超高校級の幸× 21


α+β 5


〈 最終裁判 4 〉


呆然とした様子はいつも冷静な印象しかない彼女らしくないと思った。
しかし、やはり百年の差というものがボクと彼女の間にある。そもそもボクか彼女の何を知っているというのか。



(七海さんに関して知っていること)


コロシアイ修学旅行の三週間程度、百年後のこの十日間。
一ヶ月程度の時間でいったい何がわかるというのか。

それ以前に単に理解できなかったのかもしれない。ボクは人の感情を観察するのは不得手ではないけど、理解するにはきっと臆病すぎる。
惨めな傍観者でいるのは単に惨めだと思ってた、でも今悟る。ボクは惨めな傍観者の立場に守られていたのだ。

でも今だけは臆病なだけではいけない。だから彼女に歩み寄る、理解を試みる。


「狛枝クンに解答、『曖昧にしか返答できない、だから私のノートを置いた明確な理由は言えない』」


七海さんらしくない、答えだった。
いくらでも隙をつけそうな、でも心は完全に閉ざした答え。どこに言葉を撃つべきかすら阻んだ心の拒絶。


「ふーん、返答しないの?君は今システムの制約から逃れられないのに・・・・・・違反申告『彼女はなんでも答えると言った質問に返答していない、再度回答を要求する』」


『ハイ、再解答要求ヲ受理シマス』


システム音が宙から囁く、よかったシステムはボクの権利とやらを守ってくれるらしい。七海さんにはその要求がそれこそ爪の先までダイレクトに及んだのだろう。歯を食いしばって、きっとボクをにらむ。


「『はっきりとは、私は回答できない』・・・・・・これが私の誠実な答えだよ、真実ノートにシステム側から書ける真実は私の本心のみ。これは嘘なんかじゃない、これはミステリー小説じゃない。犯人の自白や解答編みたいなはっきりしたロジックや答えはないーー私の行動は理由がない気まぐれ、これが真実」

「へぇ、別にはっきりでも誠実になんてしなくていいのに」


ごめんね、と視線がはずされる。

強情だね、七海さん。それでこそコロシアイの時にボクのトリックを台無しにしてくれただけある。

でも、結構そんな君も好きだよ。
君と学級裁判の時みたいにロジックといいわけと称呼と感情のぶつけ合いを続けるのは打てば響くみたいで、ちょっと楽しい。まるで息のあったダンスでもしている気分だ。


「よくないよ、十分?それは嘘だ、最後なんかじゃない。・・・『被験者・狛枝の質問に明確でなくて、誠実でなくていいから七海さんは自分の不合理な感情を返答して』」

「どうして、そんなことを知りたがるの・・・理由なんてないよ、君が知る価値のあるほどのものなんてない」

「ボクはさ、修学旅行で君に殺されたなんて思ってないよ。でも君を処刑させたのはなんだか嫌な気持ちだよ……だからそのお返し、借りを作るのは嫌いだから」

「こんなこと、仕返しでしょ」

「七海さんにとってはそうかもね、でもさ今まで君と百年生きてきたみんなからすると七海さん達がこんな風に終わるなんてあんまりだと思うんじゃないかなあ?
不思議だけど、絶望の残党のみんながだれ一人君の願いが果たされることを望んでいない気がする。ううん、ボクの方を支持してきっと同意してくれるような確信があるよ。
ねえ、教えてーー七海さんの希望はなんだったのかな?」

「…………」

「…………」


沈黙、その瞬間が永遠に止まればいいとも思う。有名な詩人がそんな事をいった気がする。時よ止まれ、お前は余りに美しいーーこの瞬間も二度とない時間。

彼女と向き合うときも、二度は帰らない。でもこうも思う。過去になって記憶に残ればそれもまた永遠に似ている。

そして彼女が口を開き、この時間が終わる。未来へ、今が終わる。


「『どっちが本当か分からないの、本当に』」

「…………」

「『二つの気持ちがある。狛枝くんがあれを見て日向くんたちが生きていると錯覚すればいいって気持ちと……あれを見て私の事を止めて欲しかった気持ちと、並行して存在するの』」

「…………」

「『あんなものを見せられて私があのジャバウォック島の中に現れたら時間軸をあの直後と錯覚するだろうって気持ちと、狛枝くんの探偵としての勘に断罪して欲しかった気持ちと』…なんでかな。
本当のこと知って欲しくなかったけど、全てを忘れられるのがたまらなく辛かったからかな?」

「しょうがないなあ…七海さんもボクと同じか」

「え……?」

「ボクはさ、君を除いた全員と心中するつもりで完璧に計画を立てたつもりなのに……ウサミの日記を部屋に置いてしまったことで失敗した。断罪して欲しかったわけじゃないけど、ボクの絶望をみんなにも味わってほしかった」

「…………」

「もしかしたらボクらは少しは似ているのかもね、自分の命を懸けてでも遂げたい祈りを、計画を、希望を、遂げるためだけに他のものを捨てきれなかった……そして君もボクもそのせいで失敗した」

