超高校級の幸× 8
αの8
ボクはいくつかの幻想を抱いていた。
なんだかんだでモノミに幼子のように手取り足取り、大事に大切に……優しく……ボクが世話をされているのは最初だけの慰め、またはボクの幸運に過ぎないのだと。
(記憶にはないけど、モノクマのファイルの記述には犯罪者どころじゃない超高校級の絶望の罪が書いてあった。
本当の……はずだ、罪木さんは記憶を取り戻した事であんなに気弱な性格だったのに即座に殺人を犯したくらいなんだから)
しかし現実はのんびりした南国の道で手錠すらつけていないでてくてく歩いている……これでいいんだろうか。
(せめて舗装されてないとこを歩いた方が犯罪者の連行シーンらしいかな……)
「狛枝クン?行くのはこっちだよ、こっち」
思わず茂みへ伸びた足をあっさりラフな服装と太陽がマッチして健康的な雰囲気の七海さんに釘を刺される。
「……はい、1本道ですよね、七海監察官」
南国の島、快晴。美しい空と海。
その島のヤシの木の植えられた道をボクは七海さんのんびりと歩いていた。
形式的には強制労働所に連行されている筈なんだけど、手錠もなければボクと七海さん以外誰もいない。
モノミは準備とか言って先に行ってしまった(しかも藤籠のバスケットにサンドイッチを詰めて)。
一応、ボクの首にはスタンガン付きの拘束リングが着いたままだがそれでもこれは自由すぎだ。
せめて口調くらいそれらしくしてみる、が七海さんはいたたまれない表情になってしまう。
「狛枝クン、変というかなんかすごく体調が悪くなりそうだから私に丁寧口調も愛想笑いもやめてくれないかな?」
七海さんを出来るだけ監察官として敬おうとしたボクを七海さんは死んだ魚のような目で見ていた……モノミといいボクはなんなんだ。
「さん付も、なんだかこう……あ、そうだ!ゲームがバグっちゃったって時のショックに似てるよ!だからやめよ、ね?」
「…………」
「……ごめんね、ただ頭痛がして。ですますが不気味だとか、今更気持ち悪いとか、そういうことじゃないよ?
えーとね今まで、そうそう今までみたいに話してよ。希望いえーい!みたいな感じでいいから、ね?」
「……善処するよ」
でもボクと七海さんは犯罪者と教育係なわけで今までのクラスメート口調や態度がおかしいわけなはずなんだけど。
(モノミといい……ていうかボクは愛想笑いをしたつもりもないんだけどな)
しかも体調が悪化するレベルらしい……何だか虚しくなる。これが絶望なのか……。
「もう一度言うけど、私はこの島の……今は狛枝クンの教育・更生・司法・その他諸々担当の七海監察官。
今は今日の狛枝クンの罪にふさわしい罰としての労役の予定スケジュールの場所に移動してもらって、かつ同行、観察するの。
あと重要なおやつの数はふたつまでね、これは規則だから絶対に守ってもらうよ」
物凄く真剣な視線を向けられる……おやつOKなんだ。モノミは喜ぶかな。
先に「ボクの労役計画」を確認しに行ったモノミはここにはいない。ボクと七海さんを置いて空を飛んでいった、飛べるんだ……突っ込まないぞ。
ちなみに去り際にこんなことを言っていた。
『はーい!あちしは狛枝クンの医療福祉・生活訓練・セラピー・その他諸々内緒の担当のウサミ監察官でちゅ!
七海さん、狛枝クンの朝ごはんのお皿を洗うから少し待ってくだちゃい!』
『……強制労働担当の囚人Aです、それ君の皿……いや洗うからいいって!』
そんなドタバタした押し問答の後に今七海さんの先導の元、労役の予定場所という場所に向かっている。
いい加減拘束中の犯罪者らしい生活、そう今日から朝からの強制労働にボクは謎の期待をしていた。
例えば気絶するまで岩山をツルハシで掘らされるとか、オートメーション機械の間で一瞬のミスも許されないとか。
いやそれでは生ぬるいから大量殺人犯として一定時間被害者に石を投げられるとか、危険性が未確認の薬物で人体実験されるとか、そういうものを期待していた。
だって、それが絶望の残党にふさわしい日常だろう?
