1.  






超高校級の幸× 5






【裁判1】A



αの5

 


さてと、妙な話になってきた。

死んだはず(それはもう徹底的に)のボクが生きていて、それなのにボクが死んだ話を議題にした学級裁判の話を七海さんと裁判場で話し合うことになるなんて、凡人のボクには混乱そのものだ。

まあ混乱もここまでくれば一周して少し冷静になってきたところもあるけど、それでわかったこともある。確信には至らないけれど……。


(ひとつわかったことは七海さんやモノミはボクが死んだはずなのに驚きもしないでボクが生きていることを受け入れいること。なら彼女たちはその理由を知っている。
七海さんがさっき言ったみたいにロボットになった弐大クンと同じにかはわからないけど……でも確かに九頭龍クンの前例もあるし……現段階ではボクには分からない)


彼女はその理由を決してボクには教えたくないという。七海さんからははっきりそう聞いた、多分直接言っていないだけでモノミも同様だろう。


(どうしてだ)


七海さんから見えないようにボクは奥歯を噛み締めた。

ボクは死んだ、なのに生きていて理由を知っているふたりは絶対に教える気がない。

自分で計画して全てをかけて、自分の死という不運を絶望を皆殺しにしてゴミクズのボクが希望になれる幸運を呼び寄せるようにあらゆることを尽くした。

なのにボクは、あの後何があったのか知る由もない。本来は死んだ時点でそれは当然だけれど、こうして訳のわからない理由で生きているなら……何が何でも何故ボクが生きていてあの後何があったのか、絶対に知りたい。

知る権利があるはずだ、絶対に、絶対に……!


(もっとも……そんなことわかっているから、七海さんはああやって挑発してくるんだろうけど)


挑発に飲まれてはいけない。彼女は希望で、希望になれなかったボクは絶望のまま……埋めようのない決定的な差がある。
でも、だからこそどうしてそうなったのか理由を知りたい。その為にボクは全力を尽くす。

ただ、ボクに何も教えたくないのなら……どうしてあんなことを七海さんはしたんだろう?


「七海さん……ボクの……「狛枝凪斗殺人事件」の追求の前にひとつ真実ノートを間にはさんで質問してもいいかな?」

「いいよ、ただし黙秘権は君にも私にもある。だから答えたくない質問には答えないけどね。何かな?」


裁判官の服装をした七海さんはいつものぼんやりとした様子が抜けて、キリッとしたというか、気丈に振舞っているように見えた。

多分、この「裁判」というのは「超高校級の絶望」であるボク達へのものなんだろうと推測出来る、ならばもし彼らが生きていたとすると日向クンたちもこれを受けた、のか?


(ノートが本物なら、日向クンは生きていたってことになるけど)


まだ、断定はできない……決めてかかってはいけない。まして、安心してなど……するわけもない。

まあ、希望側の未来機関が五回目の学級裁判の最中にモノクマを追いやり「超高校級の絶望たち」を捕らえて殺さなかったなら彼らに対して裁判が行われることもないとは言い切れない。

そこで七海さんが裁判官になったり、裁判を学級裁判風にする理由はわからないけれど。
でも、確かに彼女はボクを裁く裁判官、絶望を断罪する希望の側の人間のはずだ。

そして罪人であるボクにはじゃらんと手首に巻かれた鎖が鳴る……真実ノートに手が届く分ボクの両手は自分の懐にも届いた。

コートの内ポケットを探ってみるが、予想通り何もなかった。
そこにしまっていたはずの「ヒナタハジメのノート」はない。


(やっぱりそんなに甘くはないよね、ボクは罪人なわけだし)


でもそんなボクのところにそんなノートを置いておいたらしき七海さんの意図は確認する必要がある。

答えるか黙秘かは重要ではない、答えてくれるならそれでいいし黙秘ならそれはそれで聞く意味がある。

七海さんにとってそれがどんな意味を持つのか……それを見極めないと。
でないとこの「裁判」中ずっとそれが引っかかってしまう、心がかき乱される……それは避けたい。相手は七海さん、学級裁判でもっとも的確で冷静な人だった。動揺したら、こちらの情報だけ渡してあっさりと負けてしまう。


