夢を、見た


ひどく後味の悪い、嫌な夢

ぼくにはなにもできない


喉の奥にいくつも言葉が浮かんで

でも、喉につかえて出てこない


本当は言っても届かないことを確信している

だから、言うのが怖い


ぼくにはなにもできない

それが、一番辛い













言葉に出来ない 後編













「・・・はあ」



ヴォルフラムは大きく息を吐く。ようやく呼吸が元に戻っていく。

力尽き、どさと力なく壁にもたれると尻餅を付きそうになる自分をぎりぎり自制する。代わりに目を閉じるとかすかな風に頬が冷まされた。外れの階段の吹き抜けには光を取り入れるための窓が付いていて、開け放されている。

視界には見慣れた血盟城のものでありながら、どこかよそよそしい空気がきれぎれに映った。滅多に来ない、外れの行き止まり。無我夢中のうちに執務室から離れた場所まで来てしまったようだった。

未だに頬に刺す熱にいらだってヴォルフラムは袖をこすりつけた。しかし、こすればこするほど余計に頬のその熱を増させた。



「・・・・・・あいつが悪いんだ」



何が?・・・何もかもに決まっている。理由なんて数え切れない。



「・・・・・・コンラートが、全部悪いんだ」



確認するために、呟く。袖口で頬のより熱い目元を冷まそうと押さえる。もう一度、呼吸を深くしようと目を閉じると、少し落ち着いた。暗闇の中、もう一度確認をヴォルフラムは続けた。

コンラートが悪い。全部、全部、何もかも・・・・・・ぼくがなにもできないのはあいつのせいじゃないけど。

ぎゅっと目を奥をつむると、奥歯を噛み締める。顔に当てた指先が顔に食い込む。痛い、でも本当に痛いのは。ヴォルフラムはあっという間に自己嫌悪に陥りそうな自分を引き戻すために、ヴォルフラムが一番信じていないいつもの台詞を叫んだ。



「それでも、コンラートが悪いんだっ!!」

「どうして?」



虚を突いたようにヴォルフラムの思考を遮った声はもっとも聞きたくない声だった。

動揺したヴォルフラムが二の句を告げないでいる間に、聞き覚えのある規則正しい足音が壁際のヴォルフラムの目の前に立って、逃げ道を塞いだ気配が漏れた。いつもの彼らしい油断も隙もないやり方。

ヴォルフラムはしばらくその現実を拒否するように、目を強くつぶって顔を逸らしていた。が、ヴォルフラムの予想と異なり、逃げ道を塞いでもそこから追ってくる気はないらしい。

不思議に思ったヴォルフラムは目の前に立っている人物が予想と違っているのではないかと甘い考えを持って、そっと顔を上げて目を開いた。光から逃げていた両目はすぐにはその人物の詳細を教えてはくれなかったが、徐々に薄墨のように輪郭がはっきりする。そして、だんだん、ダークブラウンの髪が揺れている光景が碧色の瞳に映された。

それを確認した途端ヴォルフラムは即座に逃げだした。しかし、壁際に背を預けているまだまだ軍人としての経験が浅い弟が何度も死線をくぐり抜けてきた軍人の兄から逃げることは不可能に近い。案の定、ヴォルフラムが立ち上がる前にコンラートが片足を一歩踏み出して逃げ道を奪う。

逃げ場を失ったヴォルフラムが憎々しげに見上げると、コンラートは目を逸らした。



「・・・・・・?」



訝しく思って、視線を追っても合わせない。何だ、こいつは。人を追いかけて引き留めておいて、目も会わせないのか。いらついて小さな火を灯したヴォルフラムの瞳をコンラートの視線は合わさらなかった。微妙にずれて、白い頬の辺りを彷徨っている。



「・・・・・・そこを、どけ。ぼくに用がないのならお前にかまっている暇はない」

「・・・・・・用なら、あるよ」

「だったら目ぐらい合わせろ」

「ヴォルフこそ何で逃げたりするの・・・俺がなにかした?」



ここ最近のからかう時の口調から、幼い頃に弟を世話していた時の口調にコンラートが戻ってしまっていたのは無意気からだった。そのほんのささいな違いを見分けられるのは言っていた本人とずっと聞いていた彼だけだったが、あいにくにこの場にはその違いを理解できる者しかいない。



