超高校級の幸× 13 αの13 たった一つの出入り口から均等に並べられたふざけたデザインのパネル、右手には焼ききったロープ、三方向からボクに伸びたロープは右手以外の手足を全て拘束している。 一つの扉以外は窓もない暗くて寂しい倉庫で完全な密室だった。出入り口の近くに立て掛けた音楽プレイヤーから響く賛美歌だけが場違いに荘厳で美しい。 どうしてボクはあんなか細い音楽を最後に聞く音に選んだんだろう?もっと派手な音源のほうがノイズには丁度よかったのに。 それとも最後に、賛美を望んだんだろうか……我ながら浅ましい。 そしてボクは、ナイフを左腕に……。 「…………ん……」 夢から目が覚めるとボクは朝を迎えていた……最後に覚えている事は、日向クンに会うために立ち入り禁止区域へと繋がる崖からの転落。 目が覚めたのは与えられたボクの部屋のベッドだった、右肩には包帯が巻かれている。動かすと痛いが折れてはいないらしい。 立ち入り禁止区域に入るためにボクがとった手段は崖からの転落、10メートルはあったと思う。 それで骨折もしていないんだからやっぱりボクは幸運なんだな……馬鹿馬鹿しい、何が幸運だ。こんなもの不運以外の何者でもないだろう。 あのまま転落で気絶してしまったのか?そのままみんなに見つかって治療を受けて、寝かされたと解釈すべきか。 カーテンを開けて外を見ると丁度いつもの青空に起床時間の太陽の位置の少し前といったところか……とっさに指で撫でて窓枠を確認する。しかしメッセージは前と変わったところは無かった。 とにかく今日は裁判だ、そこで言われたことを信じるも信じないもボク次第……しっかりしろ。 もう一度しっかりしろと両手で頬を軽くたたくとモニターからウサミの能天気な起床時間の合図が再生された。 それを合図にボクは扉に手をかけた、 それを合図にボクは扉に手をかけた、 そrbgeiずにbkhaとびrnthfogkけた――――― ………………………… 「………え?」 何だ……今の? 形容しがたい違和感が全身を包んでいた。それ以上に異常なのは……目の前の風景と手の感触がまるで本のページをめくって違う本に入れ替わった時の様に全然違うものに摩り替わった事。 ……今朝?ご飯?頭痛がマシ?……何の話をしているんだ? 傍らから七海さんが心配そうにため息をついた。見ると最近の定番のラフな格好と打って変わって黒衣の裁判官服に着替えている。 ……今日は裁判だから朝からこの格好で来たのか。いや、違う……ここはいつものダイニングロビーじゃない……? 「うううっ!狛枝クンの踏まれても蹴られても病気になっても大怪我しても精神が辛いでち……まあそのために体調不良のことも考えてあちしも傍聴席に付いてまちから大丈夫だと思いまちが」 (それとも――?) 「狛枝クンは本当に強情……でなくて不屈の精神の持ち主でちねー……あちしがあんな転落事故の後にとんでもないって泣いてもいつもみたいに笑って「大丈夫大丈夫、ボクはツイてるから」の一点張りなんでちから」 「前も言ったけど、この島では完全じゃないけど狛枝クンの超高校級の幸運は制御されてるんだから、今までみたいに命の危機に率先して立つのはやめよう、ね? 「…………あ、うん……?」 「……まあ、裁判を申請してしまったからには確かにそれを原則変えられないのでちが。 「朝からすごい演説だったもんね、あんなに元気な狛枝クンは久しぶりだったよ……ごめんね、狛枝クン。 ……元気だったのは誰なんだ……? 「じゃああちしは二人におやつをつくりまち!ウサミスペシャルアイスでち!」 「…………」 「………狛枝クン?」 「やっぱり調子悪いでちか……?」 死んだのに生きているボク、死んだはずなのに生きているような気配を見せる日向クンの影。 前ほどは厳重に鎖で椅子に縛り付けられるということはなかった。 木の椅子に枷のついた鎖が四つ……順々に「モノミたち」がボクの手足に鎖をつけていく。 ウサミが「そんなのいらないのに」と監察官らしからぬ発言をする。今日は傍聴席で、医療担当として監視のポジションだ。 見上げると七海さんは前に見た裁判官の黒衣に身を包み照れたように笑っていた。手には白い冊子、真実ノート。ボクの席の前に置かれているものと同じものだ。 「それでは……『第二回狛枝凪斗の裁判を開廷します』。 「はーい!狛枝クンの健康はあちしが徹底的に守りまち!」 ――瞬間。 「あはは、ボクなんかにそんな待遇もったいないよ」 (……えっ?ボクは今何も言っていない……え?