【超高校級の幸×】 2




αの2

 

ガラガラという音ともにボクの砂浜はあっとい う間に遠ざかっていった。ヤシの木は遠ざかり、舗装された道からは右手に南国の海が見えた。


(ここは、やはりジャバウォック島なのか?)


良く分からない、似ているようにも似ていない ようにも見えた。

横スクロールされる風景に能天気な声が交じる。鼻歌まで聞こえた気がす る……若干イラッとした。


「千秋ちゃんは大げさなんでちゅよー、学級裁 判だなんて。そんな物騒なのじゃないのにー。 うっふふふー。
それにしても狛枝くんが目が覚 めて本当に良 かったでちゅ、でもどこにいるか わからなかっ たからさっきは焦りまちた!
怪我 とか無くて本 当に本当に良かったでちゅ……もし 何かあったと 思うと先生は…うううっ。
…… あ、狛枝くん!蝶々です、きれいですねー。 空 を飛ぶ姿は見ているだけで幸せになるよう な…… らーぶらーぶ!
と、話していたら着きました! ここから君の新 しいおうちでちゅ!ほらほ ら!!」

「…………」


ボクはモノミに引きずられて来た道を眺めなが ら、その声を完全に無視した。

七海さんは「あの後の真相」を知りたいと願う ボクに「では学級裁判でね」なんてモノクマの 消えたと言っていた世界で言う。さっぱりわか らない。

さらに詰め寄りたかったのが、あの波打ち際に いると頭が異常にぼんやりして終いには目眩が したせいか、七海さんが「じゃあまたね」と去 るのがあまりにあっさりしていたせいか。

それともモノミが今までにない馬鹿力でボクを 「一名様!いらっしゃいませ!」と書かれたプ ラカード付きの赤や白の花で飾られた引いて運 ぶタイプの手押し車に乗せて砂浜から運び出し たせいか……とにかくボクは日向くんたちが生き ているのか死んでいるのか知ることすらできな かった。


(希望を抱けばいいのか、絶望を憎めばいいのか……それすらわからないなんて)


何もかも理不尽だ、確かにいつも世界は身勝手 にボクを翻弄するけれど。

ボクはいつものような笑いを浮かべることも出 来ずに唇を噛み締めていた。

……何もかもを知ることで希望と信じていた皆が 超高校級の絶望と知った。それで一瞬は絶望に 負けそうになった。


(それが、今度は何もわからないことで希望をどう求めればいいのかわからない)


でも、これは決して放置できないことだと思い 絶望抹殺計画を立てた。

これでもしかしたら超 高校級の希望になれるかもしれないと希望を抱 きボクの考えうる最善策を全力でやり遂げたつ もりたった。


(……つもり?)


そうだ、ボクはどこまで覚えているのだっけ?

ボクはファイナルデッドルームで皆が超高校級 の才能を持ちながら、超高校級の絶望となった ことをモノクマのファイルから知った。

モノクマの罠も疑ったが、この妙な修学旅行や 三回目の学級裁判での罪木さんの絶望病で「全 てを思い出した」という症状から、真実が書か れていることに結論づけた。

七海さん、未来機関の裏切り者、おそらく希望 側の存在を除く超高校級の絶望……日向くんたち を皆殺しにするべきだということ。当然ボクを 含めて。


「……だくん、狛枝くーん!?先生の話を聞いて まちゅか!?ここが狛枝くんのおうちです!見 てくださいー!」


それからは計画のために爆弾と毒薬をオクタゴ ンから持ち出した。モノクマをダメ元で利用し ようとして断られ、裏切り者を探すために爆弾 騒ぎを起こした。

でも裏切り者は名乗りでなくて、未来機関側と 推理したモノミの家にある盗み出した宝箱に あったノートにも裏切り者を特定する情報は書 かれていなかった。

「そんな来た道ばかり見てないで、今はあちしの話を聞いてくだちゃい!これなにかわかりま ちゅかー?」

だからボクは絶望抹殺計画をそのまま実行し て、裏切り者の正体はボクの超高校級の幸運に 託して計画を、実行するために………

モノクマ、の、工場のグッズ倉庫へ、ネズミー 城の槍を持って行って…パネルをライターを… ロープで手足を…一つは焼ききって…縛って…ガム テープ…アーミーナイフ…………?


(あれ?)


思い出せない。 馬鹿な、自分でやったはずだ。

そうだ、忘れている筈がない。その後ボクは槍 のムチを左手で握ったままでボクを切り刻ん で、ナイフを、あれナイフを……?


「え?」

「これが狛枝くんのおうちの鍵でちゅよー?大 事なものなんでちゅよ!」


思い出せない!思い出せない!