少なくとも、ほら、こんな風に女の子と二人で朝の海の見える道を散歩しているみたいなシチュエーションではないはずだ。
「…………」
「…………」
てくてく。
「…………」
「…………」
てくてくてくてく、さわさわ。遠くにはざぁんという波の音。
ボクと七海さんの足音とヤシの木の揺れる音だけが響く。元々七海さんは口数が多い方ではないから、ボクが黙っていると自然と無言になる。
(……まるでこの世の楽園みたいな風景だな)
だからこそ場違いさに居心地が悪い。
本来のボクの罪にふさわしいのは残酷な処刑なのだ。モノクマと同じみたいでいやだが、あんな風に見せしめに処刑する方が世の正義というものだろう。
絶望の残党を拘束したという未来機関の行動としてはなおさらだ。
(確かに一度は記憶を奪って、更生させようとしたんだろうけど……多分モノクマの行動で失敗した)
だから、もう処刑でいいはずだ。しかし待てど暮らせどそんな日は来ない。
ボクだって、今の状況の真相が知りたいからすぐに死にたいわけではないけれど……なんだかこれは安全という幸運なのか、不安という不運なのか混乱してきた。
幸運か不運ではないという状況はボクには不安を覚えさせる。一人でいる時はいいけれど、今はモノミや七海さんもいるから次に彼女たちを巻き込まないか数分後の未来が不安になる。
そんな風なことが多い人生だったからだろうか、ボクは今が「不運」であることを祈った。未来に「幸運」が、良いことが待っているように。
だから、青い空を見上げてこの状況を不運的に解釈してみる。
(ある日、幸せな南国生活からギロチンに送る事で絶望させるとかそんなプランとか?)
それとも……やはり未来機関はボクらを失敗してもなお更生させる気なのか?二人を見ているとそう連想する方が自然だ。
そんな生温い「幸運」……ならこの先に待つ不運がせめてボクに当たるように祈ろう。
「希望」たる未来機関が決めたことならボクは従うしかない。クズの絶望には希望のすることに反抗する権利なんかない……と急に視界に何かが付きだされた。
「てや」
「わつ!?……七海さん?」
急に前方に突き出された2本の指、隣を歩いていた七海さんがチョキをボクの目の辺りにむけている。思わず後ろに下がる、となんだか怒った表情だ。
その背後に見える切り立った断崖とその向こうのマリンブルーの海。そこに立つ七海さん。
(絵になるなあ)
波と椰子の葉の小波の音が耳に優しい、南国の景色は変わらず美しい。海も空も抜けるように青く、太陽が落とす影はどこか暖かい生気に満ちている。
そんなだからだろうか、アクティブな格好をした七海さんの髪が南国の風に揺れる姿にちょっと見とれてしまった。流石は希望だ、とても綺麗だ。
頬をぷうと膨らませた七海さんはチョキをボクの鼻先から離すと、癖なのか目を伏せて腕を組んで苦言を告げる(日向クンもよくされていたあれだ)。
「狛枝クン、今自分をゴミクズとか思ってたでしょ?わかるんだよ、だめそんなこと思っちゃ。狛枝クンはゴミクズなんかじゃないよ」
「…………」
すごい、これが本物の希望の輝きなんだ!心が読めるなんて!
でもボクがクズの絶望なのは事実なんだけどな、特に……七海さんにとっては尚更だろう。
『狛枝クンを、私、殺したくなんてなかった』
七海千秋という女性は基本的に感情というものをほとんど表に出さない、意識的にそうしているわけではないだろうが喜怒哀楽をはっきりした方でない。
でもボクの前で、ほんの昨日彼女は泣いていた。悲しみをあらわに、涙を溢れさせて、どうして人殺しをさせたんだとボクにつめよって泣いた。
それほどまでにボクは彼女を傷つけた。
それなのに、ボクの隣を彼女が歩くなんて……これがおこがましくなくて、なんなのだろう。
そんな分不相応なことを思っていたからだろうか、ボクの口はいつの間に昨日のことを話題にしていた。どう考えても彼女は聞きたくないだろうに、ああボクはバカだ。
「七海さんはさ、いやじゃないの?ボクと一緒に居て?」
「どうしてそんなことを聞くの?」
「仕事だから耐えているの?君が昨日言った事は本当だ。あの時のボクは知っていて君を狙ったわけじゃないけど、結果的に君を狙っての殺人計画を勝手に実行したんだ」
そして君を取り返しのつかない後悔や痛みや絶望に落とした……はずだ、ボクがいま彼女と生きて話しているからよく分からなくもあるけれど。
それなのにこんな風にボクと接して、彼女は辛くないのだろうか?
