「ヴィンセント、遅れたが誕生日プレゼントだ!受け取ってくれ!」
突然開いた扉の向こうに大きなバスケットと掲げた兄の姿を見つけて、ヴィンセントは主への昼ごはんを床に落とした。
そして次の瞬間に裏口へ全力疾走した従者の足に、リーオはきれいに足払いをかけた。
【 楽しい愉しい誕生日の過ごし方 】
失神して五分で主人に麻縄で両手両足を柱に括りつけられたヴィンセントは、珍しくリーオを睨んだ。
「マスター、従者を裏切りましたね」
「うん、ていうか主従のつもりはないけど」
この家出息子がとリーオが睨みつけると、ヴィンセントは無言で目をそらした。
主人は気がついていない、彼の眼光は平均よりかなり怖いのだ。例えるなら、猛禽類に睨まれたネズミを震えさせるように。こんな時だけその眼光に晒されていただろうエリオットに同情する。
怖いマスターに臆病な従者は控えめに反撃した。
「こういう卑怯な真似はよくないと思います、主人としてちょっとアレです!」
「は、卑怯はおまえの専売特許だろ?
いやでも・・・うん、そうだね。僕は卑怯な人間だ、だからお前は今日で従者をやめて実家に帰るってことで」
「まとめないでください!やです!それくらいなら山に籠もります!」
「ちっ・・・・・・引きこもりが癖になってるか」
「あのですね、マスター!自覚なさそうですけど、結構マスターの舌打ちって破壊力がありますから多用しないでください!」
ギャーギャーうるさい従者を無視する。ぐるぐるに縛り付けて床に転がっている従者を見下ろして、リーオはやれやれと胸をなで下ろす。捕獲が成功して、やっと一安心した。
「ヴ、ヴィンス・・・・・・」
しかし、ギルバートは弟が凶悪犯として拘束されているような光景に戸惑いと混乱の境目。
新品のバスケットの新鮮なレースにくるまれた食べ物と手足を迅速に縛られ柱にくくりつけられた弟をおろおろと見比べては顔色を赤青白と変化させていた。
「ヴ、ヴィンス・・・そのすまないな、俺もこうなるとは思ってなくて・・・すまない!そのハンカチを!このハンカチを、床に今ひくから!」
「ギルのバカ!全部ギルのせいだ!もうギルなんて知らない!玉ねぎが値上がりしたのものもギルのせいだ!」
「玉ねぎまでっ!?」
「それは単純に曇りが多かったせいだろ」
いわれのない冤罪(しかもそのことはギルバートにとっても悩みの種だったのに)にショックを受けたギルバートは小刻みに震えて、リーオを振り返った。めんどくさい兄弟だと肩の飼い猫のシロをなでると、なーと同意したように指をなめられた。
「リ、リリリ、リーオ、やっぱり問答無用で鉄拳制裁はひどかったんじゃ・・・いや足止めを頼んだのは俺なんだが」
「鉄拳なんて使ってないよ、足払いして眠り薬嗅がせただけです。
えーっと・・・お義兄さんって呼べばいいんでしょうか?」
「え、いや・・・その好きに呼んでくれれば、いいです」
「なんで敬語なんですか、まあ僕もなんかどっちで話せばいいかわからないけど」
かつて主先の家の息子と使用人だったり、前世からの因縁のある主従の縁だったり、リーオとギルバートの関係は少々面倒くさい。お互いに必要以上の想い入れのない関係だったので、口調一つで不具合が起きてしまう。
ヴィンセントとエリオットのどちらの兄と呼ばれたのか、ちょっと照れてギルバートは頬を掻く。しかし、すぐに目的を思い出しぶんぶんとギルバートは頭を振った。
もう一度振り返るとヴィンセントはきれいに視線を九十度目を反らした・・・また嫌われている、泣きたい。
押したり引いたり、泣いたり喚いたり。そのクセ懲りないばかりで、見ている方が歯がゆい。
