カルガモ日記 (7〜9(最後))
「 カルガモ日記 7 」
ピーターラビット風になったカルガモコンラートを中心に囲んだ一同の中アニシナがいつものように必要以上に堂々と胸を張ると自信に満ちあふれた仕草で手にした魔動装置らしきでこぼこした金属の箱を持ち上げてかざした。
「見なさい、このすばらしい輝きを・・・!ああ、我ながら自分の才能が恐ろしい心境です」
「「「・・・・・・・・」」」
「ぐえ・・・」
「あー・・アニシナ。あまりよく理解されていないようだが・・・」
「い、いや!そんなことないって、アニシナさんそれがコンラッドを元に戻す装置なの!?」
「もちろんです、陛下」
アニシナはユーリの目の前にずいっと金属の箱を押し出すと朗々と響く声で言った。響く声だったのかグウェンダルが少し頭が痛そうな表情になる。
「この魔動装置「あるがまーまでうつくしー!」くんはコンラートを元に戻すべく私が作った「真実はいつも一つかもしれない」くんに改良を加えたものです。これでこれっぽっちの問題もなくコンラートは元のそこらの十把一絡げの魔族の男に戻るでしょう」
「えと・・・その魔動装置の名前、どこかで聞いたような」
「よくぞ聞いてくれました!!この魔動装置「あるがまーまでうつくしー!」くんはコンラートをカルガモにかえた魔動装置にいくつか改良を加えたものです」
「ええ、ちょっとそれはまずいんじゃ!?」
「そうだ、アニシナ!コンラートを元に戻すんじゃなかったのか!?」
「早とちりをしないように、ヴォルフラム。そもそも「真実はいつも一つかもしれない」くんはそのものの本性を現す魔動装置・・・つまり、周りのものたちが本音ではその者は本当はこうだと思っている姿に変わってしまう魔動装置なのですよ。つまり、コンラートの本来の姿が元の姿だと皆に思われていなかったことが原因です」
「ええと、つまり」
「つまり、この改良した魔動装置もその者の本当の姿を表すという機能は変わっていません。ただし、こちらは風評ではなく愛情を持った本音が基準となっております。その者のその本来の姿へ持つ本音の愛を原動力とするのです」
「えーと・・・?」
「??ぼくにもよくわからないが・・・兄上がさっきした行動は、もしかして・・・」
「なるほどー、フォンヴォルテール卿はウェラー卿への本音の愛を示すためにウェラー卿を手作りのかわいい小物を贈ってなおかつ本来の姿に似合うって言ったんだねー」
「・・・・・・え、でも。さっきアニシナさん「本音の」愛って・・・」
「あ、兄上・・・・・・」
「ど、どうした、私があんな小さなモノを作るのはおかしかったか?あみぐるみより繊細なモノだが・・・変か?」
「い、いや、変じゃないよ・・・・・・(本音から元々のコンラッドに似合うって思っているんだ・・・)」
「だが、自信作のつもりでな。これを編むのにかなりかかってしまった」
「全く、グウェンダルときたら、いつまでたっても不器用なのですから。合格品が編めるまでやり直し続けたら二日もかかってしまいました、全くこれだから男というものは」
三日間こもりきりだった内二日間は編み物のための時間だったらしい。ユーリはグウェンダルへの「冷静で有能なフォンヴォルテール卿」のイメージがまた一つ「かわいい物好きの兄馬鹿」に近づいたことを感じた。
アニシナは指をぴっとたてると説明を続けた。
「わかりましたか、このようにコンラートの元々の姿に対する愛を持った本音を示すことのエネルギーでこの魔動装置は発動します。ここに満タンになればコンラートは元に戻れる計算です」