(七海さんがボクの何を知りたいというなら、なんのことかは分からないけどそれをエサにして何も言う気がない彼女の口を滑らせるなる割らせるなりしないと……絶望がおこがましいとは思うけど)


それでもボクは真実が知りたい。

あの後、ボクに、日向クンたちに、七海さんに何があったのか。
だから、ボクは……いつものようにへらへら笑ってみせた。


「ほら、用意してもらったボクの部屋にあったノートのことだよ。「ヒナタハジメ」って書いてあったから小心で臆病はボクはそれに動揺して親切にしてくれたモノミ危害を加えたわけだし。
 だから聞くね、七海さんはあの「ヒナタハジメ」と表紙に書かれたノートをボクの目に付くところに意図的に置いた。これはノートに書けるかい?」


「……答えるよ、わたしは……いや紛らわしいから名前で書くね、『七海千秋は狛枝凪斗の滞在する予定の部屋に故意に「ヒナタハジメ」と書かれたノートを置いた』よ」


七海さんの手が壇上の上でなめらかに動く動作と同時に真実ノートが光る、そして刻まれる七海さんの発言とサイン……ウソ発見器付きのノートと金属の首輪か。
どこまで信じていいかわからないけれど今は信じるという前提で話を進めよう……つまり七海さんはそれをわざとボクに見せつけようとしたらしい。何のために?


「質問を続けるね、えっと君に合わせてボクもフルネームで……七海さんは狛枝凪斗に「ヒナタハジメ」のノートを見せることをモノミには秘密にしていた……書ける?」


七海さんは返事はしなかった、そしてペン先を動かして……ボクが言った通りの言葉がサイン付きで刻まれる。


(モノミの言っていることは本当だったわけか)


少し肺が詰まる、ペンを取ろうとした指先に締め付けたワタとフェルトの感触が蘇る。ああ、ボクは本当に何も知らないモノミを攻撃したんだな。


「じゃあ調子に乗って3問目、七海さんは狛枝凪斗を動揺させる目的でノートをその部屋に置いた……これはハズレでも構わないかなあ、ねえなんのためにあのノートをボクの部屋に置いたか教えてくれないかな?」

「黙秘権を使うよ、それは今は内緒」


七海さんはぷいと頬を膨らませて、ボクから目をそらした。幼い風貌の彼女がそれをするとなんだか子供のように見えてちょっと微笑ましい。厳格な裁判官の服装をしているならなおさらだ。

少し笑ってしまったのがバレたのか睨まれる、慌てて謝る。


「ごめんごめん、裁判官がとても微笑ましくてこんな下衆な罪人を裁かせるのが申し訳なくて自嘲しちゃってさ……ありがとう、このノートについてはもう聞かないよ。
今はね……だんだんこの裁判で何がポイントかわかってきたよ」

「その辺りはやっぱり狛枝くんだね、一石二鳥を狙うなんて、さ」


ぼんやりとした彼女の表情が不敵に笑う、まるで楽しんでいるみたいに。

しかしなんていう買いかぶり、ノートと七海さんの確認と「真実ノート」の使い道を確認しただけだというのに。 

未来機関は「絶望にもやさしい」……ため息が漏れた。やれやれやっぱりあれは絶望たちへの更生手法かなにかだったのだろうか。
そんなことだからモノクマみたいな絶望につけ込まれるというのに……モノミみたいに。


(真実ノートに対する質問と回答と黙秘権、あとはサインがポイントかな……見返せば「誰」が「何」を「真実として書いた」かすぐに分かるし)


こんなふうに文字付きではっきりと「事実」が残っていくと学級裁判そのもののようにはいかないとよくわかる。人間は言葉に騙される生き物だ、その場の雰囲気や感情で聞いたはずのことを忘れたり都合よく解釈したりする。

その点、文字はもっと人間を客観的にさせる。正気に戻す、冷静にさせる、かく乱を沈静化する。だから人間は大事な約束は文章にして残す。

ボクは真実ノートにもう一度目を落とした、日向クンのものらしきノートについての記述を見直しした。これが真実と保証されたものなのかと、少し不思議な気持ちになる。


『七海千秋は狛枝くんの滞在する予定の部屋に故意に「ヒナタハジメ」と書かれたノートを置いた 七海千秋』
『七海千秋は狛枝凪斗に「ヒナタハジメ」のノートを見せることをモノミには秘密にしていた 七海千秋』