(本当に仲がいいのか悪いのか・・・・・・僕一人っ子だからこういうのは、よくわかんないよ、エリオット)
もっとも、この二人を兄に持つと思うとエリオットの方が大変だったのだろうがとまたため息。ため息で嵐が出そうだ、しかし仮にも、仮にも!エリオットの兄たちだったのだ。放ってはおけない。
肩の白い猫に頬を舐められながら紅茶のマグを傾けて、リーオは天井を見上げた。木で組まれた建物はすきま風が多い、窓を見ると木々の葉が落ち始めている。
秋から冬への風景の色彩の変化がリーオは嫌いではない、白い冬に向けて生き物たちが準備をしている姿を見ているとなんだか・・・備蓄にうるさい従者のことを思いだしたのだ、やっぱり嫌いということにしておく。
咳払い。リーオとて何も好きで従者を柱にくくりつけているわけではない。拘束しなければ、この兄弟は一秒以上同じ場所にいてくれないから必要だったのだ。
「確かにヴィンスに会って誕生日の贈り物を受け取る手伝いをしてほしいと手紙で伝えたが・・・・・・なにも問答無用で足払いして、柱にくくりつけなくても」
「この日のために薪を何束縛ってきたか分からないよ」
「マスターひどい!備蓄を覚えてくれたんじゃなかったんですか!?」
「いつからうちの弟は柱コースが決定してたんですか!?」
兄弟そろって口うるさい、再び二人の弟だったエリオットに同情する。
肩に乗っているシロを喉をなでた。シロは相変わらず懐かしいブルーアイで器用に肩の上でバランスをとっている。ここが定住地といわんばかりに。
「あなたの弟の能力を甘く見ちゃだめだよ、これでもこの山の主の大熊と先月死闘を繰り広げて引き分けたばかりなんだ。
その手傷がなければ、いくら僕がなんちゃってマスターと従者でもヴィンセントを五分失神させるのは難しいよ」
「ちょっと待て!何やってんだお前は!大熊!?山の主!?」
「に、兄さんには関係ないでしょ!?
・・・・・・あ、あいつはいけ好かないけど、この過酷な環境で懸命に生き延びてきた奴なんだよ・・・・・・引き分けになったのは残念だけど、僕はあいつと闘えてよかったんだよ」
「心が通じてる上になんか友情っぽいものまで芽生えてる!?」
「人間と友達になれって話だよね」
「マスターだって人間と友達になってくださいよ!」
しかもその伝説(近隣の猟師たちの伝説)の後に山の動物たちはヴィンセントに出会うと静かに道をあけたり、時々小動物に食べ物を届けている。
人間社会ではありまじき歓迎具合だ。今ではリーオも道くらいはあけてもらえる、縁者と認識されたらしい。
(そんな風に馴染まれると、帰らせる計画に支障がでそうだ)
そう思い、ふと提案した。
「あ、そうだ。お義兄さん、このままケーキ食べさせようとしていましたけど、よく考えればこのまま引きずっていけば連れて帰れますよ?
ていうかその方がいいんじゃないですか?そうすれば熊と対決するようなことにもうならないでしょうし」
「え・・・あ、そうかな?」
「よくないですよ!何いってるんですか、マスターが僕がいないと朝食の時間がばらばら・・・・・・んぐっ!?」
「うるさい、お前は大人しく誕生日のごちそう食べてろ」
バスケットの丁寧にローストされた鴨肉の挟まったサンドイッチを二個ほど従者の口につっこんで黙らせる。
「いいから!お前はおとなしくごちそうたべてればいいんだよ!」
「むぐー!」
「ちょ!?リーオ、それはこっちの健康茶と一緒に食べた方が味がいい・・・ってああああああ!?」
リーオは問答無用でヴィンセントの食べ終わりを見計らって魔法瓶からダイレクトに飲ませる。あんまりな暴挙にギルバートは絶叫した。
「リーオ、俺が悪かった!お前に足止めを頼んで、巻き込んで悪かった!