アニシナは魔動装置のメーターのような部分を指さした。メーターの三分の一ほどの部分が赤く埋まっている・・・どうやらさっきのグウェンダルの行動は魔動装置に必要なエネルギーの三分の一ほどに大きかったらしい。
「先ほどのグウェンダルの愛かなりのエネルギーが充填されました。兄馬鹿もたまには役に立つものです」
「兄ば・・・!?(がーん)」
((・・・自覚なかったんだ))
「それでは・・・次、ヴォルフラム!」
「え!?ぼくか!?」
「こういうものは身内から先に始めるものです。さあ、早く示しなさい、コンラートへの愛を」
「そんな・・・あ、あいつに愛なんてない!」
頬を真っ赤に染めたヴォルフラムには全く説得力がなかったが、その姿は追求をためらわせるほどには必死だった。まあ、相手がアニシナではなかったらではあったが。
非情なアニシナは円盤状の、村田が見たら「ドラゴンレーダー?」と言いそうな機械を懐から取り出すと、園に点滅する光をずずい!とヴォルフラムの顔に近づけて詰め寄った。
「ウソおっしゃい、すべてはお見通しです・・・・・・この魔動装置「気になるあいつは○×△」によるとあなたはちょうどグウェンダルと同じくらい本音の愛をコンラートに抱いているはずです、つべこべ言わずにさっさと示しなさい」
「そ、そんな・・・無理なものは無理だ!!!」
いつの間にやらアニシナはカルガモになったコンラートをむんずとつかんでヴォルフラムの前にずいと突き出していた。
宙につり上げあれたコンラートはバタバタと水かきで空気を漕いでいる。
「さあ・・・・・・コンラートに「コンラート兄上」だの「ちっちゃいあにうえ」だのさっさと言いなさい!!」
ヴォルフラムはもはや半泣きになっていた。しかし、アニシナの追求は留まるところを知らずヴォルフラムを追い詰めた。
視界の端で婚約者と一番上の兄が心配そうに見ていながらも手を出せないのが見えた・・・大賢者は面白がっているように見えたが。
「さあ、何も考えずにつるっと言っておしまいなさい、さあさあさあさあ!!」
「う、うわ、ア、アニシナ・・・」
「さあ!!」
「ううっ!」
「グエ・・・」
「ほらコンラートも待っていますよ・・・ヴォルフラム?(目がマジ)」
「(ぞく!)う・・・・・・は、はい・・・・・・コ、コンラート・・・・・兄、上・・・・・・!」
(((言った!!)))
アニシナとヴォルフラムをのぞく三人は心中でガッツポーズをとった。
ヴォルフラムは目をつぶっていた。コンラートの目がまともに見れない。六十以上年越しに言う「兄上」がまさかこんなアニシナ言わせられて言うことになるなんて・・・!
苦悩するヴォルフラムには全く頓着せずに、アニシナは魔動装置を見下ろすと眉をひそめて「おや?」と言った。
「おかしいですね・・・エネルギーがたまっていません。
ヴォルフラム・・・・・・・・・さては、あなた本音で言っていませんでしたね?」
「だ、だって・・・それはアニシナが」
「言ったでしょう・・・本音で言わねば意味がないと。・・・・・・さあ、もう一度言いなさい!!」
「そ、そんな無理だ!!・・・・・・そもそも、コンラートが悪いんだ!!
ぼくに何も言ってくれなかったから、いつも一緒だったのに混血だって教えてくれなくて、母上も兄上もギュンターだって知っていたのに・・・コンラートはぼくを弟だと思っていなかったんだ!!
