カムクライズルのカケラ遊び 2
それは些細な言葉だった。
「そんなこともあったか?あれはお互い様だろ、別に話くらいいいけどよ……」
そしてその意味が心に突き刺さった。
「まじか、堂々としてたから緊張なんかしてないんだと思ってたぞ。てかあれで緊張してたのか?」
「そんなことあったっけ?……あ、思い出した」
とろりとしたはちみつのように口にした瞬間に甘さが解けるような、そんな闇が夢に侵入した。 オレは違和感と親近感で目を覚ます……ここはどこだ? 不思議な感覚だった。心安らかにぐっすりと眠りながら、野原を駆け回る爽快感を感じているような……矛盾しているのにとにかく心がどこまでも背伸びをできるような安心感と万能感。 この闇はなんだろう?濃厚な闇は甘く、1人の時間は眩しく時に痛い。
他にも敵は沢山いた、いや違う。苗木たちのような一部の者たちを除くとオレ達とは世界にとって敵だった。 だから、オレ達は最低限身を守れるように……武器をいつも……あれ?
その言葉を証明するように枕の下に突っ込んだハズの腕が黒いモヤの中に浮いている。いや違う、オレ自体が闇の中に浮いている。 そしてその中に浮かぶ影に気がついて、その名を叫んだ。
「あなたが前のことを覚えていないのは僕自身でしたこととはいえ、少々滑稽ですね。しかも面倒です……今記憶を戻します」 「記憶って?なんのこと……っ!??」
暗さは遠ざかり足元には星空、それを踏みつけるように立っている……思い出した。オレはここでカムクライズルと夢の中で話をした、かなり一方的にだったが。
「……心が読めるのか?」 「読めますよ、というかあなたも僕の考えが読める筈です。今は一時的に二つの人格が一つの脳の夢を共有していますから……単純にあなたは僕の考えを読みたくないんでしょう」 「……脳に関することは慎重にならざるを得なくてな」
そこでオレはカムクライズルの江ノ島のウイルスを希望更生プログラムに仕掛けた理由を知り、そしてオレはそれがなければここにいなかった可能性が高かった事をカムクライズルに告げられた。 そして、カムクライズルはこう言った……「先のわからないことはオモシロイ、だから無謀な事をするあなたを観測出来てツマラナクナイ」と。 なら、この夢にカムクライズルが現れた意味は一つのはずだ。
それ自体もやはり辛かったが、それを実験報告のように未来機関に報告する事も更に辛かった。 未来機関は処刑されて罪の償いをする「超高校級の絶望」ではなくそれと代わりの役割をオレ達に与えた。 人が犯した罪としてはオレ達の罪は死を持っても償えないほど大きい。しかし今の世に絶望の病はあまりに蔓延している。 本当に君たちが絶望から立ち直ったなら、それを証明しろ……絶望の残党の多さとその感染力に対しての対抗策を見つけるために脳死したメンバーを目覚めさせる援助の引換にその過程の全ての報告をオレ達は義務付けられていた。全ては希望あふれる未来のために。 それが時にあまりに非人道的でも、報告を怠れば制裁対象になり兼ねない……未来機関にはオレ達という「超高校級の絶望」に身内や友人や仲間を殺されている人が半数以上を占めている。そう考えると、かなりの温情措置だった。 最初にそれを苗木は悲しいと胸中を告白した、君たちとボク達の違いは学年が違ったこととボクたちが江ノ島のクラスメイトであることだけだったのにと謝罪しようとしたのをなんとか止めた。
「何を言ってるんですか、あなたは?
