超高校級の幸× 7

 


αの7

 


白い光が、目に染みる。瞼越しに白い太陽が網膜を焼く痛み……夜が明けたんだ。


(あんまり眠れなかったな……まだ起床時間前なのに)


裁判と七海さんとの話でひどく疲れていたはずなのに、うまく熟睡できなかった。……疲労が思った以上に溜まっているのかもしれない、そうすると逆に眠れなくなるものだ。

特に精神的なものは……全身が氷になったみたいに固く冷たい、今までどうやって関節を動かしていたのか思い出すまでもう少しかかりそうだった。

だから、目を開いて夜明けを眺めた。今日が始まる。

白んだ空が黒灰色の海を照らし青く染め上げて昼の世界にとり戻していく海の姿に夜が明けたということと太陽の熱で体が溶けてようやく指先を動かせるようになることを悟り、軽く身じろぐ。シーツの顔を埋めると、太陽の匂いのシーツが鼻をくすぐる。


(新しい匂い……モノミが用意したのか?)


まさかまだボクの世話を焼く気じゃないだろうな。まさか……まさか。
日の光がだんだん強くなることに耐え切れなくなって、ボクは光から目を守るために手を翳す……ああ、まだ眠い。眠気と痛みでまぶたに涙が混じる。

だというのに、どうして、夜明け前に起きてしまったんだろう?


(色々あったから……なのかな?)


やっぱり思った以上に疲れ果てているのだろうか。
コロシアイ、絶望に堕ちた希望たちの行方、なぜか一人だけ予備学科だった日向クンのノートと、七海さんの涙、妙に元気なままのモノミ、そしてなにより死んだはずのボクが今も生きている理由……七海さんが知りたければと言った「学級裁判」をやったのに結局全てうやむやだ。

でも、仕方ないのだろう。
七海さんは裁判は本来はもっと、一週間は先と言っていた……彼女が嘘をついたわけではない。

瞼の奥で光が瞬いた、太陽が海の向こうからやってくる。
暖かな日向の光を連れて……変な言い回しだ、彼を思い出している証拠だ。


「……日向クン」


枕の傍らを振り返る。
そこには一冊のノート、ヒナタハジメと書かれたノートが置いてある。


「枕元になんか、置いたっけ……?」


というか、いつボクの手に帰ってきたのか分からないけれど……また、七海さん?

昨日は……あまり覚えてない。
裁判と七海さんの話のあとモノミに「ボクの家」に連れ帰られて、ホットミルクを飲まされて部屋に押し込められた。

文句を言うまもなくすぐに消灯時間が来て部屋はロックされ、そのまますることもなく倒れるように眠った。


「ノートは裁判中はなかったし、部屋で見つけったっけ……?」


記憶は全て曖昧だった、そう思うと傍らのノートはボクの都合のいい妄想の産物かと手を伸ばす。大して厚くない背表紙の感触、重み……幻じゃない。

手にとって開くと、一昨日目にしたほとんど真っ白なノート最初の数ページにだけ日記のような記述がある。それも二週間程度で途切れて、溜息をついて閉じれば表紙が目に付く……「ヒナタハジメ」。


ヒナタハジメ、日向創、砂浜で倒れていた記憶の欠落した彼、予備学科、絶望かもしれない存在、モノミの日記帳を見てボクのトリックを台無しにした君、ボクの自殺の動機を最後まで疑った君、ボクに似ていると思った君……君は、君は。


(君は……生きているのかい?)


言葉もなく尋ねてみても、ノートは無言で朝日の光を少し反射するだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もふもふもふもふ。

もっふもっふ……とてん!ゴロゴロ……しゃきーん!