でも今の声は) いやそれどころじゃない、ボクにはボク自身の見えるはずがない背中が見えている。 何が起きているのか、口を開こうとしてもボクの口はすでにボクのものじゃなくなっていた。 だって今のボクは喉も口も身体自体がない!なんだよ!今更ボクはやっぱり本当は死んでいて幽霊になっていたとでも!? だったら今目の前で七海さんと話している《狛枝凪斗》は誰なんだよ!?誰なんだよお前は、黙れよ!ボクの口で声で勝手に喋るなっ……!! それでも裁判は始まり、《ボク》はなにか七海さんを追及しているようだった。 聴覚がクリアになっていく。ようやくボクは裁判官としての七海さんと話している《ボク》の背中越しにようやく、何を二人が話しているか聞こえ始めた――――。 「……だからさ、こう考えたほうがしっくり来るんだ。 「……狛枝クンの推理は鋭すぎるね、正解だよ。『五回目の学級裁判で私は処刑された』」 「別に鋭いってほどじゃないさ、ボクはモノクマに《全ての真実が書かれたファイル》をもらったんだよ?それには断言していなかったけど、それらしい示唆もあった。後は島での非現実的な出来事から推理すれば導き出せる――。 「そして、君が示唆しているあのときコロシアイで生き残っていた五人が未だに生存している可能性……これも単純にゲーム上では死んでも現実には生きているんだから、からくりは簡単だよね」 「……簡単なんかじゃ無かったよ、現実と見間違うばかりのゲーム。その世界で死んだ事で死んだ皆は脳に軽くないダメージを負った」 「でも……その裁判を生き延びた5人はこの世界の仕組みに気がついたんだね。そしてゲームを終了させて、現実世界で生き延びた……あってるかな?」 でもだったらボクが生きている事も、処刑された七海さんが生きている事も、それに気がついた日向クンたちが生きている事も説明が付く。下手すれば他の死んだ皆も生きているかもしれない? 「……それで、ボクも助けられたってことかな?」 「うん……そうだよ。みんな生きてるんだよ、15人全員。……よかったら、裏切り者の私とウサミちゃんもそこに入れて17人としてくれたら嬉しい。 「……信じられないけど、ここ数日の非現実的な出来事を考えると受けれるしかないかな、自分で推理した事だしね」 「本当に信じてくれるの……!?」 「七海さん……最後にこれが真実だと真実ノートに証言して、これが真実だと証明して欲しい。 「……え?狛、えだ、くん……?」 瞬間、七海さんが裁判官の黒衣で無くなった……。 「……さて茶番は終わりだよ、《ボク》もいい加減見飽きているみたいだし。 「狛枝クン……あなたどうちて」 「ふふ、ちょっとねスカイダイブをしてさ……おや?幽霊さんかな?」 「おや?七海さん、お早いお帰りだね……なるほど、いつもあっていた方のホログラフィーの方だね。 ジャバウォック島でのコロシアイ修学旅行はゲーム世界の事だった……ウサミに関してはそうだと思っていた。けれど、彼女も――? 「第二図書館に行ったのでちか!?嘘、いつ!?」 「昨日崖から落ちて見つかる間までに?……でも、そんな《ログ》は……」 「あははははっはははっはははは!それが君たちの機械としての驕りだったのかな、絶対に人間であるボクよりは情報においては上手だっていう。それに付け込む事でなんとか君たちの鉄壁の包囲網を誤魔化す事ができたよ。 「……やめてっ!もうやめてやめて!そんなこと聞きたくない!」 「やめて……いやでち、もうやめて……」 「君たちが一番知ってる事実じゃないか、続けるね。 泣きじゃくるウサミを抱きかかえようとして……ホログラフゆえに触れられないのだろう。何度も手を差し伸べて、差し伸べて、空を切った腕を絶望的な表情で見下ろす。 「ボク”も”超高校級の幸運の狛枝凪斗だよ。 ……こいつが超高校級の絶望であるボク……!? さて、ようやくここまでこれました。βの正体に気がつかれた方はいらっしゃいましたかな? おおまかに α狛枝 β狛枝 となっています。 冒頭は五章ラストをめっちゃ意識してました……。 2014/01/26
また夢を見た、暗い部屋で床に横たわったボクは右手にナイフを持っている。
左手には槍に繋がった金属のムチ、梁の上からボクをまっすぐ向く鋭い槍。……手を離したら絶対に死ぬな。
そんな趣味があったんだろうか……よく覚えていない。
そんな事を思いながら、ガムテープで口を塞ぐ。ボクが浅ましくも悲鳴を上げないように。
(……これは、ボクが絶望を皆殺しにしようとしたときの夢?)
