エリオットがおかしい。 それは気持ちが通じてからの変化だった。だからなにを彼が感じているのか察しはすぐついた。 エリオット、君は僕を誤解しているらしい。 君が僕を見つめる時、ふいに手が伸びているのはその先を求めているからなのは知っている。そしてそれを恐れていることも、僕になにか変化を与えてしまうことにためらってしまうことも。 だから、そんな風にソファーで寝るふりをして、僕を見ないように必死で僕を避ける。 でも、エリオット。
君は僕を見る気持ちに色のあるものが混じっていることに戸惑っているようだけど、僕も君の声やふと触れた指先に「もっとたくさん」と劣情をたくさん覚えた。 最初は君を汚しているようで怖かったけど、君が同じ感情を僕に持っていることに気がついた時に僕が感じたのは劣情に似合わないあたたかい恋しさだった。 以前当たり前に触れていた布越しの体温さえ、今はない。お互いにそれ以上の温もりを求めているから、簡単には触れられない。 僕の影の下のエリオットの青い瞳が逸らされた。でも、僕は君の頬に手を回して強引に引き戻した。頬に触れている手が感じるエリオットの体温が僕の心臓を止めてしまうのではないかと錯覚するほど鷲掴みにしているなんて、君は気がついていない。
「エリオット、僕を避けてる?」
「・・・・・・じゃあ、こんなことをしてもいい?」
だからエリオット、僕は君に確かめたいことがあるんだ。 少し決意を固めて僕は上着のボタンを片手で外した。エリオットが何かを言い掛けたが、そのまま中のシャツのボタンを半分くらい外した。 露わになったのはみっともないくらい弾んでいる僕の心臓。掴んでいたエリオットの手をその部分に押し当てる。手のひら越しにこの音が少しでも伝わればいい。 エリオット、僕は知りたい。君が僕と同じ感情を持っていることに気がついた時のおだやかなあたたかさを君も僕に少しでも抱いてくれるのか。
「・・・・・・リー、オ」 「エリオットが欲しいって、思っているんだ。僕はおかしいのかな?」
ようやく押し倒されたのだと気がついたときには、エリオットが首筋にキスを落としていた。八重歯がかすめた感触に身をひねるとさっき心臓に触れさせたエリオットの手がシャツの残ったボタンを外して下腹を撫でる感触に、自分の声とは思えない声がこぼれ落ちる。
「・・・もう止めないからな」
「無理だ、待てない」
シャツ越しのエリオットの心臓は早かった。そのことにひどく安心すると、また自分の声には聞こえない嬌声がもれた。シャツの下を撫でる手は下腹の先に触れていた。
「できない、後声は押さえなくていい。聞きたい・・・リーオ」
心臓がエリオットに近い。音を聞かれているかと思うと歯がゆい気持ちになる。僕だって聞きたい、知りたいんだ、君の気持ちを。 心臓の辺りのエリオットの頭を撫でた。エリオットが顔を上げる気配がすると、頭に軽いキスをした。エリオットが真っ赤になるのに少しあきれる、さっきから僕にもっとすごいことを沢山したじゃないか。しかも、これからも沢山するつもりなくせに。 そっとエリオットの髪を撫でると、訊いた。
「どうって・・・好き、に決まってるだろ」 「うん、ありがとう・・・で、僕いったじゃない、エリオットが欲しいって。どう思った?」
「そうだな・・・安心した、かな。俺も同じ、リーオが欲しかったから」
そんな僕を見てエリオットは余裕なんてないくせにひどく柔らかな声でいう。
具体的に言うとソファーで一回、ベッドで一回だった、僕の髪を梳き続けている手の行く先によっては二回かもしれない(もちろんいやではないが)。さらにベッドではちゃんとその手の行為の準備に必要な道具をちゃんと用意していた(僕もしていたが)。 求めているからなのは知っているつもりだったけれど・・・結論、僕が思っていた以上にエリオットは・・・僕を欲しがっていた。正直驚いた部分も大きい。そんなに求めていたことが自分のどこにあるのかわからない。 でも、今はただ繋がった安堵感に身をゆだねたい。
「え?」 「俺がどう思ったかって聞いただろ」 「ああ、それ。気になる?」
「!!・・・や、ややや、やらしーって、お前!!」 「僕もエリオットをやらしー目で見てたから気がついたんだけどさ」 「!!?」 「なんかそれまでは・・・エリオットに悪いことをしてるみたいで後ろめたくてさ。でも君が同じ気持ちかもしれないと思ったら・・・嬉しかった」 「・・・・・・」 「なんだか本当に嬉しかったんだ、泣きそうなくらいにさ。だからエリオットが同じ気持ちを少しでも持ってたらいいなあと思ったんだよ」 「・・・・・・リーオ」 「なに、エリオッ・・・ん」 「・・・今日はもう我慢しないからな」
泣きたくなる恋しさとやすらかな愛しさの中に僕はもう一度身をゆだねた。
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