【 知らないのは互いだけ 】
サイド:リーオ
僕はエリオットが大好き、だと思う。
思うとか推測型なのは、どうにも僕が物事を断言するのに恐怖を感じる性格だからだけど…・・・まあ、どう考えても真実だ。
うん、絶対に。
僕はエリオットが世界で一番好きだ。
エリオットは損な性格だ。
短気で頑固な割に賢くて場の空気を察してしまう、そして避けられていること気づいてしまう。
賢いゆえに余計に損をしているエリオットは本当は寂びしがり屋だ。
例えば彼の生家のナイトレイは絶大な権力を持ちながらも何かと不遇な扱いを受け、その陰口にいちいちいらだちを感じている。無視できないのだ。そのくせそれに対してくだらないやっかみだと忘れられない。
ナイトレイの身で何を言っても、世界は変わらないと理解してしまう賢さがある。そして本当は拒絶されたことを寂しがるのだ。
よって余計に疲れてしまう、傷ついてしまう。エリオットは損なタイプだ。
さらに傷ついたことを弱さだと落ち込みもする。負の連鎖。
そんなときは僕は横で本を読む。
すると不思議なことに時間が経つうちにエリオットのトゲトゲしさが抜けていく。
気がつくと手にした本の感想を笑顔で言い合えるようになる。君が笑えて、僕は安心する。
僕はエリオットの従者で、友達だ。
もしかしたら親友といってもいいポジションなのかもしれない。
正直従者としては無能だ。個人的には従者として影のように付き添って、彼の憂いをすべて闇に葬りたい気持ちもある。才能がないから断念してるが。
彼を励ましたり、気を紛らわせることは二年の付き合いがあるからそれなりに分かる。
阿吽の呼吸というやつかもしらない。
笑うときは笑い合い、喧嘩をするときは喧嘩をする。仲直りもはやい。
そんな関係が僕には余りに幸福で、ある日これは夢として消えてしまうのではないかと恐れを抱きさえする。
でも・・・・・・正直、エリオットにはあまり僕は必要ではないと思う。
確かに僕はエリオットにとっても親しい友人だろう。
けれど、親友といってもそれはあくまで今だけのものだろう。
初めて出会った頃、エリオットは家族の外ではいつも孤独だった。だから僕は彼の最初の友人になれただけなのだ。タイミングの問題かな?
エリオットにはもっとふさわしく、そしてもっと付き合って楽しい友人が近い未来現れるだろう。
僕はたまたま隣に初めて立つ存在なだけで、貴族としての悩みの相談相手や剣の練相手には役に立たない。
前述したようにエリオットは絶大な権力を持つ公爵家の息子で、かつ黒い噂がつきまとうナイトレイ家の嫡男だ。そしてそれ故に人から遠巻きにされる。
昔は彼をお坊ちゃんとからかったけど、彼の側にいるといつも周囲の人間が彼を避けていることを感じずにはいられなかった。陰口も聞こえてしまう。慣れていると言ったその口が本当は寂しいと感じていることも。
そんな境遇だから、そういうものに頓着しない後先考えない僕みたいなタイプにそばにいて欲しかったんだ。気持ちは想像できるし、力になりたい。
僕は君が誰かと話をしたかったりそばにいて欲しい時はそれを叶える友人であろうと誓っている(自分に)。
(でもね、本当は君はとても魅力的な人間だから、さ)
いつかその魅力でナイトレイ家のしがらみのことなど撥ね退けてもっと魅力的な友人がたくさんできる。そして、その人達に囲まれて有意義に過ごすんだと思う。
そうあるべきだ。
その時は僕はどうなるのかな。せめて、目に見えないところまで遠ざけられるのは勘弁してほしいな・・・・・・。
僕たちは友達で主従、そして僕は君の初めての友達。
でもね僕の方がずっつずっと君が好き、むしろ依存している。きっと君にとってはただの友人だというのに・・・・・・こんな重苦しい感情は隠しておかないと。
君がいることで僕は世界に光が満ちた、出会えただけで感謝している。
でも君にはもっといい友達がすぐにたくさんできるよ。もっと一緒にいて楽しい友達がたくさんさ。
でも、どうか、それまでだけは一番に側いさせて、ね?
最初の友達の最後のわがままと思ってさ。
ね、エリオット?