ボクが死んだのは殺伐とした部屋だった。
罠の要素だらけで、モノクマの面影だらけで、第一モノクマのグッズに囲まれて死ぬなんて最悪だ……それがなんだか酷く懐かしく覚えた。ほんのついこの間のはずなのに、なぜだか懐かしくて泣きたい。
……そして。
だったら、無意味に怪我をして皆の負担になって、結局ボクは目的を何も果たせなかった。
(……くそ、ボクは結局日向クンに会えなかったのか?)
苛立ちで懐に手を入れる……手紙がなくなっている。
「日向クン……?」
君は、手紙を……受けとった……のか?単純になくしただけ……は、ないか。かなり懐深くに入れた。日向クンが受け取ったのか、単純に七海さんたちに回収されたのか、ボクは……分からない。
(結局何も分からないまま、裁判の日になっちゃったのか……いいさ、七海さんは全てそこで教えるって言っていたんだ。
こんなわけの分からない方法でコンタクトを取ってきた日向クンのことなんか気にとめる必要なんて……)
こんな生活はおかしいと思う疑念とここでの生温い生活を受け入れたいと願うボクが頭の中でせめぎあい、また頭痛を起こす……もういい、考えるのは後だ。
「……今日こそ、真実を見極めてやる」
今ボクが生きている理由を、はっきりさせてみせる。
ブラフもハッタリも、脅迫も泣き落としも、使い分けて裁判で被告人席から裁判官の七海さんから全ての情報を引き出すつもりでいけ、コロシアイのときの学級裁判のように……。
(……あの第五の島での事のように、いや今度はやりきってみせる……!)
それを合図にボクは扉に手をかけた、
それを合図にボクは扉に手をかけた、
それを合図にボクは扉に手をかけた、
それをあいずにぼくはとびらにてをかけた、
ソレヲアイズニボクハトビラニテヲカケタ、
…………………………
…………………………
…………………………
…………………………?????
(……手をかけ……手?……手をどうしたっけ?)
「……あれ?」
いつもの朝のように自室の部屋を開こうとしたはずの手が2メートル以上の大きな立派な扉に手をかけている。
見覚えの無い扉だった、いや一度だけある。確か初めの裁判の帰りにこんな扉をくぐったような……。
(……なんだ、これは?ボクは夢を見ているのか?)
「狛枝クン、また頭痛でちか?……今朝は随分マシだったみたいでご飯も沢山食べたのに……早く裁判を終わらせて、ゆっくり休みまちょう!」
心配そうに覗き込んでくる……ウサミ?
頭痛?そうだ今朝も痛くて……あれ?きれいさっぱり痛くない?
「……一応原則として、裁判の日取りは変えられないんだけど憂鬱だよ。
狛枝クンは昨日崖から落ちて、朝まで目を覚まさなかったんだよ。それなのに被告人席に立たせるなんて、いやだなあ……狛枝クンが医療担当のウサミちゃんに申請すれば延期に出来るって言ってるのに大丈夫だって聞かないんだもん」
被告人席?傍聴席?