嘘だ、ボクは確 かに……頭が割るように痛い。

知 っ て い る の に 思 い 出 せ な い。


「なんだよそれ!?」

「狛枝くん!」


ぐいと手をひかれるとそこにおもちゃのような 鍵を持っているうさぎのぬいぐるみ。

うるさい、このうさぎのぬいぐるみはいつも何 もできないでモノクマに遊ばれているだけの癖 にいつも仲良くしろだのこれで大丈夫だの、無責任で無根拠な事ばかり言っている。

「……うるさいな、モノミは少し黙れないの?」

「がーん!?……ってショック受けてる場合じゃ ないでちゅ!狛枝くんのおうちのことは狛枝く んのこれからの生活で一番大切なことなんです よー!黙ってなんていられません!ちゃんと先 生のいうこと聞くのです!」

「考え事をしてたんたよ……そもそもボクはそん な得体のしれないとこ住みたくない、それにボ クがせっかくの家が居ると隕石で壊れるかもし れないよ?」

うざったさ半分、忠告半分でそう言うと白いモ ノミはボクの視界に入ってきた。なんだよとい おうとして驚いた。

モノミが涙目で怒っている事に。

「なんで……そんな風に言うのでちゅか?ここに 隕石なんて落ちまちぇん!狛枝くんはここにい ていいんでちゅ!ここは狛枝くんのおうちで ちゅ!」

「は?」

お前に何がわかるっていうんだ。
そう言って、 何人死んだと思ってるんだよ?

「……未来機関の君なら知ってるでしょ、ボクの 才能。
どんな確率の低い事でも起きるよ、いき なりボクの目の前でモノミが死んでもおかしく ないかもね」

一瞬目の前が真っ暗になった、モノミがボクの 頬をひっぱたいてボクは手押し車から落ちた。

「そんなこと関係ありまちぇん!狛枝くんの幸 運とあちしの運命は関係ありまちぇん!」

何を言い出すんだ。さっきとは別の意味で頭が 真っ白になってモノミの一方的な話がただ頭に 染み込んでいく。

「狛枝くんの行きたいところも居ていいところ も狛枝くんの決めることでちゅ!それは誰にも 邪魔できないことです!狛枝くんは、狛枝くん の………うう〜っ」

挙句に泣き出した、訳がわからないというか…… どうしよう。モノミはよくモノクマに泣かされ ていた気もするけどこんな風に面と向かってて というのは……どうしよう。

結局、目を点にして見下ろすことしかできない ボクにモノミは泣きのピークは過ぎたのか、勢 いが収まった涙を拭きながらぽつりと。

「お願いでちゅ、そこで誰かが傷つくことを…… 自分のせいだなんて思わないでくだちゃい」

そんなことを言った。 ボクにどうしろって……関 係ない。
……モノミが勝手 に泣いていようが関係な いけど……どうすれば。

「………ない」

「……なーんて!あーやっぱりあちしはダメで ちゅ! 生徒さんの前で泣いちゃって…カッコ悪 い……?狛 枝くん、何かいいまちたか?」

「……鍵、くれない?」

「ほえ?」

何もかもわからない世界だけど。
でも、モノミ の能天気な希望的観測は変わっていない。

なんだか、それに安心してしまったから、それ だけだ。

「……「ボクの家」には鍵がないと入れないんで しょ。鍵、くれないの?」

「ここでちゅ!狛枝くんの家の鍵はこれで ちゅ!」

そしボクはおもちゃみたいな大きな鍵をモノミ から受け取った。

台車から降りて、振り返ればいつか見たようなかなりファ ンシーな家が建っていた。

ファンシーすぎてなんだかこれすら夢のような 気もしたけど、ここがボクの家になると思うと頼りない足元が少し知ったり地面につく気がする。

「モノミ」

「ほえほえ?」

「……案内、ありがとう」

「どういたしましてでちゅ!!」

モノミの声はいつでも懲りないですぐ能天気に 明るくなる。

能天気なのは苦手だけど、まあボ クも希望的観 測は人生に必要だと思ってる。

だから今はこの新しい住処でも見てみよう。

(だいたいまだ頭がぼーっとしてるし、ボクみ たいな運の良さしか取り柄のない人間は少し落 ち着く必要がある。
だから、安全な寝る部屋を与えてくれる なら丁度いい)

そう思って、前向きに扉の鍵を開けようとする と聞き捨てならないセリフが聞こえた。


「あーよかった!狛枝くんの機嫌が治って! こ れからあちしと狛枝くんは一緒に暮らすのに そ んなふてくされてばかりじゃ困りまちゅ〜」

「…………………は?」


今度は別の意味でさらに別の意味で目の前が 真っ白になった。

 