このふたつは覚えておかないと。

あともうひとつ重要な三番目の質問、書き留められていない、「七海さんは狛枝凪斗を動揺させる目的でノートをその部屋に置いた」という黙秘権を使われたということはボクが覚えておくしかない。

きっとこの「ボクが死んだ事件」を扱う「学級裁判」を模したという裁判では使うことはない真実なのだろうけれど、ボクが七海さんの言うとおり「処刑されない」ならばここを出たあとにきっと役に立つ……はず。

ノートから顔を上げるとボクは七海さんを見上げてまたヘラヘラと笑ってみせた。手が多少自由なので手を振ってみる。七海さんは表情一つ変えない、ボクはやはり役に立たないらしい。


「ありがとう七海さん、なんだかボクばっかり質問して申しけわないね。
さあ、これであのノートに関するボクの質問は今はおしまい……今度はボクに七海さんが質問する番だね!本番なんてなんだか緊張しちゃうよ!」

「そうだね……でも、まずはじめる前に伝えるね。この裁判、最初は自分で「真実」を自分の手で書く余裕があるけど、ヒートアップしてくると手書きなんかする余裕がなくなるときもあるからその時はノートに手を当てて喋ってくれればそれが嘘じゃなければ手書き風のフォントでノートに書き込める機能があるから使ってみてね」

「うん……なんだか、手馴れてるね。今までもこの裁判は何回もあったのかな?……もしかして日向クンたちもこの裁判を受けたのかな、七海さん?」

「……あと今はいちいち一人称をフルネームに書き換えているけど、この機能を使うときは一人称を自動的に名前に変えてくれるから普通に喋ってくれて構わないよ……なんだか変だね、これからは手で書くときも名前に書き換えるから普通に「ボク」「私」で話そうか」


予想通り、彼女は日向クンのことを話す気はゼロらしい。


「へえ、便利なんだね……さすが未来機関の技術だね!これで間違えて書くことがなくて安心だ」

「……では今から『モノクマグッズ工場の狛枝凪斗殺人事件』について質問していくね」


核心から触れてきた、正面からやりあうことになりそうだ。今は、どうでればいいのかわからない。なら彼女の出方を見学させてもらおう・・・・・・どう切り出してくるか警戒しないと。


「では早速だけど……狛枝くんは自分の殺人事件を名乗り出ない裏切り者を突き止めるために起こした、であってるかな?ノートに書いてもらえるかな?」


しかし、彼女の口から出た言葉はとても意外だった。


(そんなこと?)


最初からボクは「命に変えても裏切り者をあぶり出す」ために何でもするって言ったんだけどなあ、まあボクの言葉なんていちいち覚えるほどのものでもないけれど。

別に隠す意味はないので、ボクはノートに手を当てて彼女の言葉を繰り返し口にした。真っ白なノートに手書き風の文字が浮かび上がる、なるほど便利だ。サインまでしてある……ちょっとうっかりしないように注意が必要かもしれない。

書き終わると見上げた彼女の前でノートが光るのが見えた、本当に連動しているんだなあと呑気な感想を持ってみる。


「じゃあ次……狛枝くんは「超高校級の幸運」を使うために必要以上に自分を痛めつけた、その理由は君が受ける不幸が大きいほどあとに来る幸運で君の計画の成功率が上がるから……そうなのかな?」

「すごいね!さすが未来機関の七海さん、そんなことまで突き止めるなんてやっぱり希望は素晴らしいね!……うーん、すぐにそのまま書いてあげたいんだけど、実はボクも自分で半分半分な気持ちなんだよね。いや三つくらい理由があるから、もっとあいまいなのかな?」

「黙秘権はいくらでも使っていいよ。でもそうだね、自分でもよく分からない質問には真実ノートを使えないから、ノートを挟まないで直接私に話して。その……本当に言いたくないなら、別に私は」