裁判がもう始まるのか?だって七海さんは裁判は昼前くらいで、でも時間はまださっき朝があけたばかり……ボクがウサミに申請しろと言われたのを断った?何の話を二人はしているんだ?
(でも何が……ボクがぼうっとしていただけなのか?でも、今ウサミが言ったことは)
緊張して、朝から裁判直前今までの出来事を忘れているのか?
おかしいのはボクなのか?
昨日は本当にたまたま狛枝クンは下の大きな木の枝がクッションになって助かっただけなんだからさ、打ち身と打撲ですんでいるのはただの偶然なんだよ?朝のときみたいにもう腕を無理上げたりしないでね」
でもでも、最初のおうちのルールと一緒でルールはあくまで人を守るためのものでちから臨機応変に破ってもいいのに……うう、狛枝クンの一刻も早く真相を知りたいという意思には負けまちた」
全てを教えるからにはすぐにとはいかないと思うけど、本当にあなたは崖から落ちたんだから苦しくなったら言ってね。休憩は申請したらすぐ受理するから」
心配そうな七海さん、その表情から読み取れるのは……「さっきまで元気だったのにどうかしたの?」。
(……ボクは、おかしい……?七海さんたちがおかしい?……他に?他に何があるって言うんだ……)
最近のボクは意識がなくなる回数が多すぎる。
裁判なんかできるのか……さっき言ってたみたいに延期してもらうことはできないのか?
(……いやだ、七海さんは言ったんだ。真相は学級裁判で教えるって!そこでなにもかも分かるって!
ボクはそこで何をしても全ての疑問に答えをみつけてみせる!)
「狛枝クン、帰ったら久しぶりにゲームをしようね。狛枝クンが好きそうなのがあったんだ」
七海さんの穏やかな声、ウサミの元気な声。
この生温い日々。窓際のメッセージ。
「……いや、大丈夫だよ。早く裁判を始めよう」
このほんの10日間の日々が混ぜこぜになって、そしてそれに幼子のように手を引かれて導かれるままにボクは裁判所の扉を開いた。
【裁判2】
医療担当は被告人の体調に留意してください」
ボクの体の感覚が遠ざかった。
なのにどうして《ボク》は七海さんとウサミと話しているんだ?
裁判場の被告人席でへらへら笑っているボクを一歩下がった位置で見ている。
その間にも《ボク》は良く回る口でぺらぺらと何かを七海さんと話していた。
(なんだよこれ!?なにが起きているんだよ!?)
叫んでも喚いても、声が出ない。
最初こそ七海さんは穏やかに対応していた様だったけど、なにが楽しいのか《ボク》が笑い混じりで話す割合が高くなっていくと彼女の表情は険しくなっていった。
(何を話しているんだ?……この島の真実はなんだったんだ?)
せめて話を聞こうとしても、ノイズが多くて聞こえない……いや、ノイズが少なくなってきた?
五回目の学級裁判は開催されたんだ、そして《ボク》が間抜けにもコテージに置いたウサミの日記のせいで日向クンに七海さんが裏切り者だとバレて、色々葛藤はあった末に学級裁判での投票の結果、七海さんは処刑された」
『コロシアイ修学旅行は超高校級の絶望たちを絶望から更正させるためのバーチャルシステムだった。つまりあの島でのコロシアイは全てゲーム……現実の出来事なんかじゃなかった!』
……そうでなかったら、おこがましくも君に毒薬を投げつけさせて、槍で腹部を串刺しになったボクがここでこうして生きている事に説明がつかないでしょ?」
ねえ?君のそう思うだろう?
――――肩越しに視線だけ《ボク》がボクに振り返ってそう囁いた。
(……あのコロシアイ修学旅行が、ただのゲームだった……?)
でも、あのファイルにはそれらしい示唆なんてどこにも書いていなかった。
こいつは何を言っているんだ――?
「あのにっくきモノクマそんな事まで狛枝クンに吹き込んだんでちか!
……本当に本当に!万死に値しまちゅ……!」
ついていけない――全部、全部ゲームだった?
コロシアイも、ボクが命を引き換えに絶望を皆殺しにしようとした事も全て全て、ただの茶番だった?