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

幸い、ボクとモノミの居住スペースは全然違っ た。

簡単にボクは一階、モノミは二階というスペー ス区分だった。建物のサイズからして二階以上 のスペースがありそうだったが、まあそれはい い。

二階への扉は頑丈な鉄製でモノミの指紋?認証 でしか開かないらしい。そして、ボクには決して入れないらしい。

きっちり分けられた完全分離スペー スということで心底ほっとする。

一階は結構広く、広いロビーと、会議室のよう なものとキッチンがあった。あと小さい書庫があり、モノミは「お勉強してもいいですよー」 と言っていた。

一番奥には二つの部屋、ひとつの部屋には「こまえだくんのおへや」もう一つには「おきゃく さま」と書かれたプレートがかけられている。

部屋に入ろうとするとモノミはロビーにボクを 呼びだし、ここでの「おうちのルール」とやら を説明した。

大まかには、

1、ボクは一階を自由に使っていい、二階には 行けない
2、ボクは昼は外を調べていい(制限 あり)
3、日が落ちてからはボクとモノミは用 がある ときにモニター越しにしか話せない(ロ ビーと 部屋にある)
4、夜は家の外には出ら れない(ロックされ る)
5、就寝時間は自分 の部屋から出てはいけない (ロックされる)
6、ただし上記のルールは緊急事態では臨機応変に破る。


これって快適な囚人の待遇だよね、とルールを 聞きながら顔には出さなかったつもりだったけ れどモノミは複雑そうに「いいおうちでちゅ よ」と笑った。


「狛枝くん、君が聞きたいことがたくさんたく さんあるのはわかってまちゅ。それは当たり前 の気持ちでちゅ。
ただ、もう少し待ってくだ ちゃい。 知りたいことは七海さんが「裁判」で 少しづ つ、でも全てを教えてくれましゅ」

モノミは器用に沸かしたココアをボクと自分の 前に置きながら、さっきとはうって変わって顔を合わせてくれなかった。

まるで秘密を必死に 我慢している子供みたいで……だから、これ以上 は今日は聞く気は沸かなかった。

「あちしも七海さんも未来機関の存在でちゅ。 そして確かに皆さんは超高校級の絶望でちた。
このルールも頭のいい狛枝くんには閉じ込めら れているものと分かるとあちしも七海さんも分 かっています。あちしたちが超高校級の絶望を閉じ込める側だといことも。
でも、でも一つだ け分かって、知っていてくだ ちゃい。どんなこ とがあってもあちしも七海さ んも狛枝くんの味 方でちゅ、本当に本当に……」

モノミは最後までココアのカップから顔を上げ ずに、時間だからと二階へと上がっていった。 また明日とそれだけ言い残して。

 




 

ココアは飲みきれなかったけど、部屋まで持っていった。結構美味しいのがなんだかふわふわする。

さっきのルール……ボクは未来機関に超高校級の絶望として拘束されている?……分からない。


(ここにも監視カメラがあるのかな……)


与えられた部屋はファンシーな所もあるが概ね普通の範囲内のデザインだった。

ベッドと机と椅子、小さな本棚。カーテンの向 こうの窓は海が良く見える。

月が海面に映って 綺麗なところが見える部屋なのだと感じた、そこをきっとモノミが選んだことも。

「ゴミクズに、配慮しすぎだよ……」

カーテンの向こうの月がずっと続く頭痛を少し和らげてくれるようでぼんやりと見上げる。

(ずっと、頭痛いな)

モノミが言っていたことを思い出す。

「……ボクたちは超高校級の絶望」

だったら殺し尽くさないと。

「ボクは超高校級の絶望……」

ボクは希望を愛していたのに。

「ボクは希望の為に死ねなかった」

ボクは、ずっとずっと希望のために………。

言葉にする度にどんどん頭痛はひどくなっていく……とにかく今日は休んだ方がいい。

なぜまだボクが生きているか、日向くんたちが生きているか、考えるのは明日でいい、そう明 日で……。

「……?」

カーテンを閉めてベッドに向かおうとすると、 空っぽに見えた小さな本棚でなにか光った。空だと思っていたのになにかある?

胸騒ぎがして、ボクは本棚をよく見た……すると そこには一冊のノートがあった。結構分厚い。

ボクはそのノートを手にとって、そして取り落としてしまった。ばさりという音が嫌に大きく 響く。

「なん、で……」

そのノートには大きく日誌と書かれていた、そ してその下には執筆者らしき人物の名前が書い てあった。どこか見覚えのある字で………。

ヒナタハジメ、と。



 

つづく

 

 

あとがき

> モノミせんせーといっしょにいたらどんどん こまえだくんがツンデレになってしまいまし た。ふしぎだなあと思いました。(作文)



2013/09




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