「失敗、してない・・・狛枝クンは楽園ゲームを選んで、くれた・・・あとは君が馬鹿なことをしないでくれればいい!この島を破壊したらあなたの心を守るために記憶をバックフラッシュさせないよう機能している脳のチップがあなたの脳を壊す、頭だけ爆発して死ぬんだよ?」

「ごめんね、結局ボクは君の希望にはなれない――だってさ考えてみてよ?三人でこの場を生き延びる位のことができなくてなにが超高校級の幸運だって話でしょ、ボクはそんな地味な才能も踏み台にしてこれから超高校級の希望になるのに」

「まだ・・・それに拘るの?なんで狛枝クンも日向クンもいつまで才能に捕らわれているの!もし幸運であなたが助かったとしても、脳には必ず障害が残る、希望ヶ峰に来る前どころか生まれてからの記憶すらなくすかもしれない!もしそうでなくても超高校級の絶望に戻るだけ…あなたに今のまま生き残るなんてできない」

「惨めな傍観者ってのも辛いものだからかなあ・・・・・・さて」


ボクはこめかみに指先を当てて気楽に見えるよう、硬い面もちの七海さんを挑発してみた。


「ボクの望みを言おうかーーボクの望みはボク、七海さん、ウサミ、この三人が生き残る可能性を試すこと。
その為に三人でこの島ごと自爆して、君たちをウイルスとして消去する希望更正プログラムとボクの記憶を消す楽園ゲームを全て破壊して、三人で運良く助かること、それが望み」

「ーーなにを、言い出すかと思ったら、そんな!」

「なーんだ、やっぱり死にたいのか。もういいさ、全てが嘘だと分かった希望の中での死が君にとっては必要ないーーま、ボクは欲しいと思っても君の方はそうは思えないか・・・いいよもう」


絶望の絶望した、希望を求める声が気だる気に降ってくる。
ボクは振り返らず頭を振った、それは違うと否定するために。


「何言ってるの、ボクは助かるさ。超高校級の幸運なんだから」

「君が助かるだけだよ、みんなが作ったこの島は壊れて、そこの二人は死んで消滅して、何の価値もないボクが知らない世界に放り出されるだけだーー生きてはいけるさ、今までみたいに。食べて寝て、安全に周りの命を喰い荒らすだけの、何の希望もなく絶望して生きているだけでーーすぐ絶望だけの生活に苦しんで死ぬよ、失敗しても何度でもボクは希望なんてない絶望の中で死に向かう」

「それは違う、絶望しながら生きるなんて生きていることにならないよ。
だからボクもお前も希望を求めた。生きているために。絶望を希望で断ち切るために、ボク自身を希望としたいと願った」

「・・・・・・は?
なにそれ、君が、君がそれを、言うなんて酷い悪夢だよ・・・あは、はははははっ・・・」

「・・・・・・?」


超高校級の絶望は顔を伏せて笑い、その笑い声はだんだんと小さくなっていった。ボクは何を言ったのだろう?
ボクの知らない未来で絶望したボクは何を見て、そして今のボクの言葉にどんな悪夢をみたというのか。


(まあ、いいや・・・ボクは生き延びてあいつの記憶も思い出すんだから、その時分かるさ)


この場を切り抜けた未来で過去に絶望が何かを見たこともきっと希望の糧になるんだから。


「自爆なんてそれでみんなで生き残るなんて、そんなことできるわけない!いやさせない!たとえあなたの幸運が発動したら何?あなたの才能はあなたの気持ちを考えてなんかくれない、親しい人達を自分のせいで殺されたように狛枝くんに思わせてあなたを守る才能が私たち三人を生かすなんてない!あなたの幸運はあなたの生命と財産は守っても心は踏みにじる!だから無理だよ!
もう私には、狛枝クンが死んだら終わりなんだよ!?どうして分かってくれないの!?」


だから、今は七海さんにボクの決断を納得させないとね。


(強敵だ。でも超高校級の、絶対的な希望になるには、彼女を乗り越えないとならない)


ならば避ける理由なんてどこにもないさ。


「だってこうしないと、ボクら三人が生き残る道筋が残らないでしょ?
超高校級の絶望の願いではボクは死ぬ、七海さんの願いでは七海さんとウサミが死ぬーーこの条件はのめない。
だからギャンブルでも可能性がある方を取るよ。
最終被験者の希望提示『狛枝凪斗は楽園ゲームを選択する、そしてその際に記憶に関する干渉を拒否する。記憶に関する干渉は基本的に創立者の日向創や医療開発の罪木蜜柑が封じているはずだ、ボクが死ぬ危険がないと判断するならシステムはこれをさせないように取りはからって』」


「やめて」と七海さんが叫ぶのと『了解シマシタ、記憶干渉システムノ停止ヲ開始シマス』とシステム音声がなるのは同時だった。

七海さんの腕が首に伸びて、ボクをすり抜けた。最初の裁判の時みたいに殴られないのかーー不思議と寂しい。一枚隔てられた世界に彼女はいてボクとは違うと言われているみたいだ。