それだったらぼくだってコンラートを、コンラートを兄だなんて、呼べるわけ、あいつがそういうつもりだと思ったから、ぼくは・・・・・・!」
「すばらしい、一瞬でエネルギーがたまりました!!」
「・・・・・・へ?」
「なるほど・・・兄馬鹿には兄馬鹿風にわがままぷーにはわがままぷーらしく愛を示してもらうことが「本音で示す」ということになるんですね!!」
「・・・・・・・え、その」
「予測通り、グウェンダルと同じくらいのエネルギーがたまりましたね、これで後一歩です」
「え・・・いや、その、いまのは・・・ちがううううううううううう!!」
ヴォルフラムは涙をにじませてその場を走り去った。魔王の寝室から飛び出ていくかわいい弟をグウェンダルが慌てて追いかける。
そんな二人を見ながらユーリはアニシナから解放されたコンラートを抱っこしながら「・・・やっぱり、次はおれなのかな?」とヴォルフラムのことはそれ以上追求しないことにした。
可哀想だし。
「 カルガモ日記 8 」
コンラートがカルガモになって三日がたち、いつかといつかと待ち続けていた元に戻すための魔動装置も完成し、そのエネルギーの入手も容易そうだった。
ユーリは安心していた。これでコンラートは元に戻ることができるだろうと、心から安堵していた。
しかし、
「グエー・・・」
「・・・よーし、コンラッド、ちょっとおれのこと呼んでみてくれない?」
「グエッグエッ!」
「「グエ」って呼ぶなよ!名付け親のくせに!・・・・・・アニシナさん、これもダメ!?」
「ダメですね、エネルギーの値が変化していません」
「くっそー!何でだよ、なんでおれだけうまくいかないんだ!?」
ユーリは苦悩して四つん這いになって床の上のカルガモコンラートにあわせていた目線を今度は床に向けてうなだれた。コンラートは気遣うように「グエ・・・」と鳴いたが、ユーリの気は晴れなかった。
「おかしいですね・・・魔動何でも愛情探知機「気になるあいつは○×△」くんによると陛下の名付け親への愛は身内のグウェンダルやヴォルフラムと同等で、三人分の愛でちょうどこの「あるがまーまでうつくしー」くんが発動する計算だったのですが・・・陛下の愛が一向に魔動装置に感知されないとは」
グウェンダル、ヴォルフラムに続いて魔動装置にユーリがコンラートへの愛情を示すことでちょうど魔動装置が発動するのに十分なエネルギーが充填されると聞いたユーリは最初は安心していた。
コンラートへは日頃から色々と感謝しているし、大切な名付け親だと思っている。愛情を示すことが苦手なグウェンダルや素直になれないヴォルフラムより自分なら簡単にコンラートへの名付け子としての愛情を示すことができて、これでコンラートが元に戻ることができると喜んでいた。
が、それはつかの間の話だった。
ユーリは最初は魔動装置に向かって
「こういうことをわざわざ言うのも照れるけどさ、おれコンラッドのこと大好きだよ。いつも頼りにしてるし、ほんとに感謝してる」
といった。さすがに改めて言うと照れが出て目が泳いでしまったが、アニシナに言われたとおりちゃんとコンラートへの名付け子として愛情と日ごろの感謝の念を心に浮かべて言ったつもりだ。
しかし、次の瞬間魔動装置は「エネルギーを感知できません」と無情な機械音で言った。
驚いたユーリは「照れたのがいけなかったのか?」と思って今度はもっと簡単に
「やー、コンラッドってすごいいいやつだよな!」
と言ってみたがこれもダメだった。
次には
「眞魔国でのおれのバッテリーの相棒はコンラッドしかいないと思ってる!」
とも言ってみた。が、結果は同じだった。
見かねた村田が「本音の愛なんだからもっとドラマチックな方がいいんじゃない?」と提案し、ユーリは思い切ってコンラートが地球にユーリの魂を運んだこと、ユーリが生まれる直前に母を助けたことで無事に生まれたこと、眞魔国に来た当初に助けてもらったこと、そのすべてに感謝し、コンラートなくして今の自分はここにいなかった、でももしたとえ彼がユーリを助けなくとも彼自身のことをとても好きだと思っている、大好きな名付け親だと思っている・・・・・・・のようなことを長々と魔動装置に言い続けてみたがこれも同じ結果に終わった。
