バスローブ  エピローグ@












グリエ・ヨザックは頭を抱えていた。いや、眞王に幸運を祈っているといった方が正確なのかもしれない。


(ようやく陛下がお目覚めになって、ヴァン・ダー・ヴィーア島へ向かうための船も船員に小金つかませて調達し、後はもう牢獄から脱けて船に乗り込めば脱出完了だっていうのに、何でこんなに・・・・・・)


ヨザックは元凶の二人を見て再び顔に手を当てて天を仰いだ。二人はヨザックの心の内など知るよしもなくユーリ陛下を挟んで三人で何やかや言っていた。


「おい、ユーリ!!そんなにきょろきょろするな、見つかったらどうする気だ!」

「何だよ、お前の声のほうが響いてるじゃん」

「こらヴォルフ、お前も静かにしろ。それに、脱出するからって手はずは整っているんだからそんなに急ぐな。
ほら、俺を追い越してるだろう、後に下がって・・・・・・」

「うるさい!だいたい何でお前が先頭なんだ。ぼくが先頭になる、お前はユーリと一緒に下がっていろ」

「は?何を言ってるんだお前」

「そもそもユーリとお前が・・・・・・」


あああ、閣下ぁぁぁぁ・・・・・・!


「いや!閣下!閣下は後のほうで後方支援ということで・・・」

「む、グリエ引っ張るな。コンラートが先頭じゃ・・・・・・!」

「俺がどうしたって?」

「いやなんでもないですって!」


ヨザックはこめかみに冷や汗を感じながら、さっきのヴォルフラムに耳打ちしたことを深い後悔と共に思い出した。





『閣下・・・・・・実は、さっきの騒動は陛下に妙な男が目をつけたことが原因でして』

『ユーリに!?
そうか、それならコンラートの行動も納得がいくが・・・・・・全く人間は・・・・・・。
・・・・・・いやでもそれにしてもあれは危険すぎたような、感情的すぎたような・・・・・・』

『えーと、はい、それがどうやら・・・・・・目をつけられたのは隊長もらしくて』

『は・・・?・・・・・・・な、何だって・・・・・・?』

『どうやら変わった趣味のやつだったらしく、それはもう陛下だけではなく隊長にもご執心でした。
あの首筋がたまんないとか、なでくり回してみたいとか、腹黒そうなとこがまたいいとか』

『そ、そんな』

『あまりのセクハラに隊長もちょっと感情的になっちゃったらしくて、ここはその話には触れないでやって欲しいんですが・・・・・・』

『コンラートが・・・・・・・・・・・・分かった、この件に関してはもう聞かないことにする』






あの時はナイス言い訳だと思ったのだ。陛下のことだけでは問い詰めるのを止めそうになかったヴォルフラム閣下でもこんな話をされればもうコンラートを問い詰めることはないだろうと思っての言葉だったのだ。

箱入りのヴォルフラム閣下はそんなことを蒸し返すこともあるまい。それどころかさすがに隊長を心配して態度も和らぎ兄弟仲の修復に一役買って、コンラートに借りを作れるとまで思ったのだが。

しかし、世の中予想通りにばかりはことは進まないようにできているらしい。

ヴォルフラム閣下はコンラートを予想以上に気遣い、心配し、あげく守ろうとしていた。むろん天邪鬼な人だからコンラート本人には見せないようにはしていたが、ヨザックからするといつコンラートにヨザックの発言がバレないか気が気でない。

確かに兄弟仲の修復に一役買ったのかもしれないが、しかしヴォルフラム閣下がこんなに大仰な態度ではいつバレるともしれない。

万が一でも隊長に知られたら・・・・・・考えたくもない。


「閣下、こういうとき敵は後から来るものです。俺の前で後方支援にいそしんでください」

「しかし、それではコンラートが・・・・・・」


ああ隊長。好かれてないと思っているのはあんただけですよ、ホント。

さっきは妙な様子で思わず心配してしまったが、次にヨザックが船室を訪れたときにはコンラートはいつもの胡散臭い笑顔で両脇に陛下と弟を胸まくらして両手に花で、何か吹っ切れたように明るかった。なんだその変わり様は。

「俺の心配を返せー」と胸中で呟くと肩をつかんだままだったヴォルフラム閣下が先頭を行くコンラートとユーリ陛下を落ち着かなさげに見ている。

やれやれと肩をすくめると「隊長は強いんでちょっとやそっとじゃどうにもなりませんし、いざとなれば俺が剣でも投げて助けますよ」と耳打ちすると、いかにも渋々といった様子でようやくおとなしく歩き出す。
ほっとようやく息がついた。

それでも、眼は二人から外さないあたり「執念深いところばっかり似ちゃって・・・」と嘆いたが。



















ヨザック耳打ちの真相(笑)。

こんなこと言われたらヴォルフも黙っちゃうでしょう、さすがに。








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