システムの改竄が始まって楽園ゲームを維持している七海さんにも負担が大きいのだろう。彼女は胸を押さえてぜえぜえと息をした、立つこともままならず床に膝をついてた。

苦しんでいるんだ、ボクのせいで。
視線だけでも同じになろうと、屈んで彼女と目線を合わせようと試みる。


「どうしてそんなことを・・・どうしてそこまでしてくれるの?
君の幸運は危険なの、だからジャバウォック島上だけでも制御する装置を作ったの。装置は完璧でなくても今までみたいに生き残れるか分からないんだよ?」

「ボクが生き延びるだけなんて、そんなの幸運はあるけど希望ではないね。君たち二人もそろって三人で生き延びないとーー大丈夫だって」

「私たちを大切に思ってくれているの?そんなのいい、私たちはもう十分なの・・・こんな最後になってどうしてだよ、狛枝クン!!」


いきなりの見当はずれな質問にボクは唖然とした。さっきいったのに忘れるなんて、ボク風情の言葉といえどもひどいなあ。


「決まってるでしょーー超高校級の希望に、絶対的な希望に、ボクの求めていたものにボクはなりたいんだよ」

「なんで・・・なんでそんなものに、いつまでもあなたは!希望ヶ峰なんてもうとっくに滅んだのに!」

「ボクはまだ自分の希望がはっきりと分からない、でも今は自分の一番の願いなら分かる」


それはきっと。
コロシアイの中でやっと見つけたもの。
みんなが積み上げてきた百年の先にこそあるもの。
百年後にボクが目覚めて、やっと始まるものだ。


「ボクはあの修学旅行でようやく一番望んでいたことに気がついたから、だからその為に命なんていくらでも賭ける。そしてそこには君やウサミが必要ーーそんな気がするんだ。だって君たちは絶望の残党だったみんなとこの百年を生きてきた。
希望と絶望の中を希望を手放さずに求め探し、そして掴んできた。そんな君たちだからボクは君たちを失うなんて絶望は認められない」

「やめて!そんなものどうでもいい!狛枝クンが死んじゃうかもしれないなんて、私は認められない!そんなことの為に作った楽園じゃない!」

「ボクの未来は、ボクに選ぶ権利がある。これが君やみんなが作ってきたこの島のルールだーー『ボクは希望になるためには、三人でないとできないと確信してる』」

「希望?絶望?・・・そんなのもうたくさんだよ、こわいよ。大切な人が失われるのはもうイヤだ!
もうなにも考えないで、目を塞いで耳を閉じて!見ないで聞かないで感じないで考えないで、ただスイッチを押して!そうすれば狛枝クンは何もしなくていい!それで終わり!
それでみんなといられて、その別れの記憶を悲しむ記憶ごと私と一緒に消えられる。
私が処刑されたことを悔やんでくれるなら今こそ私と私の知ってる狛枝クンの記憶として死んで、そして全部忘れて真っ白な未来を生き延びてよ!」

「入学後のボク、コロシアイのボク。二つに分かれたけど、七海さんがそうしたら七海さんの知っているボクは死ぬーー君の求める報いは君の知るボクの死と知らないボクの生なの?矛盾だ」

「世界なんて、過去なんて、私なんて矛盾だらけ!私はみんなが死んでいく未来なんてこれ以上欲しくない!
みんな死んだ、私を置いていった!狛枝クンがあの修学旅行の最後の一人なの。私はなにがあってもあなたの命を守らないとならない。
ーーでも私の最後の修学旅行の仲間、私の知ってる狛枝クンの心だけ私と死んで、お願いーーだって入学後の記憶はきっとあなたを殺す・・・・・・だからそれくらいいいでしょ?」

「生き延びるのは七海さんの知ってるボクじゃないんだよ?それは君の希望じゃない、不安だ、絶望するかもしれない未来への怯えだ」

「だったらなに!?怖がって悪い?私は機械なの、生身のみんなにいつも置いていかれるのはもういやだ!!
いやだいやだいやだーーできないよ、狛枝クンにはできない。超高校級の希望になんてなれない!きっとあなたの決断で全てが無意味になる!」

「いいや、なれる。無意味になんかならない」

「できない・・・私たちはなにもできない・・・私にはこのゲームしかない!
できない・・・一人ぼっちの君になんか何もできっこない!」

「それは違うよ!」

「・・・・・・っ!」


その時七海さんは床から顔を上げて、やっとボクと視線を合わせてくれた。


「ボクが生きているのは、希望があるからだ。そして、ボクが生きてるのは百年みんなが生き抜いたからだ、だからボクらも生き延びられる」

「み、認めない・・・希望なんてもういいでしょ。なんで幸せになってくれないの、守らせてくれないの。
最後ぐらいいいでしょ・・・そんなものなくても生きられる」

「いいや、違う。七海さんは一人きりになるって絶望を最後に目覚めたボクという希望で相殺しようとしている。君の行動は、矛盾は、七海さんの希望に即したものだからだ。君の中には君だけの希望がある」

「・・・・・・っ!」


七海さんは疲れ果てたように、視線を天井に投げた。そして苦しみから逃れるようにもう一度ボクへ手を伸ばした。

すり抜けるその腕をとりながら場違いなことを考える。


(そっか、今だけはボクは七海さんの希望になったのか)


