ半分、忠告半分でそう言うと白いモ ノミはボクの視界に入ってきた。なんだよとい おうとして驚いた。 モノミが涙目で怒っている事に。 「なんで……そんな風に言うのでちゅか?ここに 隕石なんて落ちまちぇん!狛枝くんはここにい ていいんでちゅ!ここは狛枝くんのおうちで ちゅ!」 「は?」 お前に何がわかるっていうんだ。 「……未来機関の君なら知ってるでしょ、ボクの 才能。 一瞬目の前が真っ暗になった、モノミがボクの 頬をひっぱたいてボクは手押し車から落ちた。 「そんなこと関係ありまちぇん!狛枝くんの幸 運とあちしの運命は関係ありまちぇん!」 何を言い出すんだ。さっきとは別の意味で頭が 真っ白になってモノミの一方的な話がただ頭に 染み込んでいく。 「狛枝くんの行きたいところも居ていいところ も狛枝くんの決めることでちゅ!それは誰にも 邪魔できないことです!狛枝くんは、狛枝くん
の………うう〜っ」 挙句に泣き出した、訳がわからないというか…… どうしよう。モノミはよくモノクマに泣かされ ていた気もするけどこんな風に面と向かってて というのは……どうしよう。 結局、目を点にして見下ろすことしかできない ボクにモノミは泣きのピークは過ぎたのか、勢 いが収まった涙を拭きながらぽつりと。 「お願いでちゅ、そこで誰かが傷つくことを…… 自分のせいだなんて思わないでくだちゃい」 そんなことを言った。 ボクにどうしろって……関 係ない。 「………ない」 「……なーんて!あーやっぱりあちしはダメで ちゅ! 生徒さんの前で泣いちゃって…カッコ悪 い……?狛 枝くん、何かいいまちたか?」 「……鍵、くれない?」 「ほえ?」 何もかもわからない世界だけど。 なんだか、それに安心してしまったから、それ だけだ。 「……「ボクの家」には鍵がないと入れないんで しょ。鍵、くれないの?」 「ここでちゅ!狛枝くんの家の鍵はこれで ちゅ!」 そしボクはおもちゃみたいな大きな鍵をモノミ から受け取った。 台車から降りて、振り返ればいつか見たようなかなりファ ンシーな家が建っていた。 ファンシーすぎてなんだかこれすら夢のような
気もしたけど、ここがボクの家になると思うと頼りない足元が少し知ったり地面につく気がする。 「モノミ」 「ほえほえ?」 「……案内、ありがとう」 「どういたしましてでちゅ!!」 モノミの声はいつでも懲りないですぐ能天気に 明るくなる。 だから今はこの新しい住処でも見てみよう。 (だいたいまだ頭がぼーっとしてるし、ボクみ たいな運の良さしか取り柄のない人間は少し落
ち着く必要がある。 そう思って、前向きに扉の鍵を開けようとする と聞き捨てならないセリフが聞こえた。
「…………………は?」
幸い、ボクとモノミの居住スペースは全然違っ た。 簡単にボクは一階、モノミは二階というスペー ス区分だった。建物のサイズからして二階以上 のスペースがありそうだったが、まあそれはい い。 二階への扉は頑丈な鉄製でモノミの指紋?認証
でしか開かないらしい。そして、ボクには決して入れないらしい。 一階は結構広く、広いロビーと、会議室のよう なものとキッチンがあった。あと小さい書庫があり、モノミは「お勉強してもいいですよー」 と言っていた。 一番奥には二つの部屋、ひとつの部屋には「こまえだくんのおへや」もう一つには「おきゃく さま」と書かれたプレートがかけられている。 部屋に入ろうとするとモノミはロビーにボクを 呼びだし、ここでの「おうちのルール」とやら を説明した。 大まかには、 1、ボクは一階を自由に使っていい、二階には 行けない
モノミは器用に沸かしたココアをボクと自分の 前に置きながら、さっきとはうって変わって顔を合わせてくれなかった。 まるで秘密を必死に 我慢している子供みたいで……だから、これ以上 は今日は聞く気は沸かなかった。 「あちしも七海さんも未来機関の存在でちゅ。 そして確かに皆さんは超高校級の絶望でちた。 モノミは最後までココアのカップから顔を上げ ずに、時間だからと二階へと上がっていった。 また明日とそれだけ言い残して。
ココアは飲みきれなかったけど、部屋まで持っていった。結構美味しいのがなんだかふわふわする。 さっきのルール……ボクは未来機関に超高校級の絶望として拘束されている?……分からない。
ベッドと机と椅子、小さな本棚。カーテンの向 こうの窓は海が良く見える。 月が海面に映って 綺麗なところが見える部屋なのだと感じた、そこをきっとモノミが選んだことも。 「ゴミクズに、配慮しすぎだよ……」 カーテンの向こうの月がずっと続く頭痛を少し和らげてくれるようでぼんやりと見上げる。 (ずっと、頭痛いな) モノミが言っていたことを思い出す。 「……ボクたちは超高校級の絶望」 だったら殺し尽くさないと。 「ボクは超高校級の絶望……」 ボクは希望を愛していたのに。 「ボクは希望の為に死ねなかった」 ボクは、ずっとずっと希望のために………。 言葉にする度にどんどん頭痛はひどくなっていく……とにかく今日は休んだ方がいい。 なぜまだボクが生きているか、日向くんたちが生きているか、考えるのは明日でいい、そう明 日で……。 「……?」 カーテンを閉めてベッドに向かおうとすると、 空っぽに見えた小さな本棚でなにか光った。空だと思っていたのになにかある? 胸騒ぎがして、ボクは本棚をよく見た……すると そこには一冊のノートがあった。結構分厚い。 ボクはそのノートを手にとって、そして取り落としてしまった。ばさりという音が嫌に大きく 響く。 「なん、で……」 そのノートには大きく日誌と書かれていた、そ してその下には執筆者らしき人物の名前が書い
てあった。どこか見覚えのある字で………。 ヒナタハジメ、と。
つづく
あとがき > モノミせんせーといっしょにいたらどんどん こまえだくんがツンデレになってしまいまし た。ふしぎだなあと思いました。(作文) |