色素の薄い髪がボクに向かって浮き上がる、彼女は一歩ボクに詰め寄ってまっすぐ視線を向ける。
手を伸ばせばすぐその細い肩に触れられるその近さからボクは怖がって逃げないよう意志を強くして離れないように努めた。
ボクは、七海さんから逃げてはならない。
「……私にさせたこと、後悔してるの?」
人殺しをさせて、と。正午の日向の光の中に揺れる七海さんは、いままでと同じく鋭い。
(第一回学級裁判の時からそうだった。
彼女は十神クンの真意を言い当てたし、田中クンの時も彼が自分を犠牲にしようと迷っていたことを見抜いていた)
きっと彼女はミステリーで言う探偵なら動機を解き明かす達人なのだ。そのことを見抜けなった故にボクは彼女に、出席していない五回目の学級裁判で負けたんだ。
そしてボクが後悔していないって知ってる。どんな絶望にも屈さない強い希望を求めるためにはどんな犠牲を払ってもいいと思っていることを理解してる。
ボクみたいな人に災いしかまき散らさないゴミクズを殺したことくらいで絶望することが理解できないことを知っているんだ、そしてそれを悲しみ憤っている。
「後悔していないんでしょ?……なら、謝るのは一度でいいよ。ちゃんと聞いたから」
「七海さんは、ボクが憎い?」
君の意思をねじ曲げて、その手を血に染めさせたボクを憎んでいる。それは当然なんだろうけど、彼女から違う意思を感じる。だから訊いてしまった。
七海さんはボクから一歩退いて、くるりと背を向けて遠い海を見ると小さく答えてくれた。
「……内緒」
「そっか……なら仕方ないね」
諦めて彼女を見つめると、静かな背中があの時みたいに泣いているように見えた。肺が、うまく息を吸えない気がした。
(苦しい?……馬鹿馬鹿しい、胸が痛むわけもない。ボクが自分で望んだことにそんなこと思う資格なんてない)
彼女の姿がひどく弱く儚く見えていても、それが記憶にない絶望の罪ではなく、ボクが犯した罪の結果なのだ。
手をそっと胸の辺りに持ち上げてその白い手のひらに揺れる光をじいっと見つめて背中を向けたまま七海さんは話を変える。
「狛枝クン、今日やりたいこととかある?」
「………なんでそんなことを聞くの?ボクはこれから強制労働でしょ?」
「別にやらなくてもいいよそんなの」
「仮にも教育担当が、そんなことを聞くのはどうなのかな……?」
思わず小声になる。周りを見渡す、監視カメラはないがどこで未来機関が彼女の言うこと聞いているのか分からない。
それなのに、本当にどうでもよさそうに七海さんは話し続けた。ひどく投げやりなような、切実なような声音は全く震えていなかった。
「強制労働なんか、いいよ。狛枝クンが海で泳ぎたいっていうならそれが強制労働でいい、私が認めればそれが強制労働だよ」
「そんな、馬鹿なこと」
「出来るよ私はその権限があるから、誰にも怒られない。狛枝クンが今日を生きてるのがどうでもよさそうなのが……悔しいし、いやだよ」
「そんなつもりはないよ、ただボクは大罪人なんだから罰を受けるのは当然だし、本当は何をされても生ぬるいくらいで」
「そういうのいやだよ、狛枝クン……そんなだったら遊んでいようよ、一緒にゲームでもしてさ」
そして七海さんは飛び切りの笑顔でボクを振り返った……はずなのにどうしなんだろう。
さっき彼女を傷つけた事だけは、悔いたはずなのにまた同じことを繰り返している気がする。
でも、昨日と違って今は止めてくれるモノミはいない。
だったら、ボクが……なにかやらないと状況は変化しない。
なら、
「………よ……七海さん」
とにかく何か彼女に伝えてみよう、その追い詰められたやけっぱちさを薄められるように。
「……え?なに?聞こえなかった……風が」
「ボクは後悔はしていない……でも七海さんに罪を犯させたことで何が起きるのか考えなかったことは、馬鹿だったと思う」
ボクが希望になれなかった理由が少しずつ理解できた……結局ボクはゴミクズなんだ。
胃が捻れる痛みを堪えて、ボクが希望と呼ばれるべき人々を意思を無視して踏みにじった事を自覚する。
それに気がつきもしないで超高校級の希望になりたいなどと願った、お笑い草な絶望的な自分の心に呆れる。
だから、せめて気がついたなら、気がつけたならそれを伝えたい。
(ボクが愚かだったから、君の希望に絶望の影がさした)
ボクが罪人なのは超高校級の絶望だからだけじゃない、七海さんの手を血に染めた罠を仕掛けたからだ。だから、
「……だから、君がボクの罪を罰するならなんでも聞くよ。元々選択肢なんてないんだけどね」
「本当に……なんでも?」
「『なんでも』、君が認めればそれが強制労働になるんだろう?」
「……うん」
その時に微笑んだ七海さんの瞳は南国の海の様にどこか底抜けな光を湛えてた。さっきの自暴自棄な雰囲気は消えて、暑いくらいの陽の光をもつ瞳がボクの姿を捉える。
そして弾けるように笑った、南国の風に揺れる髪がさざなみの様に踊る姿はこの海そのものの様に美しかった。
なら、とっておきの「強制労働メニュー」があるからと七海さんはボクの行く先を指さして進む。
ボクと七海さん、道の向こうで手を振るモノミが見える。合流すると、三人で広場に向かって歩き始めた。
身長差があるから転ばないように、お互いにたどたどしく並んで光が一番当たる場所へ歩いていく。
そして……たどり着いた先は絶望に満ちていた。
「……ナニコレ」
「?……何って、狛枝クンの強制労働メニュー」
ここは……地獄なのか?やはりボクは死んだのか?