その希望はボクの絶望を全て相殺できるものじゃない。でもそれはとても嬉しいことだった。

ボクは誰かの希望になれた。
だったら超高校級の、絶対の、自分が胸を張ってこうだと言える希望にボクはいつか、なれる・・・・・・はずだ。

そう思い、目を開くと視界いっぱいに七海さんの顔が広がっていた。ボクと真っ向から彼女はぶつかっていた。


「やればなんとかなる、やってみよう」

「認めない!君の記憶は消す!コロシアイの記憶も、この島の真実も、全部全部忘れて、お願いその中で救われて、真っ白になって生き延びーーえっ?」


白い影が浮かんで、ボクらの視線の衝突を遮った。


「・・・・・・ウサミ?」


白いぬいぐるみが宙から現れて、半狂乱の七海さんに抱きついた。手を延ばすと触れられない、ホログラフなのか。七海さんに向いたウサミの眼もボクからは見えない。

しかし機械上の存在であるが故に、ボクは触れられなかった七海さんにウサミは触れられているようだったーーそしてその手に握られたステッキから虹色の帯がいくつも現れた。


「ウサミちゃん・・・?」


涙ながらに七海さんは手を伸ばし、ウサミに触れる。

そしてウサミは七海さんを見上げるとーーステッキから伸びた虹色に光る帯で七海さんを縛り上げた。


「・・・ウサミちゃん!?どうして!?」

「狛枝クン!あなたの記憶は楽園ゲームでそのままになるようにあちしが設定しなおしまちた!このまま選択してくだちゃい!」

「ウサミ・・・いいの?」

「あちしは千秋ちゃんの楽園ゲームをどうしたらいいか分かりませんでちた!でもそれ以上に狛枝クンがこの孤独な世界で生き延びるためにどうしたらいいか見当もつかないから、七海さんを止めませんちた!でも今は」

「やめてよ、ウサミちゃん!狛枝クンはこの島ごと自爆するつもりだよ、死んじゃうよ!本当にみんなに置いていかれちゃうよ!いやだ、私はイヤだ!」

「今狛枝クンは現在のこの世界の真実を知った上で超高校級の希望になりたいといいまちた、あちしはそれを信じまちゅ!きっと未来はありまちゅ!あちしたちや狛枝クンが死んじゃうとか、もーどうにでもなれでち!」

「あっはは!ウサミはやっぱり馬鹿だね、どうにかなるって。ボクの取り柄は運の良さだけなんだから」

「ならないよ!やめて、離して!このままじゃ狛枝クンの記憶を消せない!私たちは死んで、この島は壊れて、狛枝クンは死んで、全てが消えてしまう!」

「なくなったりしませんよ・・・・・・千秋ちゃん、今まで苦しかったでちね。もー、何が最善かあちしにはわかりまちぇん」


ウサミはそこで初めてボクに振り返った、ウサギのぬいぐるみの顔で優しくのんびりと笑っていた。


「でもね、狛枝クンが自分の道を決めたなら、あちしはもう何もいえまちぇん。英雄なんてどうでもいいでちが狛枝クンがどーしてもと言うなら先生はやっと君を応援できまち。
あちしたちは一度自分で未来を捨てまちた。でも狛枝クンがそんなあちしたちを必要としてくれるなら、賭けてみたい。
それがあちしの結論でちゅーーそれじゃ千秋ちゃん、あちしたちはメインコンピュータから離れて狛枝クンのロシアンルーレットに付き合いましょう!」

「やだ、やだやだやだ・・・・・・やめて、お願い」

「そうだ、ウサミ。どこを壊せばいいのかな?手当たり次第に壊そうとは思うんだけど、君たちの逃げ場を完全に奪うのはちょっとね」

「この裁判場と工場地下、そして狛枝クンのおうちの地下と二階でち!そこを破壊すれば自動的に自決用のプログラムで機械基盤は全て爆破されまちゅ!逃げ場に関しては百年間どうにかしたので遠慮はいちまちぇん、全部吹っ飛ばしてくだちゃい!」

「了解、跡形もなくやるね。ウサミ先生」

「だー!その呼び方やめてくだちゃいって言ってるでしょー!バカー!
……あちしが千秋ちゃんに押し負けるかもしれまちぇん!狛枝クン、早めにお願いしまちゅよ。
ーーでは、お別れは言いまちぇん、またすぐにあちしたちを探してくだちゃい。あちしたちも狛枝クンを探しまちゅから」

