自分と同じ身長のクマは自分と同じ髪の色に似せたふわふわしたからだはあたたかく、同じブルーの瞳は暗い夜でも月明かりでとてもやさしい気がした。 大事な、大事な、俺の友達だった。
学校の寮に母上から届いた大きな荷物を解くと月の色に似たふんわりしたものが「ああ窮屈だった」とばかりに広がった。
「…なんだこれ?」 「何って、お母さんからの君へプレゼントじゃないの?」
大きな包みから現れたのは子供の頃ずっと一緒だったともだち…クマのぬいぐるみだった。 だか、そのまま昔使っていたぬいぐるみではない。明らかにそっくりな新品だった。 その証拠に俺の伸びた身長にみあってかなりでかい。興味深そうに触っているリーオの身長ほどある。おかげてリーオがふわふわした腕や腹に埋もれてしまいそうだ。
「母上、俺はいくら何でももうぬいぐるみをもらう年じゃないってわかってると思ってたのに…」
もうそんな年じゃないと長い間一緒だった「ともだち」と別れるときは大切に箱に入れて部屋の奥にしまった。だから、俺にとっても子供っぽいと一蹴できるものでもない。 でも、これはあの「ともだち」本人ではない。全くの新品だ。 思い出を懐かしむのではなければもう成人を済ませた俺には幼すぎると思うのだが・・・同じ年のはずのリーオは花を飛ばしながらきゃっきゃとまるで子供みたいな様子で届いたクマのぬいぐるみを飽きずに触っている。
「これは俺の知ってるやつじゃない。デザインは一緒だが大きさも違うし何より新品だ。
うまく表現できないようで、少しリーオは考えた後口を開いた。
「クッション替わりかよ……新鮮、なのか?」
孤児のリーオには俺には気恥ずかくなりつつあるぬいぐるみの友人を片時も離さなかった他愛ない幼い時期がないのだ。それを想像もしていなかった俺は少しだけ罪悪感がわいた。 確かに今思い返すと気恥ずかしい気もするが、それでも大切な友達の思い出だ。リーオにそれがないのは……寂しいし、辛い。 だからだろうか、こんな言葉が口を滑ったのは。
しかし、俺は一週間でそれを後悔した。
ぬいぐるみを渡してから、リーオは月の色の綿毛を抱いて本を読んだまま眠っているのことが増えた。前はソファーにもたれて俺と話しながら本を読んでいたことも多いのだが、ぱったり止んだ。
「……すー」 「寝てんのかよ、まあいつもみたいに本読んで夜更かしするよりはいいけどな」 「ん〜…」
柔らかな寝台に安心したのか、リーオはますますそいつに抱きついた。それはもう全身でぎゅうっと。抱きつけばいつもの狂暴さはどこに行ったのか、天使のような無邪気な顔で寝ぼけて笑った。 クマのぬいぐるみの俺に似せたブルーの瞳が優しげに光ってそんなリーオを見守ってていた……なんとなく、悔しい気がしたが気のせいだろう。
「また、こいつと一緒なのか。そんなに寝心地がいいのか?……おい寝るのには早すぎるぞ、起きろ」
なんだか前よりリーオと本やピアノの話をしている時間が減り、リーオがこいつにもたれて本を読む時間が増えた気がするが、多分気のせいだろう……気のせいだ。 もう一度「起きろ」と少し強めにぬいぐるみから引き離すと、リーオは物凄く不機嫌そうに目を覚まし掴んだ俺の手をバシイ!とはたき落とした。…かなり痛い。 痛みに言葉もない俺に見向きもせずリーオはぬいぐるみに再び抱きついた。そして、あっさりまた眠る……寝ぼけていたのだろう、きっと。 ぎゅうぎゅう抱きつかれたぬいぐるみが胸のあたりにいるリーオに向かって傾いて、リーオの肩に手の部分が触れている。……まるで抱き合っているようだが、別に淋しいなんて思っていない。
護衛付きが幸いして、レベイユの下町の方までいけた。もの珍しさも手伝って屋台で簡単に食事をしたり、喫茶店で一緒に長話をした。学校や本やピアノや、他にも他愛ない話をたくさん。 こんな風に話すのはぬいぐるみを渡してからひさびさでついつい長居をして護衛に「もうすぐ日が落ちます」と耳打ちされるまで気がつかなかった。 そして、慌てて学校に帰るとリーオは買った荷物の中から何かを取り出すととんでもない事を言い出した。
「って、ちょっと待て!」
「え〜、いいじゃんかわいくて。それにこの名前最初から首のリボンに挟まったカードに書いてあったよ」
「いいじゃん、僕は君のことエリオットとしか呼ばないんだから。……よし、できた」
「え〜、僕は君をそう呼ばないからいいじゃない」
行けば無関心かかなりかんに障ることばかり言われて散々喧嘩もしたが、どこか初めての解放感も感じていた。 ナイトレイの家名もあり家族以外の世界とは基本的に身構え、気を許せるときなどなかなかなかった。あんな風に「読書の邪魔、暇なの君?」ときつい奴だったがリーオはナイトレイなどみていなかった。ただ「読書の邪魔をしてうるさい」と俺自身に声を向けた。慣れてリーオを怒らせなくなれば、ピアノの音に驚いた。 色々なことがリーオが初めてだった。一緒に喧嘩したり、本を読んだりピアノを弾いたり、笑ったり…家族とは異なる、俺と同じ目線で話をするリーオは俺の大切な存在になって、従者になってくれといった。 その直後には随分な言葉を返された気もするが……リーオは俺の手を取った。 だから、俺にはリーオが必要なのだ。リーオもイヤなら俺の申し出など即座にはねつけたはずだ。だから……
月明かりで優しげに光るブルーの瞳に小さくない声で言ってやった。
おまけ
エリー リーオ エリー リーオ エリー
エリー エリオット エリー エリオット エリー エリオット エリー エリオット エリー エリオット リーオ エリー リーオ エリー
本当におわり
あとがき
ぬいぐるみネタを書きたいと思ったらエリオットの鬼畜ネタから派生した、無機物にまで嫉妬するエリオットになった・・・。 エリーの口調はまんまエリオットでエリオットがダークサイドに落ちて腹黒くなったらこんな感じみたいなイメージ書きましたら、ごめん…エリオットに「自分の欲を認めろよう!」というのスゲー楽しかった・・・。 |