ぽっかりと空いたまどろみの空間。不意に現れた心の隙間。主が眠るその場所で邂逅するものたちがいた。
「分からない、どうして君がここにいるの?」 「おれだって知らない・・・何故だ、お前に会うことなんて有り得ない、不可能なのに」 「うん、有り得ない・・・ねえ、君の仕業?」 「・・・・・・」
「おれたちが会えるはずない、入れ替わるだけなはず」 「ああ・・・とうとう更に狂ったか?分かりきったことをずるずる先伸ばしにばかりするから、余計なことばかりして」 「・・・・・・分かりきったことではないよ」
「ね」と月光のような白い影がまどろみの主の上を横切った。人の形に似たその影は同意を求めるように揺らめいた。その行為に黒い影が苛立った。忌々しいと、まどろみの主の喉元に影を落とす。
「だめ、待って。言っただろう、まだ分かっていないって・・・ほら、ヴォルフラムもそう言ってるよ。ね、ヴォルフ」 「その忌々しい人形ごっこをやめろ、ヴォルフラムに対する侮辱だ・・・ヴォルフラムはもう、いない」
まどろみの主がぴくりと身体を震わせた。黒い影がそれを見て嘲笑う。白い影はそれを咎めない。主を痛めること、主は決して禁じなかったからだ。そのくせ、無理な奇跡を探して「自分」を作った。いや、「自分たち」を、だ。いやいや、正確に言えば・・・・・・。
「そうだ!そして殺したんだ、その汚い右腕で!人形がヴォルフラムの代わりになんかなるもんか!分かってるくせに、おれのやり方しかないんだ!」 「・・・大きな声を出さないで、ヴォルフが驚いちゃうよ。 「ふん、それは人形だと言っている・・・お前を殺す?妙なことを、お前をまだ殺すなといっておきながら」 「くすくす、そうだね。おれは君を殺さない、まだ」 「さっさと殺せ、ヴォルフラムを殺した罰だ」
「はっ・・・限界?何の?このくだらない人形ごっこのか?くだらないくだらない、結論を先伸ばしにしているだけだ。結論はもうでているんだから、まさか命が惜しいのか」 「まさか、惜しいはずもない。差し出したいくらいだ。でも、まだ結論はでていないよ」 「馬鹿馬鹿しい、おれの結論以外はない、有り得ない」 「それは楽になるだけだよ、ヴォルフラムの死に見合わない。君がおれにそういったんでしょ?それを探してこいって、どんなに時間をかけてさ迷ってもいいから」
白い影はまどろみの主に碧色の影を抱いて頬に触れた。主はまどろみの中でより堕ちていく。白い影は黒い影よりも欲が深く、冷酷だった・・・迅速すぎる死を「逃げ」と見る。
「楽になるやり方なんてしない!苦しめる、痛め付ける、購わせてみせる!」 「でも、それは肉体だけの話だろう」 「・・・な、に?」 「死という結論を使えるのは一回きりだ。安易にそのカードを使うことはできない。別のやり方がより最善と分かっても、やり直しがきかない・・・おれはね、君と対極なんだ。最後の最後まで生きて苦しんで、そして死ぬことがより最善ならその方がいいし、他のやり方を、ヴォルフラムを殺したことに見合う何かを見つけるまで君を死なせてやらない」 「そんなもの、あるものか・・・必ずお前を殺してやるよ、近いうちに」 「おれは譲らない・・・でも彼の意思は変わりつつあるかもしれない、分かる?」 「ああ、こいつまたおれたちみたいなのを増やそうとしている」 「結論、急ぐね。君の仕業?最近グウェンダルに邪魔されて君のやり方が全然うまくいかないから?」 「馬鹿馬鹿しい、そもそもおれだけでよかったんだ。後から来たお前だって要らない、おれ以外は邪魔だ」
だろうな、と白い影は主を見下ろす。
「じゃあ、やっぱり彼が?いつまでも結論がでないのに焦れて?」 「また、余計なことを」 「うん、余計なことをしようとしてるね。でもおれたちは彼には逆らえない」 「・・・・・・ああ」 「だっておれたちはいないんだから、彼が不要になれば消される」
気配たちには二人と同じように主の何かしらの記憶の欠片から作られかけているようだった。その証拠に欠片たちからはなにかしらの感情の色が垣間見える。その中にはヴォルフラムを思わせる碧色も見えた。 「お前はな。おれは消えないさ、こいつが自分への憎悪を忘れるわけない」 「そうかもね、消えるのは役目を与えられていつまでも果たせないおれだけか」 「・・・・・・この気配を見ていると、お前が消えても、おれだけになることはないみたいだな。だと、したら次にはどんな馬鹿がやってくるやら。頭が痛くなる」 「おれは消えるのか・・・寂しいね、ヴォルフラム。お前もおれと一緒に消えてしまうことが寂しいよ。愛していたから、償いたかったのに。愛していたから、もう一度愛することで何かが見つかると思ったのに。愛していたことがどういうことなのか分かれば、最善の道が見つかると信じてヴォルフラムと歩いてきたのに」 「おれは愛していた、だから殺す。一度きりだからなんだ、他の償うことはできない・・・ただ」 「ただ・・・?」 「次にこいつが連れてくる奴がお前よりましなことはないだろう、どんどん狂っていく奴だから・・・だから、もし機会があったら手を貸してもいい」 「どういう意味かな」 「さっきおれが消えてしまうことがないと言ったがひとつ方法がある、おれは一度だけ最善の死に方を知っていた。でも、こいつに忘れさせられた」 「忘れさせられた?」 「おれも思い出そうとしたが、駄目なんだ。こいつに邪魔される。だから」 「だから・・・・・・?」 「だから、その方法に辿り着く方法にお前が、そうだな手がかりでいい、それに辿り着けばおれとお前は同じになり、そこへ行けるはずだ」
森の中だった。確か・・・コンラートの故郷ルッテンベルクのよく知った森だった。小さい頃はここで遊んでいた、ヴォルフラムも来ることはまれだったけど来たときはこの遊び場で兄弟二人で遊んだ。
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