「ありがとう、ウサミ」

「待って!狛枝クンっ・・・・・・私を置いていないで!」

「じゃあ、七海さんーーまたね」


泣く七海さんと笑っていたウサミ。

そして二人は裁判場の闇に消えた。触れられなくてもどかしく思っていた二人のホログラムは、もうどこに手を伸ばしていいのかもわからない。


「また会えるさ・・・当然、でしょ」


当然なんかじゃない、出来るかなんて分からない。

それは自分でも分かっている、強がりだった。今でも彼女たちが目の前から消えたことがーー胸に突き刺さっている。

それでも、だからこそ。


「すぐに二人とも、ボクが見つけるからーー希望たるものそれくらいできないといけないしね」


七海さん、ウサミ。
ボク、日向クン、十四人のクラスメイト達が積み上げてきた、今は過去という名の未来。

その全ての希望を掴めてこそ、きっとボクにとって希望がなんだか、やっと理解できる。ただの直感だけど、きっと直感でいい。

だって理詰めの絶望より無根拠の希望のほうがいいさ。

ボクは宙に浮かんだままの「楽園ゲーム」「脳死」とかかれた二つのボタンを眺めーー楽園ゲームを押した。

決める時は悩んだことが遠く感じるほど、あっさりだった。こんなにあっけなく終わる、いやここは始まりにしよう。全てはここからだ。

さあ、未来と希望のためにこの島を壊しにいこう。



〈 最終裁判終了。判決、狛枝凪斗は未来を選択しました。 〉



裁判所がみしりと悲鳴を上げた。

楽園ゲームを選択したからだろう、目に見える世界が崩壊していく。ここは希望構成プログラムから楽園ゲームへと書き換えられる。


「ま、それもボクの踏み台にすぎないけどね」


言って、思ったより声が小さく震えていることに苦笑してボクは裁判場を去ろうとした。

ウサミの警告はちゃんと聞いて、早めにこの島のメインシステムを破壊しなければならない。
小走りになる。すると裁判官席から声が降りつもる。


「きっとこの決断を後悔するよ」


囁くのは、呪いを吐くのは、嗚咽を漏らすのは超高校級の絶望の声。
ボクは振り返らず、しかし歩を止めた。


「君は後悔するよ、ハイジャックの時なんか目じゃないくらいあいつの乗った飛行機を落としたよ。
何台も何台も。ちょうど両親が死んだ頃のボクくらいの小学生が両親らしき人たちに抱かれて死体になってるのも、生き延びてこの悪魔父さんと母さんを返せって言われる記憶が……他にもたくさん……君は後悔するよ!」

「・・・・・・」

「超高校級の希望なんてボクにはなれっこない、君は知らないんだよ。
思い出していないんだ・・・超高校級の希望はもういるんだ。
絶望のあいつを希望で倒して、希望と言われた存在がいて、二度目なんてない」

「・・・・・・そっか」

「ボクはなれない、何者にもなれない、希望なんてなれっこない!また絶望するだけだ!・・・・・・絶対にここで死ななかったことを君もボクも後悔するよ」


絶望、希望。
何者にもなれない絶望、何かになりたいという希望。

その不安の叫びにボクは、


「そうかもしれない」


同意した。


「そうだね、七海さんとウサミにはああ言ったけどボクみたいな奴が希望になれるか大いに疑問だね」

「ならなんでだ!?……どうせ後悔する、今死んでおけばよかったと未来に必ず後悔するんだ」

「うん、そうだね……そう思う。きっと今死んでおけばよかったと未来に思うだろうね」

「……なら、どうして」

「希望ってなんなんだろう」

「絶対的な意志と、才能にもたらされるはずのもの…どんな絶望を打ち破るモノ…そうに決まってるでしょ」

「そう、ボクは希望ヶ峰学園にボクの希望を保証して欲しかった。曖昧なものを安心させる形で「これこそが希望だ」と信じさせて欲しかった。
でもそんなことは無理だった、希望ヶ峰が選んだ輝かしいはずのみんなは絶望に堕ちた。そしてあの島で信じられるのは知らない裏切り者とボクだけになって……初めてボクは自分がそうなりたいと自覚した」

「……ボクも思ったさ、真の超高校級の絶望、江ノ島を倒せばボクは……でもやっぱり無理だった。君もそうだよ、なのにどうしてまだ続けようとするんだよ?」

「……決まってるじゃない」


超高校級の希望になるためと、言おうとした。
のに、出てきた言葉は違うものだった。


「ここはみんなの死を踏み台にした、未来の先だから」

「……みんなの、踏み台?」

「それと、後悔じゃない時も未来にあるかもしれないからだ・・・・・・じゃあね」


きっとボクは、絶望させる過去の記憶を未来で思い出す。
その時までさよなら、絶望した狛枝凪斗。







〈 楽園ゲームが選択されました、ゲームを開始します 〉




扉を抜けると世界が変わっていた。
日本ではまずお目にかかれないような彩度の高い青空が目を覆い、椰子の葉ズレと南国風の鳥の鳴き声が耳を刺した。

懐かしい、修学旅行で連れてこられたジャバウォックの風景だ。さっきの絶望事件の爪痕の残る灰色の空とは比べようもない全てを忘れる美しい風景。

でもそれ以上に懐かしいのは、



「狛枝」「狛枝くん」「狛枝さん」「狛枝ー!」「遅いわよ、狛枝!」「狛枝くん、待ってたよ」「狛枝、待たせすぎだ」「心配してたっすよ、無事でよかった!」「狛枝、会えてよかった」


「・・・・・・・・・」


扉の向こうでボクを待っていた、ゲームの中のみんな。

その光景に止まった足にボクは自分に警告した。


(彼らと会話をしてはならない)