「いやいやいや!そんな大したことじゃないから気なんか使わないでよ!
そうだね……まず絶望だったボクが言っても説得力なんて全くないけれど、ボクは絶対に自分が許せなかったんだ!
希望を愛しているボクが絶望に堕ちていたなんて……だから被害者役のボクはモノクマの悪趣味な処刑を受けることはないし、せめて自分で……罰が、いや裁きが与えられるべきだと思って作戦に支障のない範囲で、悪い頭なりに考えた思い切り痛い方法を選んだんだ」


絶望したボク、「今のボク」から見るとそれは未来とも過去ともつかない自分。

そのボクにボクは自分なりに復讐したかった。絶対に許せなかった……超高校級の希望の象徴でありながら絶望に落ちた彼らも、希望を貶める存在に堕ちてしまった「ボク」も。

だから、無意味と知っていても復讐したかった……。


「真っ先に頭に浮かんだのはそれだよ……まあ、それに加えてついでに自殺に見えないため、毒の死斑隠し、あとはインパクト……その辺りの偽装工作にも利用させてもらったよ。
七海さんの言うボクの幸運で成功率を上げるっていうのは……うん、結構気にしてたよ。ほらボクって運の良さだけが取り柄だからさ、あとから来る幸運のためにはボクの不幸を餌にしておきたくてさ……うん!七海さんの言うとおりだよ!
うん!『ボクは超高校級の幸運を利用して作戦の成功確率を上がるために、必要以上に自分の体をナイフで傷付けたよ』!」


気をつけると思ったばかりだが明白な真実なので試してみようと、ノートに手を当てて「真実」を記載した。ぼんやりとした光が、ボクと七海さんの前で光る。綺麗な手書き風のフォント、汚いボクの字よりずっと綺麗だ。気をつける必要がないならこっちでずっと書きたいな。


「でもボクは本当にツイてるね!死と引き換えに君を引き当てられたんだから、頑張ったかいがあったよ!……でいいのかな、君とこうしてボクが話しているってことはさ?」


七海さんの顔が伏せられた、あれ?気に入らなかったのかな……難しいなあ。

でもそこまでボクの真意を読み取ってくれるなんてなんだか嬉しい。思わず顔が笑ってしまった。


「ねえ、狛枝くん……未来機関の裏切り者として聞きたいことがあるんだ」

「七海さんは裏切り者じゃないよ、未来機関の希望だよ。なにかな?」


ぽつんという雨のような小さいのによく響く声で彼女はボクを見下ろして、暗雲の雫のような重い表情と声でボクに言葉を発する。


「君はあのホテルのロビーを爆破した時に、島を吹き飛ばすほどの爆弾を島のどこかにセットしたってレストランに皆に言った。その後に裏切り者が名乗り出ればその隠し場所を教えるって……その時点で私が名乗り出ていたら狛枝くんは……自殺、しなかった?」


ただでさえ小さな声の中、自殺、という言葉を七海さんはとても小さな声で言った。

本当にかすかな声なのでよく聞こえたものだ、もしかしたら音響の補助やマイクやスピーカーがどこかにあるのかもしれない……いやあるか、裁判って普通は記録を残すものだし。

それにしても、自殺。自殺、じさつ……あれは自殺だったのか。

客観的に見ると確かにそうなのだけれど自分で聞くと少し不思議な響きだった。ボクは自分が死ぬことを計画に組み込んだけど、自分が死ぬことが目的じゃなかった。

絶望を滅ぼす希望になるため。今度こそ、過去か未来かわからない絶望に身を落とした自分のように誤らず今度こそ……超高校級の希望になるためにボクは自分の死を計画に組み込んだだけだ。

必要だと思ったから計画的に他殺させるという自殺の形をとったけれど、その必要がなければ、ボクは……死ななかったのだろうか。


「……それは分からないかな。ボクは計算上手じゃないし、裏切り者、いや七海さんが名乗り出ていたら……なんて、今はもうわからないよ。あの時はそうならなかったわけだしさ」

「…………そうだね」


彼女はまた顔を伏せると沈黙してしまった。


(しかし、七海さんがそこまでボクの動機を推理していたなんてな)


七海さんは考えに集中しているようだった。うーん、そんなに沈黙されると……気になってくる。

彼女の言葉通り、五回目の学級裁判が開かれたなら、それは一体どんな光景だったのだろう?