もふもふもふもふ……ごそごそ、がちゃり。


「狛枝クーン、朝でちよー!
もうすぐ朝ごはんだから、すぐ顔を洗ってロビーに来て……って、なんでキッチンに立ってるんでちか!?」

「信じられない……本当に来た……」

 

ツッコミどころ満載の擬音とともに階段から降りて、厳重にロックされた扉をウサギのぬいぐるみが開く……まだボクと共同生活ごっこを続ける気なのか、モノミは。


(信じられない、何をされたと思っているんだ。機械だから、死んでも代わりがいるんだろうけど……でもボクはまた同じことをするかもしれないのに)


馬鹿なのか、もしくはボクの理解よりはるかに大物なのか……とにかくどう接すればいいのかわからない。木のスプーンでホットプレートの上のスクランブルエッグを混ぜる手がいらいらと早くなる……しまった、ぐちゃぐちゃだ。食材を無駄にしてしまった……。

ので、忘れていた教師という設定で扱ってみる。サービスで愛想笑いも付け加える。


「……お早うございます、モノミ先生」

「きゃあああああああああああああああああ!!?
そんな地獄からのお誘いみたいに敬わないでくだちゃいー!呪われるー!
……って違いまち!なんでキッチンに立ってるんでちか!?」


地獄?呪い?愛想笑いまでしたというのに、何がいけないというんだろう。やはりゴミの浅知恵はダメなのか?


「なんでも何も、囚人なんだから自分の面倒は自分で見ますよ。幸い、両親が亡くなってからは一人暮らしがほとんどでしたので一通りはできます」

「一人ご飯は時々でいいんでち!狛枝クンは寂しんぼだから独り立ちはまだまだしなくていいでち!
……あ、あと、もしかして狛枝クン、先生に笑顔を向けてくれているんでちか……?怖いから、じゃなくて無理させてるみたいで悪いからやめてくだちゃい……。
あと、狛枝クンはその、確かに拘束ということになっていますが、ご飯を作るのはあちしの役目なので、寝ててくだちゃい……え、笑顔はいいでちから!!?」

「マサカ、モノミセンセイノオテヲワズラワセタリシマセンヨ……」

「いやああああああ!!もはやホラーでち!丁寧語のゴーストボイスやめてー!!」

「…………………普通に、喋ってるんだけど」


ぼそっと呟く……モノミはボクを何だと思ってるんだ。なんだかイライラして木のスプーンで混ぜるスクランブルエッグに視線を戻して、口を尖らせる。


「モノミが自分を先生だっていうから、そう扱っただけだよ」

「まさか!?先生のご飯は美味しくないでちか!?この完全必殺の究極レシピで!?」


完全必殺のってボクを殺す気なんだろうか。意味がわかって言ってないよな……?

正直に言うと、モノミが作るものは計算され尽くしたかのように美味しい。なにか思惑があるのではというくらいに、だから当然ボクの適当な朝食より素晴らしいのだが。


(……………ボクは馬鹿だよな)
 

トーストにスクランブルエッグ、後は冷蔵庫にあった牛乳を添える。ボクには丁度いいが、あの朝食の味を当然としているモノミにはとても……ともう一つの皿に手を伸ばす。と、

ガン!次の瞬間、目の前に火花が散った。

後頭部をモノミがステッキでいきなり叩かれた。ボクは机に顔面を思い切り打ちつける……何もないとこにぶつかったから、朝食は無事だ。

いや、そうではなく。


「わかりまちた!狛枝クンの企みを先生は見抜きまちた!めっー!」

「いきなりなんだよ!なにがめっ!なんだって!?」

「先生にはお見通しでちゅ!
狛枝クンはガラス片をスクランブルエッグに混ぜて自殺するつもりでちゅね!
自殺ダメ!ぜったい!先生の屍を超えてみろでちゅよ!」

「モノミはボクをなんだと思ってるんだよ!
……ガラス片もなにもここにある窓は全部防弾仕様でとても割れないし、皿も食器も全部木製じゃないか。混ぜたくても混ぜられないよ」