今度は日頃コンラートとよく話しているような台詞を再現してみたのだが・・・・・・
「なんで・・・?なんでおれだけ?おれちゃんと心から言ってるのに・・・」
「ふむ、陛下にはコンラートへの愛が確かに感知されているのですが・・・何かしらの理由で愛が伝わらないようですね」
「グエー・・・」
「コンラッド、ごめん・・・でもおれもどうしてなのかわかんないんだよ・・・・・・」
「グエッグエッ!!」
うつむくユーリにコンラートは羽をばたつかせた。心配しなくてもいいと言いたいらしい、がそれが逆に辛かった・・・・・・どうしてうまくいかないのだろう・・・・・・。
落ち込むユーリに村田がぽんと肩に手を置いた。振り返るとちょっと困ったような瞳が眼鏡越しに揺れていた。
「・・・・・渋谷、そんなに落ち込むなよ。
大丈夫、ちょっと見てたら原因が何となく分かったから」
「・・・・・・本当か!!?」
ユーリは村田に詰め寄った。今までのやりとりで何が分かったのだろう。自分は精一杯愛情を示したつもりだったことの何がいけなかったのか。
村田は眼鏡を直すと珍しく底意のしれない笑みではない笑みを浮かべると床にいたコンラートをそっと抱き上げると魔動装置に向き直った。
「まあ、ちょっと見ててと、ぼくが一度やってみるからさ。
フォンカーベルニコフ卿、いいでしょ?」
「村田が?」
「猊下がですか?構いませんが猊下では発動に必要なエネルギーには足りないかと思いますが・・・」
「発動の役割は渋谷に任せるよ・・・じゃあいくよ。
えーと、ウェラー卿、君は確かに腹黒いし、笑顔が胡散臭いし、いざという時にへたれて役に立たないどうしようもないやつでぶっちゃけ気に入らないとこもあるけど・・・・・・」
「ちょ、ちょっと、村田!?」
「・・・・・・でも、要領良さそうに見えるのに相手を想いすぎて肝心な所で右往左往するようなやつだよね。どうしようもないけど、そういうところはけっこう好きだよ?」
その瞬間、魔動装置がピコという音を立てた。
「・・・猊下の愛が通じたようですね。グウェンダルの半分程度のエネルギーが溜まりました」
「えー、いやなんか照れるなー。あはははは」
「え、ちょっと、なんで今のはうまくいってたわけ!?
結構コンラッドのことけなしてなかったか!?」
「うーん、まあ愛は愛だよ」
「いや、でも・・・・・・」
「なんというかね・・・・・・渋谷はウェラー卿にこれでもかと愛情を向けられてるから、うまくいかないんじゃないかと。
渋谷の言うウェラー卿は、なんというかちょっと現実のウェラー卿と言うにはフィルターがかかっているというか・・・」
「・・・・・・なるほど、コンラートがやたらめったらに陛下に見栄を張るから、陛下が無意識のうちにコンラートに遠慮してしまうのですね」
「え、いや別におれは」
「無意識にって言ったじゃん。つまりね、ウェラー卿は君にいいとこ見せたいんだよ、だから無意識に渋谷はそれを感じ取って「忠実な臣下で、よい名付け親」のウェラー卿のことを言おうとしてしまうんだよ」
「・・・・・・だって、実際コンラッドってほとんど完璧だし」
「そりゃ、ウェラー卿にはそんなところもあるけど、君も付き合い長いんだからウェラー卿がそれだけじゃないところも分かってるでしょ?
やっぱ愛ってのは相手の全てを分かってこそだって言うしね。渋谷がウェラー卿の望みに合わせて、ウェラー卿のいいところばっかり連想して言うから、そうじゃないところも分かっている渋谷の愛が示せていないんだろうね」
「・・・・・・だって、グウェンだってかわいいフィルターがかかったし、ヴォルフだって全然ありのままの愛情なんて示してないじゃん」
「あの二人はさすがに家族だからね、ウェラー卿が精一杯見栄を張っているのも分かった上でそれに合わせずぎずにああいう風に想ってるんじゃないかな?」
それに、と村田は胸中でだけ語尾に加えた。渋谷もウェラー卿に関しては婚約者に負けないくらい意地っ張りだからね。もちろん全部ウェラー卿のせいだけど。
「・・・・・・・・・・・」
「渋谷は、完璧じゃないへなちょこなウェラー卿のほうがホントは好きなんじゃない?だから・・・・・・」
「・・・・へなちょこっていうな。あー!分かったよ、考えるよ!