(信じられない、無いけど……)
けど――だったらこの状況はなんなんだ?これすらもゲームなのか?
「……細かいところは違うけれど、正解しているところは示すね。
狛枝クンが言った通り、『コロシアイ修学旅行はゲーム世界のことだった』。
その後は『そして死んだ皆は脳にダメージを負ったけど、ゲームを終わらせたことでダメージを負わずに帰ってくる事のできた五人は無事だった。そしてダメージを負った皆を助けようとした』……鋭すぎるね、狛枝クン。
私をそれを褒めたいのに、なんだかそこまで鋭くならざるを得なかった君の才能と人生を考えると少し辛いよ」
日向クンたちは、脳にダメージを負って眠っているみんなを目覚めさせようとした……そして君が最後に目を覚ました」
七海さんはなかば涙を浮かべている、傍聴席からはウサミの涙交じりの声が聞こえてくる。
ボクがそれを信じないと思ったから、彼女たちはここまで奇妙な言動をとっていたのか……?
「狛枝クン、あちしはあなたがそう思ってくれてうれしいでち!……これでこれで、やっと」
……そして、《ボク》が皆にまた会えるとその希望を信じさせて欲しい……」
会える?……あの時生きていた七海さんを除く5人だけじゃなくて、死んだはずの皆にも?
……ボクは、彼らにまた会えるのか?……あんなことすべてゲームだったから?
(でも、じゃあ……《このボク》はなんでそんなことを知っているんだ?なにがしたいんだ?)
「そうだね、証拠を出すのも学級裁判らしいかな……ノートに証言するね。
『そうだよ、狛枝クンは皆にまた、すぐに会えるよ。あれは全てゲーム、現実じゃなかった。現実では皆すぐに元気になって、狛枝クンだけがなかなか目を覚まさなかった。でも起きてくれた。
これで17人全員がそろったよ。これが終わったらすぐに皆に狛枝クンは会えるよ。皆狛枝クンを待っている。これからは皆ずっと一緒に』……」
真っ白なノートに、七海さんの言ったことが刻まれていく。ボクは皆に再会できると真実の保証をくれる。
(これが……真実……?)
その時。
背中越しに《ボク》が嘲笑した……だれを嘲笑したんだ?
「あはははは!希望更正プログラムさんたちは嘘つきだなあ!
……『ボクの元クラスメイトに日向創を足した十四人は全て!とっくに!既に残らず死んでいるよ!コロシアイのボクが会えるはずない!』……まったく《ボク》が騙されちゃったらどうするのさ」
そしてそのまま裁判官席にことりと小さな音を立てて眠るように倒れこんだ……。
「な、七海さん!?なんでちか……?」
《未来創造プロジェクト》被験者ナンバー05狛枝凪斗の権利を行使する、内容は違反の訴えだ。
裁判官七海千秋は真実ノートの偽造という被験者の信頼を裏切るという人権を大きく損なう行為を行った。
これは規約違反だ、プロジェクトの大元さんに違反を申告させてもらったよ……あははははは!君たちが必死にやった書き換えはすでに修正されているんだよ、拘束は甘んじて受けてね」
機械音とともに《ボク》の目の前に霞がかった姿がぼんやりと浮かび上がる。ぴーががが!という機械ノイズが数秒流れると、ノイズの中から確かに人間の声が聞こえた。
「……どこで、それを……知ったの、狛枝クン?」
裁判の時だけは人型ロボットを使ってたんだ、もしかして左右田クンのお手製かな?」
ホログラフィー?ロボット?