「ほえ!?……はっ!
……いやでも……狛枝クンなら、ありうる!卵の殻とかで!」

「それで死ねたら、逆に歴史に名前が残るかもね……不名誉な形で」


それなら全世界で朝食に卵が出る度に殺人事件が起きそうだ……じゃない。
ボクは一時的に気まずさを捨ててモノミを冷たく見下ろして、思い切りバカにした顔を作った。


「ボクは自殺なんかしないよ、馬鹿じゃないの?」

「……わー、狛枝クンだけは言われたくないセリフでち……」


う……。
前科があると苦しい。くそ、死んだはずのボクがなんでこんなワケのわからない押し問答をしてるんだ。しかもモノミの方に説得力があるなんて、何だか凄く悔しい。しかもなんだよ、その哀れみの視線は。

はーっと溜息をつく。


「……もう作っちゃったから仕方ないでしょ。君が毒殺されるのが心配なら一人で食べるよ」


やはり、本当は……気まずさを捨てきれないのでモノミから目をそらす。囚人の看守なら一緒に食卓をともにするなんて、意味不明なことやめて欲しい。ましてや一度は危害を加えられたのだ。

もともとボクは一人で生活するのには、飽きるほど、慣れている。だから別に、気なんか遣われても……正直困る。


「ほえ?狛枝クン、先生にもご飯作ってくれたんでちか?」


もうモノミを無視して、スクランブルエッグと食パン(トースターだけ使えた)を木の皿にぞんざいに盛る。


(なんでいつもモノミは……ボクに、いやボクたちに甘いんだ?)


それが未来機関の意思だったから、だとしてもボクたちはモノミをモノクマサイドと疑ったり真実を知っていそうなのに教えてくれないことで何をされても感謝しなかった。
決死の想い(多分)で次々に島を開放しても、モノミは誰にも信じてもらえなかった。


(多分七海さんが影でフォローしてたんだろうけど、日記の交換をする時とかに。でもよくめげないな、機械だから?)


でも、機械と割り切るにはモノミは人間よりも人間らしく見える時がある。希望のようなものを感じる時だってある。だから……もう無駄に苦痛を与えたくない。結局ボクは何かあったらまたモノミに危害を加えないとは言えないのだ。

いい加減諦めたのかと食事の準備を一人分終わらせると、じっとモノミが足元からボクを見上げていた。


「なんだよ……もうボクに構わないで、好きにしなよ」

「あちしのも!」

「は?」

「あちしも食べます!あちしも狛枝クンのごはんお願いしまちゅ!」


そう言われた微笑みは……ぬいぐるみの割りに可愛らしい気がした。

……五分後、ボクはモノミのリクエストでスクランブルエッグをハート型に盛り付け直していた。


「わーい!狛枝クンのごはーん!パン派なのは本当だったんでちねー、ジャムはいちごがいいでち!
あ、いただきますは忘れません!あ、ケチャップかけてくだちゃいー」

「………」


無言でケチャップをハート型でかける、ぬいぐるみも味覚があるんだな。そういえばコロシアイ修学旅行でモノミが食事をしているのは見たことがない。

モノミは木のスプーンでパクパクスクランブルエッグを口に運んだ。……本当に食べるんだ。なら、流石に適当過ぎたかもしれない。


(もう少し頑張ってオムレツくらいにすれば良かったかな……木のスプーンとホットプレートしか使えないんだから、しょうがないんだけど……こんなことならやらなきゃ良かった)


与えられた部屋と出入りできるキッチンには包丁やナイフはおろか、書き物のできるボールペンや鉛筆すらない。皿やスプーンさえ木製だ。

犯罪者を拘留する場合、尖ったものを与えないというのは本で読んだことがある。理由は他人を傷つけないためと自殺を防ぐため。ここには尖ったものも刃物の代わりになるようなものも、ない。
さらにはコンロすらなく、電気のコードのような首を釣る紐の代わりになるようなものすらない。完璧だ。