「へんな言い方をするな・・・用があるならさっさと言え。ぼくは忙しいんだ」

「忙しい?さっき執務室に来たじゃないか、グウェンダルを手伝うんじゃないのか?」

「・・・そうだ、だから帰るんだ。退け」

「じゃあ、一緒に帰ろう。おれも戻るから」

「・・・っ!ぼくは、今日は練兵があるんだ。だから、お前とは行かない」

「言ってることが違うよ。なあ、ヴォルフ・・・」



コンラートはヴォルフラムが逃げるどころか身動きも出来ないよう黄色が強い金色の頭の両側に手を置いた。びくりとヴォルフラムが退くが壁に遮られて果たせない。せめてもの抵抗に顔をうつむかせる。それになにより彼の姿を見るだけで沈めたはずの眼窩の奥に押さえきれないほどの熱が出口を求めて暴れていた。

それをせき止めるだけで精一杯なのにコンラートは壁際に伏せられていたヴォルフラムの手首に指を絡めた。動揺する弟をなだめるには強すぎるが拘束というには遠慮がちなコンラートの指先はいよいよヴォルフラムのなけなしの理性をますます追い詰めた。



「ヴォルフ、どうして?」

「・・・だ、からっ・・・へんな言い方する、な」

「答えて」

「だから・・・・・・うるさい!お前には関係ない!
離れろ、ぼくから離れろ!触るな、その手を早く離せ、コンラート!」



やめて、これ以上はもう耐えられない。その声をこれ以上聞けばもう・・・それなのにコンラートの指先はまったく離れる気配を見せなかった。それなのに、コンラートは息がかかるほど近いくせ、銀色の光彩をヴォルフラムの碧の瞳に合わせようとしなかった。



「いやだよ」



一方、コンラートはコンラートで追い詰められていた。ヴォルフラムは知らないがコンラートが美香蘭をまとっている。それでヴォルフラムがコンラートから逃げるということ・・・コンラートにその意味はひとつにしか思えなかったが、それをそう簡単には容認はできなかった。

いままで甘い甘い考えに・・・本当は嫌われてなどいない、仲がよかったから隠し事をしていたことを怒っているだけ、本当は拒絶などされていないなどという想いにひそかにずっと浮かれていたコンラートにはひどく恐ろしいことのように思えた。自分の愚かしさ以上に彼から不器用に向けられていたたどたどしい愛情表現がすべて夢想になってしまうことは耐え難かった。



「それとも、俺がいやなだけなのか・・・?それがヴォルフの本心?」

「は?・・・なにいって」

「俺の側にいたくない?同じ場所に立っているのもいやか?」

「なにを、言っているんだ・・・?」

「人間の血を引くものと口をきくのも、顔を見るのも・・・・・・」

「何を分けの分からないことを言っているんだ!!」



ヴォルフラムの叫びにコンラートは笑った。強張った笑みで。



「そうだよな、そんなわけないよな。ヴォルフが俺のこと嫌いなわけないよね」

「い、いい加減にしろ!なんで、なんでそんな、どうしてそんなことを!」

「ヴォルフは俺のことを裏切ったと思ってるかもしれない、軽蔑しているかもしれない・・・でも嫌ってはいないよな?」

「コンラー・・・」



呆然とする弟にコンラートはなおも詰め寄った。



「本当は嫌っているわけじゃないよな、そうだよね?」

「・・・・・・ああ、嫌いだ」

「ヴォルフ・・・?」

「そんなことを言うお前なんて嫌いだ、顔も見たくない!お前なんて大嫌いだ!」



その時、ヴォルフラムはコンラートの瞳と唐突に再会した。滅多に見ないほど暗いその色に驚く間もなくコンラートは立ち上がって、瞳は離れた。望んでいたことだったというに、急に去っていくその気配にヴォルフラムの心は揺れた。

それに気づくことなく信じられないほど暗い声音でコンラートは手首から指先を離すとヴォルフラムに優しい言葉を投げた。



「さあ、執務室に帰るんだ・・・俺は今日は部屋には入らないから」

「・・・・・・え」

「いいんだ、もう分かったから・・・・・・さよなら、ヴォルフラム」

「え・・・コンラート?」



サヨナラ。今朝の夢の中の光景がよみがえった。今よりぼくがずっと弱かった時だっただろうか、彼はそう言って手を振った。見ていられなくて顔を伏せていたぼくはそのときの彼の顔を知らない。



「全くとはいかないけれど・・・できるだけ、もうお前には近づかない」



規則正しい足音ヴォルフラムは声にはせず、叫んだ。行くな!