七海さんは全てを知っていたのかもしれないけれど……何も知らないで消火弾を投げた瞬間から「解けない謎」を最後に据え置いたそこまでの謎を彼らはどんな風に解いていったのだろう?

いやそれとも解く気なんてほとんどなくて、たまたま誰かアリバイのない誰かを犯人にしたのか、それとも・・・・・・。


(日向クン、ソニアさん、左右田クン、九頭龍クン、終里さん、そして七海さん・・・・・・一体彼らはどこまでボクの事件を推理したんだろう)


彼らに希望を積み重ねた先に絶望を用意した、「ボクの殺人事件」……どんな議論が交わされたんだろう。どこまでボクは考えてもらえたんだろう?


(ああ、なんだか、ワクワクするなあ!)


胸が踊る、絶望的なほどに。
自分という謎を解いてもらえるのが楽しいなんて知らなかった。


「七海さん、ボクからも第五回の学級裁判について質問していいかな?」

「あ、も、勿論だよ、狛枝くんが気になること質問して欲しいくらいだよ・・・・・・ほら私って頭の中でテキストが固まらないとうまく話せない方だから、君がいつもみたいにおしゃべりな方が調子がくるわないし・・・・・・」


そんな風におどける彼女に了承をもらって、ボクは闇の中のスポットライトの中鎖でつながれた手をジャラジャラと音を立てて上げた。これから質問すると伝えるために。

 

「じゃあまず、皆はアリバイが曖昧な一番怪しい人物に投票した」

「いいえ、『アリバイは私達6人全てになかった、それに基準にして私たち6人は投票していない』、アリバイつぶしで容疑者が浮かばないようにしたのはそもそも君でしょう?」

「はは、そうだね。じゃあ、さっき君が言っていた「自殺」という言葉からすると、皆はボクの死がボクの計画によるものとバレていたとすると……次の質問、じゃあさ「第5回の学級裁判でみんな、えっと、日向クン、ソニアさん、左右田クン、九頭龍クン、終里さんが投票したのは狛枝凪斗である」」

「それは違うよ、『その5人は学級裁判に狛枝くんへ投票していない、また私も狛枝くんに投票はしていない』」

「ふぅん……そっか」


そう言われてボクは・・・・・・なんだかとても嬉しかった。彼らは安易な結論には先走らなかったらしい。
しかし、その先に待ち受けるのは・・・・・・ただの絶望だけなんだけどね!


「ボクが自殺って最初に思ったのは誰かな?
やっぱり七海さん?君は学級裁判中ずっと鋭かったもんね。
それとも思考の柔軟なソニアさん?地道に状況把握をしていく九頭龍クン?
案外カンの鋭い終里さんだったり?左右田クンは……仕掛けにはくわしいかな?
それとも……まさか予備学科の日向くんじゃないよね?」

「私の発言がきっかけではあったよ、狛枝クンの・・・・・・倒れていたグッズ倉庫は他に出入り口も無いし、モノクマのパネルで密室になっていたから消去法で考えると君しかいない」

「うーん、さすが未来機関の七海さん、希望はどんなところでも輝いてたんだね」


密室、外部構築が不可能。なら中にいる死体が密室を構築して自殺した。
ミステリの密室のお約束のひとつ、密室でも被害者が自分で死ぬのなら密室でもなんでもない。

不思議なことにボクはそれに高揚感をひどく感じていた。

オーソドックスにあの仕掛けを作ったのはボクだと気がついてくれた。
彼らはボクの真意を真剣に議論していた、今までどおりの学級裁判と同じに。


(いやいや!そのくらいは解けると信じてたさ!ボクは君たちを、学級裁判を4回生き延びてきた君たちの目を侮ったりはしなかった。だから、ボクは君たちに信じて最後の一手を託せたんだよ!)


そして、君達が的確に懸命に素早く行動するほどボクの計画は実現したはずだ!