俺が自分でやるべきだった!俺が自分で食べさせるからもうやめてくれ!」
「しょれもいやらー!」
びたんびたんと床で手足の上に口まで不自由なヴィンセントはそれでも異議を申し立てた。その姿にがーん!と傷ついたギルバートはバスケットを握る手から意識が飛んだ。
当然、落下する。
「なー!」
「ね、猫が!?」
「しりょ!?」
重力に従って、どさりと台無しになるはずの誕生日の食事をシロがクッションになるように身を投げ出した。兄弟はこんな時だけ仲良く青ざめた。
あわれ、か細い猫の胴体がごちそうでつぶれるかという直前でリーオがバスケットをキャッチする。
「シロは優しいねえ」
愛猫を潰されかけたリーオは結構怒っていた。かわいいシロがなーなーと再び肩によじ登ってくるから、余計に怒りの温度が上がりかけるが耐える。一応笑ってみせるが、余計に恐ろしく従者はがくがくと震えた。
ようやく口の中のものを飲み込んだヴィンセントはまた青ざめる。シロを傷つけられたリーオは本気で泣いたり笑ったり怒ったりする。今なら直火で焼かれる川魚の気持ちが分かるーー主人の怒りの熱で汗が止まらない。
「猫って、人間より小さいから怪我したら大変なんだよねえ」
「・・・・・・す、すみませんっ」
「ごめんですむことと、すまないことがあるって知ってた?」
「リーオ!今のは落とした俺が悪かったからヴィンスを叱らないでやってくれ!」
「に、兄さんは関係ないでしょ!あっちいっててよ!」
「そ、そんな・・・・・・!」
「ヴィンセント」
りんとしたリーオの声が、響いた。怒りは冷えて、今度は固い意志の気配が場を支配する。
「お前さ、今の事態はお前が招いたってわかってる?お前が帰らない手紙にも返事しないから、お義兄さんは僕を頼ったんだよ?」
「う」
「僕がここに帰ってきてもいいから、実家に日帰りしてこいって言っても聞かないし」
「・・・・・・だって」
「だってなんて言い訳をするような従者をもって悲しいよ」
リーオにはある種の義務感があった。ギルバートとヴィンセント、二人は義理とはいえエリオットの兄だ。
たまにヴィンセントがいて寂しさが紛れるときもある、それは否定しない。でも、エリオットの兄二人が仲良く暮らせる方がずっと意味がある。そっちを優先しなくてはならない。
「マスターは・・・・・・僕がいなくても、どうでもいいんですか?」
また懲りないでそんなことを言う。躊躇いはあった。けれどリーオは冬一番の風のように心を凍てつかせた。
「ああ、どうでもいい。むしろお前がいて迷惑だ、帰ってくれ」
いつまで一緒にいられるか分からないんだから、声音は震えない。だから大丈夫、今みたいにシロが頬をすり寄せてくれる。
「待ってくれ!」
「・・・・・・は?」
急にヴィンセントとの間に割り込んだ存在にリーオは一歩下がった。ギルバートが、ヴィンセントを庇うように立っていた。
「なに、ですか?」
思わず、口調が一貫していないものになってしまう。
「巻き込んで悪かった、リーオ。でもヴィンスに、自分の従者にどうでもいいなんて言わないでくれ」
傷ついたはずだという声にヴィンセントはぽかんとしていた、何でそんなことを兄は言う?
優しいけど、無神経で残酷で、弟の気持ちなんてさっぱり察したこともない兄さんなのにーー今更何で気持ちが通じるんだよ。
「主人にいらないと言われるほど、従者にとって辛いことはないんだ。俺が原因なのは分かっている、でも今の言葉だけは取り消してやってくれ」
「・・・・・・」
「俺が遠ざけられるだけのことはしたんだろう、ヴィンスのせいだけじゃない。だからこれは兄弟の問題だというリーオは正しいと思う。でも・・・・・・どうでもいいなんて言わないでやってくれ」
「・・・・・・な」
「兄として頼む、ヴィンスを、俺の弟を関係ないなんて言わないでやってくれ。主人には分からないかもしれないが、従者は!」
「ふざけるな!」
リーオの声は小屋を震えさせるほど大きかった。
「何を勝手なこと・・・・・・だれが主人だ。従者の気持ちが、僕に分からないはずがないだろ!」
分かっていたといえるのか、分からない。さっきの自分の言葉を本気でエリオットに言われたら?・・・・・・きっと自分の世界は真っ暗になって、粉々になって二度と日も昇らない。それくらい悲しい。