「あと、実験体をモルモットというと飼育委員が気分を害すると思いますよ。まあ今は自我とか意識がない肉体ですが」 「……お前が田中を気づかうとは思わなかったよ」 「気遣いではありません、僕の才能が自然と教えてくれるんです……まあ実験体扱い、人権侵害は仕方ないんじゃないですか?そうしないと即排除されてしまうでしょうから……つまり利用価値があるうちは処刑はないんですから。
「レンタルですけどね、踏み倒す気がないなら壊さないことです」
存在しないなら、未来機関からの糾弾や処刑は逃れられ、絶望の残党からは処刑されたと判断されてマークから大きく外れる……皮肉なことに存在の抹消がオレ達にギリギリの人権を保障していた。
「くどい」
カムクライズルは味方とは限らない、でも敵にするには恐ろしいし味方にしたらこんな心強い存在はいない……まるでコロシアイでの狛枝だな、と胸中で思うと「しまった」と気がつく。あわてて取り繕うがカムクライズルは明らかに不機嫌になっていた。
「悪かったよ、お前はあいつ嫌いだもんな。確か終わった人間とか思ってたし。 「話をそらさないでください、そんなことはどうでもいい。広い意味では世間で「超高校級の絶望」と呼ばれているので同類といえばそうでもあります……それより呼び出しておいていつまで話を始めないつもりですか、日向創?」
椅子は二つあり、カムクライズルは片方に座ってもう一つを指さした。
「?……さっき入っただろう?皆を目覚めさせる為にお前の手助けが欲しい」
狛枝には似てない、狛枝には似てない、狛枝には……。
「あはは、悪い……全然似てないぞ?あいつは絶望大嫌いだしな」 「自分も絶望になったくせにね。……今あなたが絶望しているのも一つはコマエダナギトのせいですね、成るほどそれ故にあなたが僕を呼んだのならば彼もなかなか「超高校級の絶望」らしいです」 「・・・・・・は?オレが絶望って何の話だ?」 「現在あなたが「現実の」過去の記憶には誰の中にも存在しないで「コロシアイの」過去の記憶のみに存在していることに絶望しているからです」 「・・・・・・なんで」 「同一人物だからですよ・・・・・・ウサミと七海千秋を再構築して、モノクマがいなかった世界の新世界プログラム、通称「アイランドモード」はいかがでしたか?」 「・・・・・・っ!」
それを告白する誰かをオレは渇望していた、だからカムクライズルは現れた。
ウサミは新世界プログラムの基本データとコロシアイ修学旅行のオレたちの記憶、絆、カケラとよばれるそれ……カムクラの言うところのログデータを持っていた。かなりボロボロだったが圧縮された15人分のカケラを大事そうに持っていた。 そしてこう言った、七海を再構築することには新世界プログラム内でアルターエゴが既に成功している。しかし強制シャットダウンの際にオレたち五人の記憶にかなり寄り添っていたのでその余波で消去されかけ、プログラムのどこかに自分を圧縮して眠っている……そしてログデータの鍵を七海が持っているから探してほしいと。 そうすれば希望更正プログラムを再び使うことができるかもしれないと、いつもの頼りない口調のまま画面の向こうのウサミはそう言った。 鍵なんて持っていなくとも七海を探し出すことをオレたち五人は即座に賛成し行動に移した。しかし破壊された巨大コンピューターの膨大なデータの中から探すことはオレたち五人の人生を全て費やしても不可能に近かった。 そうして高度な設備投資が出来たオレたちはやっと七海に再会できた・・・・・・出来た時は七人になったメンバーは泣いていた。そして想い想いに彼女に謝罪と感謝の言葉を述べた。 そして彼女の持つ鍵によって起動した「アイランドモード」、常夏の島で絆のカケラを紡ぐ五十日間……。
「それはよかったですね、わざわざ再構築した甲斐もあったというものです。これを脳死状態のメンバーに使用して覚醒に至るといいのですが、一回目は失敗したようですね?」 「ああ、記憶の定着や書換えは出来なかった。一度脳死レベルまでいった「死んだ」という記憶は鮮烈過ぎて届かないみたいだ・・・・・・今はまだ、な」 「しかし今覚醒しているメンバーにはセラピー効果があったようですね、あなたには逆効果だったようですが」 「そんなこと・・・・・・」