「じゃあ、みんなはボクが拷問の跡を偽装してネズミー城の槍を利用して自殺では有り得ない差し傷を作って自殺したと気がついていたんだね?」

「うん、君の右手の血痕や焼き切れたロープ、君の……死体の状況からしてみんな信じられないって気持ちが最初にあったけど、状況からそう判断していった。君の様子があの数日特におかしかったっていうのもあるしね。
ん、そうだね、私の発言のあとは・・・・・・確か主に日向くんが狛枝クンは自殺の可能性が高いってみんなを説得して言って」


「は?」

「?・・・・・・だから、日向クンが狛枝クンの死は狛枝クンの計画によるものだってみんなを説得して、ようやく、自殺って線がまとまってきて」

「は?・・・・・・は?え?」


なんだそれ、日向クンが?一番にボクの計画を見抜いた?
みんなの反対を押し切ってボクの仕掛けを、真意を見抜いた・・・・・・そんな、嘘だ。

だって日向クンなんて予備学科で、もしかしたら絶望かもしれないし、学級裁判では七海さんに助けられてばかりで、ボクの助言すら必要な時もあって、もしかしたらこの島のどこかで生きているかもしれなくて・・・・・・だめだ、思考が逸れていく。

今必要なポイントは・・・・・・なんだっけ?


「・・・・・・七海さん、冗談はよしてよ。
絶望に落ちたとはいえ超高校級のみんなを差し置いて予備学科風情の日向クンが真っ先に気がつくなんてありえないでしょ・・・・・・あ、そうか君が誘導したんだね!
七海さんはいつも学級裁判の中心人物だったのに謙虚に誰かに気がつくように議論を持っていっていたもんね、そうやって日向クンは」

「いいや、『日向クンは狛枝クンをずっと疑っていたよ。君の動機がはっきりとはわからないけれど、自殺と信じきれないみんなの中でとても確信していた。きっとただ間違わせるためじゃないと狛枝くんを信じていた』よ」


日向クンがボクを信じていた・・・・・・?それこそありえない、現実的じゃない。


「そんな、うそだよ……!予備学科なんかが、日向クンがボクを信じて、ボクの計画に気がつくなんて!ありえない、信じられない!」

「・・・・・・・・・」


七海さんは口元に手を当ててボクを見下ろした、その遠い距離感がなければ彼女に掴みかかっていたかもしれない。


「狛枝クン、本当に信じられないって思ってるの?日向クンが君を信じることなんてないって、本気でありえないって思ってるの?君は日向クンに「似たもの同士だ」って言っていたってきいたよ?」

「関係ないよ・・・・・・日向クンは、ボクに少し似ていたから、輝かしい才能なんてないボクと同じだから、だからきっとボクを信じたりしないって、みっともなく裁判の足を引っ張ってくれるって思っていたんだよ」

「その言葉、真実ノートに手を当てて『真実』として証明してくれる?君が本当に「日向クンはボクのことを信じたりしないってボクは思っている」って」

「・・・っそれは!・・・黙秘するよ!」


だって証明するまでもない!日向クンは、なんの才能も持っていなくて、ゴミみたいな才能のボクと一緒で人の役に立つことなんてできなくて・・・・・・そうだった?彼は誰かの役に立つことなんてなかったのだろうか?

わからない。
いつもみんなとは離れて過ごしていたから、そんなこともわからない・・・・・・。

日向クンがボクを信じる?何のために?学級裁判では命がかかっているから?でも、学級裁判は疑うことが前提なはずで、もし計画したのがボクだと気がついたのなら疑うものじゃないのか?


(あれ?あれ?あれ?・・・・・・でも、信じてもらわないと)


解いてもらえない。
でも、ボクはみんなを皆殺しにするためにあの計画を立てたはずで。


(解いて欲しいなんて、どうしてボクは思うんだ?)