それをヴィンセントに言ってしまった。
(ああ、ごめん、エリオット)
きっと今は僕は君の兄さんを傷つけた・・・・・・従者の気持ちが理解できるのに、傷つけた。君の君の、君のもう残り少ない大切な家族をーーまた僕が無知で無理解だったから傷付けた。
気がつくとリーオはギルバートとヴィンセントに囲まれて、泣いていた。
ギルバートがおろおろしているとヴィンセントに言われて洗面所のタオルを取りに行かせていた。・・・・・・なんだよ、いつの間にどっちがほどいてたんだよ。
そんな風に一緒に行動できるじゃないか。バカな兄弟、素直じゃないエリオットの兄たち。おかげでこっちはみっともなく泣き顔を晒してるって言うのにさ・・・・・・。
「なーなー」
シロだけが変わらずにリーオの頬を舐めていた。
「とりあえず」
わんわん泣く羽目になったリーオは少し腫れの残る顔で遅い昼食の席に着いた。もうお茶の時間に近いが、まあいい。
「とりあえず、三人で食べるってことでいいんだよね」
「はい・・・・・・今だけは」
なにやら後半に小さく付け加えられた気がしたがそれは無視する。やたら沈痛な面もちでヴィンセントが食卓で十字を切った。信仰心なんてないくせに、変な奴だ。
「・・・・・・あ、ああ。・・・・・・リーオはその、平気か?」
「平気ですから、もうさっさと食べましょう」
「なー」
帰す帰らないもその後でいい、そういうことになった。エリオットの兄二人にわんわん泣いた顔を見られた上に、今もびくびくと顔色を窺われてリーオもかなり気まずい。沈黙くらいさせてくれ。
とにかく、誕生日の食事くらいゆっくりとろう(もっともリーオの策略で日付は二週間ほどずれているのだが)。
かちゃ、かちゃ。食卓は無言で進む。半分進んだところで、気まずくなったギルバートが弟に(本人視点では)さりげなく話しかけた。
「さ、最近調子はどうだ?」
「・・・・・・普通」
「風邪は引いてないか?体調は悪くないか?」
「・・・・・・別に」
思春期の親子か。なんともぎこちない、リーオは呆れた。しかし黙っていた、このぎこちなさからしか、きっと始まらない兄弟なのだ。見守ろうと、鴨をローストした豪華なサンドイッチを食べる。
「そ、そそその・・・・・・美味いか?」
「・・・・・・ギルが作ったもので、美味しくないものなんてないよ」
「ほ、本当か!?・・・・・・なら、これからはたまに持ってきても」
「でも・・・・・・ちょっと」
「え?」
「コストがかかり過ぎてない?」
おい何を言い出しやがる、とリーオは食べ物を喉に詰まらせる。この山奥で生活してお前は何を学んだんだよ!節約だけか!?
「えっ…!?」
「塩の分量が多い気がする、そのクセ下味の砂糖は足りない気がするし・・・美味しいけど必要なポイントを抑えきれてない気がする」
悪意は全くない澄んだ瞳が兄を映す。ヴィンセントは真剣そのもので「もっと香料を使えば同じ味が出せて、低コストを維持できる」とか品評を始めた。そういうシーンじゃないだろ、そういうのは料理雑誌の投稿でやってろ!
「俺の、料理は……未熟で無駄が多い……のか?」
「……塩が最近高いんだよね、いやとっても美味しいんだけど……うーん」
そんな悩むほど――まさか料理に、しかも日頃安く良いものをモットーに料理しているギルバートは衝撃を受けた。しかも達人同士、弟の主張は正しいと理解できてしまう。
いつの間にか料理ですら兄は弟に敗北していたというのか・・・いつまでたってもギルバートはヴィンセントにとって頼りない、頼るより自分でやった方が早いと思われる力しかないのか・・・?
「ごちそうにケチりたくない気持ちは僕も分かるけど、これも鶏よりも鳩を使った方が安いし美味し・・・・・・ってなんで叩くんですか、マスター!」
「お前はあああ!このバカ従者あああ!」
「いたいでひゅううう!!」
「・・・リーオ、ヴィンス。長く邪魔してしまったな、俺はもう、帰る・・・」
「ちょっとおおお!?お義兄さん、あなた耐久力低すぎでしょう!?ここが家族愛の見せ所でしょう!?」
「すまない、リーオ。俺は、家族としてまだまだ未熟だった……」
しょんぼりと虚空を見上げる姿にヴィンセントの頬を引っ張るリーオの手が緩む、だめだこの兄、ずれてる…!