そう思って目の前の七海さんとモノミに囲まれている計画書から後ずさる。
「一応締切がありまちゅが、守れなくても出来るまで何度でもやり直せまち、あちしと七海さんが全力投球で狛枝クンをサポートするので安心して下さい!」
「それは、違う、よ……はは、これはないよ……」
「心配無用だよ、必ず狛枝クンが気に入るまで付き合うから」
そういう問題じゃない!
両手両足の爪を剥ぐまで岩山をつるはしで掘る、岩や土を全身がボロボロになるまで運ぶ、一晩中水をかけられ眠らせてもらえないまま精神を破壊する、巨大機械の一部となってモタモタとパーツを組み立てる……絶望の残党としての罰はそんなモノを想像していたんだ。
しかし、これは……次元が違った。
何をされても仕方ないと覚悟していたんだ。
でもボクはやはりゴミなんだ、ボクの想像力はちゃちだった。こんな、こんな。
「なんでボクの等身大銅像を作るメニューなんだよ!?
しかもなんで二十体も!!?並べるの!?」
「えー?狛枝クン、なんでもするっていったじゃない……嘘つき」
北極の海みたいな視線を七海さんは送る。うっとボクは呻く。七海さんは名前の通り、瞳の中に七つの海を持つに違いない。
ボクに拒否権がないのは、さっき約束した通りだ。そもそもボクは拒否権はない。
しかもボクは確かに七海さんに約束した……「なんでもする」……その言葉を重さを味わう、自分の迂闊さを苦く噛み締める……でもこれは辛い。
辛いのは罰なのだから当然だが……これはなんか違う。辛さの方向性が違う。
「二十体全部飾る訳じゃないでちよ!こういう芸術作品は試行錯誤が必要なんでち!最高傑作のみ公園の広場に飾りましゅ!」
「しかも飾る気なの!?公園の真ん中に!?絶対やだよ!そもそも芸術じゃない!!」
「?……だって狛枝クン、ビデオメッセージで『ボクの銅像を立ててくれ』って言ってたじゃない……これで狛枝クンの夢が叶うよ、頑張ろうね!」
「あれはそういう意味じゃ……そもそもこういうのは自分で建てるものじゃないよ!?」
「ほえ?自分で作った出来立てご飯がおいしいみたいに、自分で作った銅像はより一層誇らしいものじゃないのでちゅか?」
モノミは真顔、七海さんはきょとんとしている。ああ、こんな時に日向クンや左右田クンがいてくれたら突っ込んでくれるのにと無茶苦茶な思考で混乱は続いた。
「ボクの銅像なんて、できっこないよ!というか自分では作るのは無理だよ、精神的に!」
「まあまあ、心配しなくてもちゃんと図面から作りまちからちゃんと出来まちゅよ」
「まずは全身のスキャンだね、この部屋に入って狛枝クンの考える希望のポーズをしててくれれば図面の基本ができるよ。
まずは3Dプリンターで型を作ろう、それから型を作って後は試行錯誤だよ。これで半年くらいかなあ……ふふ、ちょっと楽しくなてきちゃった。やっぱりクリエイティブな活動は楽しいね!」
「ほ、本気なの!?二人とも、半年もかけてこんなものを作り上げる気なの!?」
しかも希望のポーズってなんだ!?ボクが後ずさるとモノミがものすごい力で進路妨害をしてきた。
全く動けない!?なんて力だ…!