きっと話せば、ボクはこのゲームに呑み込まれる。彼らの歓迎を受け入れ、死を忘れてしまう。

「それのなにがいけないの?幸せになれるんだよ?」と囁かれた気がして後ろの裁判場を振り返るが、そこに七海さんの姿はなかった。

ボクはそれに気が抜けると、幻の彼らがぶつかるのもかまわずに可燃性の物のある工場へ走り出した。ここはゲームのCGにすぎなくても、建物の配置は変わっていないはずだ。七海さんはあのままボクにこの世界を現実と信じさせて、この彼らと再会させるつもりだったんだからーー。


「狛枝くん?」「狛枝、なにすんだよ」「急にぶつかるなんて最悪!前見なよ」「狛枝、相変わらず突拍子もねーな」「もー、狛枝さんは変わってませんねぇ」「もうご飯できたよ、狛枝クン」「ま、色々疲れたろ、ちっと休みな」「狛枝くん」「狛枝さん」「狛枝」


ぶつかったはずの彼らは本来はぶつかってボクともども地面に膝をつくことなく、すり抜けてそれに文句を言った。ボクは何者にも邪魔されず、目的地へと向かうことができた。

西洋にも日本にもある神話では、ある人物が大切な人の死を受け入れられず死の国へ向かった。そしてその人の見つけることはできた、でも途中でその人が大切である故に禁を犯して、生死を越える試みは失敗に終わる。

ボクと七海さん、どちらがその主人公らしいんだろうね。



あっさり工場で爆発物は見つかった。ガソリンや採掘用の簡易の火薬、それどころかダイナマイトや用途のわかりにくい爆弾まである。


(全くみんな、どんな生き方を送ってきたんだか)


さっきウサミは自決用の爆弾とか言ってたけど、そんなものを百年も抱え落ちしているなんて誰も彼も荒んだ人生でもあるのは間違いない。


(その人生を見たかったけど)


仕方ないけれどそれでも変わらないものあるさと、ボクは爆発物を手近な袋に詰め込む。裁判場と「ボクの家」を破壊し尽くすにはこれくらいでいいだろう。


目の前で轟音とともに工場が焼け落ちた。距離はあけていたけれど、強烈な熱気が全身を焼いた。

あついあつい、残った燃料をまとめて工場に残して火をかけたのはやり過ぎだったかなあ。ボクの知らない爆薬でもまだ隠してあったのかもしれない

焼けていく工場とその下にあるはずのシステム・ジャバウォックの基盤の一部。


「左右田クン……ごめんね」


君の傑作だったろうにと振り返るとまだみんなはそこにいた、その数はさっきまでいた十五人より減っていた。

爆発事件を起こしたボクを叱責するのかな、と様子を見ると彼らはボクが爆発で怪我をしていないのか心配していた。


(振り返ったらだめだ、きっと帰ってこれない)



暖かい声に囲まれながら、裁判場の地下に怪しげな爆弾をしかけ、建物の周りに火薬を仕掛けた。火薬に火をつけるために持ってきたリボルバーをガソリンをかけた布に打ち込む。

学習して今度は距離を開けていたからだろう、熱風は今度は頬を少しちりちりと灼いただけだった。燃える程黒く濃くなる煙を見上げると空がひび割れていた。
南国の抜けるような美しい空は、灰色の寂しい本物の空へ戻りつつある。


「・・・・・・・・・・・・」


降り帰れば残っているみんなの幻は十人にも満たなかった。彼らは変わらず笑顔をたたえ、幸せそうだった。





ボクは「自分の家」の前に立っていた。

禁じられていた二階にも、隠されていた地下にもあっさりと入ることができた。二カ所も破壊したからか、この家だけは姿が変わっていなかった。

いつもと同じだった。ウサミがきゃいきゃいとうるさくて七海さんが朝になれば迎えにきてくれるような、あのまま。

そこにダイナマイトをウサミに指摘された二階と地下に残らず置く。そしてボクの部屋に、なんども食事をしたダイニングにキッチンに、ガソリンをまんべんなくぶちまけた。

ふいにこのままボクもこのまま家の中にいて爆破してもいいかな、とひどく疲れた全身が訴えた。我に帰って、頭を横に振るとボクは外に出てさっきの要領でリボルバーを握った。

世界はひどい有様だった、南国の楽園と灰色の寂れた南の島がノイズでしょっちゅう入れ替わる。青空はガラスが割れるようにひび割れ、ぼろぼろと砂浜と海は惨めな灰色と瓦礫へ崩れ落ちる。

南国に隠された、巨大コンピュータの中枢。そこにありったけの燃料とそれに連動して爆散する仕掛けを取り付けた。

あとはボクが……銃の引き金を引いて、火をつけて粉々にするだけだ。みんなが作ってきたこの島を、ボクもみんなも守ってきたこのジャバウォック島を。


「……でもさ、君たちは絶望に引き込まれるほど弱くて、甘いからさ……七海さんとウサミを死なせるくらいならこっちが台無しになる方がいいと思って……くれるかな」


嗚咽は漏れなかった、照準はぶれない。


(ま、君たちが嫌でもボクはやるけどね)