「ごめんな、ずっと気が付かなかった。勘違いしていた、馬鹿みたいだな・・・でも」



何を言っているんだろう。何も聞こえない、ただわかることは彼が去ろうとしていること・・・雪白色の闘技場で最愛の主に手を差し伸べたくせに異国に残ったように。



「これだけは忘れないで、俺はお前が・・・・ヴォルフ?」

「・・・・かないで」

「・・・・・?ヴォルフ?」

「いかないで!いかないで!いかないで!お願い行かないで、兄上!」



眼の奥から溢れるものを止めることなくヴォルフラムはコンラートに追いすがった。コンラートが振り返る前にヴォルフラムはコンラートの背中から手を回して泣き叫んだ。



「いかないで!いかないでいかないでいかないで、ちっちゃいあにうえ!!」

「ヴォルフラム?一体、お前・・・?」

「いやだいやだいやだぁっ!どこにもいっちゃやだ!!」

「ヴォルフ、どうして・・・」

「おねがいだから、どこにもいかないで!なんでもするから!ぼくはなんでもするからぼくのそばにいてあにうえ!」

「行かない、よ・・・行かない、から。でも、なんで・・・・?」



呆然としたコンラートの声は荒れ狂うヴォルフラムの内に届かなかった。強く握り締めた両腕は、手の平から赤いものが零れ落ちるほどその強さを緩めるどころか増していく一方だった。床に小さな赤い点・・・血が零れることを目の当たりにしてコンラートは顔色を変えた。



「あにうえ、あにうえ、あにうえぇぇ・・・!」

「分かった、分かったから。もういいよ、手が・・・ヴォルフ、もういいから!」

「あにうえ、いかな、行かな・・・・・・う、うわあああぁぁぁ、ああああああああ!」

「ヴォルフラム!」



ヴォルフラムの絶叫が回廊に鳴り響く。そして、次の瞬間に窓が砕ける爆音がそれをかき消した。



























「ヴォルフラム?」



暗闇に三日月の明かりが優しい部屋にコンラートは静かに侵入し、目を軽く見開いた。くしゃくしゃになったベッドの上はもぬけの殻だった。



「ヴォルフ?」



慌てて部屋を見回すと・・・ほっと息をついた。クローゼットの前に投げ捨てられたような部屋履きとグウェンダル特製のナイトキャップ。

顔から緊張を解くとコンラートはクローゼットの前に屈んだ。と、クローゼットからはみ出るネグリジェの端の顔をほころばせた。出来るだけ平静な声でもう一度呼ぶ。



「ヴォルフラム」

「・・・・・・・・・」

「どうしたんだ、眠っているのか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「そうか、眠っているなら仕方ないな・・・・・・抱っこしてベッドに連れて行かないと」

「!?違う、寝ていない!!」

「あ、やっぱり起きてた」

「・・・・・・〜〜っ!」



騙されたとヴォルフラムはクローゼットの中で顔を真っ赤にしてより深く体に巻き付けた毛布をかぶった。全くこいつときたらいついもいつもいつも油断も隙もない!
憤慨するヴォルフラムに対して相好を崩したままのコンラートはクローゼットを開いてその中に毛布をぐるぐる巻きにしたヴォルフラムが見つかった。クスリと笑う。金髪がはみ出て跳ねていた。



「・・・勝手に入るな。出ていけ」

「はいはい、でもちょっと目を見せてごらん?」

「んな!さ、ささ触るな!」

「ん・・・よかった、腫れは大分引いたみたいだな。ギーゼラに感謝だな」



うんうんと頷く顎に触れていたコンラートの手をぱしんと弾くとヴォルフラムは再び毛布をかぶってそっぽを向いた。コンラート腹が立ったというよりギーゼラの恐ろしい声を思い出したからだった。


コンラートすがって半狂乱に絶叫し続けるヴォルフラムは魔力を暴走させてしまった。近場の窓が砕けると同時に小さな炎が周囲に焼け跡を残した。コントロールに置かれていな炎は何かを目標に大きな破壊を繰り広げることはなかったがやみくもに小さな破壊を繰り返し、回廊にかなりの損傷を与えた。外れで誰もいないことが幸いしてコンラートのいくつかの小さな火傷を除いて怪我人はいなかった。


爆音に何事かと聞きつけた兵たちは仰天し、とにかく傷兵のギーゼラを呼ぶという羽目に陥った。軍曹殿の練兵を妨げることは恐ろしかったが、それ以上にヴォルフラムは正気とは思えない様子と自分たちでは近づけないと判断したからだった。