対してヴィンセントは何一つ分かっていないようで、頬をさすりながら兄の後姿を、寂しさより驚きの目で見上げた。一体何が兄をそんなうち捨てられた家具のように悲しくさせたんだ?
「え、どうかしたの、ギル?・・・痛い!痛いですマスター!僕が何をしたっていうんですか!?」
「ヴィンス・・・・・・俺が悪かった、いつもお前の方がよくできて・・・・・・俺は誕生日の料理すらまともに作ってやれなくて、ごめんな。次はもう少しちゃんとしたものを作って、お前を養えるようになってくるから!」
呆然としている主従の前で、ギルバートは「風邪を引かないように」と手編みのマフラーと手袋を弟に渡した。
唖然としている間に「弟を頼みます、必ず迎えにきますから」とリーオは真剣な瞳に見つめられた。なんだこれ。
(エリオット、君って兄さんが沢山いるんだね。一人っ子の僕には少しうらやましいよ)
そんなことを昔言ったことを脈絡なく思い出す、その頃には玄関もきれいに掃除してギルバートは消えていた。
「え、なんだよ、ギル?まだ全部食べてないのに・・・一体何だって言うんだよ?」
「しゃー!」
本気で理解していないヴィンセントをシロがひっかいた。わーぎゃーと騒ぎだした二人の家族を見て、リーオは「もうやだこの兄弟」とつぶやく。
そして、あの日兄弟が多くていいねとエリオットに言ったことをもう一度強く後悔した……ボクは一人っ子でよかったんだ、うん。
おわり
あとがき
>
ギルまで登場してしまいました、いや存命していることは書いてたんですけど不思議な気分です。パラレル後日談だからいいんですが、ギルが生き延びれるかまだ分かんないのにという気持ちがどこかにあります。
オズもたまに出したいかも?と思うのですが、私の中ではオズが普通に今の世界を最終回後もいきられると思えていないので、出てません。
最終回でその辺判明したら、リーオと同じ世界線で再会できそうなら出したいなあ。
まあ、オズが無事じゃないならギルも納得した結末じゃない限り、精神崩壊してるだろとも思います。しかしそうだと連鎖的にヴィンスも崩壊するので・・・・・・まあ細かいことは目をつぶります。
2014年 10月
【追記】ちょっと誤字とか、加筆とかしました(10/22)
おまけ→
「 おまけ その瞳の力 」
「あ、外した」
秋の夕暮れ、リーオは鳥撃ちに失敗しました。これではまた従者の捕った肉を食べる羽目になりそうです。いつかは追い返したい主人としては悔しい失敗です。
「どうして銃といい剣といい、僕ってどうして戦闘系の才能ないんだろう」
オズワルドに肉体を貸していた時は大岩でも片手で切断できそうだったのに。がっかりして鳥撃ち銃を足下で静かにしていたシロにぶつけないようにおろします。シロは賢い猫なので、リーオの銃の練習の時は物音一つたてません。
もう今日は帰ろうと銃から手を離すと、一羽の雉と目が合いました。雉の方も驚いたようで硬直しています。
(至近距離、相手は動かない)
ぎらりと光るようにリーオは雉を睨みつけました。できるだけ怖いように、長く硬直してくれるように。
雉はぐらりと足下を揺らめかせたようです。
(絶好の、チャンス!)
しかし、銃を下ろしているリーオはちょっと遅かったようです。あわてて構える前に雉はばさばさと逃げてしまいます。
ちえっとリーオはカラスの鳴く夕日に帰りました。今日は従者は何を作ってくれるでしょうか。
ーーー山にてーーー
雉さん「怖い目で見られた、睨まれた。あれは何羽も殺してきた目だ・・・・・・!」
鳥さん「ああ、あの山小屋のな・・・・・・やめておけ、あの片割れは山の主と互角の存在だ。しかしもう一人の方も・・・・・・眼光なら片方より上だ」
雉さん「ひいい・・・おそろしやおそろしや」
鳥さん「悪いことは言わん、あのあたりに未熟なものが近寄るではない」
>
きっとヴィンセントがいたら「うんうん、マスターの眼光って人が殺せるレベルだよねー」とトークに交わる(そしてまた人間離れが始まる)。
本編のオズワルドバージョンの時の眼光から、頑張れば人が殺せるレベルの眼光を持っているはずなんですよ・・・。