でも今だけは彼ら十五人と気持ちが、時間を超えて一つになっているようだ。
そんな錯覚と確信の狭間で、何でもないように笑ってみた。

リボルバーが三回音を立てると、ウサミと暮らした家が焼ける。留まりたがる足を引きずって離れると花火をぶちまけたような出鱈目な業火が、鼓膜どころか全身をぎしりと軋ませた。

ボクは、この島の帰る場所を壊した。家を焼く火の色が空に突き刺さっていた。


「……こんな、もの。また作ればいいさ、これで…これで終わり」

「いいや、まだだ。まだオレが残ってる……返事はしなくていい」

「……っ!」


振り返れば日向クンの姿……アルターエゴか。彼がいるなら全てを破壊してはいない。


「俺は七海とウサミが暴走した時のシステムだから、ウサミは知らない。俺についてこい、そして破壊しろ。それでこの島のシステムは全てを破壊できる」


耳を爆音が覆う。自決用の破壊が始まったのか、見る世界が炎に飲まれてどこがジャバウォック島なのかもう分からない。

グラグラと揺れているのは世界なのか、ボクなのか。分からないままボクは、日向創アルターエゴの歩く方に付いていった。酸欠だろうか、意識がぼんやりする。生きる大気さえ破壊して、ボクは何を得たいんだ?

朦朧とした思考は立ち止まった足取りと、刺された指先に導かれる。浜辺だった。ここはまだゲームのままなのか、美しい花が咲いていた。

そしてその下に一抱えほどの金属の箱、これがシステムの最後……。


「俺も、希望更生プログラムだ。ちゃんと破壊しろよ、七海とウサミをウイルスとして壊されないために」


振り返らない、銃口を定める。まだ四発は残ってる。


「ありがとう」


二発連続で撃った。ありがとうという声にノイズが混じる。


「さよなら」


もはや人の音声を保てないのだろう、機械の音としての別離が銃撃音と重なる。

もう一発、撃とうとして銃口が震える。震える、震える。うまく、撃てない。

何度も自分に言い聞かせる。これはただの前座、本番はこの先だ。


「ボクは……ボクが信じた希望になる」


それがボクの一番の願い、気が付くのは……きっとまだ遅くないはずだ。

もう一度正確に狙いをつける……ふとその銃に見覚えがあった。

よく見ればファイナルデッドルームの命懸けのゲームの銃と同じものだった。ロシアンルーレットと同じはずの引き金は、こんなに重かったろうか?ボクの命はこんなに重かったろうか?

ボクは壊す、百年ボクを守っていたものを。


「今までありがとう…さよなら」


バチンとリボルバーに火花が散る。軽い金属の手応えが、指先で踊った。

最後にもう一度だけ、海に帰る泡のような儚い声が聞こえた。


「……がんばれ」



そして島の全てを炎の舌が飲み込み、噛み砕く。みんなの声が消える。

世界が、楽園ゲームが本当に壊れたのだ。

ボクが壊した。
こうしてメモリーの中のみんなごと、ボクは、システム中枢を破壊したんだ。


ふらふらと歩く。世界は真実の姿、惨めな灰色の孤島に戻っていた。
ああ、そうだ。考えていなかった、全てを破壊したらどこに行こう。勝手に足が動くままに任せて、口も勝手に動く。


「あはっ、あはははははは!……はははっ……大丈夫さ」


瓦礫の山、誰の声ももう聞こえない。
だってボクが間違いなく壊したんだから、後頭部が焼けるように痛い。
ああ、脳のチップが暴走したのか?ボクも燃えるのか?


(全ては終わった?)


いやそんなはずはない、そんなことはさせないだって。


「これもまた、希望への……未来がっ……!」


そしてボクは、いつも探していた、いつも求めていた、望んだ希望へと手を伸ばして……たどり着いた最初の砂浜に倒れた。

眠りに落ちるまばたきが終わるほんの少し前に視界の端を現実世界の灰色の砂浜を歩く蟹の姿が見えた。




< 楽園ゲーム強制終了、修学旅行終了 卒業者15人 >





つづく




2014/07/05



あとがき

やっとここまでこれました、だいたい最終回です。
お疲れさままでした、狛枝。あと一話です。

七海をぶっこわしすぎたかと思いましたが、私は満足です。
さすがにみんなから怒られるよ、ひええ・・・とか思ってましたが、自分の作品読み返したら「あ、嫌われるかもとか、今更だわ」と我に返りました。