そんな自滅するようなことを。


「狛枝クン、今度は私から質問するね・・・・・・「狛枝クンはこの狛枝クンの立てた殺人計画を学級裁判で皆に真剣に議論して、君の謎を皆に解いて欲しかった」」

「違う・・・・・・」

「今度は私から証言、『狛枝クンの自殺って線で固まったときにソニアさんと左右田クンと九頭龍クンと終里さんはそれに賛同して狛枝クンに投票しようとしたよ。でも日向クンはそれを止めた、みんなに何度反論されてもそれを止めた。狛枝クンの計画がこんなところで終わるはずがないってずっと主張した』」

「嘘だ・・・・・・あんな予備学科の、一番に諦めるはずの日向クンが、よりによって・・・・・・」

「真実ノートは千日手殺し、嘘だ信じないの繰り返しを避けるために設けたルールだよ。
それすら信じてもらえないかもしれないけど、聞いて『日向クンは君があそこで自殺を偽装することで君の計画が終わるはずがないって信じてた、そしてみんなにたくさん反論されながらも毒薬と消火弾の存在にたどり着いた』よ。
これには私もサポートしたけれど・・・・・・君の悪意を、君の解いてほしいって気持ちを、狛枝クンのわかりにくいわかりにくい真意に、日向クンは確かにたどり着いて見せた」

「・・・・・・・・・」

「そんなにショックなんだね、それとも本当は・・・・・・日向クンにこそ解いて欲しかったの?でもそれが叶うとは信じられなかったの?」

「それは、ちがう、よ・・・・・・」


ボクは、理解されて、喜んでなんて、いない・・・・・・。
肩から力が抜けると真実ノートの文章がまともに目に入った、そこには確かに『日向創は狛枝凪斗を信じていた』と記されていた。疑うことはできるけど、今は、疑う気力がどこかに失せてしまっていた。

なぜ、ボクはここまで動揺しているのだろう?


「意外だった、だけだよ。日向クンも学級裁判を4回も生き残ったんだ、その経験それだけだよ・・・・・・それ以上の意味なんてどこにもないよ」

「違うよ」


七海さんは食い下がる・・・・・・彼女がここまでこのことにこだわるのはなんでだろう?
ボクを動揺させるため?日向クンをボクに侮られたから?でも、彼女から怒りは感じない・・・・・・。


「『日向クンは考えたよ、そしてだんだんみんなも狛枝クンの計画を自殺の線よりもっともっと真剣に考えて議論したよ』、そこにある真意はなんなのか君が何を考えているか、みんなで君を理解しようとした」

「・・・・・・あ、あははは!あはははははははっ!傑作だね!」

「・・・・・・何がおかしいの?」

「そこまで、そこまでたどり着いたんだね。それも一人だけじゃない全員で・・・・・・でもね!君も知っているだろう!?その先にあるのがボクが用意したどうしようもない絶望だってことを!」


ああ、そんなことを思いつくなんて、本当にボクは絶望なんだね。
でもせめてその絶望が希望に続くように、願ってはいたんだ。


「それは違う、そんなことはない」


七海さんは首を振った、必死にボクを見た。高い位置からの視線なのに見下ろされているとは全く感じない、真っ直ぐすぎる彼女の目。

 

「あの謎は解きようがなかったわけじゃない、解けるように出来ていたんだよ」


なにを、言って?


「そして、狛枝クンこれを真実のオートに書ける?
『狛枝クンはあの最後の誰が消火弾を投げたか、推理できないようにすべての手がかりを消した』・・・・・・できないよね?」

 

ああ、彼女は何を言っているんだろう?

 


つづく

 

あとがき


議論制にしたやつ誰だよ!死ぬかと思った上に終わらんかったろうが!!(自滅)

狛枝って自分の感情わかってないので、そのへんは隙だらけだよーという話。さっきまで動揺しないようにしないととか思ってたのにこのざまである。きっとその辺から妹様に調教されちゃったんだろうなー。

5回目の学級裁判は好きなので5回くらいはやっているんですが、その度に死んでるのに存在感の有りすぎる狛枝に最後の頃は微笑んでいました(え)。

とくにクライマックス推理、全員容疑者なので本気で狛枝しかない・・・・・・!
ムチを握ってる時の狛枝の顔が妙に可愛くて、はめ込んでいくたびに謎の敗北感を味あわされます。

さて、上記に書いたことはかなり私の考察混じりです。学級裁判だけじゃなく五章全体を再プレイしたときに考えた感想みたいなものです。良い子は自己責任でポップコーン投げてね☆





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