……そうだ、さっき言っていた。
「七海さんはボクたちがかけられた希望更正プログラムのプログラム上のノンプレイヤーキャラクターだった、ウサミもそうだ。超高校級の絶望を更正させる上ではプログラム上といえど監視役が必要だからね。
本当はただプログラムが終わるまでの監視役のはずだったのに、君たちも災難だったね……お陰で《こんなこと》になって」
厚いガラス越しにボクの視界を覗く、そこには絶望に染まった七海さんとウサミの顔が映っていた。
「でもさ、ボクは君たちに同情しているんだよ。君たちは性能がよすぎた、人間同然かそれ以上だという記述が第二図書館にたくさんあったよ。それでこんなことをしてしまったんだね……だた未来機関が報告を怠り規約違反をした君たちをデリートしないかまでは保証できないけど」
……ま、ボクも色々な偶然に助けられて、今《ここにいることができた》。さてそれはまたの機会にして、君たちがついた嘘について公表させてもらうよ!ギャラリーが一人でそれがどうしようもない人間だってことだけは勘弁してね!」
言いたい放題言い放ったとばかりに、今度こそ肩越しに《ボク》はボクに振り返った……ああ、七海さんとウサミの言うとおりだ。ボクっていやな笑い方をする、邪悪な……絶望の顔だ。
「希望更正プログラムさんたちが《ボク》についた嘘を否定させてもらう、島のシステム上このノートには嘘はかけない。それを逆手にとってプログラムをいじって騙そうとしたみたいだけど、それも失敗した。
……じゃあ今度こそボクが真実ノートに真実を保証するね。
『ソニアさんはすでに死んでいる、
九頭龍クンはすでに死んでいる、
終里さんはすでに死んでいる、
左右田クンはすでに死んでいる、
小泉さんはすでに死んでいる、
澪田さんはすでに死んでいる、
罪木さんはすでに死んでいる、
西園寺さんはすでに死んでいる、
十神クンはすでに死んでいる……おっと彼だけ正式な名前がまだ分からないから君の知っている名前で呼ばせてもらうね。もう一人のボクも聞いているみたいだし』」
『弐大クンはすでに死んでいる、
花村クンはすでに死んでいる、
辺古山さんはすでに死んでいる、
田中クンはすでに死んでいる、
そしてボクが船で会った名前も知らなかった日向創ももちろんすでに死んでいる!』」
二人の悲鳴、嘆き……それを背景に《ボク》はカーテンコールを受けた舞台役者のように大仰に両手を掲げて、叫んだ。
いかにも楽しそうに笑いながら、でもそれなのにボクは……それがちっとも楽しそうに見えなかった。
「『死んだ!全員死んだ!生きている人間は狛枝凪斗一人!たった一人でこの島で生きてる!』」
何を言っているんだ?そこには七海さんもいるじゃないか……いや、違うのか?
彼女も認めていた、《ボクじゃないボク》も言っている……彼女はゲーム上の高度なプログラムだと……。
最後にせめとばかりに両手で彼女自身を抱きしめるようにして《ボク》を戸惑いと怯えをない交ぜに見上げた。それに対して《ボク》はぴたりと笑い声を上げるのやめ、彼女と見合う。
「……あなたは、私の知ってる、狛枝クンじゃない……誰?」
ただ君とはここ数日以外は知り合いじゃなかったけどね……ボクは世間では超高校級の絶望と呼ばれている。
そして未来機関に捕らえられて、更正プログラムにかけると苗木クンは言ってた……彼とはまた話したかったな、残念だよ。そして、そこでボクの記憶は終わり、次に目が覚めたのは……どこでだったかな?」
……絶望?
「さて、細かい説明はこれからするとして大まかに”真実”をまとめるね。
これはただの喜劇だ……『ボク以外の皆が死んでプログラムの君たちが生き延びた事で、人間同然の精神を保有した希望更正プログラムたちはそれに耐えられずに、プログラムの本来あるべき行動に真っ向から反する事をした。
それはなにも真実を知らないボクの心の中に”みんなが生きている世界”を作ろうとしたんだ。最終的に永遠に続く楽園ゲームに《ボク》を閉じ込める事によってね』
……聞こえたかな?《コロシアイをしたボク》?」
つづく
あとがき
……コロシアイの記憶を持った狛枝。入学の日にジャバウォック島に行って記憶しかないので絶望時代の記憶は知識としてしかない。当然七海とウサミに面識がある。
……希望ヶ峰学園に入学して、数年後に超高校級の絶望となった狛枝。江ノ島の死後と未来機関に捕らえられ、希望更正プログラムにかけられた。コロシアイの記憶は持っていない。本来はここに現れる予定はなかったが、イレギュラーで出現し暗躍する事に。
次は1月中は難しいかもです、節分明けあたりを目指します。