コンラッドの完璧じゃないところ、コンラッドのダメなところ、コンラッドがへなちょこなところ・・・・・・」
「いや、別にダメなところ限定で考えなくてもいいんだけど・・・・・・」
そのままユーリはしばらく一人でうなっていた。
村田の時間がかかるという予測とは裏腹に、あまり時を待たずしてユーリははっきりと決めたようにすっと顔を上げると床の上のコンラートを抱き上げて胸に抱きしめた。
そして、ユーリは魔動装置に向かって思いついた言葉を言った。
こうして、コンラートは元の姿に戻った。
「 カルガモ日記 9 (おわり) 」
「それで、なんて言ったんですか?」
「・・・・・・・・・」
ここ数日同じ質問ばかり繰り返すコンラートにユーリはそっぽを向いて手にした袋の中の乾燥した穀物を一掴みほど「グエグエ」と騒がしいカルガモたちにばらまいた。
血盟城の昼下がりの中庭でユーリとコンラートはあの騒動以来すっかり居着いてしまったカルガモたちにエサをやっていた。あれ以来しばらくは鳥を食べる気にもなれず、カルガモに至っては一生食べる気になれない、そんな魔王とその側近たちの思惑を映してカルガモたちはそのまま血盟城に飼われることになっていた。
コンラートは顔色1つ変えずにいつものさわやかな笑みを浮かべて、なおも追求をあきらめなかった。
「それで、陛下はなんて言ったんですか?」
「・・・・・・」
「グウェンに聞いてもなんか目を泳がせて妙にそわそわして「もう少しで完成するから、待っていろ」というだけだし、ヴォルフに聞いても「何も知らない!」の一点張りだし、陛下も教えてくれないんですか?」
「・・・・・・・・・陛下って呼ぶな、名付け親」
「思い切ってアニシナに聞いてみたら「実験は成功しました、問題ありません」で、最後の砦と思って猊下に聞いてみたら「あはは、あんな面白いことはなかったよ〜。ウェラー卿は愛されてるね、君の思惑とは少し外れたとこでだけど」と。どういう意味なんでしょうね、ユーリ」
「・・・・・・・あーあ、なかなかこいつら「グエグエ」うるさいなー。コンラッドは結構静かにしてたんだけど、アレはやっぱりコンラッドだったカルガモなんだったんだねー」
「・・・・・・ユーリ、質問をそらさないで」
「べつにーそんなたいしたことは言ってないって、何度も言ってるじゃん」
「ユーリ」
「だから、言うようなことじゃないって!!」
コンラートが元の姿に戻って一週間がたっていた。元に戻ったコンラートはしばらくは惚けていたがすぐに元の調子に戻って翌日にはユーリの護衛として復帰していた。
そしてしばらく後ユーリたちは知った、コンラートはカルガモになっていたときの記憶が全くないことを。
それなら、是非あのことはなかったことにしてもらいたい。幸いアニシナさんはすぐに別の実験に興味が移っていたし、村田にも「もし喋ったらメガネにマジックで「はらぐろ」って書く」と必死に脅して(明らかに通用していなかったが、コンラッドが右往左往とするのを見ている方が面白いと思って協力してくれる気らしい。意地悪メガネめ。)口止めしておいたから大丈夫・・・・・・。
だと思っていたのに、予想以上にこの名付け親はしつこかった。
「ユーリ、聞いてます?ヴォルフから聞き出したところ何でも俺への愛を示すことで魔動装置を発動させて俺が元の姿に戻ったらしいですが、ヴォルフにどうやったのか聞いたら「うるさいうるさいうるさい!ぼくはお前なんてだいっきらいだーーー!」とか傷つくことをいって走り去って言ったんですよ。ひどいと思いませんか?」
「・・・・・・おれはそうなるって分かってヴォルフに聞くコンラッドも意地悪だと思うけどな」
「とにかく、俺への愛をみんなが示してくれたなんて俺がその内容が気にならないわけがないじゃないですか。だから、陛下が教えて俺の疑問を解決してほしいんです」
