リーオとしては本の続きが気になっている途中で眠気が邪魔をしないように開発したものなので味に関しては特に気にしてはいなかったが、眠気が来るときに飲むとカフェインの効果だけではなくて目が覚めるような苦さが結構気に入っていた。 もう片手にはチョコレート、エリオットからもらったものだ。 リーオは貧しい家の出身だったし、母が死んでからはフィアナの家という孤児しかいない環境にいたので、庶民の行事であるバレンタインを知らなかった。 知ったのは「お前ももう俺の従者なんだから・・・ほ、ほら!」というエリオットに差し出された貴族からの贈り物らしくやたらと丁寧な包装されたチョコレートに不思議そうな顔をしていた後に、一向に受け取らないことに心底傷つけられた顔をされたエリオットに後で説明を受けてからだった。 その本を読もうと思って、コーヒーを入れて自分のベッドに積んである本の上に手を伸ばした時、急にエリオットに声をかけられた。 片手に持っているエリオットから送られたチョコレートの綺麗な包装はリーオなりに丁寧に解いたのだが、結局破れて無残な姿になっている。しかたなくせめて小皿にとって(よくみればこの皿も高級品なのだし)、見栄えよくして夜食にして本を読もうと思っている矢先だったのだが・・・。
エリオットはベッドから立つとリーオの傍らに立つ。持っている皿に目をやると自分の贈り物だったチョコレートに目をやると不思議な表情をする。むすっとしているような、でも怒っているわけではなさそうな・・・? 贈り物を読書の軽食にしたことに怒らないまでも複雑な感情があるのだろうか?だとしたら、ちょっとバツが悪い。 キッチンに戻ってチョコレートをしまおうとリーオが足を上げる前にエリオットが口を開いた。青い瞳が不意にそらされて、ベッドの本の山を見て少し視線を下げる
「え〜、苦いのを甘いのが引き立てるから美味しいじゃない?」
「う〜ん、それは悪かったかなと思ったから箱に戻してこようかと思ったんだけど」 「それにいくらお前が苦い味が好きだからって、そんな苦い味と甘いものを交互に食べたらさすがに頭が痛くなるぞ。 「ならないよ、試してみようか」 「って、おい・・・!?」
エリオットには、ずっとそのままでいてほしい。その為になら何度だって死んでもいいのにと、彼が愛読書の一番嫌いな人物のようなことを考える。 固まったエリオットの前で皿を積んだ本の上に小皿を置くとチョコレートを1つ口に運んで食べる、甘い味。そしてマグカップのコーヒーを2口ほど飲んだ・・・・・・うん、別に頭痛なんかしない。確かに苦みがいつもより増した気がするけど、チョコレートは確かに甘かったし、コーヒーもいつも通り。 ほら大丈夫だよ、ともう1つコーヒーを飲んだばかりの口に甘いチョコレートを運ぶ。うん、今度は甘みが増したみたいだ。食べ合わせがいいじゃないかとエリオットに振り替えるとまだ固まっていた。
「え〜、エリオットは味覚がお子様だよ。これくらいの苦さ普通だって」 「それだけは絶対違う・・・まあ、平気ならいいんだが」 「そりゃ、平気だよ。うん、これ美味しいね、エリオットありがとう」
空になった皿を見るとなんだか少しさびしいし、なにより恥ずかしい気もする。これはからかったということにしてみよう。甘すぎる味に濃い苦味で相殺するとマグカップが空になって、いつものようにエリオットに向き直ると呆然とされていた。さすがに全部食べるなんて、やりすぎたかもしれない・・・からかうのはやめとくか。
「いや〜、それだけ美味しかったんだよ。あはは、また僕からもお返しするね。
「これって・・・・・・へ?」
リーオは今世界を見たくないために伸ばした長すぎる前髪に心底感謝した。頬に熱が集まってくるどころか心臓の音がうるさく耳元でなっている。あああああ、どくどくうるさい!何も考えられなくなるだろ、少し静かにしろよ・・・! 最後の指にのこったチョコレートを舐めとるとエリオットは何事もなかったようにリーオに向き直った。
「え、エリオット、街にまで行ったの?なんで?」
「ていうか僕エリオットが街行ったこと知らないよ?街に一人で行くなんて不用心だよ、そりゃ僕はほとんど護衛としての能はないけど連れて行ってくれたっていいじゃないか」 「・・・・・・その件に関してはヴァネッサにこっぴどく叱られた、反省してるからいうな」 「ふ〜ん・・・でも、そこまでエリオットが気を遣ってくれなくてもよかったのに、それなら僕も返さないわけにはいかないよね〜なんにしようかな。コーヒーくらい苦いチョコレートってあるかな?」 「おい!・・・いや、そのお返しは本当にいいから」
確かに、そういう関係になったからって何が特に変わったわけじゃないし、むしろお互いにそう言う空気を避けているところはあるが・・・・・・腹が立つものは腹が立つ。これはこっぴどくからかってやろう。
「ちょ、ちょっと待て!少し近づくのを待て!返してくれるなら、ちゃんと貰うから!貰うから今は近づくな!やばい!」 「はあ?なにそれ?なに限りなくどうでもいい感じの投げやりっぷり、喧嘩売ってるの?」 「(ヤバい、キレる・・・!)わ、悪かった!