駆けつけたギーゼラに説き伏せられても絶叫を止めないヴォルフラムは緊急措置として魔術で眠らされて、その後はぐったりと眠った。ちなみにヴォルフラムは知らなかったが、実はその後はコンラートは半狂乱になる番だった。ぐったりと眠る弟を呼び続けて離そうとしないコンラートをギーゼラは容赦なく蹴飛ばすと「いい加減にせんか!このヘタレが!!」と散々罵り、最後には「だから貴様は根性無しだというのだ・・・邪魔だ!」とヴォルフラムが運ばれた寝室に付いてきたコンラートを寝室から蹴り出した・・・美香蘭のせいだったかどうかはあえて考えないことにする。

ヴォルフラムは気が付いてみればすでに夜で寝台に寝かされていた。その後はギーゼラに治療を受けながらこんこんと安静にするように眠ってしばらくは何があっても動揺しないようにと説き伏せられたのだ。何度分かったと言っても止めてくれなくヴォルフラムは拗ねると地獄のそこから響くような声で「・・・聞いていますか?」と囁かれ人形のようにこくこくと頷く羽目になった。



「ギーゼラにここに入れてもらえるまでかなりかかったよ。俺のせいなんだから俺が看病した言っていったんだけど」

「うるさいお前なんかがくると・・・〜〜っ!だいだいギーゼラから聞いているんだぞ、美香蘭なんて・・・最悪だ」

「いや、あれは不可抗力で。一応もう香りを落としてきたんだけど」

「だいだいお前がぼくの紅茶を意地汚く飲んだりするから・・・あんな」



ぎゅと毛布を握りしめるとヴォルフラムは押し黙った。コンラートはヴォルフラムの頭に手を伸ばすと優しく撫でた。



「・・・ごめんね、俺のせいで」

「もういい・・・わざとではないことは知ってる」

「でも、俺は沢山ヴォルフを傷つけきた」

「・・・・・・・・・別に傷ついて何ていない」

「うん、でも少しは心配させたんだろう?」

「っ!だから、何でお前は・・・何だそれは」



ヴォルフラムの視線はコンラートの袖口に集中した。暗がりのせいでよく見えなかったが一部の皮膚の色が赤く変色していた。自分がつけた火傷だと悟った瞬間ヴォルフラムの顔色が変わった。



「ああ、これ別に大した傷じゃないから・・・気にする必要はないよ」

「かせ!」



毛布から顔を出して治癒の魔術を唱え始める。



「・・・・・・すまなかったな」

「・・・・・・お前が悪いんだ」



コンラートは驚いた。手の傷が癒えた瞬間にヴォルフラムはコンラートの首に腕を回してしっかりと抱きしめていた。



「お前がいなくなったりするから兄上も母上も、ユーリもどれだけ悲しんだと・・・・・お前のせいで」

「・・・・・・うん」

「いつもいつもなにも言わないで・・・ぼくの話なんて聞きもしない、気にもとめないで」



ヴォルフラムは今朝の夢を思い出した。ルッテンベルク師団として死地に赴き、抜け殻のようになった後にどこかに消えてしまった次兄。最愛の主を得てこの国に留まり続けるだろうと安堵した頃に大シマロンに行ってしまったコンラート・・・どこででもヴォルフラムの言葉にコンラートは耳を傾けもしなかった。


「ヴォルフだって・・・何も言ってくれなかったじゃないか」

「お前はぼくの話なんていつも聞きもしないからだ・・・言っても無駄だと知ってた」



顔を押し当られた首に湿り気を感じて、コンラートはヴォルフラムの背中に手を伸ばして身を寄せた。抱き寄せた温もりにコンラートの中で確かに安らぎが広がった。と同時に彼の香りに動揺した。

自身の動揺のコンラートはさらに動揺した。暖かな弟の体温は昔と同じなようで違っていてコンラートの知らない本音を引き出そうとかき回していた。強張った腕の力の強さにヴォルフラムは身じろぎした。が、しばらくするとそのまま身を任せた。それを確認するとコンラートは心を押さえ込むように腕の力をさらに強めた。



「そう、かな?」

「そうだ」

「そんなつもりは無いんだけど」

「じゃあ、一度しか言わないから聞け・・・・・・もうどこにもいかないで、ちっちゃいあにうえ」



ヴォルフラムはコンラートの見開いた目をのぞき込むともう一度告げる。美香蘭の効果はまだ続いているはずもないのに。それでもヴォルフラムはなおもコンラートの目を見つめ続けた。