七海さんもだが、モノミは特にボクを持て成そうとする一方で囚人としてきっちり拘束していた。絶対に危険には近寄らせないし、行動制限には結構キッチリしてる。


(これも、そのままだしね)


そっと首筋をなでる、そこにある銀の首輪。

裁判の時に真実ノートの嘘発見機とのことだったがまだつけているとなると他にも色々機能があるのだろう。発信機と盗聴器くらいはついているはずだ。


「狛枝クンはケチャップでハートを書くのがお上手でちゅねー」

「………そうかな」

「卵も、割合美味しいでちよ?」

「まずいでしょ、ボクが全部食べるからモノミは無理しなくていいよ」


皿の上のハート型のスクランブルエッグは半分程度残っていた。


「ほえ?そういうわけにはいきまちぇん、だってこれは狛枝クンの先生へのごめんなさいでちから」

「……え?」


思わずスプーンを取り落とす。木のスプーンはからんとテーブルの上で音を立てた。


「だって狛枝クン、ちゃんと二人分用意してくれてたじゃないでちか。
狛枝クンは先生にしたこと、言葉じゃない形でごめんなさいしてるんでしょう?」

「………な」


なんでそんなこと、知って。

にこにこ、能天気なモノミの笑顔。


「狛枝クンのスクランブルエッグ、おいしいでちー」


でも冷静な態度を崩さないまま能天気なモノミはボクの牛乳のカップに注ぎ足す。成長期でちから、と見上げられて……今更なのに余計に罪悪感が喉元につかえた。


(……そうだ、ボクがそのフェルトの喉元に手を添えて首を絞めた。
なのになんで、当たり前に朝食なんか一緒に食べてるんだ、バカモノミ)


「それはでちね」


(心を読まれた!?)


タイミングの良さに絶句しているとモノミはボクのトーストにハチミツを塗り始める。体にいいとかなんとか、言っていた気がするが


「狛枝クンはあちしと今までのまま一緒にいた方が暴力を振るったことを反省すると思ったからでち、君は自分がした事を忘れない子でちから絶対にもうあんなことはしまちぇん」

「……なんだよ、それ。ボクみたいなゴミク……っ!?」

「きゃあ!それは言っちゃダメー!……って、マジカルステッキでストップ!」


銀の首輪が首を締め上げる、いや電気を発して一時的に声帯を麻痺させたのか。
モノミがステッキを振り上げるとすぐに止んだ、しゃがみこんで咳をしているとモノミが半泣きで寄ってくる。

ああもう、食べていてよかったのに。


「ごめんなさい、狛枝クン!言い忘れていまちた、あなたのあまりに自虐的な部分は自分で自分を蔑むことから来ているのではと未来機関の教育担当からそういう言動を封じるような新しい規定が……もう大丈夫でち、大丈夫でちから……」


そっと首に短い手が回される、抱きしめているつもりなのか……太陽の匂いがする。好きな匂いだ。


「でも、君をこんな風に苦しめるのはイヤでち、イヤでち……だからこれはやめさせまち、他の方法を考えます」

「……規定なら、仕方ないんじゃない。すぐに止めてくれたでしょ」


モノミの抱擁に答えるように小さな頭を撫でる。そうか、言動もチェックされているのか。
うかつな事は言いまくっているので今更気をつけることもないかもしれないが、一応覚えておこう。