今回はほぼポメラで書いています、便利です。
あと前回くらいからラインの太さ0の空のテーブル仕様でなく、div使ってスタイルシートで本文位置を固定してます。




前へ  トップへ   次へ


おまけ設定


〈クロ組、卒業後進路〉

罪木蜜柑
記憶を取り戻していたのでクロ組と異例の早さで三年目に覚醒した。
が、唯一全てを思い出して覚醒したため超高校級の絶望として覚醒してしまった日向最大の誤算。
覚醒後すぐに、五人のメンバーを強襲し江ノ島の肉体の一部を奪い取った経緯がある。狛枝の腕を切断したのは彼女。
強襲後絶望としての道を遵守しようと島を離れようとしたが、日向に「江ノ島のアルターエゴを持っている、欲しければプロジェクトに参加しろ」と言われ半信半疑ながらも、可能性を捨てきれず留まることに。
その後事件は日向とソニアに未来機関には隠蔽され、かなり苦渋の決断の末プロジェクトの医療開発者として参加。
参加後は即座に罪木蜜柑という名前は捨て、別の国籍や戸籍を取得した。当然強い監視状況に置かれたが、優秀な医学者となった。前歴が前歴ではあるが、外科手術にて天才的な能力を発揮して彼女のスケジュールはいつも一杯だった。彼女の知識があって希望更正プログラムはプロトタイプまで形をなした。本人は不本意かもしれないが、一番の功績の持ち主。
脳にアルターエゴを埋め込む技術を独自開発したが、江ノ島の人格を歪めてしまうことに矛盾を感じ、挫折。
江ノ島を餌にしたことで日向はかなり罪木に憎まれる羽目になった。しかし弱気な罪木が全力で戦える相手として、案外充実した側面もあり、また日向の狂信的な「仲間を目覚めさせ、未来を歩ませる」といった信念に「ただのエゴじゃないですか」と辛辣ながらストッパーとして機能していた(本人はただの嫌みだったのだが)。
よく島外に呼び出されるので、西園寺のことを怖がりつつ島外組として良いコンビだと仲間には見なされていた。
絶望としても挫折したあと、無気力になってしまったのだが、小泉、澪田、西園寺が絶望から失望へと変わった罪木にやっと話しかけられるようになりそれに怯えつつ戸惑いながらも女子四人組でその後を過ごした。
最後の頃は日向のことは呆れつつ、認めたらしい。


花村輝々
三十年目に覚醒。覚醒後すぐ処刑の記憶が蘇り、また絶望としての過去を否定するために眠った狛枝の腹を刃物で十二カ所刺した(これも日向と外部交渉役が外部から隠蔽)。
その後も混乱は深かったがコロシアイで殺害した十神(超高校級の詐欺師)との関わりの中、自分の罪と少しずつ向き合えるようになった。
絶望時代もコロシアイでも計画殺人に利用した自分の料理は二度と作らなかった。代わりに心ある人が母の作った料理のような心温めるものを作れるようにレシピ開発のみに努めた。外部交渉役の十神と考案した「未来機関が僕たちを殺す気がなくなる味」を開発したのはちょっと自慢。作るのと味見は十神の特権。
料理で殺意を軽減できることを知ってから、心を動かすことを軸にレシピを開発した。よって恐怖の対象の狛枝にもレシピは(花村はとっては恐怖を軽減するために)開発された。作中で狛枝がウサミの料理をやたらほめるのは花村トラップ成功の瞬間。


辺古山ペコ
田中と共に最後の未覚醒者、五十年目に覚醒。希望構成プログラムを経て九頭龍がすでにこの世にいないことを知り自殺を図るが、五十年目でいいかげんその手の行動を止める歴戦の強者になった日向が止めた。何度も止めるあまり辺古山は日向の骨を何本も折ることになった。
九頭龍の辺古山に当てた手紙を燃やしてやるといって、自殺を止めた件ではさすがに長い期間恨まれた。
眠っていた仲間を覚醒させるために生き抜いた九頭龍の事を受け止めてからは、悲しみを忘れるように最後の未覚醒者の狛枝の覚醒実験を熱心に行った。罪が軽減され、島から出ることができるのだからと日向はプロジェクト以外のものも進めたのだが、一度故郷に帰った時以外はずっとジャバウォックでしか暮らさなかった。
日向のことはかなり恨んでいたが、怪我をさせてばつのわるい思いもしていた。九頭龍の百通超えの遺言書(ラブレター?)は、日向が死に田中が死に、彼女が狛枝を除く最後の絶望の残党となったころも最後の支えとなっていた。
田中より長生きしたので、狛枝を除く最後の絶望の残党にして未来創造プロジェクト責任者となった。狛枝を生かすために、いろいろ考えたやつあた…プランが実現出来なかったのは残念だった。


田中眼蛇夢
五十年目に覚醒。狛枝を除く、最後に目覚めたメンバー。
最終進路決定裁判を超えたものの命を多く奪った罪を自覚して、唐突に島から失踪。方々手を尽くしても野生動物のように見つからない。
結果三年行方不明となるが、その頃にブチキレた日向が、色々なものを人質に取って無理やり未開の熱帯雨林から連れ戻した。
連れ戻されて諦めて生物学を研究し、優秀な生物学者となった。しかし絶望時代多く傷つけた動物には基本的に触れなかった。
生物学的知見の観点から最後に残った狛枝の覚醒実験を行った。研究熱心だったのだが、日向いわく、罪木の次に苦労させられた人物。狛枝とロシアンルーレットと犬の話がしたかったらしい。
コロシアイをした弐大と言葉を交わせなかったことは心残り。ソニアに大切にしていた小動物は、例外的に田中の手によって直接最後まで守られた。