「お前の側で生きてきた・・・ぼくはこれ以上離れたくない。お前がいないところで生きていくのはいやだ・・・!っく、お、お前がぼくを、小さい頃にそうしたんだ、責任を、ひっく、とれ、コンラート」

「ヴォルフ・・・」



いつものコンラートという呼び名にコンラートの心は跳ねた。しかし、次の瞬間それはかき消された。



「コンラート兄上!」



寄せられた額にこぼれる金髪の隙間から覗く、濡れて濃い色になった碧の瞳にコンラートは深い罪悪感を感じた。

白い両頬には隠すことなく涙が流れている。平素ではあり得ない弟の言葉にコンラートの心は平静ではいられないほど喜んでいた。それなのに同じくらい兄と呼ばれたことにコンラートの胸中をかき乱した。長らく呼ばれていなかった名前はコンラートに自分たちに流れる血と彼からの愛の形を思い出させた。兄と弟、だと。



(どうして・・・うれしいのに)



あんなに力強く自分を兄と呼んだヴォルフラムをコンラートを心から喜べなかった。どこにも行かないよ、でもお前はいつまで、一体いつまでこんな風に、そんな滑稽なことばかり考える自分に心底嫌気がさす・・・ヴォルフラムは俺のせいで泣いているのに!

ヴォルフラムはしゃくり上げ始めていた。うまく言葉を続けようと息を切らせるヴォルフラムをコンラートは「ゆっくりでいいから」となだめた。しかし、首を振ってヴォルフラムはそのまま言葉を続けた。



「ヴォルフラム・・・俺は」

「・・・・・・二度と、二度と言わないからよく覚えてお、けっ・・・・・・!」



コンラートは止めどなくこぼれ落ちる涙をぬぐうともう一度ヴォルフラムを抱き寄せた。しばらくするとすすり泣く声が聞こえてきてその金髪を梳いた。幼い頃と違う感触に言葉に出来ない感情が指先を一瞬だけ強張らせた。押し付けられた体の線が幼さを残しているだけの成長したものだと伝えてくるたびに深い罪のようなものを感じて、彼の嘆きをただ受け止められない自分をコンラートは責めた。

コンラートはヴォルフラムが望むように自分を誰かの盾にすることを止めることを約束できなかった。こんなにも自分の心は醜い。彼の何分の一でも守るべきところなど無いように思えた。
それでも、お前が望んでくれるならお前を一番側でこんな風に涙をぬぐう役目を自分から離したりしない・・・したくない。

どうしてかはまだ分からない、しかしそれを誰かに奪われることは代え難いことのように思えた。



「・・・うん、覚えておくよ。ずっと覚えおく」



コンラートはヴォルフラムの頬に口付けた。不思議そうな顔をしたヴォルフラムの横でそのまま涙を舐め取る。戦慄いたヴォルフラムに「小さい頃はしただろう」と額に口付けるともう一度ヴォルフラムを抱き直した。動揺する弟にコンラートは何かを見抜かれたような気がして、誤魔化すようにもう一度涙を舌でそっと掬った。

心から慕ってくれるヴォルフラムに対して罪悪感が募る一方だった。俺だって心から愛しているのに、どうしてなのだろう?






言葉に出来ない感情に押されるように、コンラートはもう一度ヴォルフラムの頬に強く口付けた。


























FIN








 





水風さん、遅れましたが何とか完結しました。まとめ切れていないところもありますが、終わりました。

三ヶ月もお待たせしてホントごめんなさい(平謝り)。予定よりちょっと次男がねちっこかったり、三男がびっくりする程素直になったりと右往左往してきましたが何とかか完結しました。

特に次男は「俺のこと嫌いなの?」といわせるつもりが「本当は嫌いじゃないよね、ね?」とか言い出すとは思ってませんでした。最後なんて無自覚のくせに「どうした!?」ってくらいヴォルフに○○ばっかしてます、無自覚腹黒とは恐ろしい・・・。きっと「何でかよく分からないけど、今はしたくてしょうがない」と思ってだけしてます・・・。

当初はラストでクローゼットの中で抱き合うコンプのことしか考えてなかったんですが、あれよあれよと長くなってしました。メロメロになった陛下たちもほったらかしにして、ごめんねユーリ。あ、でもギーゼラは別に次男が嫌いなわけではないです。ただ、このヘタレが!と思っているだけです。(ひど!)


水風さんのみお持ち帰りOKです。





2008/06/04




水風さんがスバラシイイラストを描いてくれました!! こちら




2008/08/06