「喋っただけで反応するとかすごいね、ボクみたいな矮小な……って!」

「って、言ったそばからーーーー!!うわーーーん!」


今度は静電気程度の痛みで済んだ。モノミのステッキの力は恐ろしい。


「おりこうな狛枝クンなのに学習してくだちゃーい!……はあはあ……ひっく、狛枝クンが痛めつけらるの見るの辛いでちゅ……うわーん!」

「な、泣かないでよ」

「わーん!狛枝クンが先生を泣かしたー!学級崩壊でちー!」

「学級なんてないでしょ……じゃなくて!……わざとやってる?」

「あ、バレまちた?」


半眼で睨むとモノミは「てへ☆」とおいおいと泣いていた顔を隠す手を上げて笑う……このウサギ……。


「………」

「あー!何するんでちか、先生のご飯食べないでくだちゃい!」

「モノミが嘘ついてる間に冷めてまずくなりそうだったから、食べてやったんだよ」

「ひどい!本当に泣きまちよ!?」

「モノミ、オオカミ少年って知ってる?今はボクは嘘吐きウサギってストーリーを思いついたよ」

「もちろん知ってまち!嘘をつき続けると信じてもらえなくなる教訓でち……って狛枝クン!?嘘吐き少年の狛枝クンに一度嘘泣きしただけで嘘吐きウサギなんて本当に傷ついて泣きますよ!?だからご飯返してー!」

「モノミ本気でボクをなんだと思ってるの?ちょっと真剣に聞きたい気がしてきたんだけど……」

しかし、モノミは皿に飛びついてくる。そんなに食べたいのか……残り二口程度を返すとモノミは「わーい」とあっさり上機嫌になる。なんてお手軽なウサギなんだ、それでいいのか……。

綺麗になった皿を大事そうに眺めているモノミ、その姿はボクのよく知っているピンクと白のうさぎじゃなくて真っ白な姿。モノクマに改造される前の姿……。


「……ねえ、モノミって今はウサミなの?そう呼んだほうがいいの?」

「狛枝クンが好きに読んでくれて結構でちよ?大事なのは名前そのものじゃなくて、呼ぶときの気持ちでち。今狛枝クンがあちしをなれない「ウサミせんせい」って呼んでもなんだか他人行儀なのでモノミでいいでち。呼んでくれた時に今までの親しみがない方が先生はいやでちよ」

「…………」


冷静すぎる、悟りすぎている、これがモノクマに改造されていないモノミの真の姿なのか?
だんだん頭が痛くなってきた……いや、さっきの首輪の電気の後遺症か?


「あ、ご飯に夢中ですみまちぇん、今狛枝クンの拘束リングの設定を変更しまちね」

「え、あ、ありがとう……」


光るステッキが首元に差し出され、首元から英語に似た小さな音がいくつか発せられる。
モノミはほっとしたように胸を撫で下ろすと、よかったとテーブルに乗ってボクの頭を撫でる……なんなんだ。


「モノミ、ボクが怖くないの?また首を絞めたり、もっとひどいことをするかもしれないよ。ボクは何をするかわからないのにどうしてそんな風なんだよ?」

「狛枝クンは先生にひどいことなんかもうしまちぇんよ、あの時のことはあちしも迂闊でちた。狛枝クンが拘束リングのスタンガンで倒れた時はすごく胸が苦しかったでち……」

「そういえば、あの時倒れたのはそういう理由だったのか……よかった」

「?なにかいいまちた?」

「別に」


もうボクがモノミを攻撃できないならそれが一番いい。選択肢にすらならないことが一番安全だ。良かった……我ながら、妙な思考だけど、なぜか「良かった、良かった」と心が騒がしい。


(ボクの心がどうであれ、物理的に不可能ならそれが一番ホッとする)


ならあとは心残りはひとつだけだ。バカみたいだけど、気がすまないんだから仕方ない。
変わらない綺麗事を言い続けるモノミに少し毒されたのかもしれない。


「モノミ、ボクが命令を聞くなら何がいい?聞ける範囲んだけど」


無抵抗の存在に危害を加えたことの対価には何をしても足りないだろう、そういうものだ。
でも、どうしてもボクはそんなことを言いたくてずっとモノミと喋ってたのかもしれない、なにか償えないかとか馬鹿なことを……。


