カルガモ日記  (5〜6まで)




※日記の方で連載していたものです。オールキャラ、やや次男愛されSSです。



















「 カルガモ日記5 」





「コンラッド、無事かぁぁぁぁぁぁ!・・・・って、うわあああああああああ!?」

「あああああああああ!?なんてことだ・・・!?」


厨房にコンラートを救いにやってきた二人は厨房の中を見て絶叫した。

二人が見た光景・・・それは、厨房を埋め尽くすカルガモの群れだった。クエックエッという声が多重音声で嵐のように吹き荒れて、厨房の料理人たちは半ば倒れていた。


「こんなにカルガモが・・・どれがコンラッドなの!?
いや、そもそもコンラッドこの中にいるの!?」

「ぼくに分かるか!?ああ、もう・・・見分けなんかつくか!!
とにかく・・・・・・おい!お前たち、今日は鴨料理は中止だ!中止!!」

「は、はあ、かまいませんが・・・・・・閣下何故?」

「それでいいから!!とにかく今日は鴨料理は中止中止!!とにかく、中止ーーー!!」

「は、はい、陛下の命とあらば。でも、どうして・・・?」

「説明している暇はない!!ユーリ、とにかくコンラートを探すんだ!」

「どう、どうやって!?」

「どうって・・・・・・そんなの分からない」


ユーリとヴォルフラムの間に冷たい空気が流れた。コンラートのことにはそれなりに詳しい二人だがカルガモになったときの見分け方までは分からなかった。


「ユーリ、お前はあいつの名付け子だろう、分からないのか!?」

「無茶言うなよ!カルガモのオスメスだって分からないのに・・・そもそもお前は弟じゃん、わかんないのかよ!?」

「そ、それは・・・む、無理だ」

「そんな〜・・・・・・と、とにかく、ここにいるカルガモたちは全部捕まえて保護・・・・・・」

「おやおやおやおやぁ、大変そうだね。いきなり二人が厨房に走り出したときはどうしたかと思ったんだけど、そういうことだったんだね」

「村田!?着いてきたのか!」

「はあ、ウェラー卿がカルガモにねえ、日頃の行いが悪かったのかな」

「いや、行いとかじゃなくて、アニシナさんの装置から光線からおれたちをかばって・・・・・・何とかならないか!?」


村田はうーんとうなるとメガネのツルを押すと「そうだ!」と手を打った。ユーリには村田の頭の上に光り輝く裸電球が見えた。


「確実な方法とは言えないけど・・・・・・渋谷!」

「は、はい!」

「廊下に出て」

「え・・・・・・あ、はい!それで?」

「そのままゆっくり歩く!」

「はい!」


ユーリは言われたとおりに厨房中に散らばったカルガモをかき分けて歩く。カルガモたちは驚いてクエーと狭い厨房の中へと逃げていった。脅かして足の踏み場を何とか確保しながらも心の中で「ごめんごめん」と謝りながら何とか廊下に歩み出る。


「よし、そのまま歩く!姿勢を正して!」

「よし!」

「威風堂々と、王様らしく、かつ可愛らしく!!」

「う・・・・・・は、はい・・・・・・」

「ムーンウォークでかつナンバ歩行で!!」

「・・・・・・・」


おちょくってるんじゃないだろうな・・・。ユーリの心に疑念が浮かんだ。

しかし、効果は現れた。


グエーグエーグエー・・・・・・


と一心不乱に一匹のカルガモがユーリの後ろを付いてきていた。


「これは・・・」


周りにいるあちらこちらへと忙しく飛び回っているカルガモたちとは違いその瞳にはユーリを一心に見つめるはっきりとした意思が見られた。


「・・・コンラッド?」


少し、よたよたとした足取りだったが、コンラートらしきカルガモはじっと静かにユーリを見上げていた。穏やかな瞳の奥には愛情のようなものが見える(気がする)。


「これは・・・間違いないコンラートだ!」

「いやあ、カルガモに本当になってもやることは一緒なんだからウェラー卿も筋金入りだねえ」

「よかったー!」


ユーリに抱きしめられたコンラートはクエーと以外にも可愛らしく小さく鳴くと顔をユーリにすり寄せた。



























「 カルガモ日記 6 」






カルガモになったコンラートを何とか捜し出した三人(主に捜していたのは二人だが)はさっきの鬼気迫った表情をすっかり緩ませて、グエグエと意外とかわいく鳴くコンラートを囲んでいた。


「よかった、コンラッド見つかって・・・あ、おいおい、くすぐったいって」

「グエッグエッ」

「ユーリ!いくらカルガモとはいえど相手はコンラートだぞ!」

「えー、なんだよ」

「グエー」

「なんだ・・・そ、そんなつぶらな目でぼくを見るな!」

「グエ・・・」

「や、やめろ・・・」

「お前そうやってると一番上のおにーちゃんに似てるよな・・・」

「小さくてかわいいものには弱いんだねー」

「ち、違う、これはカルガモとはいえコンラートだ!小さくてかわいいなんて思うはずは・・・・・・ああもう!コンラートもクチバシとはいえどユーリの頬に口づけするな!!」

「えー、お前も素直じゃないなー」

「クチバシにまでストップをかけるとウェラー卿も大変だね、今は手がないから手も兼ねているようなものだろうに・・・それで、ウェラー卿が戻るあてはあるの?」

「え・・・アニシナさんの魔動装置だからアニシナさんに直してもらう・・・とか」

「アニシナに・・・か?」


ユーリとヴォルフラムは沈痛な面持ちになった。


「ど、どうする、ユーリ。お前の魔力と引き替えにアニシナに頼んでみるか?」

「何でおれだけなんだよ、お前もやれよ・・・いや、ここはつきあいの長いグウェンにアニシナさんを説得してもらう・・・」

「そんなことができるんなら彼はとっくに眞魔国最優秀&皆勤賞もにたあの座を退いていると思うけどね。まあ、でもそれが妥当な選択かな。フォンヴォルテール卿に頼んで・・・」