でも覚醒しているメンバーにとっては思った以上に現実に戻った後も、あくまで「もしも」の世界であるとしても希望を持たせてくれた。 誰も捨てないで、誰も欠けないで、進むはずだった未来の可能性は確かにあったのだと信じられた。いつかここにたどり着いてみせると決心もした。 でも、オレは希望を持つと同時に絶望を思い出していた。
「そうですね……案外、僕が手を下さなくともあなたは復活できたのかもしれませんね。だとしたらただ江ノ島盾子に暇つぶし程度の絶望を与えただけで、我ながらツマラナイことをしたものです」 「アイランドの狛枝がある意味一番ショックだった。コロシアイとアイランドモードのあいつは明らかに違いすぎて、あんな平和な顔してるアイランドの狛枝は……オレが江ノ島のアルターエゴを持ち込んだ事を責められているみたいで」 「たった五十日の共同作業で何ができるのか僕としてもあれはいまいち理解に苦しむのですが、あなたを通して観測した結果才能を持つもの特有の孤独感を緩和する力は認められました」 「・・・・・・才能を持つもの特有の孤独感、か」 「しかし、それがあなたにとっては孤独感を感じる原因となったようですね」 「・・・・・・・・・・」
アイランド、コロシアイ。 けれどそれを見て凄絶な過去を持つメンバーは平和な頃の記憶、希望ヶ峰学園での学園生活を思い出すようになっていた。入学式、授業、何気ないやり取り……本科にいなかった予備学科にいたオレには知るはずのない記憶を。 現実の入学後の彼らには「日向創」は存在しなかったのだ。
「当然です。あなたは予備学科で、七海千秋はその頃生まれてもいないプログラムですからね」 「そうだ、オレは確かに才能なんて持っていなくて、予備学科で……本科の思い出なんてあるはずない」
「そこまで思わなかったら、才能を得るために自分なんてささげていないでしょう?」 「・・・・・・っ!」 「そしてそうだったら、僕は今あなたの目の前にいない・・・・・・だから僕に話したかったのでしょう?」
きっとこの孤独感がなければ、才能に囚われていた過去のことなんて忘れていた。
「知っていますよ」 「才能があるから胸が自分に胸が張れるんじゃないって、七海が教えてくれたのに」 「だから彼女には言いたくなかったのでしょう、才能がある他のメンバーにも言えなかったのでしょう」
だから、思う。才能が思い出せないというのは、才能があると思い込んでいたのは・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
才能が輝きながらぶつかり合い、やがて消えていきます。いつものことです。
何でも出来る、それは何にも満足できないこと・・・・・・それはツマラナイ。
きっとそれは、自分はつまらない何の才能もない人間だということが彼の絶望だったから。
まるで「人間」みたいでオモシロイと、もう一度笑った頃夢が覚めて僕は海馬の奥底、記憶の狭間に戻った・・・・・・いつかの再会を楽しみにして。
日向君ハピバー!(一日遅れた、あと祝ってない) 最後に江ノ島をお仕置きしたウサミの解釈って、結構色々別の妄想があったりなかったりで楽しいと思うんだ。 ざーっと考えると強制シャットダウンに対して私はあの二人に関して、 アイランドモードの解釈は我ながらかなり異色な解釈だと思います。 個人的に日向君はつくづく書いててダークサイドに目のつく人間だなあと思ってます(お前のせいだ)。 学校の思い出ってあのメンバーではどうしても共通の思い出になるけど、記憶を取り戻しても日向と七海はそこにはいないよね、と思ったらこんな話になった。あのメンバーが仲良かったのかは不明ですが、入学式くらいは普通に受けているでしょうし、コロシアイのときの様子から結構仲良かったんじゃないかとも思います。 「そもそも日向には何で記憶がないのか」というのが目に付いたのでその辺掘り下げられたら次も書きたいような(ry。
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