「断る」
即座に言う。ここ数日一日何回このやりとりをしているだろう?」・・・・・・十回以上だな。
ユーリに教える気はなかった。
グウェンダルの愛の真相は近日中に分かるだろうし、「・・・・・・驚くだろうな」とこっそり執務の合間にせっせと成人魔族サイズのヘッドドレスとケープを作っているグウェンダルを見ているととても悪くてコンラートへ教えてやることなどできない。
ヴォルフラムのことは・・・・・・まあ、言ってもいいかもしれないがどちらかというと本人たち同士の問題という気がするし、半泣きで走り去っていったヴォルフラムのことを思い出すとさすがに可哀想で教える気にはなれなかった。
まあ、村田のことは言ってもいい気がしたが、半分悪口のような気がしたし1つ教えて「それで、他は?」となりそうなのでやめておいた。
頑ななユーリにコンラートは珍しく、ちょっとむくれたような顔をした。
「なんでですか?・・・・・・せめて、ユーリが何を言ったか教えてくれたっていいでしょう?」
それだけは絶対にお断りだ!!!
・・・・・・一週間前、ユーリがカルガモコンラートを持ち上げて目の前に持っていき目を合わせて、その先の魔動装置に言った言葉、それは・・・・・・
「おれコンラッドのこと、色々欠点あるけど・・・・・・好きだよ、たとえ・・・・・・・っ」
「魔動装置に反応があります!!」
「いいぞ、渋谷!そのまま・・・・・・!」
「・・・・・・お、おれコンラッドとずっと一緒にいたいんだヨルダン・ハシミテ王国っ!!!」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・と、とか、いうような、ことを・・・・・・言っちゃうようなことが・・・・・あったとしても」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・なんちゃって、あは、あははははは・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あははは、あはははは・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・渋谷」
「やめろー!そんな目でおれを見るな!今のなし、やっぱなしー!・・・・・って!?」
次の瞬間。
ぼんという音を立てて、ユーリの手の中のカルガモはコンラートの姿に戻った。
あれだけはぜっっっったいに誰にも教えない。
というか、自分でも思い出したくない。人生でもっとも思い出したくない思い出トップ10にはいるであろう恐ろしい記憶だ。何故、あんなこと言ったのか・・・・・・コンラートの欠点のことばかりのことを考えていたら、やっぱギャグ?という結論から頭が離れなくなったのが原因なのか・・・・・・。
とにかく、死ぬまで封印しておきたい過去だ。誰にも言う気にもならないし、特にコンラートに言ったら・・・・・・喜んで例の黒革の手帳を取り出して何か言い出す気がする。
・・・・・・それだけは阻止しないとならない。
「ねえ、ユーリ。ユーリのことだけでいいので、教えてくださいよ。ユーリ」
「こーとーわーる!」
「・・・・・・ひどいですね、ユーリには俺への愛がないんですか?」
「うるさいうるさいー!言わないったら言わないんだー!」
ああもう、愛があるから、そんな欠点もあってもいいと思っているのに。
いつまでもしつこい名付け親に、ユーリは舌を出して「べー!」と言って、走り出して逃げ出した。
その後コンラートの「何をしたんですか」攻撃は一ヶ月以上続いたが、ユーリは結局最後まで口を割らなかった。
終わり
ちょこちょこ修正しつつもあんまり変わりませんでした。
次男がグエグエ鳴くのでうっかりかわいく思ったのはないしょです。
2007/10/18