ソファーにどんと座ると、背もたれに思いっきり背中を鎮めると足をぶらぶらと振ってみる。なんでこんなことになったんだっけ?今日はエリオットにチョコレートをもらって、ただの習慣からだとしても親しい(いや、確かに親しい以上の関係なのだが)人間として認められている証拠をもらったようでそれだけで十分嬉しかったのだけだというのに。 エリオットが何か物を動かしている音がする。それを聞きながら天井をぼんやりとみれば月明かりがゆらゆらとして、リーオはああ今日は月がきれいだろうなとぼんやりと思う。しばらくその光を見つめているとそれが陰る、エリオットがリーオを見下ろして影を落としていた。 エリオットは奇妙なほど無表情だった。情緒豊かな彼がリーオに向ける表情としては珍しい、どうしたの?と声をかける前にずいっとリーオの前にエリオットの腕が差し出された。 正確には差し出されたのはいくつかの小さな箱だった。さっき貰った高級な包装ではない安っぽいカラフルな包装だった。下町で売っているような、安っぽいけれどどこかわくわくしたような彩りがいくつも並んでいる。
「・・・・・・へ?僕に、また?」 「またとかじゃなくてな・・・その、いつも家族と送るのと同じじゃ、せっかくこんな関係になったのにつまんねえかと思って、何か違うものがないかと思ったからこっそり街に行ったんだが・・・・・・そ、そしたら!知らなかったんだがバレンタインには、こ、ここここ、恋人に贈り物をする日だとかなんとか・・・・・・・」 「・・・・・・え?知らなかったの、ぼくが君から聞いて最初に読んだ本でも真っ先に載ってたのに?」 「!?し、知ってたのか!?」
それをリーオがとっさに手を伸ばして拾い上げようとして拍子にソファーから滑り落ちる。一つだけ掴み取れたが、身を乗り出したせいでリーオはこのままだとあっさり床に衝突するだろう。ああ、僕って運動神経いまいちだよなと近づいてくる床を見て思うとグイっと襟首を掴まれて息が詰まる。エリオットの声が上から降ってくる。
「・・・っ!けほっ、息が一瞬できなかったよ・・・」 「大丈夫か!?・・・・・・だいたい急に身を乗り出したりするから!」 「だって、エリオットが落とすから・・・・・・あーあ、ほとんど落ちちゃった」
「だからってな・・・おい、本当に大丈夫か?どこか苦しくないか?」 「うん、大丈夫だよ。それでさ、なんで?」 「なんでって・・・なにがだよ」 「どうして、これ隠してたの?ていうか、僕にくれるつもりだったならこっちを最初にくれればよかったじゃない?」 「そりゃあっちはナイトレイの一員だからのやつだからというか、それはそれでやりたかったし・・・でも、お前に俺が何かやるのはこれが初めてだからそれとは別のをやりたかったんだが、そしたらあれもこれて勧められて・・・・・・とにかくもう少し座って待ってろよ、もう一回ちゃんとやるから」
「んだよ・・・急に」 「急なのはそっちだよ、こんなにたくさん僕にバレンタインにプレゼントくれるなんてもったいないよ」 「はあ?なんだよ・・・それ」
「返さなくていいんだよ」 「そんなに僕が返すのはいや?」 「いやなわけないだろ、でもお前言ってたろ。贈り物は貰うのは生まれて初めてって」
「・・・・・・ちげーよ、逆だよ」 「どういうこと?」 「俺が、お前にとっての初めて贈り物をするなら・・・なんだか普通に終わらせるのはもったいないと思ったんだよ」
「・・・・・・うん、ありがと」 「それにその返す奴は本当にいいから、お前が下手すると受け取らないかと思ってたから貰ってくれるだけでいいんだよ」 「なんでそういうことになるのさ、受け取るよ」 「いいんだよ、受け取った時点で返してもらったようなもんだ」 「・・・・・・エリオット、もしかして僕が受け取らないんじゃないかと思って隠してた?」 「・・・・・・だって、お前もの貰うの好きじゃないだろ、スターチスの時みたいに」 「嫌いじゃないよ、ちょっとあの時は驚いたからからかっただけで」 「お前のは冗談に聞こえねえんだよ! 「恋人用だから?」 「・・・・・・・・〜〜っ!そうだよっ、悪かったな!」 「え〜、これ君の愛なんだ。確かにちょっと重いな〜」 「お前、言った先からそれかよ・・・・・・」 「だって返しきれないよ、こんなにたくさん「好きだ」なんて言われても」 「ち、違う!そういう意味・・・だけどな。つーか、本当に返さなくていいから、貰ってくれんならそれで本当にいいから」
「へ・・・リー」
終わり
「そりゃ、食って腹いっぱいになったら余計受け取らなくなるかと思ったからな」 「え〜、僕そこまで薄情じゃないよ〜」 「薄情とは思っていないが、お前は気分が変わりやすいからな。満腹の時に食べ物なんて出されたら、「え、なにこれいらない」とか突っ返されるかもしれん」 「そんなことないよ、エリオットからもらうなら宝石でも雑巾でも大事にベッドの上に置いとくから」 「雑巾なんてやるか!それにお前の本の山になってるベッドには置くな、場所がわからなくなるから!」 「え〜、僕には快適な空間なんだけどなあ・・・・・・ねえ、エリオットいい加減ベッドに行かない? 「・・・・・・なんだよ?もう眠いのか?」 「・・・・・・・・・いや、まあいいよ。このまま抱きしめあってるのも悪くないし、朝までこうしてよっか」 「そ、そういうことははっきり言うな!」
(・・・・・・手とが握ったら、どつかれるかな)
終わりの終わり
2012-02-15
そういえばリーオ視点だけで書いたのは初めてですね。背景描写とモノローグと結構ごちゃごちゃしていますね。 冒頭から一貫してエリオットが考えてるのは「やばい日付変わる、早く渡さないと渡さないと・・・!」だけです。指舐めてるのは邪心のかけらもないから始末が悪いです。 |