そして七海さんの「狛枝クン銅像計画」と空恐ろしいことの書かれてたノートと図面を抱えてとびきりの笑顔を向けて歩み寄ってくる。
死の恐怖、それに似た何かが背中をつうっと滴り落ちた。命乞いをする心境で二人が「冗談だよ」と言ってくれる可能性にすがりつく。
「冗談だよね?本当はこの後毒ガスの出る鉱山にツルハシ一つで行くんだよね?こんなこと社会の害になりこそすれ、良いことなんて誰にも一つもないっていうか」
「材料は一部採集に行ってもらうけど、たくさんの「助手」がいるから大丈夫だよ。あの子たちを見たら狛枝クンもびっくりすると思うなあ」
「まず大切なのは設計図づくりでちゅ!ここが狂うとどうしても仕上がりが失敗しまちゅ、狛枝クンは結構派手な癖っ毛ですから再現に最新の注意を払わないと……」
「んんっ、んんんんんんん〜ッ……!!」
真面目、二人とも大真面目。もうボクに逃げ場はない……でも、いや、しかし!
「や、やだよ……なんでもするよ!それをしないなら靴も舐めるし、岩山も掘るし、新薬の実験体でもなんでもするから……!」
「狛枝クン……ほら」
「素敵な銅像を……一緒に作りまちょうね☆」
天使ような愛らしい笑顔ふたつにやさしく微笑まれて、気が付けばボクは悲鳴をあげていた。
「い、いやだああああああああああ……!」
……こうして。
ボクのジャバウォック島での第二の日々でのボクの罪を償う日々は始まった。
βの3
さらさらさら。
衣擦れのようなこそばゆい風の音がする、目を開くと木の葉を揺らす小風が頬にあたっていた。
気持ちがよくて、思わずもう一度目を閉じて、また開く……昼の光の世界だ。
(ココハドコダ?)
さっきまで小さな部屋から出られなかったのにここは外のようだった。
思わず寝ていたあたりを探してみるが「ヒナタハジメのノートがない」……移動してしまったのか。
「狛枝クン、大丈夫?もう少し寝てていいんだよ」
気が付けばついさっき……時間の経過はよく分からない、さっきまで夜だったのに今は明らかに昼だ……見たはずの黒衣の少女が心配そうに見下ろしている。
少女は黒衣ではなくなり、日の光の様な行動的な服装に着替えていた死神のような雰囲気はきれいさっぱり消えていた。
(……狛枝クン?……この子はボクのことを知っているのか?
確かにあの白い部屋のベッドに寝かされている時もボクを知っている様子だったけど)
健康的になった少女は楽しそうな声で笑うと、ボクの傍らに座る。気が付かなったが、ボクは草むらに横になっていたらしい。
汗をかいている、結構疲れている。何が起こったのかはよく分からないが……その理由を少女は知っているらしい。笑いながら、話してくれる。
「ちょっと私もモノミちゃんも調子に乗りすぎたかな……くすくす、君が本当にあんなに動揺するなんて思わなかったから、ついついやりすぎちゃったよ。
あ、でも本当にこのメニューで決定だからね?半年はやってもらうよ、何でもするって約束したもんね。頑張って一緒に銅像二十体作ろうね」
メニュー?銅像?モノミ?何でもすると約束?……ボクには知らない話だが、なんでもするなんて安易な約束をしたものだ。
「モノミちゃんがね、お昼だけじゃ足りないだろうっておやつにアイスクリームを持ってくるって。
狛枝クンは何味が好き?私のイメージだとバニラだけど、あってるかな?」
それは正解だったが……答ることには躊躇いがあった。
ここはどこで、今はいつで、少女が誰かもわからない。それに……なんだか話の流れからすると「ボク」がここにいることが知られてはマズイ気がする。
(気が付かれないようにしておこう、今は……何の意味もないことかもしれないけど)
幸い、疲れ切って眠っていたらしい身体のおかげで返事がないことに少女は疑問を持っていないらしい。何をしたのかはわからないが、疲れ切って眠ってくれるとは運の巡りがいつものようにいいらしい。
だから、疑問を持つことなく少女はボクにボクの知りたい情報……彼女が何者であるのかを告げてくれた。
「立ってよ、狛枝クン。モノミちゃんがアイスもってきたみたい、あっちでみんなで食べよう?狛枝クンの教育担当七海千秋監察官の命令だよ?」
微笑んだ彼女の名前、七海千秋。狛枝凪斗の教育担当監察官……?
今は何もわからないし、なぜボクの意識が切れ切れなのかも、あのノートのこともわからないがボクはしっかりとその名前を心に刻んだ。
あとがき
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狛枝に一番つらい罰を与えるとは何ぞや?と思って思いついたのは銅像セルフサービス計画でした。
七海は割とおとなしいので、モノミの時よりいちゃいちゃさせるのは難しく、でもちょっと距離が近くなったようなお話。
β版がようやく始動してくれたので、次回はほとんどβ版視点というわけのわからない話になるかと思いますがお付き合いいただければ幸いです。
2013/12
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