その瞬間大きな爆発音が血盟城を揺らした。どかぁぁぁんとというすっさまじいがどこか聞き慣れた音にさらに聞き慣れた「ぎゃあああああああああ!・・・・・(ぴた)」という声とともに鳴り響くとユーリは「あーあ」といい、村田は「ありゃりゃ」となぜか楽しげで、ヴォルフラムは顔色を変えて「あ・・・兄上ー!」といって駆け出そうとするのを二人に肩をつかまれて止められていた。
ヴォルフラムをなだめると三人でそっと研究室に赴く。と・・・そこには「カルガモ治療のため集中実験中」と恐ろしい悪筆で書かれた張り紙がでかでかと貼ってあった。「「・・・・・・」」となる二人に村田ののんきに「よかったねー」というと、その瞬間再び爆発音とグウェンダルの絶叫が聞こえた。

コンラートは「やれやれ・・・」といった風にグエ・・・と鳴いた。


















コンラートをカルガモになって三日がたとうとしていた。

その間、コンラートは日頃と変わらずユーリの側についていた。といってももちろん護衛としてではないのでヴォルフラムはこもりきりのまま出てこないグウェンダルに代わって、多めに兵を手配し「今は婚約者兼護衛をやってやる」といっていつも以上にユーリの側に貼り付いていた。

ちなみにギュンターは真っ先に「邪魔者・・・もといコンラートが護衛できないのなら私が、陛下のおそばにぃぃぃ・・・!!」といったのだがいつもは政務を押しつけているグウェンダルが実験室から出てこないので「陛下ぁぁぁぁぁ・・・!」と汁を出しながら政務に没頭していた。

そして、一日も終わりユーリは風呂に入れたカルガモコンラートをヴォルフラムと魔王ベッドの上でごしごし拭いていた。コンラートは意識が残っているのかあまり暴れたりすることはなくおとなしく気持ちよさそうにしている。


「おい、ユーリ。コンラートが少し毛羽立っている。拭き方が雑すぎるぞ」

「え、そうかな?これぐらい強くやらないと水気が取れないんじゃない?」

「時間をかけてやればちゃんととれる。だいたい拭く方向が羽の流れに合っていない」

「なんだよ、おれだってこう羽の下の水気が取れるように考えてだな・・・」

「おやおやおや、相変わらず三人でいつも仲がいいねー」

「うわあ、村田!?」

「い、いつの間に来たんだ、大賢者!?」

「さっきノックして普通に入ってきたんだけど・・・そんなに夢中になっているなんてフォンビーレフェルト卿は本当にカルガモになったウェラー卿に優しいよねー、でもそれじゃ護衛としてはどうかなー」

「う、うるさい!」

「村田、こんな夜中に珍しいな。どうしたの?なんか用?」

「いや、そろそろかなと思って・・・見納めに」

「見納めって何の・・・」


ユーリが言うのを終えるより早く、ばんと大きな音を立てて扉が開かれた。

驚いてユーリとヴォルフラムが振り返るとそこにはちょっとぼろぼろになったグウェンダルが立っていた。扉に寄りかかっているその姿はここ数日の凄惨な日々を言わずとも語っていた。


「グウェン、アニシナさんの実験は終わったのか!?」

「あ、兄上、コンラートは元に戻りそうですか!?」

「二人とも・・・まずフォンヴォルテール卿を心配してあげようよ」

「べ、別に心配などしてもらうようなことではないです、猊下・・・それよりコンラートはどこだ!?」

「え、ここにいるけど」


ユーリは未だ少し水気ののおるコンラートを両手で持ち上げるとグウェンダルに示した。グウェンダルは「よし、そのまま動かすな・・・」と言うとコンラートにちょっとふらつきながらも近寄っていく。


「兄上?・・・どうなさったのですか?コンラートに何を?」

「少し待て・・・すぐ終わる」


そういうとグウェンダルは手に持っていたものを取り出すと、コンラートの頭の上にのせてそのひもを結んだ。


「これって・・・」


それはヘッドドレスだった。白い繊細なレースのヘッドドレスがカルガモになったコンラートの頭にぴったりとのっていた。きゅっと結ばれたちょうちょう結びのひももこった編みのレースだった。

グウェンダルはひとしきりその姿に見入ると今度はまた精緻な編みをしたケープ(カルガモ用)をコンラートにつけてやると村田は「うわあ・・・ピーター・ラビットだね・・・」と呟いた。


「ちょっと・・・グウェン、何してんの?」

「待て、今結んで・・・よしできた!」

「あ、兄上・・・まさか、コンラートを飾りたかっただけ・・・とか?」

「そんなわけがあるか・・・よし、よくできた。では、コンラート・・・聞け」

「グエ・・・・?」


静かな面持ちになったグウェンダルにコンラートは気圧されたように黙る。そんなコンラートにグウェンダルは爆弾発言をした。


「今のお前にもその衣装はよく似合う・・・・が、聞けコンラート、いつものお前も、負けないくらいその衣装は似合うぞ!!」



・・・・・・・・・しーん。



誰も何も言えない、村田やコンラートに出さえ口をきけない沈黙が降りた。

しかし、


「よいですよ!グウェンダル、いい調子です!!」


誰にも破れぬ沈黙を破ってアニシナがやってきた。なにやらいろんなものが飛び出ている金属の箱を手に持っていて、その箱を満足そうに眺めている。



(・・・いったい何が起きているんだろう)



三人と一匹の心は珍しく一つだった。























2007/10/18