「ほえっ!?狛枝クンが壊れた!!」

「そーいうのはもういいから!なんでも好きに命令しなよ、罪人に遠慮なんて必要ないだろう!?看守らしく囚人の労役を搾取しなよ!!」

「そんなことちまちぇんよ!!……えーと、本当になんでも?」

「二言はないよ、いいから早く」

「じゃー、抱っこちてくだちゃい」

「は?……はあ!?」

「ずーっとは流石に無理でちけど、ご飯の時に狛枝クンのお膝で食べたいでち。あとお散歩の時に背中に載せて欲しいでち、あとは……」


そこでモノミは考え込むような仕草をすると、同じようなボクと同じ目線で生活をしてみたいというどう考えればいいのかよくわからない要求をする。

全く、わからない。けど……まあいいか。


(モノミの考えなんて、最初からよくわからないしね)


だから今更だ。


「うふふ、お掃除は狛枝クンに任せまちから背中にのせてくだちゃい……あなたが生きて生活している。それがあちしの一番の喜びなんでち、それを叶えてもいいでちか?」

「……ほら」

「ほえ?」

「ボクの膝なんて座っても面白くもなんともないけど……うわ!?」

「狛枝クンー!」

「ちょ……!くすぐったいって!」


もふもふ!と膝の上で動く、ウサギのぬいぐるみ、ウサミ……でもやっぱりボクにはまだモノミ。
そんな風でとりあえずはいいのかもしれない、軽くモノミの頭を撫でる。やわらかい……。


「ふふ、モノミはいい生地使ってるね」

「狛枝クンはお日様の匂いがします」

 

それは君がシーツを取り替えたからだろう、そういう前に耳元に囁かれて……ボクはどう答えればいいのか分からなかった。

 

「お願いを叶えてもらえるなら、狛枝クンが『希望』をどう思ってているか先生に教えてくだちゃい。そうでちね、狛枝クンは『希望』を見つけたり、手に入れたりしたら、どうするんでちか……?」

 

 

 

 

なんだか思い返すと酷くこそばゆい時間を過ごしてしまった気がする……もう朝とは言えない時間になってしまった。

朝の探索に行く時間をなくしてしまった、今日からいわゆる刑務所の強制労働の時間が始まるらしいのにこの島のことを調べることができなかった(もっともゆるゆるなスケジュールなので、朝だけがチャンスではないのだけれど)。

そういえば、モノミはさっき気になることを言っていた。ボクの教育がなんとか……。


「ところでさ、さっき教育担当とか言ってたけどこの島にいるのかい?ボクにそんな存在がいるなんて驚嘆するけどさ、こんなゴ……囚人に」


危ない、さっき変更をしていたようだが一応言うのはやめておく。ボクはゴミクズなのは事実で自己卑下とかなじゃないんだけどなあ。


「ほえ?誰って……誰のことでちか?」

「いやだから、教育担当はだ」


ばん!とその時玄関の扉が勢いよく開いた。外の日が昇りきった暑い陽気が部屋に流れ込んでくる、そして日差しも……そしてその日差しを背景にセミロングの女の子が立っていた。

七海さんだった。
昨日の裁判官の服装でもなく、よく知っているスカートにカーディガンを羽織っている姿でもない。Tシャツに七分のカーゴパンツとスニーカーを履いている、インドア派の彼女の姿としては初めて見る姿だった。

アウトドアな姿に変更した七海さんもその格好に慣れないのか、少し緊張した表情で、しかし高らかに宣言した。


「この島の住人の司法・教育の担当の七海千秋です、狛枝くんを今日のメニューに連れていきます!」


驚愕でボクは膝に抱えていたモノミを床に落とした。

 


続く


あとがき

狛枝の愛想笑いは第一回学級裁判の「大☆正☆解☆」の立ち絵みたいな表情だと思ったください(・∀・)
あんな顔でお愛想されたら、ホラーだと思う(真顔)

モノミと絡むと狛枝がどんどんツッコミになってくれるのでセリフの切りどころが難しかったですね(苦笑)
モノミ先生まじ偉大。

今回はモノミといちゃついた狛枝は次は七海といちゃつけるのか!?乞うご期待!!(※主旨はそれじゃないです)


2013/11




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