「もっと君の役に立てる存在ならよかったよ」
サイド・エリオット
俺のリーオは友人同士で主従だ。
こそばゆいが親友と言ってよい間柄だと思っている。
本の感想を言い合い、ピアノを引けば音が合う。
読書もピアノのも元々好きだったが、二人でその世界を共有できるのは比較にならないほど楽しかった。
信じがたいほど物の見方が変わった。世界が広がった、世界はリーオと見ると別のもののように色鮮やかだ。
青空一つ見ても、昔見た色とは全然違う。そしてそれを美しいと思う心が少しずつ芽生えた。
リーオがいたから、俺の世界は穏やかで美しいものに見ることができた。
きっとこれは奇跡なんだと思う、だって前よりずっと幸せだ。
そんな風に思えることはないままに一生を送る人生の方が多いのではないか、そう感じる。
死んでも口には出さないが、俺はリーオがものすごく好きだと思う。
そして、リーオはまず俺くらい俺のことを気にいていないだろう。
最初からそうだった、リーオは何にもとらわれないで気ままだ。
どんなものにもとらわれないリーオ。せいぜい本とピアノに興味を示す程度の気軽さ身軽さ。
喧嘩をしてもあとにひかない性格のリーオに興味を持って、俺は天使の家に通いきりになった。
その頃は俺がリーオは追いかければ追いかけるほど離れたので、逃げられない為にはどうするかに観察した。
結果、リーオが読んでいる本の話題から少しずつ会話を引き出せるようになった(最後は本の世界入って無視されたけどな!)。
正直その頃から俺とリーオの力関係は変わっていないと思う…正直悲しい気もする。
今でもあいつは何にも執着せず、本ばかり読む。本の読み方もそうだ。俺は特定の作家やジャンルに愛着を持つがリーオは本そのものを愛していてとんでもない速さで多ジャンルを読み上げ、そしてどれにも執着しない。好きな本はあるようだが数度手に取る程度だ。
(そういう所が心配でもあるけどな、まるで消化してるだけみたいで)
思惑だらけの貴族世界でない世界を教えてくれた。自然に話したいことがある関係というものがこんなに世界を変えると思っていなかった。変な話、昔より元気になった。
でもリーオには俺は必要ではない気もする。
一人の方が気楽だと感じていないか。貴族の使用人なんてかたくるしいのではないか。
俺はリーオが凄まじく好きらしい。
気ままでとらえどころがないが、よく会話をするようになるとそれだけでとても楽しかった。
媚を知らない性格は胸の内の黒いものを忘れさせやがて消してくれたし、喧嘩をしてもまた次にという関係に今まにない安心感を感じた。
従者になってもらい、一番側における時は実は相当舞い上がっていた。
その頃はリーオは俺に笑顔も向けるようになっていて、その笑顔が会話の最中に生まれるたび会話していることが楽しいのが俺だけではないと嬉しくなった。
俺はリーオのような従者を、大切な親友をもてて本当に幸せだ。
でも同時にわかっている、気ままなリーオのとっては俺はただの変わった、そして初めての友人に過ぎないのだ。
(俺はただ・・・・・・最初に友達になっただけだ)
リーオは孤児だ、詳しく詮索はしていないが頼れる身内は誰もないんだと思う。
そんな境遇が何にも執着しない性質を作ったのかもしれない。そう思うとやはりこれからは幸せになってほしい。
よく笑うようになり、一緒に学校に通いはじめたリーオはそこそこうまくやっている。
勉学はトップクラス、運動は全くだめ。ただし気ままな性格なのでどちらも気にせずひょうひょうとしている。
結構頼まれれば人に勉強も教えるし(天使の家の子供と同じ要領とかぬかしていた)、マイペースだが確かに今までよりも広い世界に穏やかに関わっている。
そんなリーオは結構魅力的な存在だと思う。・・・・・・きっとすぐもっと気の合う友人を見つけるだろう。
従者だから俺につきっきりだが友人候補のような連中に手を振ったり笑いかけたりしている。しばらくすればもっと友人が増えるだろう。
(うれしいけど、寂しいな)
俺はリーオが側にいて世界が変わった。そして矛盾を知った。
リーオはあまり言わないが今まで不遇だったと思う。そして彼にとっては俺はたまたま最初の友人だっただけなのだ。
孤児という境遇から少し離れたら本来のひょうひょうとして結構優しい性格で他にリーオを大切に思う友人がいくらでもできるだろう。
それを咎めることなんて出来るわけない。
冷たくあしらわれた孤児院に通った日々を思うと俺はそもそもこいつと相性はあまりよくないのかもしれない。
いつかもっと仲のいい友人のところに行ってしまうのではないか、その時俺は今ほどリーオの側にいられるだろうか。
(ちゃんとその時は祝福してやらないと)
俺の初めて従者は、世界でたったひとりの一番大切な友達だ。
でもきっと相手はそこまで思ってくれないだろう、だからせめて主従という絆だけは離さず…もう少しリーオを友人として独占したい。
リーオのやつは、そんな俺に怒るだろうか?
「もっと何か力になれていたらいいのにな」
おわり
距離の測り方は面倒だねっていうばかっぷる。
最終巻発売一周年記念でサルベージ。
私の目には二人ともとても優秀な人に見え、かつお互いを過大評価しているきらいがあるので「他にいくらでもいるよな~、お前はさ~」的なブルーな心境になることもあるのかなと。
2016/06/27